【現地NGOプレスリリース】インドネシア市民団体グループ、「グリーンウォッシュ」まみれのAZEC構想を止めるよう日本政府に要求


5月2日、WALHI(インドネシア環境フォーラム)、JATAM(鉱山に関する提言ネットワーク)、KRuHA(水への権利のための民衆連合)、CELIOS(インドネシア経済法律研究センター)からなるインドネシアの市民団体が在ジャカルタ日本大使館前でアクションを行い、日本政府が脱炭素化に向けた取り組みの一環として推進しているアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想が「グリーンウォッシュ」であると非難の声をあげました。アクション中、アジアを中心とした26の市民団体が署名した共同声明「日本は東南アジアのエネルギー移行を頓挫させるべきではない」(共同声明 英語/日本語)も日本大使館員に手渡されました。
このアクションは、5月3日から総理特使及びAZEC議員連盟最高顧問として、岸田元首相がAZEC議連訪問団約10名とともにインドネシア及びマレーシアを訪問する予定であることを受けて行われました。
インドネシアの市民団体は、以前からAZECの問題点として、(1)AZECの下で進められる事業の影響を受ける地域コミュニティや市民団体の意味ある参加が一切ないこと、(2)炭素回収・貯留(CCS)、水素・アンモニア・バイオマス混焼、ガスを推進することで化石燃料エネルギーへの依存を長引かせること、(3)地熱、廃棄物発電等を含め、環境とコミュニティの持続可能性を危険にさらす誤った気候変動対策を持ち込み、人権侵害を引き起こすこと、(4)REDD(開発途上国における森林減少・劣化などによる温室効果ガス排出量の削減)や鉱物資源の開発等により土地収奪を加速させ、森林伐採を増加させること、(5)インドネシアを債務危機に陥らせる可能性があることを指摘し、日本政府にAZEC構想を止めるよう繰り返し要請しています。
以下は、現地の市民団体によるプレスリリースの和訳です。(本プレスリリース原文はインドネシア語)
インドネシア市民団体グループ、「グリーンウォッシュ」塗れのAZEC構想を止めるよう日本政府に要求
2025年5月2日
プレスリリース
WALHI, JATAM, KRuHA, CELIOS
2025年5月2日、WALHI、JATAM、KRuHA、CELIOSからなるインドネシアの市民団体は、ジャカルタの在インドネシア日本大使館前でアクションを行い、日本が主導するアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想がインドネシアで引き続き実施されようとしていることに対する懸念を表明した。このアクションは、2025年5月3日から5日にかけて、総理特使及びAZEC議員連盟最高顧問として岸田文雄元首相が、AZEC推進のためAZEC議連訪問団を率いてインドネシアを訪問する予定であることを受けたものである。日本政府は一貫して、この目標を達成するために幅広いパートナーシップを構築することで、カーボンニュートラルに向けた取り組みの一環としてこの構想を位置づけてきたが、インドネシアの市民団体にとって、この構想は脱炭素化と銘打ったグリーンウォッシュの取り組みに他ならない。
インドネシアの市民団体は、AZECが透明性、情報公開、そして意味ある市民参加を欠いているため、環境や社会、さらにはインドネシアの民主化プロセスに対する脅威になりうると考えている。また、この構想は化石燃料エネルギーへの依存を長引かせ、環境と地域社会の持続可能性を危険にさらす誤った気候変動対策を持ち込むものだと考えられる。さらに、AZECは土地収奪を加速させ、森林伐採を増加させ、経済的・財政的負担(債務危機)を生じさせ、長期的にはインドネシアに損害をもたらす可能性がある。
WALHI(インドネシア環境フォーラム)のキャンペーン部門責任者であるファニー・トリ・ジャンボレによると、AZECの下での事業、協定、協力はインドネシア社会に大きな影響を与える可能性があるという。しかし、AZECの文書に記載されたさまざまな構想の決定にあたっては、これまで、事業実施地域の地域コミュニティやインドネシアの市民団体との開かれた協議が行われたことはない。特に、AZECは、例えば、REDD(開発途上国における森林減少・劣化などによる温室効果ガス排出量の削減)事業やAZECも支援しているバッテリー生産や電気自動車産業に必要な重要鉱物の採掘を通じて、インドネシアにおける土地収奪を助長し、森林破壊を加速させる可能性がある。インドネシアでは実際に、重要鉱物の採掘が、炭素吸収源として機能する熱帯雨林の森林破壊を加速させている。WALHIは、2023年の採掘データから、インドネシアにおける重要鉱物の採掘コンセッションのうち130万ヘクタールが森林地域に位置し、または直接隣接しており、森林減少や森林破壊を増加させる引き金になりうると推測している。
「AZECの事業、協定、協力の決定にあたり、十分な情報、透明性、市民の意味ある参加が欠如しているため、日本政府とインドネシア政府は、起こりうる社会・環境・人権への影響に配慮することができず、より広範なコミュニティに影響を及ぼす可能性がある。したがって、AZECは公共の利益に反するため、中止されなければならない」とファニー・トリ・ジャンボレは説明した。
WALHIは、バンドン県のレゴックナンカ廃棄物発電(WTE)事業では、焼却炉技術の選定における透明性について、日本の国際協力機構(JICA )の(技術支援による)関与が日本のコンソーシアムである住友・日立造船の選定結果に影響を及ぼした可能性があるという問題を指摘した。西スマトラ州のムアララボ地熱発電所のような他の事業も、影響を受けるコミュニティの参加が不十分であり、農民が収穫不能に陥ったり、周辺住民が十分な協議なしに直接的な影響に直面したりする原因となっている。
一方、JATAM(鉱山に関する提言ネットワーク)は、AZECが炭素回収・貯留(CCUS)、水素・アンモニア・バイオマス混焼、LNGといった技術やアプローチを推進している点を強調し、これはAZECが化石燃料エネルギーの使用を維持しようとしていることを示していると指摘した。JATAMによると、インドネシアでは化石燃料エネルギーの使用による悪影響が数多く報告されており、このことは環境とコミュニティに複数の脅威をもたらしている。したがって、化石燃料エネルギーの利用を長引かせることは、コミュニティの苦難を長引かせることを意味する。
「インドネシアで実施されるAZECは、化石燃料エネルギーへの依存を長引かせるアプローチや技術を公然と支援している。そのため、パリ協定で掲げられている世界の1.5℃の気温目標を達成するために必要な温室効果ガスの排出削減に貢献することは期待できない。 」とJATAMのキャンペーン担当アルファルハット・カスマンは述べた。
AZECの事業や協力は、東ジャワ州パイトンでのように、化石燃料の使用を維持しようとする取り組みであることを示している。同地の石炭火力発電所は数十年にわたり稼動しており、住民の健康や農民・漁民の生計手段への深刻な影響を考慮すると、段階的に廃止されるべきものである。しかし、AZECの下では、PT PLN Nusantara Power (PLN-NP)と三菱重工業が石炭とバイオマスの混焼の開発に取り組んでいるほか、PLN-NPと東芝エネルギーシステムズ(TESS)が協力して炭素回収技術を推進するなど、稼働の継続が図られている。化石燃料エネルギーにおける炭素回収技術の推進努力は、インドネシアのスコワティ油田でCO2注入試験を実施するためのPertamina、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、石油資源開発(JAPEX)の協力や、パプアのタングーLNG事業地域で日本から回収・輸送された炭素を貯留する事業を進める中部電力とBP Berau社の計画にも見られる。
AZEC 構想への反対は、人権侵害を引き起こす可能性がある一方で、環境とコミュニティの安全を危険にさらす誤った気候変動対策の使用にも基づいている。KRuHA(水への権利のための民衆連合)は、環境紛争や人権侵害を引き起こすような大規模事業を、脱炭素化の野望のためだけに進めるべきでないと主張している。
「AZECの支援を受け、インドネシアで実施される事業のひとつに地熱発電がある。これまでのところ、雇用創出法制定後の地熱関連の規制は依然として搾取的であるため、農地紛争を悪化させ、コミュニティが冤罪の犠牲者になるリスクを高める可能性がある」とKRuHAキャンペーン担当のシギット・カリャディは語った。
INPEXと住友商事が出資し、国際協力銀行(JBIC)と日本貿易保険(NEXI)が金融支援を行ったムアララボ地熱発電事業のような例では、灌漑被害により農民が収穫不能になった。さらに、発電所が農業地域や コミュニティーの居住地からわずか250〜500メートルしか離れていないため、短期的にも長期的にも環境汚染のリスクが伴う。同様の状況は、伊藤忠商事、九州電力、INPEXが出資し、JBICから融資を受けたサルーラ地熱発電所でも起こった。同発電所では、農作物や水路が被害を受け、農家の収入が減少した。また用地取得にあたっては、その土地で作られていたコミュニティの作物の存在が無視され、適切な補償がなされずに進められた。
AZECが支援する他の事業、例えば廃棄物発電(WTE)は、焼却炉を使って有機廃棄物や化石燃料によるプラスチックを含む様々な種類の廃棄物を燃やすもので、やはり温室効果ガスを排出することになる。また、Pupuk Indonesiaが子会社のPupuk Iskandar Mudaを通じて、日本の大手企業である伊藤忠商事と東洋エンジニアリングと共同で計画しているアチェ州のグリーン水素・アンモニア事業のような誤った気候変動対策も、多くの問題を残したままで、Pupuk Iskandar Mudaの地域では、アンモニア漏出の恐れが依然としてあり、周辺住民の健康問題となっている。
一方、CELIOS(インドネシア経済法律研究センター)は、インドネシアにおけるAZECの実施による経済的・財政的負担の増大を強調した。AZECが支援するガス、地熱、バイオマス混焼、CCS/CCUS技術、グリーン水素を利用したエネルギー移行などといった事業は、環境・健康コストを考慮した経済シミュレーションにおいて、インドネシア経済に負の影響をもたらす。これは、健康への影響によるBPJS健康保険請求の増加や、ガスへの移行によるエネルギー補助金の追加により、インドネシアの財政負担が増加するとともに、今後3年間で2,406兆ルピアに達する満期債務の返済がさらに困難になることを意味する。
「AZECの融資スキームとは別に、インドネシアの債務危機のリスク増大は、CO2を排出するガス火力発電所22GWの追加だけで、最大1,545.9~1,705.9兆ルピアの追加医療費またはBPJS健康保険請求からもたらされるだろう。 また、ガスへの移行による電力補助金の増加は、一次エネルギーコストの安定化政策による財政負担を増加させる。さらに、マクロ経済への影響のシミュレーションもマイナスであることが判明している。直近のシミュレーションでは、インドネシアに22GWのガス火力発電所を追加した場合、2040年までの予測で、GDPは最大941.4兆ルピア、雇用は670万人減少すると見込まれている。」とCELIOS研究員のジャヤ・ダルマワンは説明した。
したがって、WALHI、JATAM、KRuHA、CELIOSからなるインドネシアの市民団体グループは、日本政府とインドネシア政府に対し、化石燃料エネルギーの使用を延命させ、環境とコミュニティの安全を脅かす誤った気候変動対策を用い、人権侵害を引き起こすAZEC構想をやめるよう要請する。また、日本政府とインドネシア政府が協力し、インドネシアの地域コミュニティと市民団体の意味ある参加を確保する形で、迅速、公正かつ公平な脱炭素化/エネルギー移行を支援するよう要請する。
連絡先:
ファニー・トリ・ジャンボレ(WALHIキャンペーン部門責任者) – 083857642883
アルファルハット・カスマン(JATAMキャンペーン担当) – 085298306009
シギット・カリャディ(KRUHAキャンペーン担当) – 081318835393
ジャヤ・ダルマワン(CELIOS研究員) – 081223040651