インドネシア現地NGO声明「チレボン石炭火力の早期廃止計画の中止は、エネルギー移行におけるコミットメント、透明性、そしてすべての住民の健康の危機」

所1号機(FoE Japan。2024年4月)
2025年12月にインドネシア政府がチレボン石炭火力発電所1号機(チレボン1号機。丸紅が出資。国際協力銀行や3メガ銀行が融資)の早期廃止計画を中止する方針を表明したことを受け、インドネシア環境フォーラム(WALHI/FoEインドネシア)西ジャワが同政府の決定を強く批判するとともに、関係者の責任を追及する声明を2026年1月29日に発出しました。
同声明の中でWALHI西ジャワは、今回のインドネシア政府による中止決定について、インドネシアのエネルギー移行における法的拘束力の欠如という脆弱性に加え、情報公開および説明責任の欠如、さらには石炭産業の利益に左右されている実態を示すものだと指摘。また、アジア開発銀行(ADB)および事業者であるチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP。丸紅等が出資)についても、資金提供機関ならびに発電所の所有者・運営者として、環境への影響、住民の健康への影響、そして自ら表明したエネルギー移行に関するコミットメントの履行失敗に対する責任を免れることはできないと非難しています。
チレボン1号機は、日本が最大出資国であるADBの主導するエネルギー移行メカニズム(ETM)を活用する第一号案件として2022年11月に選定されました。しかし、住民や市民社会の意味ある参加の機会が一切設けられないまま、ADB、政府関係者、事業者CEPの間だけで早期廃止に向けた枠組みやプロセスが決定されてきたことから、現地住民ネットワーク及びNGOは再三にわたり、現行のETMや枠組みを一旦白紙に戻し、チレボン1号機の建設・稼働による影響を受けてきた地域住民及び市民社会を含む、幅広いステークホルダーによる意味ある参加を確保した議論とプロセスを確保するよう求めてきました。
今回のインドネシア政府側の方針に関して、ADBや丸紅などの関係者は、今日に至るまで沈黙を守っています。しかし、「エネルギー移行」を掲げて大々的に進められてきたチレボン1号機の早期廃止が「グリーンウォッシュ」に過ぎなかったとの批判は免れません。また、法的拘束力のない枠組みの下で協議を進めてきた関係者の脱炭素に向けた取り組みの真摯さについても、疑問を呈さざるを得ません。
喫緊の気候危機を食い止めるとともに、チレボン石炭火力発電事業(1号機および2号機)の建設・稼働によって、すでに被害を受けてきたコミュニティに対する効果的な保護および回復措置を講じるためにも、各関係者は、迅速で公正かつ公平なエネルギー移行に向け、石炭火力の早期廃止を実現するためのそれぞれの責任を確実に果たしていくべきです。
詳細は以下のWALHI声明文をご覧ください。(FoE Japanによる和訳。原文インドネシア語はこちら。英訳はこちら。PDFはこちら)
チレボン石炭火力1号機の早期廃止計画の中止:インドネシアのエネルギー移行におけるコミットメント、透明性、そしてすべての住民の健康の危機
(原文はインドネシア語。以下は、FoE Japanによる和訳)
2026年1月29日
WALHI西ジャワ
プレスリリース/声明文
即日発表
インドネシア環境フォーラム(WALHI/FoEインドネシア)西ジャワは、インドネシア政府がチレボン石炭火力発電事業1号機(チレボン1号機)の早期廃止計画を中止した決定に対し、深い懸念と強い非難を表明する。この決定は、インドネシアのエネルギー移行の課題が依然として「コミットメントの危機」「透明性の欠如」「すべての住民の健康の軽視」に直面していることを示している。
チレボン1号機は、インドネシアのエネルギー移行と排出削減の取り組みの一環として、石炭火力発電所の早期廃止を目的としたパイロット事業として位置付けられていた。しかし、その中止は公に検証可能な説明なしに一方的に行われたものであり、インドネシアのエネルギー移行が依然として脆弱で説明責任を欠き、石炭産業の利益に左右されていることを示している。
アジア開発銀行(ADB)とチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)は、インドネシア政府と共に以前、チレボン1号機の早期廃止へのコミットメントを公に表明していたが、現在に至るまで今回の中止について沈黙を守っている。このような沈黙の姿勢によって、ADBとCEPが、資金提供機関として、また発電所の所有者・運営者として、環境への影響、住民の健康への影響、そして自ら表明したエネルギー移行のコミットメントの履行失敗に対する責任を免れることはできない。
経済・コスト論理を優先した中止決定
WALHI西ジャワは、チレボン1号機の早期廃止の中止は、短期的な経済・コスト論理が優先された結果であると評価している。この論理は、資金面での妥当性や資産の技術的耐久年数のみを考慮し、社会的・生態学的な影響や住民の健康コストを軽視している。
このアプローチは、石炭火力発電所周辺の住民が直面している現実、すなわち大気汚染、呼吸器系の健康被害、沿岸環境の質の低下、石炭火力の排出物によって引き起こされる疾病による家計の経済的負担、そして石炭火力の排出物によって引き起こされる気候災害による損失を体系的に排除している。これらの費用はエネルギー関連の決定におけるコスト計算に一切組み込まれておらず、政府は石炭火力発電所のコスト負担(汚染者負担原則に基づき事業者が負担すべきもの)を不当にコミュニティに押し付けつつ、経済的利益はごく一部の者だけが享受している。
石炭火力発電所の継続操業:止まらない排出負荷
早期廃止の中止はチレボン1号機の操業延長を意味し、これにより温室効果ガスや有害汚染物質の排出も同様に長期化することになる。報告書「Toxic Twenty」は、チレボン石炭火力発電事業(チレボン1号機を含む)をインドネシアで最も有害な石炭火力発電所のひとつと位置づけ、健康と環境に深刻な影響を与えるという点で第3位にランク付けしている。
この事実は、中止の決定が客観的なものではなく、気候危機と住民の健康危機の最中にありながら、意図的に重度の汚染源を維持する決定であることを示している。
データ非公開と住民を排除したリスク評価
今日に至るまで、政府はチレボン1号機の早期廃止の中止の根拠となったデータや評価を透明性のある形で公開していない。一般に公開されていないのは、
(1)影響を受ける住民の健康および社会リスクに関する評価
(2)操業の長期化に伴い生じる追加的な環境影響の分析
(3)長期的な社会・健康コストの算定
である。
利用されている評価は、影響を受ける住民や市民団体の視点を反映したものではなく、PLNや政府内部のものにとどまっている。この決定がコミュニティの生活、健康、安全に直接的な影響を与えるにもかかわらずである。データ公開や市民参加を伴わないエネルギー移行は、非民主的で不公正な移行である。
公正な移行原則の無視
今回の中止は、政府が公正な移行の原則を履行できなかったことも示している。エネルギー移行は単にエネルギー源の変更を意味するだけでなく、影響を受けた石炭火力発電所周辺の住民の健康、環境、生計手段の保護、効果的な補償と回復、そして影響を受けたコミュニティへの社会的公正性の保証も確保しなければならない。
包括的な公正な移行の枠組みがなければ、クリーンエネルギー政策は単なる技術官僚的な事業に終わるリスクがあり、社会的・生態学的な影響は引き続きコミュニティが負担することになる。
石炭火力発電所の早期廃止計画における悪しき前例と脆弱なロードマップ
WALHI西ジャワは、チレボン1号機の早期廃止計画の中止が、全国の石炭火力発電所の早期廃止ロードマップの脆弱性を示す悪しき前例になると強調する。パイロット事業でさえ透明性と説明責任なしに中止されるのであれば、インドネシアにおける石炭火力発電所の早期廃止計画全体が、政策と法的な確実性を欠いていることになる。
インドネシアの電力政策は、最新のRUPTL(電力供給事業計画)、RUKN(国家電力総合計画)、RUEN(国家エネルギー総合計画)、そしてKEN(国家エネルギー政策)において、石炭火力発電所を依然として主要な電力源として維持することを明確に示している。これらの計画文書には、長期間稼働し排出削減がより困難になっている石炭火力発電所を含め、いつ完全に廃止されるかについての明確なロードマップが記載されていない。石炭からの脱却の方向性を示すどころか、この政策はむしろ国のエネルギー移行政策の後退を反映しており、石炭火力発電所の操業期間の長期化を通じて化石燃料への依存を維持し続けている。このアプローチは、気候危機の影響がインドネシアの様々な地域ですでに顕在化し、甚大な環境災害と社会経済的損失を引き起こしているという事実を軽視してしまっている。インドネシア政府は意図的に気候変動に対する責任を先送りし、将来の環境危機と公共の健康リスクを増大させている。
この状況は、短期的な経済的利益によって容易に変更される一時的な政策ではなく、強固で法的拘束力があり、公共の安全を優先する石炭火力発電所の廃止に関する規制の策定が急務であることを示して いる。
WALHI西ジャワは以下を要求する:
- WALHI西ジャワは、ADBに対し、石炭火力発電所の明確な段階的廃止(フェーズアウト)の道筋が法的に拘束力があり、かつ公的に監視可能な形で示されない限り、エネルギー移行の名の下でのすべての融資(送電網を含む)を停止するよう要求する。ADBは、気候危機とエネルギー格差を長期化させる石炭火力発電所の継続を正当化するために、エネルギー移行という口実を使用してはならない。
- チレボン1号機の早期廃止の中止に関する理由をすべて公開すること。これにはデータ、リスク評価、およびチレボン石炭火力発電所周辺の住民に直接影響を与える社会・健康面でのコスト算定の公開も含まれる。
- エネルギー政策において、経済・コスト重視の近視眼的なアプローチを廃止し、社会影響、住民の健康、環境影響を意思決定の主要な基本要素として組み込むこと。
- WALHI西ジャワは、CEPが、ETMの枠組み利用の中止にかかわらず、問題を抱える資産であるチレボン1号機について引き続き責任を全うすべきであると強調する。CEPは、政策変更を理由に操業を継続するのではなく、過去に表明したコミットメントに従い、チレボン1号機の早期廃止を実施する義務がある。エネルギー移行は、企業の責任回避や住民の健康・安全を犠牲にする口実としてはならない。
- 公正な移行の原則を実質的かつ包括的に適用し、チレボン石炭火力発電所の影響を受けるコミュニティに効果的な保護および回復のための措置を講じること。
- 石炭火力発電所の廃止に関する強固かつ法的拘束力のある規制を策定し、ならびに明確で透明性があり、公的に監視可能なロードマップを策定すること。
チレボン1号機の早期廃止計画の中止は、単なる政策の失敗ではなく、住民の健康を保護し、公正なエネルギー移行を推進するという国の真摯な姿勢の欠如を映し出している。WALHI西ジャワは、透明性、公正さ、そして強固な規制なくしては、インドネシアのエネルギー移行は生態系の危機と住民の健康の危機を長期化させるだけだと確信している。
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