米・キャメロンLNG事業とは?

化石燃料

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 キャメロンLNG事業は、米国ルイジアナ州ハックベリーにおける液化天然ガス(LNG)事業。1,200万トン(400万トン×3系列)のLNGの生産と輸出を行っている。主に日本やアジア新興市場等へ輸出する計画。2022年、フェーズ2開発に合意し、年間最大生産能力675万トンのLNG液化設備1基の追加や、現在稼働中の3基の生産能力増強が計画されている。

1. 事業概要

フェーズ1フェーズ2
目的1,200万トン(400万トン×3系列)のLNGの生産と輸出を行うもの。
液化天然ガス(LNG)を20年間にわたって日本やアジア新興市場等へ輸出する計画。
2019年に第1系列が、2020年に第2・3系列が稼働開始。
2022年、フェーズ2開発に合意し、年間最大生産能力675万トンのLNG設備1基
の追加(第5系列も予定されていたが中止)や、現在稼働中の3系列の
生産能力増強が計画されている。
サイト位置米国ルイジアナ州ハックベリー米国ルイジアナ州ハックベリー
総事業費約100億米ドル
事業実施者等– Cameron LNG (出資者 – Sempra Energy社(50.2%)、
Japan LNG Investment社[三菱商事/日本郵船=70:30](16.6%)、
TotalEnergies社(16.6%)、三井物産(16.6%))
– EPC – 千代田化工建設(第1〜第3系列)
-(FEED受注者にはJGC米国も含まれていた)
– 出資者予定者(基本合意(Heads of Agreement)に至った
企業) –  Sempra Energy社、Japan LNG Investment社
[三菱商事/日本郵船=70:30]、TotalEnergies社、三井物産
– FEED受注者 – Bechtel Energy Inc.及びJGC America Inc.と
Zachry Industrial Inc.のジョイントベンチャー
オフテーカー– 東邦ガス:三井物産と2019年から20年間の売買契約(約30万トン/年)
– 東京ガス:三井物産と2020年から約20年間のLNG購買契約(約52万トン/年)。
また三菱商事と2020年から約19年間のLNG購買契約(20万トン/年)。
– 東北電力:三菱商事と2022年から約18年間のLNG長期売買契約(約20万トン/年)
– 関西電力:三井物産と稼働開始以降20年のLNG購入契約(約40万トン/年)
融資機関– 日本側: 国際協力銀行(JBIC)、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、
三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行、農林中央金庫、新生銀行、
あおぞら銀行、信金中央金庫、千葉銀行、静岡銀行11行を含む
民間金融機関との協調融資(2014年)
– RBCがフィナンシャルアドバイザーを務めるプロジェクトファイナンス総額は
74億米ドルで、JBICから最大25億米ドル、
市中銀行団から最大49億米ドルの融資を受ける。
JPMorgan Chaseがフィナンシャルアドバイザーを務める
保証機関民間銀行(計15行)による融資一部(20億米ドル)に日本貿易保険(NEXI)付保NEXIが付保検討中(2023年6月現在)
運転開始2019年〜2027年7-9月(予定)
その他– 原料となるガスは市場から調達され、液化をCameron LNG社が行う。
– 三菱商事は一系列分(400万トン)の基地使用権を有する。
– 三井物産は生産開始後20年にわたり年間400万トンのガス液化能力を確保。

2. 主な経緯

2005年キャメロン輸入ターミナルの建設開始
2008年キャメロン輸入ターミナル稼働開始
2014年10月キャメロンLNG輸出ターミナル建設起工式
2015年9月28日キャメロンLNG拡張を米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)に申請
2016年7月15日米エネルギー省、FONSI(Finding of No Significant Impact)を発出し
自由貿易協定非締結国へのガス輸出許可
2019年8月キャメロンLNG液化設備第1系列稼働開始
2021年8月ハックベリー炭素隔離(HCS)プロジェクトが
米国環境保護庁(EPA)に圧入井の建設許可を申請
2022年1月18日第4系列の設計の改善と第5系列建設取り止めを含む修正をFERCに申請
2022年4月12日フェーズ2の基本合意書締結
2022年5月23日ハックベリー炭素隔離事業の事業参画契約締結
2022年9月合成メタンについて4社MOU締結
2022年12月8月FERCが修正申請に対する環境評価報告書を発表
2023年3月16日FERCが修正拡張事業を承認
2023年5月19日NEXIが拡張事業への付保検討開始
2023年夏FEEDプロセス終了予定
2023年中FID(最終投資決定)予定
2024年度合成メタン事業FEED開始予定
2025年度合成メタン事業FID(最終投資決定)予定

3. 主な問題点

●頻繁に起きる漏出事故と排出報告義務違反

キャメロンLNGは操業開始以来、既に67回(2023年1月時点)もの漏出事故を起こしていて、1ヶ月に2回の頻度で事故が起きている。これらの事故のうち48件は、熱酸化装置のトリップが原因で、事故はいずれもメタン、揮発性有機化合物、がん発症を誘発するベンゼン、その他の有害汚染物質の漏出につながっている。ルイジアナ州の規制当局が2回調査を実施したところ、両調査で、キャメロンLNGが大気汚染に関する許可証に違反したという結論が出された。

規制当局からの警告を受け、キャメロンLNGは調査をした上で是正措置を取り、これらの措置によって2021年9月から2022年5月にかけて熱酸化装置が原因の事故は起こらなかったとした。しかし実際には2021年9月28日、2021年11月6日、2022年2月3日に熱酸化装置の故障を起こしている。さらに2022年6月から8月にかけても熱酸化装置のトリップが原因で4回漏出事故があり、それによってメタン 23,614.36ポンド、ベンゼン 3,608.92ポンド、揮発性有機化合物 696.53ポンドが排出された。キャメロンLNGの是正措置によって熱酸化装置の問題解決には至っていないことがわかる。

また、2019年、キャメロンLNGは操業開始わずか1日後に発生したメタンガス漏れを公表しなかった。同様に2021年、米国環境保護庁はキャメロンLNGに対し、2019年に基準汚染物質と有害大気汚染物質に関する許可限度を超過したことを通知している。

●有害物質排出による健康被害

キャメロンLNGで発生した67回の事故に関する報告のうち、44回の報告において情報に不備があり、実際の有害物質の排出量は報告された値よりも多かったことが指摘されている。キャメロンLNGは大気汚染に関する許可証で許容された量を超える排出を繰り返し、ベンゼン、NOx、メタンに加え、癌やその他の慢性疾患を引き起こし、気候変動の原因となる他の汚染物質も大量に排出している。このような有害物質による汚染は、キャメロンLNG近隣に住む低所得者層や有色人種の人々に不当に大きな影響を与えている。

●ハリケーン等への備えが不十分

キャメロンLNGが位置するルイジアナ州は従来ハリケーンが頻繁に襲来する地域である。しかし気候変動による異常気象の発生で、昨今のハリケーン襲来時に各地でより大きな被害が出ているが、キャメロンLNGは異常気象に対する備えが十分になされていない。

例えばキャメロンLNGは2020年のハリケーン「ローラ」の際に大きな被害を受け操業不能となり、その時の対応はガスを大気中に放出するというものだった。排気弁の損傷により、2日間で217トン以上のガスが排出された。この事故で排出された温室効果ガスの量は、1,000世帯が1年間分の電力を使用して排出する温室効果ガスの量に匹敵する。2021年1月6日には、突風によって熱酸化器が停止し、それによって200世帯が1年間分の電力利用で排出する温室効果ガスに匹敵する温室効果ガスが排出された。

●地元の漁業への悪影響

キャメロンLNGによりカルカシュー川が汚染されたため、地元の漁師は近隣地域でエビやカキ、魚類を獲ることが危険になったとの報告がなされている。そのため漁師はより遠いメキシコ湾まで漁に出る必要に迫られ、漁の操業コストが増えている一方、漁獲高と収益性の低下に直面している。

●絶滅危惧種への悪影響 

キャメロンLNGの環境社会影響評価(ESIA)は「修正拡張事業の建設と操業は、クロコクイナやその他の種に影響を与えない」としているが、この点については慎重な判断が必要であるとの指摘がなされている。クロコクイナ(別名「羽毛ネズミ」)は2020年以降、米国政府によって絶滅危惧種とみなされており、ルイジアナ州では個体数の4分の3が絶滅したため、絶滅の危機に瀕しているとみなされている。

クロコクイナは、2016年にFERCが環境評価を実施した際には絶滅危惧種として認定されていなかった。しかし、キャメロンLNG事業の拡張予定地またはその近辺にクロコクイナが生息している可能性があることが報告されている。キャメロンLNG拡張工事がすでに危機に瀕している種をさらに危険に晒さないようにするためには、予防的アプローチが必要である。したがってESIAによって、この事業がクロコクイナに与える影響を十分に分析すべきである。

●化石燃料ガスと気候変動

 気候変動に関する国際条約であるパリ協定は、地球の平均気温の上昇を1.5℃までに抑える努力目標を掲げており、これを達成するためには2050年までに世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする必要がある。新たなガス田の開発や採掘、ガス関連施設を建設することは、新たな温室効果ガスの排出を長期にわたり固定(「ロックイン」)することに繋がり、パリ協定の目標とも合致しない。

 ガスは石炭に比べて温室効果ガスの排出が少ないことから、再生可能エネルギーが普及するまでの「つなぎ」(transition fuel)とされてきた。しかし、ガス開発による温室効果ガスの排出は過小評価されているとの指摘もある。ガス燃焼時だけでなく、開発の段階から温室効果ガスのメタンが井戸等から漏れる(メタンリーク)ことでさらに温暖化を加速させてしまう。

 図は、パリ協定の1.5℃目標および2℃目標に基づいたカーボンバジェットと化石燃料セクター等からの排出をグラフにしたものである。これによると、1.5℃目標を達成するためには既存及び開発中の石炭・ガス関連事業のすべてをフェーズアウトしていく必要がある。キャメロンLNG事業によるガス開発は、気候変動対策に真っ向から逆行していることになる。

4. キャメロンLNG事業と並行して進むCCS、合成メタン計画の課題

●炭素回収・貯留(CCS)

キャメロンLNGと並行して、炭素回収・貯留(CCS)を施設に追加し、炭素を帯水層に貯留する計画もある。これはハックベリー炭素隔離事業(HCS: Hackberry Carbon Sequestration)という名のもと、Sempra Infrastructure社、三井物産、三菱商事、TotalEnergies社が事業参画契約を締結したものである。一年当たり200万トンの二酸化炭素を貯留する計画である。これによってキャメロンLNGからの二酸化炭素の直接排出を15%削減するとしている。HCS事業は現在必要な許可の申請中で、各社の最終投資決定を控えている。

そもそもCCSは、排出された二酸化炭素を回収・貯留する技術で、産業界や政府は脱炭素の切り札としているが、実際は低い排出削減効果、技術的な課題、経済的非合理性、安全面のリスクなど様々な問題を抱えている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書によれば、既存の様々な排出削減の選択肢の中で、CCSはコストが非常に高い割に排出削減効果が低い。また、二酸化炭素漏洩によって事業地近隣の植物、動物や人間に健康被害が及ぶ危険もある。ハックベリー炭素隔離事業についても、地域の湿地帯やその他の重要な生息地に大きな被害をもたらし、地域の水資源や水産資源がさらに汚染される危険性が指摘されている。

というのもルイジアナ州天然資源局は、「州内には4,000以上の廃坑または廃坑となった油井やガス井がある」と推定しているが、これらの油井は、炭素が大気中や帯水層に漏れる経路を作る可能性がある。また炭素回収プロセスはエネルギーを大量に消費するため、その動力源として使用される燃料や、CCS装置が設置される基礎施設に関連する汚染物質の増加につながる。

●合成メタン

キャメロンLNGでの液化施設を利用した合成メタン(e-methan)製造・液化・輸出事業も並行して進められている。東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事の4社が2022年9月に覚書(MOU)を締結し、現在は事業の検討を行っている。2030年に13万トン/年の合成メタンを製造し、日本へ輸出するとしている。

そもそも合成メタンはガス(特に熱利用)の脱炭素化の手段としてガス関連業界が注目しているものである。合成メタンは水素と二酸化炭素を反応させ、ガスの主要成分であるメタンを合成する「メタネーション」によって作られる。メタンは燃焼時に二酸化炭素が排出されるが、二酸化炭素を排出しないで作られる水素と、発電所や工場などから既に排出されている二酸化炭素を合成して作れば、既に大気中にある二酸化炭素をさらに増やすことはないというのがガス業界や経済産業省の主張である。

しかしこの主張は多くの問題を孕んでいる。最も大きな問題は、今後も発電所や工場からの二酸化炭素排出を想定していることである。地球温暖化を1.5℃以下に抑えるためには、化石燃料の利用を段階的に廃止して再生可能エネルギーに移行する必要があり、それはエネルギー部門(すなわち発電所)でも産業部門(工場など)でも同様である。合成メタンが二酸化炭素の供給を発電所や工場に頼ることになれば、これらの施設が引き続き二酸化炭素を排出するのを前提とするということであり、脱炭素化を遅らせることになる。また、万が一排出削減が難しい分野においてCCSが使用され、二酸化炭素回収が行われたとしても、本来貯留するべき二酸化炭素を合成メタンとして燃焼して大気中に戻してしまうことになる。

合成メタンのもう一つの原料である水素も、排出削減の観点から問題となりうる。まず、この水素は化石燃料由来の水素となる可能性が高い。実際キャメロンLNGについての三菱商事の資料の中では、外部から調達する水素の種類として、グリーン水素とともにブルー水素をあげている。ブルー水素とは化石燃料由来の水素で、製造時に排出される二酸化炭素をCCSによって回収・貯留する。しかしブルー水素は製造プロセスにおいて二酸化炭素を多く排出するため、「二酸化炭素を排出しない水素を使う」という前提は成り立たない。また、CCSを設置しても全ての二酸化炭素を回収できず、さらにCCSを動かすためにまたエネルギー(ガス)を使用するため、温室効果が二酸化炭素よりも高いメタンを大量に排出することになる。研究結果によれば、それが原因でブルー水素はガスのみを燃やす場合よりも多くの温室効果ガスを排出する。従ってガス(メタン)を二酸化炭素と水素に分解して、またメタンに戻すという工程自体、結局温室効果ガスを排出しながらガスをガスにしているだけである。

また、もしグリーン水素を利用するとしても懸念は残る。グリーン水素とは、再生可能エネルギーを使用して生産される水素のことである。しかし再エネを使ってグリーン水素を生産し、そこからさらに合成メタンを生産して熱利用をするというのは、再エネを直接熱利用するよりもはるかに非効率であり、コストも高くなる。ガス業界はそのコスト高を補うための補助を求めているが、水素にもコスト高を補うための補助をする以上、過重な補助となる。今後の脱炭素化に向けた社会転換として熱部門での電化が奨励されている中で、合成メタン推進とそのためのガスインフラ維持はそれを妨げることになる。

合成メタンは気候変動対策として喧伝されているものの、実際は今後も温室効果ガスを排出するだけでなく、再生可能エネルギーへの転換等を遅らせるグリーンウォッシュにすぎない。合成メタン製造やCCSの利用でキャメロンLNG事業を正当化することはできない。

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参考:

 

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