インドネシア住民・NGOによるチレボン石炭火力1号機のエネルギー移行メカニズム適用に係るポジションペーパー「気候・環境・地域社会のためではなく、大企業の巨大なグリーンウォッシュのためのメカニズムを断固拒否する」

化石燃料

2024年2月28日、インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ、WALHI、ラペル(Rapel:環境保護民衆/チレボン現地住民グループ)、KARBON(チレボンの学生グループ)の4団体が、チレボン石炭火力発電事業1号機(チレボン1号機。国際協力銀行及び3メガ銀行が融資)へのエネルギー移行メカニズム(ETM)の活用に関して、現在進められているメカニズム及びそのプロセスを断固拒否すると表明するポジション・ペーパーを発出しました。

同案件については、2022年11月にアジア開発銀行(ADB)、事業者(丸紅が出資)、インドネシア政府が覚書を締結していましたが、詳細な情報は市民社会に一切公開されないまま、交渉が進められていました。

先週金曜にようやくADBのウェブサイトで関連文書が英文で公開されたところです。

しかし、WALHI及び住民グループは、以下の点から、現在のETMのプロセスに参加することはできないという結論に至ったとのことです。

1.2035年に(早期)廃止 あるいは 再利用(Repurpose)するという前提で議論が進められてしまっていることは受け入れられない。可能な限り早期の廃止が必要である。

2.再利用の選択肢(アンモニア・水素の専焼もしくは混焼の可能性)が残されている。

3.1号機(66万kW)を早期廃止する議論が進められている中、2023年に2号機(100万kW)を稼働させ始めたことは矛盾している。

4.大企業が負うべき座礁資産の責任を免除する形となっている。

詳細は以下をご覧ください。(FoE Japanによる和訳。原文インドネシア語はこちら。英訳はこちら)(PDFはこちら

チレボン石炭火力発電事業1号機のエネルギー移行メカニズム適用に係るポジションペーパー:気候・環境・地域社会のためではなく、大企業の巨大なグリーンウォッシュのためのメカニズムを断固拒否する

2024年2月28日

2022年11月14日にアジア開発銀行(ADB)、インドネシア投資公社(INA)、インドネシア国有電力公社(PLN)、及びチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)の間でチレボン石炭火力発電事業1号機(チレボン1号機)の早期廃止に係るADBのエネルギー移行メカニズム(ETM)活用について、覚書(MOU)が締結されて以降、すでに1年と3ヶ月が経過した。しかしこの間、どのような枠組みで同事業の早期廃止がなされるか等、その詳細な情報について、同事業の問題に関心を有してきた住民を含む、市民社会の知る機会は非常に限られ、意思決定過程に有意義に参加する機会は一切設けられてこなかった。

最近ようやくADBのウェブサイトに幾つかの関連文書が英語のみで公開された[1]。しかし私たちは、上述のように市民社会による意思決定過程への有意義な参加機会が一切ないまま、どのようなプロセスでチレボン1号機においてETMを活用するか、その基本的な枠組みがすでに設定されてしまっている事実を強く非難する。それらの文書で示されている基本的な枠組みは、チレボン1号機の早期廃止に向けて必要であると私たちが考える枠組みとは程遠いものである。

現在、チレボン1号機で進められているETMは、喫緊の課題である気候危機を真に解決するものではなく、またチレボン1号機の建設・稼働によって深刻な影響を受けてきた地域住民に対する適切な配慮を欠いたものとなっている。その一方で、同ETMは、CEPに出資する大企業がとるべき気候危機に係る責任を免除し、大企業の利益をむしろ温存させる欺瞞に満ちたものとなってしまっている。気候危機の真の解決につながらないにもかかわらず、ADBを始めとする官民の資金提供者がエネルギー移行の名の下に大企業への支援を行う同メカニズムは、巨大なグリーンウォッシュ以外の何物でもない。

したがって、私たちは、チレボン1号機に関してエネルギー移行と称して現在進められているメカニズム及びそのプロセスを断固拒否することを改めて明確に表明する。

私たちがチレボン1号機について現在進められているETMへの関与・参加を拒否する具体的な理由は、以下のとおりである。

1.チレボン1号機は可能な限り早期に廃止すべき

喫緊の気候危機を考慮するならば、チレボン1号機の可能な限り早期の/一刻も早い廃止が求められていることに疑いの余地はない。また、チレボン1号機の建設・稼働によって、塩田や漁場などの生計手段や健康面で地域住民がすでに被ってきた甚大な影響を考慮するならば、一刻も早いチレボン1号機の早期廃止と原状回復を含めた環境社会に係る救済措置が不可欠である。ジャワ・バリ電力系統において今後10年間、慢性的に電力供給過剰の状態が続くことが予想されている中、チレボン1号機の稼働をこれ以上引き延ばす正当性がないことも明らかである。

それにもかかわらず、現在、ETMを活用して行われようとしているチレボン1号機の早期廃止に向けた枠組みでは、2035年にチレボン1号機を早期廃止乃至再利用することが、すでに決定事項として示されている[2]。つまり、可能な限りの早期廃止を促すというよりも、今後、チレボン1号機をさらに11年間もの長期にわたり稼働させることに正当性を与えるものとなっており、私たちが受け入れられる枠組みでは到底ない。

2.「誤った気候変動対策」を用いた石炭火力の「再利用」による大企業の利益温存は回避すべき

上段のとおり、チレボン1号機は可能な限り早期に廃止すべきである。石炭火力の延命につながる技術でチレボン1号機を「再利用」することは、同発電所による地域住民や環境への影響も、そして気候への影響も長引かせるだけである。一方で、チレボン1号機を進めてきた大企業は石炭火力の早期廃止が本来であれば完了されるべき時期の後も、石炭火力の「再利用」を通じ、継続して利益を得ることができるであろう。公正なエネルギー移行に向けた枠組みは、大企業の利益温存につながるようなものではなく、地域住民や環境、気候を優先したものであるべきだ。

しかしながら上述のADB関連文書[3]によれば、ADBのETMにおける石炭火力の早期廃止の議論において、「Repurpose(再利用)」の選択肢は依然として排除されていない。事業者CEPの最大出資者である丸紅も「代替電源の手配」[4]に言及してきている。混焼であれ専焼であれ、日本政府・企業がアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の下で推進している水素/アンモニア等の確立されていない「誤った気候変動対策」が、同ETMにおける石炭火力の「再利用」の枠組みを通じて進められることは、大企業に継続的な利益をもたらすだけであり、私たちはそれを許容できない。

3.チレボン1号機の早期廃止とチレボン2号機の稼働における矛盾を解消すべき

気候危機への対処の必要性からチレボン1号機(660 MW)の早期廃止の実現に向けた議論がなされている中、チレボン1号機と比較して、温室効果ガスの総排出量がより多いチレボン2号機(1,000 MW)の稼働を開始することが理に適ったものでないことは誰の目にも明らかである。

しかし、チレボン2号機が2023年に稼働を開始したという事実は、現在ETMの下で進められているチレボン1号機におけるエネルギー移行に向けた取り組みが「まやかし」でしかないことの証左である。気候危機に対する一貫した取り組みがどの石炭火力でも実施されるべきであり、それはチレボン1号機に隣接するチレボン2号機も例外ではない。ましてやチレボン2号機に係る贈収賄事件も明らかとなっている中、気候変動への対応の観点からも、環境や地域住民への影響の観点からも、チレボン2号機は稼働を停止すべきである。

4.座礁資産となるべき石炭火力に係る企業の免責は回避すべき

これまで石炭火力の建設・稼働を推進し、莫大な利益を得てきた大企業は、本来ならば、その代償として気候や環境、地域住民が犠牲とされてきたことに対する相応の責任を取るべきである。

しかしながら、チレボン1号機の事業者であるCEPは、電力購買契約(PPA)の期間を2042年8月から2035年12月に短縮[5]することで生じる損失をETMの融資によって補填されるようである。チレボン1号機及び2号機の建設・稼働によって、これまで生計手段や健康に影響を受けてきた地域住民への十分な配慮はなされないままであるにもかかわらずである。

こうしたETMの枠組みは、現在も石炭セクターへの投融資を継続している民間企業に対し、将来的に座礁資産に対する責任を免れる、あるいは、リスクを回避することが可能であるという誤ったメッセージを送るだけである。特に、チレボン2号機の事業者であるチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)はチレボン1号機の事業者であるCEPとPresident Director及びVice President Directorが同一人物であり、経営陣の約半数が同じ顔ぶれである[6]。CEPRは座礁資産のリスクを考慮することなく、今後も25年間のPPAの下、チレボン2号機の稼働を続けるであろう。このような気候・環境・地域住民にとって不公正かつ不正義な枠組みを私たちは断固拒否する。

連絡先:

Wahyudin – インドネシア環境フォーラム西ジャワ(WALHI West Java) (+6282129588964)
Fanny Tri Jambore – WALHI National (+6283857642883)
Aan – Rapel (Rakyat Penyelamat Lingkungan) (+6281212209652)
Dinda Maharani – KARBON (KOALISI RAKYAT BERSIHKAN CIREBON) (+6285942209476)


[1] https://www.adb.org/projects/documents/ino-56294-001-ipsa

[2] 脚注1に同じ

[3] 脚注1に同じ

[4] https://www.marubeni.com/en/news/2022/release/00089.html

[5] 脚注1に同じ

[6] https://www.cirebonpower.co.id/cirebon-power/the-boards/

 

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