[まとめ解説] 温暖化対策の「盲点」 メタンを止めろ

猛暑、大雨、山火事などの災害が気候変動によってますます激甚化する今、野心的な温室効果ガス削減策が必要です。ところで皆さんは、二酸化炭素以外の温室効果ガスをご存じですか?実は二酸化炭素と比べて80倍以上も温室効果(熱を捕まえて離さない力)が高い温室効果ガスがあるとご存じでしたか?それがメタンです。
気候危機をくいとめるためには、メタン排出を今すぐ減らす必要があります。しかし日本はむしろメタン排出を助長する役割を果たしてしまっています―メタンが主成分の化石燃料ガスの消費者として、そしてガス事業の最大の資金提供者として。
FoE Japanと米NGO Oil Field Witnessがお届けする新シリーズ「温暖化の『盲点』メタンを止めろ」では、新報告書、解説記事、新発表動画等を通じて、メタン排出の問題と日本や各国での実態、そして日本の資金支援が大量のメタン排出につながっていること等について掘り下げていきます。
そもそもメタンって何?
メタンは二酸化炭素に次いで人為的排出量の多い温室効果ガスで、産業革命後の地球温暖化の3分の1に寄与しているとされています。メタンは比較的寿命が短く約12年で消滅しますが、その分温室効果は高く、大気中に放出されてから最初の20年間においては、二酸化炭素と比較して80倍以上の温暖化効果を持っています。
メタンの人為発生源は家畜、水田、エネルギー(石炭・石油・天然ガスなど)、埋め立て、廃棄物、排水処理など多岐にわたります。その中でもエネルギーセクターは、人為的なメタン排出量の35%以上を占めており、気候変動対策ではここでメタン排出を削減することが重要になります。
こちらの記事では、メタンの基本事項についてより詳しくまとめています。(2025年7月22日公開予定)

化石燃料ガス=メタン?
今回はエネルギーセクターの中でも、特に化石燃料ガス(一般には、天然ガス)について見ていきましょう。そもそも化石燃料ガスは主成分(85-90%)がメタンです。化石燃料ガスはしばしば石炭より二酸化炭素の排出量が少ないため「石炭よりクリーン」と言われますが、メタンの温室効果を考慮すると必ずしもそうとは限らないのです。
というのも、化石燃料ガスは地中から掘り出されてガス火力発電所で燃やされるまでの全行程(採掘、フラッキング、生産、パイプライン輸送、液化、再ガス化、火力発電所における燃焼)でメタンを大量に排出します。それゆえ、このプロセスの最後の燃焼部分だけを切り取って「石炭の方がクリーン」というのは間違いです。
米コーネル大学の最新の研究によれば、アメリカからLNG(液化天然ガス:船で輸出するために液化された天然ガス)が輸出される過程の温室効果ガス排出量は、プロセスの最後(発電所における燃焼)ではなくむしろ最初(採掘)とその間(液化と輸送)の方が大きいのです。そして同研究によれば、プロセス全体におけるメタン排出を考慮に入れると、LNGの温室効果ガス排出量は、石炭と比較して33%大きいということが分かっています。
温室効果が非常に高いメタン排出削減の鍵は、化石燃料ガスの開発・利用停止にあります。

目に見えないメタンが、目に見えたとしたら…??
さて、実はこのメタン、私たちの目には見えません。
そこでアメリカの環境団体Oil Field Witnessは、普段は目に見えないメタンを可視化する光学ガス画像カメラ(OGIカメラ: Optical Gas Imaging)を使用し、採掘から燃焼までの各段階でいかに大量のメタンを排出しているかを明らかにしました。こちらの動画(訳、吹き替え:FoE Japan)でその画像をご覧いただけます。処理施設から噴水のように噴き出るメタンに、驚く人も多いのではないでしょうか。
日本のガス施設でのメタン排出
このような大量のメタン排出は、日本でも起こっているのでしょうか?
Oil Field Witnessは2025年1月の来日に際し、千葉県の富津LNG基地、富津火力発電所(LNG)、五井火力発電所(LNG)で光学ガス画像カメラを使用し、目に見えないメタン排出があるか調査しました。
その結果、これら全てのガス施設からメタン排出が確認されました。(関連動画と報告書は、2025年7月以降公開予定)
LNG事業が米市民にもたらす深刻な被害
LNG開発はメタン以外にも多くの有害物質が排出されるため、周辺で暮らす住民に深刻な健康被害をもたらします。LNG施設は二酸化硫黄(喘鳴、息切れ、胸部圧迫感を引き起こす)、すす(喘息や心臓発作)、一酸化炭素(臓器や組織にダメージを与える)を排出します。それに加え、神経組織にダメージを与え、がんを発症させるベンゼンも排出します。
以下の動画(制作:ReCommon、翻訳: FoE Japan)では、日本が資金支援するLNG事業近辺に住むアメリカ市民が、有害物質の排出や爆発事故の危険に対する憤りを語っています。
FoE Japanは、2023年10月に米テキサス州、ルイジアナ州を訪問し、日本が資金支援するLNG事業による被害について、現地住民に聞き取り調査を実施し、報告書「日本のLNG巨額投融資:日本のLNG投資がもたらすアメリカ地域社会への影響」を発表しました。現地調査を元に、日本の政府や企業、金融機関によるアメリカでのLNG事業への巨額投融資が米国南部の地域社会に与える環境的・社会的な悪影響を紹介しています。

日本の金融機関による米国LNG事業への融資規模は驚くべきものであり、その額はアメリカ国内の金融機関による融資額合計をも上回ります。アメリカの既存および建設・計画中の全LNG輸出ターミナルに対し、アメリカの金融機関の融資額合計は約438億米ドルであるのに対し、邦銀の融資額合計は約448億米ドル(約6兆4,958億円)であり、国別で世界一です(下図参照)。日本の金融機関による融資額合計は、全世界の金融機関による融資額合計約1,978億米ドルのおよそ22.7%を占めます。
現地住民のストーリー
現地調査では、報告書に載せられなかったものの非常に多くの心に残るストーリー、そして自分たちが愛するコミュニティと土地を守るために戦う情熱を持った人々に出会いました。読者の皆様も、ぜひ以下のブログシリーズを通じて彼らに会ってくださればと思います。
現地調査ブログシリーズ
Vol.1「私たちは毎日危険と隣り合わせに生きている」
Vol.2
「ポート・アーサーに立ちこめる死の匂い」
Vol.3
カルカシュー湖の漁業者を脅かすLNG開発
Vol.4
「サクリファイス・ゾーニング」とは
Vol.5
最低限のニーズが満たされるためにコミュニティ内で助け合うことが活動の鍵
ブログでも登場する、米テキサス州フリーポートに住むマニングさんは、2025年にOil Field Witnessと共に来日し、議員会館にて開催された院内集会でも自身の体験を話されました。Oil Field Witnessによるメタン排出の問題点の説明やFoE Japanによる日本の資金支援の実態の解説も合わせ、以下の動画でご覧いただけます。
メタン排出問題における日本の責任
では、メタン排出削減に向けて日本はどのような取り組みをしているのでしょうか?エネルギーセクターにおける取り組みの一つとしてJERAや日本政府が推進するCLEANプロジェクトが挙げられます。
しかし、CLEANは実効性のあるメタン削減対策からは程遠い内容となっています。これについては、以下の新解説記事をご覧ください。
(2025年8月公開予定)
実効性のあるメタン削減対策を実施するどころか、日本は実質的に各国のメタン排出を促しています。アメリカのみならず世界中でLNG事業に対する資金支援をしているためです。
日本政府が全額出資するJBIC(国際協力銀行)は2016年以降、15カ国で 26の化石燃料ガス事業に資金援助を直接行い、世界中で化石燃料の段階的廃止を妨げています。さらにこのような化石燃料ガス事業は、メタン排出を通じて気候危機を悪化させるだけではなく、地域コミュニティの生計手段や健康、安全、海洋生物多様性、さらには先住民族の基本的人権にも破滅的な影響を与えています。
世界20団体と共同で作成、発表された報告書「影響に直面する人びと JBICのガス投融資がもたらす 地域社会と環境への損害」と同時公開したウェブサイトは、上述した深刻な影響を浮き彫りにし、日本の気候変動に関するコミットメントと投融資慣行との間に大きな乖離があることを明らかにしています。

