インドネシア住民・NGOが来日要請:日本政府・銀行はチレボン石炭火力2号機への貸出停止と1号機の早期廃止に向けた責任ある対応を!

脱化石燃料2023.7.10

 「2007年に1号機の建設が始まって以来、チレボン石炭火力発電事業に反対しています。脅されて土地の売却を強いられた隣人もいました。2号機の建設では、贈収賄事件も起きています。不正にまみれた発電所への融資を日本政府と銀行はどうか止めてください。」

 「チレボン石炭火力発電事業は、生活の糧を沿岸で得てきた零細漁民をゆっくり死に追いやっているのです。2号機の稼働が始まれば、もっと魚が獲れなくなるでしょう。日本の関係者は1号機の閉鎖と2号機の中止に向けて、責任ある対応をとってください。」

 2023年5月22~24日にかけ、丸紅とJERA(東京電力と中部電力の合弁)が出資し、国際協力銀行(JBIC。日本政府100%出資)や3メガ銀行(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)が融資して進められてきたインドネシア・チレボン石炭火力発電事業の影響を受けている住民2名と、彼らの反対運動の支援を続けてきた現地NGO(WALHI/FoEインドネシア)2名が来日し、日本政府や各銀行に要請書(世界から61団体が賛同)を提出しました(三菱UFJ銀行は多忙を理由に面談を断られたため、郵送による提出)。

内閣府にて内閣総理大臣宛てに要請書を提出
国際協力銀行(JBIC)にてJBIC総裁宛てに要請書を提出
みずほ銀行にてCEO宛てに要請書を提出
財務省にて財務大臣宛てに要請書を提出
MUFG本店前にてアクション(CEO宛て要請書は郵送)
三井住友銀行にてCEO宛てに要請書を提出

 試運転中の2号機(100万キロワット)は商業運転の開始が間近と言われていますが、住民の生計手段や健康への影響の悪化を懸念する声は続いたままです。また許認可の発行に関連した贈収賄事件については元チレボン県知事の公判が続いています。2012年から稼働している1号機(66万キロワット)は、日本が最大出資国であるアジア開発銀行(ADB)が主導する「エネルギー移行メカニズム(ETM)」を活用した「早期廃止」の対象案件となっていますが、住民・市民社会が参加できぬまま交渉が進んでいたり、アンモニア等の混焼技術で「再利用」する可能性も指摘されています。

 16年間、生計手段や健康などへの深刻な影響を受けてきた住民の皆さんが、これ以上の被害を受けることがないよう、チレボン1号機の早期廃止とチレボン2号機の中止に向けた責任ある対応が日本の関係者に求められています。

 以下、要請書の和訳です。(PDFはこちら。インドネシア語原文はこちら。英訳はこちら。院内勉強会の様子はこちら。)


(原文はインドネシア語。以下は、WALHI西ジャワによる英訳のFoE Japanによる和訳)

2023年5月22日

内閣総理大臣 岸田 文雄 様
財務大臣 鈴木 俊一 様
株式会社国際協力銀行 代表取締役総裁 林 信光 様
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 代表執行役社長 グループCEO 亀澤 宏規 様
株式会社みずほフィナンシャルグループ 取締役 兼 執行役社長 グループCEO 木原 正裕 様
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長(代表執行役)グループCEO 太田 純 様
アジア開発銀行 総裁 浅川 雅嗣 様

インドネシア・チレボン石炭火力発電事業
2号機への貸出停止と
1号機の早期廃止に向けた責任ある対応を求める要請書

 私たちラペル(Rapel, Rakyat Penyelamat Lingkungan:環境保護民衆)及びインドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワは、この来日の機会に日本の関係者に対して、チレボン石炭火力発電事業(チレボン事業)に係る私たちの要請を改めてお伝えします。まず、国際協力銀行(JBIC)及び日本の3メガ銀行は、チレボン石炭火力発電所2号機(チレボン2。100万 kW)に対する貸付実行を速やかに停止してください。また「エネルギー移行メカニズム」(ETM)を主導するアジア開発銀行(ADB)及び今後ETMに資金拠出を行う可能性のある銀行は、公的機関であろうと民間であろうと、チレボン石炭火力発電所1号機(チレボン1。66万kW)の速やかな早期廃止に向けた責任ある対応をとってください。

 私たちは一貫してチレボン1の閉鎖と、チレボン2の建設中止を求めてきました。その大きな理由の一つは、現地コミュニティの生活・文化・健康への影響です。例えばチレボン事業が始まる前、コミュニティは子どもから大人まで沿岸に出かけ、貝採取などで家族のおかずを賄うことができました。船を使わない沿岸での小規模漁業や塩田からの収入で子どもを学校に通わせたり、家を建てたりすることもできました。しかし、チレボン1が建設を開始した2007年以降、それら沿岸での生計手段に甚大な悪影響が及んだため、コミュニティがどれほど苦しんできたか、そして2016年から進められてきたチレボン2の建設がすでにコミュニティの生活をどれほど妨げ、住民の生活をより困難なものにしてきているか、私たちはこれまでも日本の関係者に伝えてきました。特にJBICに対しては、チレボン1に係る異議申立書(2016年11月)[1]及びチレボン2に係る異議申立書(2017年5月)[2]の中で、具体的な被害を説明してきました。

 JBICはこうした私たちの訴えに対し、企業の社会的責任(CSR)プログラムが有効だと信じているようでした。私たちがJBICと会合を持つと、決まってCSRプログラムが提案されたのです。それに対して、私たちはいつもCSRプログラムが現地コミュニティにとって真の解決策ではないということを説明してきました。現地コミュニティが必要としているのは、生活に必要なきれいな空気ときれいな水です。より具体的には、漁業活動に必要な健全な沿岸環境であり、塩づくりのために必要な健全な土地・水・空気です。

 そして今、大業企や地元の政治家が巨大な利益を得る腐敗にまみれた汚い事業のために、現地コミュニティが日々の生活の中でいかに困難に直面してきたか、日本の関係者に直視していただきたいです。チレボン2に係る許認可発行の迅速化や抗議活動の沈静化のため、元チレボン県知事がEPC契約者である現代建設から賄賂を受け取ったとして、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)に起訴されたことはすでにご存知のことかと思います。KPKの起訴状(2023年3月14日)や公判における証人の証言(2023年3月27日以降)では、JBIC及び3メガ銀行の直接の貸付先であるチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)の元上級幹部からも元県知事に対して相当額の支払いが行われたことに言及がなされています。

 CEPRや現代建設は、JBICや3メガ銀行に対し、確固たる証拠をもって起訴状や証人の証言の内容が真実ではないと説明できているのでしょうか。もし、そのような説明がなされていないのであれば、JBICや3メガ銀行はそれを深刻に受け止め、たとえ元県知事への判決が下されていない現時点であっても、チレボン2に対する貸付実行をこれ以上行うべきではありません。このように贈収賄に関するいくつかの確たる証拠がすでに提示されているような事業への融資支援を継続するというなら、その決定について、各行が説明責任を果たさなくてはなりません。これは、各行のレピュテーションの問題でもあるはずです。

 そもそも、40〜60%もの供給予備率(2021〜2030年)を抱えることが予想されているジャワ・バリ電力系統[3] [4]で、チレボン2を稼働させる必要性自体もありません。奇しくも、ADB、チレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)、インドネシア政府がチレボン1の早期廃止に向けた覚書の締結[5]によって体現したとおり、気候危機への取組みが急務とされている中、チレボン2をこれから25年間も稼働させることは大きな矛盾です。あるいは将来、チレボン2の座礁資産化に伴い大手民間企業がとるべき損失を再びETMのような枠組みで補填するつもりなのでしょうか。いまやチレボン2の商業運転開始や継続を正当化する理由は、以前よりも一層失われてきていることを私たちは確信しています。

 チレボン1の早期廃止に関する話し合いが始まっていることについては、その閉鎖を長年求めてきた私たちにとって、歓迎すべき動きのようにも見えます。しかし、CEPとインドネシア国有電力会社(PLN)間の電力購買契約(PPA)の下、元々2012年から2042年までとされていた契約期間が5年や10年短縮されることになったとしても、それを私たちが手放しで歓迎することはないでしょう。ましてや、バイオマス/アンモニア/水素の混焼によって、チレボン1が「再利用」されることはもってのほかです。私たちが望むのは、これ以上、現地コミュニティへの影響がつづかないよう、一刻も早くチレボン1が閉鎖され、環境が修復されることです。

 また、チレボン1の早期廃止が私たちの重大な関心事項であるにもかかわらず、現在、その議論や決定が私たちの与り知らないところで進んでいることも大変懸念されます。これは、チレボン1やチレボン2が適切な住民協議もなく進められてきたことと何ら変わりがありません。

 ADBはチレボン1がETMを活用する第一号案件として選ばれた理由の一つとして、CEPがすでに積極的にCSRプログラムを実施してきた点をあげていました。[6]しかし上述したとおり、CSRが現地コミュニティの以前の生活・文化を回復・改善するものでないことは、現場に来て影響を真摯に見たり、住民の証言に真摯に耳を傾ければ理解できるはずです。

 私たちはこれまで、JBICやJBIC環境ガイドライン担当審査役の現地訪問や会合の際、粘り強く現地コミュニティの窮状を伝える努力をしてきました。しかし、そうした現地訪問や対面での会合はすべて残念な結果に終わり、私たちは大変失望すると同時に憤りさえ感じてきました。なぜなら、影響を受けてきた住民の証言が非常に軽視されてきたからです。例えば競売場で取引をせず、沿岸から漁獲物をそのまま家に持ち帰り、家庭で消費もしくは隣人に売却する小規模漁業者の漁獲量の減少について、現地の関連政府機関に残っている統計の数字を用いて「漁獲高はほぼ横ばい」、つまり影響はないと結論づけられたことは、影響を受けてきた住民のために親身になって調査や聞取りが行われていない証左です。[7]

 現在チレボン1について、ADBの環境社会監査チームが現地訪問も含めた調査を行っていると理解していますが、影響を受けてきた住民の証言や視点を重視した調査が行われなくてはなりません。日本であろうと、インドネシアであろうと、同じ人間の環境・社会・健康・文化に関わる問題を扱っているということが忘れられるべきではありません。

 日本政府を含む各国政府やADBを含む国際金融機関は、「公正」なエネルギー移行を加速化させるための支援枠組みを積極的に構築しようとしています。その「公正」さは、雇用の観点だけではなく、これまでに発電所の建設・稼働によって影響を受けてきた住民にとっての「公正」さが含まれるべきです。ADBや今後ETMに関わる金融機関は、チレボン1の速やかな早期廃止に向けて、透明性や住民参加の機会を確保しながら、影響を受けてきた現地コミュニティの生活環境の修復や生計手段の回復も含めた「公正」なエネルギー移行が行われるよう、責任ある対応をとるべきです。

 チレボン1の建設・稼働やチレボン2の建設で、すでに生計手段や健康などへの深刻な影響を受けてきた現地コミュニティが、これ以上の被害を受けることがないよう、チレボン1の早期廃止とチレボン2の中止に向けた責任ある対応を含む、賢明な判断と対応を日本の関係者に強く要請します。

以上

Cc:    経済産業大臣 西村 康稔 様
   株式会社 日本貿易保険 代表取締役社長 黒田 篤郎 様
    国際協力銀行 環境ガイドライン担当審査役 奥 真美 様、佐瀬 裕史 様

署名:
ラペル(Rapel, Rakyat Penyelamat Lingkungan:環境保護民衆)
WALHI西ジャワ
インドネシア環境フォーラム(WALHI)

賛同(61団体):
インドネシア語本文の書簡を参照

【連絡先】
インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ
 住所: Jl. Pecah Kopi No.14, Sukaluyu, Kec. Cibeunying Kaler, Kota Bandung, Jawa Barat 40123, Indonesia
 TEL: +62 22 20458503
  Email: walhijabar@gmail.com

脚注:
[1] https://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/161110.html
[2] https://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/170524.html
[3] https://ieefa.org/wp-content/uploads/2022/03/Indonesia-Wants-to-Go-Greener-but-PLN-Is-Stuck-With-Excess-Capacity_November-2021_JAPANESE_F.pdf
[4] https://www.cnbcindonesia.com/news/20230208134534-4-412119/bukan-jawa-ternyata-ini-daerah-yang-listriknya-paling-luber
[5] https://www.adb.org/news/adb-indonesia-partners-sign-landmark-mou-early-retirement-plan-first-coal-power-plant-etm
[6] https://www.adb.org/what-we-do/energy-transition-mechanism-etm
[7] https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/20221108_Cirebon-2_Response-to-Examiners_JP.pdf

 

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