【報告書】日本のLNG巨額投融資:日本のLNG投資がもたらすアメリカ地域社会への影響

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FoE Japanは新報告書「日本のLNG巨額投融資:日本のLNG投資がもたらすアメリカ地域社会への影響」を発表しました。この報告書は、FoE Japanが実施した米国での現地調査を元に、日本の政府や企業、金融機関によるアメリカでのLNG事業への巨額投融資が米国南部の地域社会に与える環境的・社会的な悪影響を紹介したものです。
日本のLNGマネーが、アメリカ南部のテキサス州、ルイジアナ州のメキシコ湾岸沿岸に位置するLNG事業に注がれてきました。「LNGはクリーン」といった政府や企業の謳い文句とは裏腹に、LNG事業による深刻な健康被害、漁業への悪影響、そして人種差別などが複合的に絡み合い、事業地の近隣に住む住民を苦しめています。
主な結論
日本の巨額投融資
日本はLNGの消費者としてだけでなく、これらの事業に対する資金提供者として非常に大きな役割を果たしています。逆にいえば、日本の金融機関、企業には現地での被害に対する大きな責任があり、これらのLNG事業への資金提供を速やかに停止すること、そして新規事業や拡張事業への投融資をしないと約束することが求められます。下図は米メキシコ湾岸の各主要LNG事業に対する日本の資金支援の割合を示しています。日本の公的金融機関であるJBICが巨額の融資を提供しているキャメロンLNG、フリーポートLNGをはじめ、いかに多くのLNG事業が日本の資金支援によって支えられているかが見て取れます。

日本の金融機関による米国LNG事業への融資規模は驚くべきものであり、その額はアメリカ国内の金融機関による融資額合計をも上回ります。アメリカの既存および建設・計画中の全LNG輸出ターミナルに対し、アメリカの金融機関の融資額合計は約438億米ドルであるのに対し、邦銀の融資額合計は約448億米ドル(約6兆4,958億円)であり、国別で世界一です(下図参照)。日本の金融機関による融資額合計は、全世界の金融機関による融資額合計約1,978億米ドルのおよそ22.7%を占めます。

個別金融機関の融資額
個別の金融機関による融資額のランキングでも、日本勢が上位を占めます。米国LNG輸出事業に世界最大の融資を行っている金融機関は三菱UFG銀行で、その融資合計額は約144億米ドルとなっています。2位、3位にみずほ銀行、三井住友銀行がそれぞれ続き、日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)も11位となっています。

健康被害
LNG開発は気候変動を悪化させるだけでなく、私たち消費者の見えないところで大きな犠牲を強いています。その一つが深刻な健康被害です。LNGの主成分はメタンですが、LNG事業ではメタン以外にも多くの有害物質が排出されるため、周辺で暮らす住民は健康被害を被るリスクに晒されています。LNG施設は二酸化硫黄(喘鳴、息切れ、胸部圧迫感を引き起こす)、すす(喘息や心臓発作)、一酸化炭素(臓器や組織にダメージを与える)を排出します。それに加え、神経組織にダメージを与え、がんを発症させるベンゼンも排出します。

社会的不公正の増幅
LNG事業の多くは、低所得者層や有色人種のコミュニティ近辺で開発されており、環境汚染の影響がこれらのコミュニティに不公平に集中しています。報告書は、こうした地域社会がLNG事業による影響を受けやすい構造的な不平等を指摘し、社会的不公正が深刻化していることを強調しています。日本の官民が投融資するキャメロンLNGやフリーポートLNGも有色人種や貧困層のコミュニティの近くに位置し、近辺の石油化学産業施設から排出される汚染物質と合わせ、LNG施設から排出される汚染物質による健康被害がこうしたコミュニティに集中しています。米南部のLNG事業に投融資する日本の金融機関や企業は、間接的にこのような人種差別の構造に関与してしまっているのです。

漁業への影響
LNGターミナルの建設と稼働に伴い、周辺の海洋環境が大きく変化し、地元の漁業に壊滅的な影響を与えています。キャメロンLNG近くのカルカシュー湖はエビや牡蠣といった海産物が豊富な土地でしたが、LNGターミナルができて船の往来が増えたことや有害物質の排出、漁場での造営工事で、漁獲量が減っていると言います。地元住民は、エビの漁獲量は毎年約32万キログラム(70万ポンド)獲れていたものの今シーズンは約2.2万キログラム(5万ポンド)しか獲れず、90%以上も漁獲高が落ちていると話します。

提言
日本の官民による米国LNG事業への巨額の資金拠出は、気候変動の観点からも、そして現地で引き起こされる深刻な健康被害、環境破壊、人種差別への関与という道徳的な観点からも看過できません。同事業に関与する日本の企業(JERA、大阪ガス、三菱商事、三井物産、日本郵船、JAPEX)、金融機関(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)、そして政府機関(JBIC、NEXI、およびそれらを監督する財務省、経済産業省)は、新規LNG事業、既存LNG拡張事業への資金支援をしないことを表明し、既に実行した資金支援についてもダイベストメントや融資の引き揚げを検討するべきです。そして何より、現地の人々の健康や生活を犠牲にした無責任なビジネスによる利益の追求を今すぐやめるべきです。
トランプ氏が大統領に復帰する中、日本も気候変動対策をなおざりにして良いということは決してなく、むしろ日本が世界の気候変動対策をリードすることが世界中の国々から期待されています。日本は化石燃料への資金支援を終了することで、気候変動に本気で取り組む姿勢とリーダーシップを見せるべきです。
報告書はこちらからダウンロードできます。
