なぜ化石燃料ガス利用をやめるべきなのか?

化石燃料2023.7.10

目次

そもそも化石燃料ガスって?

 天然ガス(化石燃料ガス)は、化石燃料である炭化水素ガスで、組成の約9割をメタン(CH4)が占めます。ガスは主に採掘場所で分類され、油田で産出されるもの(油田ガスとも呼ばれる)、炭田地帯で産出されるもの、頁岩層から採取されるシェールガス(採掘方法からフラッキングガスとも呼ばれる)などがあります。採掘されたガスは、直接パイプラインで輸送されるか、液化施設で液化天然ガス(LNG)としてLNGタンカーで輸送されます。

 LNGは、ガスを−162℃まで冷やして液化させたものです。液化すると体積が600分の1になります。採掘されたガスを液化施設に運んで液化し、貯蔵、そして船で運ばれた後、再びガス化します。陸続きの欧州では、パイプラインを使ってガスを運ぶことが多いのですが、島国である日本は海路でLNGを輸入しています。

 ガスは発電に利用されるだけではなく、調理や暖房などにも利用されます。日本国内では新潟県などで一部採掘されていますが、ほとんどが輸入です。近年、天然ガス(Natural gas)という呼び方から、化石燃料であることを強調した化石燃料ガス(Fossil gas)という呼び方が環境団体などの中で浸透しつつあります

気候変動と化石燃料ガス

 産業革命以降、地球の平均気温はすでに1℃以上上昇し、気候変動によるこれ以上の被害を食い止めるため、気温の上昇を1.5℃以下に抑える努力を追求することがパリ協定で約束されました。そのために、人類は2050年までに温室効果ガスの排出を正味ゼロに、2030年には約半減することが求められています。

 こうした気候科学を考慮し、電力源の中で最も多くの二酸化炭素を排出する石炭火力発電所は、先進国は2030年までに、その他の国も2040年までに廃止する必要があると言われています。石炭の利用だけではなく、ガスを含む化石燃料の生産消費も減少させる必要があります。しかし、各国や各企業は生産を抑制するどころか、生産拡大を計画しており、このままでは1.5℃目標の達成は不可能です。IPCCの最新の報告書でも、現在稼働中、そして計画中の化石燃料インフラからだけで、2℃を超える温度上昇につながる量の二酸化炭素が排出されると試算しています。

 シンクタンクのクライメート・アナリティクスによれば、IPCCの1.5℃特別報告書をベースに試算すると、石炭火力だけでなく、排出削減対策の講じられていないすべてのガス火力発電所が2045年までにフェーズアウトされる必要があるとし、先進国はそれよりも前にフェーズアウトする必要があるとも指摘しています。

 気候変動による壊滅的な影響を避けるための1.5℃目標を達成するためには、石炭及びガスといった化石燃料を新規に開発する余裕はありません。すべての化石燃料を段階的に廃止し、再生可能エネルギーへの移行を促進する必要があります。そして、こうした移行の過程では、地域社会や労働者の意味ある参加も重要です。

出典:Japan’s Dirty Secret(Oil Change International, 2022)

ガスは石炭よりもクリーン?

 ガス火力発電が推進されている背景には、ガス火力発電が石炭火力発電よりも排出する温室効果ガスが少ないという考え方、そして再生可能エネルギーが十分に普及するまでに時間がかかるので、「つなぎのエネルギー」として利用すべきという考え方があります。しかし、一度施設を作ってしまうと長年にわたり温室効果ガスの排出をロックインしてしまう(施設が建設されると少なくとも数十年の稼働が期待され、その分温室効果ガスの排出が約束されてしまう、または”固定”されてしまうこと)、加えてガスの主成分であるメタンの温室効果やリーク量が過小評価されており、実際はガスによる温暖化への寄与が想定されているより大きいことなどから、ガスを「つなぎのエネルギー」として推進することには批判の声があります。

 LNGを利用するまでの過程で、ガスの採掘、輸送、液化、再ガス化のために多くのエネルギーを使い、温室効果ガスを排出します。また、ガスの主成分であるメタンも温室効果ガスです。メタンは二酸化炭素に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きい温室効果ガスです。IPCCによると、100年単位で見れば地球温暖化への寄与は同じ量の二酸化炭素の約30倍、20年単位で見れば約80倍とされています。一方、メタンは対流圏の光化学反応で分解され、二酸化炭素に比べて寿命が短いので(平均12年で消滅)、メタンの排出を減らすことで温暖化対策の効果がすぐに現れやすい側面もあります。

 燃料の燃焼以外で、メタンの排出源となっているのは、水田、家畜(牛、羊等の反すう動物)、埋め立て、化石燃料採掘によるものです。石油やガスの採掘の際に、メタンが漏れ出ることをメタン漏れ(リーク)と言いますが、漏出の量が想定されている以上であることを指摘する研究もあります。IPCCによると1.5℃目標達成のためには、2030年までに2020年比で34%のメタンを削減する必要があります。メタンの排出を抑える重要性が国際的に認識されており、2021年には米国・EU主導でメタン排出を削減するための「グローバル・メタン・プレッジ」が発表され、日本も参加しています。中でも、人為的なメタン排出の4割がエネルギー由来であることから(IEA2022)、メタン対策の観点からも化石燃料の生産・利用抑制、そしてフェーズアウトが求められます。

化石燃料を延命させる日本の「誤った気候変動対策」

 これまで日本の官民が連携して途上国で多くの石炭火力事業を支援してきましたが、ガス関連インフラに対する支援もG7の中で突出して多くなっています。オイルチェンジインターナショナルの調べによると、日本はガス・石油事業にG20諸国の中で最も巨額の公的支援を行っています。

 また、日本政府がアジアの脱炭素化支援として行っている水素やアンモニア、CCSと言った技術の推進も、実態はガスを含む化石燃料の利用の延命を図るものとなっています。 水素・アンモニアは燃やしても二酸化炭素が発生しないため、「脱炭素燃料」として大きく注目されています。しかし現在、入手可能性の高い水素やアンモニアの大部分は、海外でガスなど、化石燃料から生成してタンカーで輸送してくるものです。これらは「グレー」な水素・アンモニアと呼ばれています。政府のエネルギー政策では、製造の際に発生する二酸化炭素を回収貯留(CCS)するという「ブルー」なものを視野に入れていますが、高コストのため経済性が疑問視されています。むしろブルー水素は、ガスを燃やすよりも温室効果ガスの排出が大きくなるという研究結果もあります。再生可能エネルギーを使って作られる「グリーン」な水素・アンモニアはさらに高コストであるため、発電用としてはほとんど想定されていません。

 CCSは排出された二酸化炭素を分離回収、貯留する技術のことで、火力発電所で化石燃料を燃焼した際や化石燃料アンモニアや水素を製造する際に排出された二酸化炭素を回収、貯留することがブルー水素やブルーアンモニアの前提となっています。しかし、CCSのコストは高く、回収した二酸化炭素の貯留場所の確保にも課題があり、現実的とは言えません。CCSに頼ることは解決の先延ばしにしかならないのです。

 日本政府は2021年にアジア・エネルギー・トランジション・イニシアチブ(AETI)を立ち上げました。AETIの具体的取り組みの例として、 インドネシア、タイ、バングラデッシュにおけるカーボンニュートラル達成に向けたエネルギートランジションのロードマップ策定を支援していますが、その中にはアンモニア混焼等による既存火力の活用も含まれています。例えば、国際協力機構(JICA)が策定を支援するバングラデシュの統合エネルギー・電力マスタープラン(IEPMP)では2030年頃にアンモニア混焼50%の石炭火力導入が見込まれています。また、2022年1月には「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想が岸田首相により発表されましたが、ガスや水素、アンモニアなどの技術がますます推進されています。

 日本政府は、「各国の事情に即した」エネルギートランジションの必要性を強調し、既存の化石燃料発電の「ゼロエミ(ゼロエミッション)化」やCCSを推進していますが、それは見せかけの脱炭素対策に他なりません。気候危機を食い止めるためにはまずは日本のような先進国が大幅な省エネを行い、大量消費・大量生産・大量廃棄の社会のあり方を変え、地域コミュニティのニーズに基づく再生可能エネルギーを増やす・支援することが重要です。

コミュニティや環境への影響

 ガス開発は地域住民と環境に大きな影響を及ぼしてきました。例えば、1990年代から日本の官民が推進してきたロシアのサハリン2石油・ガス開発事業では、オオワシやニシコククジラを含む希少な野生生物や生物多様性に対する影響、先住民族の生業や生活環境に与える影響、海底浚渫作業及び土砂投棄による漁業資源への影響、陸上パイプライン工事に伴う土砂流出や水質汚濁によるサケの産卵場や河川生態系に対する影響など、さまざまな問題が指摘されました。現在も環境・社会・人権に甚大な影響を及ぼすガス事業を各地で日本の官民が進めており、公的資金も投入されています。

LNGカナダ

LNGカナダ事業は、ブリティッシュ・コロンビア州モントニーで採掘されたシェールガスを670キロメートルに及ぶパイプラインでキティマットまで運んで液化し、主にアジア市場に向け輸出する事業。日本の三菱商事や国際協力銀行(JBIC)を含む各国の企業や政府系銀行などが参画しています。中でもパイプライン事業に対しては地元の先住民族から根強い反対の声が上がっています。先住民族Wet’suwet’enの伝統的酋長はパイプラインが重要な水源地を通過するなどの理由からパイプライン建設に合意しておらず、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を得られていない状況が続いています。また平和的に反対活動を行う先住民族やその支持者を、銃武装した警察が暴力的に排除するなどの事態が起きており、国連の委員会や人権団体アムネスティからも非難の声が出ています。詳しくはこちら

フィリピン・バタンガス

地球上、最も生物多様性豊かな海洋生息環境の一つとして知られるフィリピンのヴェルデ島海峡(VIP)周辺で複数のガス開発事業が進められています。VIPの豊かな生態系が破壊されるとともに、周辺で小規模漁業や観光業を生業としてきた住民の生活もより苦しくなるのではないかと、事業への強い反対の声が現地で上げられてきました。住民協議への適切な参加の欠如、化石燃料の利用による気候変動への影響などの問題点も指摘されています。VIP周辺に位置するバタンガス州でのガス開発の一つ「イリハンLNG輸入ターミナル事業」では、事業者に日本の国際協力銀行(JBIC)と大阪ガスが共同出資しています。詳しくはこちら

モザンビークLNG事業

モザンビークにおけるガス開発でも、漁民が強制立ち退きの被害にあっています。沖合のガス開発のため、工事や採掘により、周辺に生息するクジラなど生態系への影響も懸念されています。2019年から2021年にかけて、日本のガスに関する公的資金の最大の受入国はモザンビークでした。この期間中、日本はモザンビークと82億ドルの融資契約を結んでいますが、資金のほとんどは採掘と輸出に関連した施設に費やされ、現地のエネルギー貧困解決などには使われていません。債務問題を抱えるモザンビークにさらなる負債を背負わせるだけです。くわしくはこちら(外部ページ)

 

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