インドネシアNGOがJBIC及びNEXIにムアララボ地熱発電拡張計画への支援検討中止を要請「公正なエネルギー移行の名の下で、環境とコミュニティに悪影響を及ぼし、人権侵害を引き起こす事業に支援しないで!」

2024年4月3日、国際協力銀行(JBIC。財務省が全株式保有)及び日本貿易保険(NEXI。経済産業省が100%出資)が各々支援を検討中のインドネシア西スマトラ州ムアララボ地熱発電事業・拡張計画(ムアララボ拡張計画)について、現地NGOであるインドネシア環境フォーラム(WALHI/FoEインドネシア)から両機関に対する要請書が提出されました。同要請書では、JBIC及びNEXIがすでに支援を行ってきた同事業の既設案件(住友商事及びINPEXが出資)が環境社会影響や人権侵害を引き起こしてきたことを指摘。拡張計画によって、既存の問題が悪化することを懸念し、日本の両公的機関が同拡張計画への支援検討を中止するよう求めています。

ムアララボ拡張計画は、2023年11月に公表されたインドネシアの公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP。G7主導で途上国における石炭火力からの公正なエネルギー移行を支援する枠組み)に係る包括的投資・政策計画 (CIPP)でも、数多くリストアップされた優先案件の一つとして取り上げられています。また、昨年12月に岸田首相とインドネシアのジョコ・ウィドド大統領の会談が東京で持たれた際も、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の下、エネルギー移行に向けて取り組む優先事業の一案件として取り上げられていました。JBICやNEXIによる同拡張計画の支援は、まさに脱炭素社会に向けた「エネルギー移行」の名の下で行われてようとしているものです。

しかし、WALHIの要請書によれば、同拡張計画について、以下4点の問題点が指摘されています。

  1. 既設案件及び拡張計画ともに、以前に同事業で発生した強制的かつ差別的な土地取得プロセスを配慮していない。結果として、生計手段の回復に至っていない農家らがいる。
  2. 拡張計画によって、汚染と水供給の減少による農作物への影響が悪化する可能性がある。
  3. 拡張計画によって、硫化水素等のガス排出に伴う大気汚染が悪化する可能性がある。
  4. 拡張計画によって、地形の改変に伴う洪水の影響が悪化する可能性がある。

JBIC及びNEXIは2017年から既設案件への支援を行ってきましたが、現場で起きてきた状況は、『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』及び『貿易保険における環境社会配慮のためのガイドライン』に明らかに違反しています。つまり、今日に至るまで、同既設案件のガイドライン遵守をJBIC及びNEXI自身が確保できていないということになります。WALHIは、この状況下で、JBIC及びNEXIが拡張計画に対する支援を継続することに正当性はないとし、JBIC及びNEXIは拡張計画に対する支援供与の検討を直ちに中止すべきとしています。

公正なエネルギー移行やAZECの名の下に、地域住民の環境や生活に多大な悪影響を及ぼす事業に支援すること、また温室効果ガスの排出削減に歴史的責任を負わない多くのインドネシアの市民がより多くの負債を抱えることになる支援の形は、「誤った気候変動対策」(False Solutions)の一つに他なりません。日本の官民は、迅速で公正かつ公平なエネルギー移行の実現のため、コミュニティのニーズに基づく持続可能なエネルギーにもっと目を向けていくことが求められています。

詳細は以下のWALHIによる要請書をご覧ください。(FoE Japanによる和訳。原文インドネシア語及び英訳はこちら)(PDFはこちら

(原文はインドネシア語。以下はFoE Japanによる和訳)

2024年4月3日

国際協力銀行 代表取締役総裁 林 信光 様
日本貿易保険 代表取締役社長 黒田 篤郎 様

要請書:環境とコミュニティへの悪影響を悪化させ、人権侵害を助長する結果につながる可能性のある西スマトラ州南ソロク県リキ・ピナガワン・ムアララボ地熱開発区域におけるムアララボ地熱発電事業フェーズ2に対する支援検討の中止を

私たちは、国際協力銀行(JBIC)が同行ウェブサイトを通じて、2024年3月4日、PT. Supreme Energy Muara Laboh(PT. SEML)が操業している西スマトラ州南ソロク県リキ・ピナガワン・ムアララボ地熱開発区域(WKP)におけるムアララボ地熱発電事業(ムアララボ地熱)フェーズ2の環境影響評価書(AMDAL)補遺版(第三版)を公開し、同計画への融資供与を検討していることを知りました。また私たちは、日本貿易保険(NEXI)が2024年3月11日に同法人のウェブサイトにムアララボ地熱フェーズ2のAMDAL補遺版(第三版)を掲載し、同計画への付保を検討していることを知りました。これまでJBICとNEXIは、2017年からムアララボ地熱フェーズ1に対して金融支援を行っています。

私たちインドネシア環境フォーラム(WALHI)は、インドネシアにおける地熱発電開発の影響に関する調査と提言活動を行ってきた環境団体として、JBICとNEXIがムアララボ地熱フェーズ 2の支援を検討していることに対し、以下の理由で異議があることをお伝えします。

1. ムアララボ地熱フェーズ1及びフェーズ 2は、以前に同事業で発生した強制的かつ差別的な土地取得プロセスについて配慮してこなかった。

2010年、PT. SEMLは、旧PT Peconina BaruのHGU(耕作権)地域で生活を営んできた人びとを、国から一度も認められたことのない水田や農地、家屋から強制的に追い出す形で、探査活動を開始しました。旧PT Peconina BaruのHGU地区で暮らしてきた人びとは、植民地時代からのプランテーション労働者の子孫や周辺地域からの移住者です。彼らは20年以上にわたってこの土地に住まい、手入れをし、管理してきました。この強制的な土地収用によって、農作物がコミュニティの主な生計手段であったにもかかわらず、彼らは農地を失うことになりました。WALHIが実施した調査では、それまで水田や農地を管理することで得ていた主な収入を失った結果、現在では生計手段を売買や下層労働、農業労働に変更せざるを得ず、さらには採掘や森林伐採の活動に従事せざるを得なくなったため、コミュニティは元々住んでいた家を離れる他なかったことが明らかになっています。

Alam Pauh Duo村のコミュニティは、国によって何度も排除されてきました。まず、彼らの地は一方的にクリンチ・スブラット国立公園という保護機能を持つ国有林にされてしまいました。さらに、2016年環境林業大臣規則第46号によって、地熱事業は採掘活動ではなく、環境上の活動であるとされ、PT. SEMLが保護林地域とクリンチ・スブラット国立公園で事業活動を行うことを容易にしています。この規制によって、特にAlam Pauh Duo村では、森林の伐採や地熱採掘のための地形改変が許容され、コミュニティの生活を支える森林の生態学的機能が破壊されているのです。

事業周辺のコミュニティによると、PT. SEMLは事業開始当初(2010年)から、社会に対してどのような影響が生じる可能性があるのかを透明性をもって伝えてきておらず、同社は公表すべき多くのことを隠し続けているようです。社会化(Socialisasi)は、直接影響を受けるコミュニティが参加する形ではなく、コミュニティのリーダーや伝統的な利害関係者を通じて行われてきました。一方、WALHIは、2010年から2016年にかけての土地取得プロセスが、影響を受けるコミュニティに対して、この事業を受け入れるよう圧力と脅迫をもって行われたという報告も受けています。コミュニティは、地元の役人やチンピラ(preman)が農民に土地を他の関係者に明け渡すよう強要し、その関係者が土地に関する取り決めを同社と直接行うことになったと述べています。

PT. SEML は、この地熱事業の建設と操業によって生計手段に多大な影響を受けているコミュニティの意味ある適切な参加を確保することができておらず、また彼らの事業実施前の生活水準や収入機会、生産水準を改善することも、少なくとも回復することもできていません。

2. ムアララボ地熱フェーズ2は、汚染と水供給の減少により、リキ・ピナガワン・ムアララボ WKPのコミュニティが経験する不作の影響を悪化させる可能性がある。

ムアララボ地熱フェーズ1は、Bangko Janiah川、Bangko Karuah川、Liki川の流れに依存して農業を営む農民に深刻な影響をもたらしてきました。PT. SEMLが正式に生産を開始してから2年後の2021年、PT. SEML周辺、特にKampung Baru Pekonina集落、Taratak Tinggi Pekonina集落、Sapan Sari Pekonina集落の農民のほとんどが、灌漑水によって重い黒色のものが運ばれてきて、土壌が非常に硬くなったため、1 年間農地での耕作ができなくなり、米が収穫できなかったという経験をしました。

地熱採掘はまた、毎秒37リットルという非常に大量の水を必要とし、その量は生産前段階では毎秒60リットルにまで増加することがあります。これらの必要量は、コミュニティが自分たちのニーズや農業に使っているのと同じ水源から賄われています。以前は集水域として機能していた森林や農業地域が利用され尽くされた後、コミュニティ、特に農民は、Bangko Janiah川の既存の水をめぐって企業と争わなくてはならなくなっています。その結果、Kampung Baru Pekonina集落とTaratak Tinggi Pekonina集落の多くの水田は、コミュニティの主要な農地でありながら、水田の必要量を満たす水が不足したため、エシャロットや唐辛子などの乾地耕作(野菜栽培)に転換されたり、一部は耕作すらされなくなりました。

2021年、農業を営むTaratak Tinggi Pekonina集落の人びとは、PT. SEMLがBangko Janiah川の水を堰き止め、利用していることを知り、PT. SEMLと対立しました。この堰はその後、コミュニティとの対立を経て同社によって撤去されましたが、PT. SEMLが依然としてBangko Janiah川から取水しているため、Bangko Janiah川の水利用をめぐる争いは続いており、その結果、コミュニティは水田に必要な水を確保することが困難になっています。

コミュニティーの証言によると、ムアララボt地熱フェーズ1事業地の開墾と地形改変により、Bangko Janiah川の放水量にも劇的な変化が生じました。雨季には、水の流れが非常に強くなり、川の側面や底が浸食されたため、川の深さが深くなり、その結果、人びとがこの川から水田に水を引くことが難しくなりました。一方、乾季には川の水が枯渇し、水田の水需要を満たすほどの川の水が使えなくなることもあります。こうした状況は事業以前にはなかったことです。

3. ムアララボ地熱フェーズ2は、リキ・ピナガワン・ムアララボWKPでのガス濃度が原因で、公衆衛生と安全性の問題を悪化させる可能性がある。

ムアララボ地熱は、生産時に24ppmのH2S(硫化水素)ガスを排出します。このレベルは、公衆衛生や環境被害に短期的、長期的に悪影響を及ぼすのに十分なものです。H2Sガスは人体にとって非常に有毒で、腐食性があり、可燃性の高いガスです。H2Sガスは燃焼すると、別の致死性ガスである二酸化硫黄を放出し、これはH2Sガスへの暴露と同様の症状や結果をもたらします。H2Sガスは肺がガスを吸収すると、事実上呼吸機能を停止させます。濃度にもよりますが、通常は低濃度であれば、目の炎症、鼻水、咳が起こります。濃度が高くなると、先に述べためまい、吐き気などの副作用が現れ始め、数秒以内に死に至ることもあるなど、結果はより深刻になります。H2Sの質量は空気より重いため、地表に広く拡散します。

ムアララボ地熱周辺の農地やコミュニティ居住地(Taratak Tinggi 及び Kampung Baru)は、地熱の採掘活動地域や発電所からわずか250~500メートルしか離れていないため、ムアララボ地熱は、短期的にも長期的にも環境と社会を汚染するリスクが高いと言えます。これまでのところ、PT. SEMLの地熱採掘現場の近くに住む人びと、特にTaratak Tinggi Pekonina集落の人びとは、コミュニティの居住地域周辺の騒音と硫黄の臭いに悩まされており、これは雨が降るとより顕著になります。同コミュニティによれば、硫黄の臭いは、生産井での探査活動や生産井のメンテナンス時に、より大きな影響があると予測されています。

地域住民の報告によれば、ムアララボから大量の高温の蒸気が大気中に放出された直後、蒸気が雲を作り出して雨や湿った霧が降り、それが農作物や植物に接触して被害を及ぼすことがあるとのことです。

4. ムアララボ地熱フェーズ2は、地形改変により、リキ・ピナガワン・ムアララボWKP における洪水の影響を悪化させる可能性がある。

PT. SEMLは、以前は森林とコミュニティの畑(アグロフォレストリー)であった約180ヘクタールの土地を伐採し、転換しました。これらの森林と畑は、Pauh Duoのコミュニティの生活を支えるクリンチ・スブラット国立公園に隣接し、Batanghari集水域の一部であるいくつかの川(Bangko Janiah川、Liki川、Bangko Karuah川)の上流にあります。このような地形の改変は、環境に被害を及ぼし、環境容量を低下させています。

森林、そしてゴムやコーヒーなどの生育中の農作物が植えられた畑は、かつては保水地として、またコミュニティ管理地域と自然保護地域を隔てる境界として重要な機能を持つ地域でした。アグロフォレストリーの手法で耕作された畑は、地域の生態学的機能を維持しながら、コミュニティが経済的価値を生み出すことを可能にしています。

土地が開墾され地形が改変された後、コミュニティは河川の流出量の変動に顕著な差が生じ、環境容量が低下したと報告しています。この環境容量の低下は、Bangko Janiah川、Bangko Karuah川、Liki川の下流域を襲う洪水や鉄砲水の頻度の増加にも表れています。洪水や鉄砲水は、Taratak Tinggi Pekonina集落、Kampung Baru Pekonina集落、Pakan Salasa集落の地域でしばしば発生しています。

ムアララボ地熱のAMDALに記載されている侵食危険レベル(TBE)の計算結果によれば、事業地域はTBEレベルが中程度から非常に高い地域となっています。この値は、この地域が非常に脆弱であり、開墾や土地の地形変更が行われた場合、災害のリスクが高いことを示しています。しかしながら、PT. SEMLによるムアララボ地熱の開発は、同地域の土地を開墾し、地形を改変し続けています。その結果、環境容量の低下による影響は、ムアララボ地熱の事業地周辺のコミュニティに直接及んでおり、コミュニティは、洪水や干ばつによる農作物の不作や、洪水及び鉄砲水による家屋、土地、公共施設の被害を受けやすくなっています。

世界の気温上昇を1.5℃未満に抑え、2050年までにゼロエミッションを達成するために、化石燃料から脱却し、再生可能エネルギーシステムへの迅速で公正かつ公平な移行に向けて、私たちは皆取り組みを進めていますが、エネルギー移行の取り組みにおいて誤った対策に陥ることを望んではいません。

ムアララボ地熱のような環境被害を引き起こし、地域コミュニティに害を及ぼし、コミュニティの権利を侵害する大企業が実施するメガプロジェクトに支援を行ったり、気候危機を含む幾重にも重なる危機をいま経験している私たちの社会の負担を増やすことになる債務に基づいた金融支援を行ったりといったJBICやNEXIの役割は、私たちが希求するエネルギー移行のためのものではありません。

ムアララボでの地熱発電事業は、環境やコミュニティに様々な悪影響を及ぼすだけでなく、人権侵害を引き起こし、コミュニティの生活の質を悪化させていることは明らかです。これらの事実は、ムアララボ地熱フェーズ1が、JBIC/NEXIの環境社会ガイドラインに違反していることを示しており、つまり、今日に至るまで、PT. SEML/ムアララボ地熱がガイドラインを遵守することをJBIC/NEXI自身が確保できていないということです。したがって、JBIC/NEXIがムアララボ地熱フェーズ2に対する支援を継続することに正当性はなく、JBIC/NEXIはムアララボ地熱フェーズ2に対する支援供与の検討を直ちに中止すべきです。

また、私たちはJBIC/NEXIに対し、JBIC/NEXIが上述の事実を確認乃至調査するにあたり、PT. SEML及びインドネシア当局(警察やインドネシア国軍を含む)が、いかなる形態の報復、脅迫、暴力、人権侵害をいかなる地域コミュニティに対しても行わないよう確保することも強く求めます。

署名団体:
Wahana Lingkungan Hidup Indonesia (WALHI) (インドネシア環境フォーラム)

Cc:
内閣総理大臣 岸田 文雄 様
財務大臣 鈴木 俊一 様
経済産業大臣 齋藤 健 様
在インドネシア日本国大使 正木 靖 様
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 代表執行役社長 グループCEO 亀澤 宏規 様
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長(代表執行役)グループCEO 中島 達 様
株式会社みずほフィナンシャルグループ 取締役 兼 執行役社長 グループCEO 木原 正裕 様
アジア開発銀行 総裁 浅川 雅嗣 様

連絡先:
インドネシア環境フォーラム(WALHI / FoEインドネシア)
住所:Jln. Tegal Parang Utara No 14, Jakarta Selatan 12790. INDONESIA
email: informasi@walhi.or.id
TEL: +62-21-79193363

 

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