インドネシア・チレボン石炭火力2号機で事業者の贈賄行為が明らかに―財務省・JBICに公的支援の速やかな停止を求める要請書を提出

化石燃料

 国際協力銀行(JBIC。財務省が全株式保有)と3メガ銀行(三井住友、三菱UFJ、みずほ)等が融資して進められてきたインドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業 拡張計画(2号機。100万キロワット)(2号機事業)において、丸紅とJERAが出資する事業者が贈賄行為に関与していたことが、現地の裁判の過程で明らかになりました。

 今年3月、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)が2号機事業に係るケースを含む一連の収賄・マネーロンダリング事件に関して、元チレボン県知事を起訴し、公判が続けられていましたが、本日、2号機事業に係る収賄のケースを含め、元チレボン県知事に有罪判決が言い渡されました。また公判における証人の証言及び被告である元チレボン県知事の陳述では、2号機事業の事業者であり、JBIC等からの直接の借入人であるチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR。丸紅が35%、JERAが10%出資)の元上級幹部が贈賄行為に関与していたことが言及されてきました。

 この重大な事実を受け、インドネシア及び日本の環境団体は、まず公的機関であるJBICが「公的輸出信用と贈賄に関するOECD理事会勧告」(OECD贈賄勧告)に基づき、2号機事業に対する貸付実行の停止措置を速やかにとること、またこれまでに実行した貸付については強制期限前弁済の措置をとることを強く求める要請書を財務省及びJBICに提出しました。

 2号機事業については、生計手段の喪失や環境汚染など地域住民への影響、チレボン県空間計画への違反と環境許認可の不当な発行など違法なプロセス、反対・懸念の声をあげる住民への嫌がらせや脅迫などの人権侵害、気候変動対策への逆行など、これまでにも多くの問題が指摘され、事業の中止が繰り返し求められてきました。さらに、40~60%もの供給予備率(2021~2030年)を抱えることが予想されているジャワ・バリ電力系統で、2号機事業を実施する必要性自体も疑問視されています。贈賄も絡む形で不当に進められてきた2号機事業への公的支援をJBICは速やかに取りやめるべきです。

 詳細は以下の要請書(FoE Japanによる和訳。原文は英語)をご覧ください。(PDFはこちら

インドネシア・チレボン石炭火力発電事業 拡張計画
貸出停止と強制期限前弁済の措置を求める要請書

2023年8月18日

財務大臣 鈴木 俊一 様
国際協力銀行 代表取締役総裁 林 信光 様

 国際協力銀行(JBIC)が2017年11月14日以降、貸付を実行してきたインドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業 拡張計画(2号機。1,000メガワット)(2号機事業)[1]については、2019年から贈収賄疑惑が指摘されてきました。そして本年3月には、インドネシア汚職撲滅委員会(KPK)が2号機事業に係るケースを含む一連の収賄・マネーロンダリング事件に関して、元チレボン県知事を起訴し、公判が続けられていました。

 本日、2号機事業に係る収賄のケースを含め、元チレボン県知事に有罪判決が言い渡されました。また公判における証人の証言及び被告である元チレボン県知事の陳述では、2号機事業の事業者であり、JBICの直接の借入人であるチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)の元上級幹部が贈賄行為に関与していたことが言及されています。

 今回の裁判及び判決内容を通じて明らかにされた事実、つまり、2号機事業に係る贈収賄行為が確実に行われていたこと、また2号機事業のEPC契約者である現代建設(Hyundai Engineering and Construction Co., Ltd.)だけでなく、借入人であるCEPRの元上級幹部も同贈賄行為に関与していたことは、極めて重大な事実です。私たちは、公的輸出信用機関(ECAs)であるJBICが、「公的輸出信用と贈賄に関するOECD理事会勧告」(OECD贈賄勧告)[2]に基づき、2号機事業に対する貸付実行の停止措置を速やかにとること、またこれまでに実行した貸付については強制期限前弁済の措置をとることを強く求めます。

 本年3月から行われてきた30回以上に及ぶ公判では、巨額の収賄やマネーロンダリング(総額640億ルピア)に関して、起訴状や237人に上る証人らの証言によって、詳細な情報が明らかにされてきました。2号機事業に係るケースについては、概ね以下のような内容が含まれています(役職は当時)。

・CEPRの上級幹部2名(うち一名はCEPR社長Heru Dewanto。もう一名はTeguh Haryono)がチレボン県知事に対し、CEPRが申請した石炭火力発電所2号機の建設許可の手続きを滞りなく行い、さらに2号機建設に対するデモへの対処支援を求め、チレボン県知事に10億ルピアを渡した。(被告である元チレボン県知事の陳述によれば、3億ルピアが被告に渡された他、金額は不明であるものの、「Forkopimda」 (Forum Koordinasi Pimpinan Daerah:県知事、県警察局長、県検事局長、県軍管区司令官)にCEPRから資金が直接支払われたとのこと。)[3]

・CEPR上級幹部2名(同上)が、現代建設の関係者(副ゼネラルマネージャーHERRY JUNG、管理運営マネージャーKIM TAE HWA、2号機建設現場プロジェクトマネージャーAM HUH)とチレボン県知事を双方に紹介した。CEPR側はチレボン県知事に対し、CEPRの許認可申請の手続きに関連して、今後、HERRY JUNGが許認可手続きを引き続き行うことを伝えた。さらにチレボン県知事に対し、CEPRの申請手続きが迅速に進むように支援を求めるとともに、デモへの対処を求めた。その他、チレボン県知事の「運営資金」の提供が現代建設の上記3名から行われることが伝えられた。

・現代建設のHERRY JUNGがチレボン県知事に対し、建設許可と住民のデモの問題を再び伝えたことを受け、チレボン県知事はDPMPTSP(統合投資許認可サービス局)に対してCEPRの許認可手続きを早める手助けをするように命じた。許認可手続きの手助けをした後、現代建設のHERRY JUNGからDPMPTSPに直接5,000万ルピアが支払われた。

 ・チレボン県知事が住民の抗議を沈静化するためとして「運営資金」を要求した。この「資金」は、現代建設から架空のコンサルティング業務の契約金(100億ルピア)として支払われることになった。

・チレボン県知事は、ブブル郡長に彼女の義理の息子(2号機事業地であるアスタナジャプラ郡の元郡長の義理の息子でもある)の会社ミラデス・インダ・マンディリ社(MIM社)を現代建設との架空契約に参加させるよう求めた。しかし、MIM社はコンサルタント会社ではなく、単なるイベント企画会社に過ぎなかった。

・2017年6月14日、MIM社と現代建設の間で、2号機事業のコンサルタント業務に係る架空のプロジェクト契約(総額100億ルピア)が結ばれた。

・2017年6月から2018年10月の間、4回に分けて70億2,000万ルピアの「資金」が現代建設の複数の関係者からMIM社を通じてチレボン県知事に支払われた。

・2017年7月にチレボン県知事らは、現代建設が費用を負担する形で韓国を旅行した。

 2号機事業に係る贈賄ケースについては、すでに2019年に元チレボン県知事、そして現代建設の元幹部がKPKにより容疑者認定を受けていた他、CEPRの元上級幹部2名もインドネシア国外への渡航禁止措置を受けていました。今回、2号機事業に係る贈賄ケースにおいて元チレボン県知事が有罪判決を受けたこと、またJBICの借入人であるCEPRの元上級幹部が贈賄行為に関与していたことが複数の証言から明らかにされていることを重く受け止め、JBICは貸出停止、融資未実行残高の取り消し、強制期限前弁済を含む適切な措置をとるべきです。

 2号機事業については、生計手段の喪失や環境汚染など地域住民への影響、チレボン県空間計画への違反と環境許認可の不当な発行など違法なプロセス、反対・懸念の声をあげる住民への嫌がらせや脅迫などの人権侵害、気候変動対策への逆行など、これまでにも多くの問題が指摘され、事業の中止が繰り返し求められてきました。そもそも、40〜60%もの供給予備率(2021〜2030年)を抱えることが予想されているジャワ・バリ電力系統[4]で、2号機事業を実施する必要性自体も疑問視されています。

 そのような中、2022年11月には隣接するチレボン石炭火力発電所1号機の早期廃止に向けた覚書が、事業者(CEPRに出資しているJERAを除く)、インドネシア政府、アジア開発銀行(ADB)の間で締結されました。[5] この動きは、喫緊の課題である気候危機への取組みの必要性を、事業者、インドネシア政府、そしてADBの最大出資国である日本政府も認識していることを示唆しています。今まさに日本を含む世界各地で皆さんが経験されている危険な猛暑や豪雨によって、その認識はより強くなっていることでしょう。贈賄も絡む形で不当に進められてきた2号機事業の継続や商業運転開始を正当化する理由はいま、より一層失われてきています。

 したがって、1号機事業の建設・操業や2号機事業の建設で、すでに生計手段や健康などへの深刻な影響を受けてきた現地コミュニティが、これ以上の被害を受けることがないよう、JBICがまず2号機事業への支援を取りやめることを要請します。

以上

ラペル(Rapel, Rakyat Penyelamat Lingkungan:環境保護民衆)
WALHI西ジャワ
インドネシア環境フォーラム(WALHI)
国際環境NGO FoE Japan
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
メコン・ウォッチ
気候ネットワーク

Cc:
経済産業大臣 西村 康稔 様
日本貿易保険 代表取締役社長 黒田 篤郎 様
韓国輸出入銀行 会長兼社長 Yoon Hee-sung 様
Mr. Steven van Rijswijk, CEO, ING Bank N.V.
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 代表執行役社長 グループCEO 亀澤 宏規 様
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 取締役 執行役社長(代表執行役)グループCEO 太田 純 様
株式会社みずほフィナンシャルグループ 取締役 兼 執行役社長 グループCEO 木原 正裕 様
アジア開発銀行 総裁 浅川 雅嗣 様

【連絡先】
インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ
住所: Jl. Pecah Kopi No.14, Sukaluyu, Kec. Cibeunying Kaler, Kota Bandung, Jawa Barat 40123, Indonesia
TEL: +62 22 20458503
Email: walhijabar@gmail.com 

【脚注】

[1] https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2017/1114-58532.html

[2] https://one.oecd.org/document/TAD/ECG(2019)2/En/pdf OECD贈賄勧告では、「公的な輸出信用支援の供与後」の措置として、「取引に関連して、関係者の一人が贈賄禁止法違反で有罪判決を受けたり、同等の措置を受けた」ことが判明した場合、「国内法に則り、贈賄に責任のない関係者の権利を損なうこと」のない形で、「通常よりも厳格なデューディリジェンスの実施、支払拒否、供与した金額の返済」など適切な措置をとることが勧告されている。

[3] https://www.detik.com/jabar/hukum-dan-kriminal/d-6811373/aliran-dana-pengamanan-demo-pltu-2-cirebon-yang-dibongkar-sunjaya

[4] https://ieefa.org/wp-content/uploads/2022/03/Indonesia-Wants-to-Go-Greener-but-PLN-Is-Stuck-With-Excess-Capacity_November-2021_JAPANESE_F.pdf

[5] https://www.adb.org/news/adb-indonesia-partners-sign-landmark-mou-early-retirement-plan-first-coal-power-plant-etm

 

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