インドネシア住民・NGOがADB年次総会前に要請「気候・環境・地域社会のため、チレボン石炭火力1号機の早期廃止に係る現行エネルギー移行メカニズムによるアプローチを一旦白紙に戻して」

所1号機(FoE Japan。2024年4月)
2025年5月4日からイタリアで開催されるアジア開発銀行(ADB)第58回年次総会を前に、4月30日、インドネシアの現地住民ネットワーク及びNGOが神田眞人 新ADB総裁宛てに「要請書:気候・環境・地域社会のためにチレボン石炭火力発電事業1号機の早期廃止に係る現行のエネルギー移行メカニズムによるアプローチを一旦白紙にしてください」を提出しました。
チレボン石炭火力発電所1号機(チレボン1号機。丸紅出資。国際協力銀行や3メガ銀行が融資)は、日本が最大出資国であるADBの主導するエネルギー移行メカニズム(ETM)を活用する第一号案件として2022年11月に選定されましたが、この間、住民や市民社会の意味ある参加の機会が一切設けられないまま、ADB、政府関係者、事業者の間だけで早期廃止に向けた枠組みやプロセスが決定されてきました。
その結果、チレボン1号機の建設・稼働によって生計手段や健康面で地域住民がすでに被ってきた甚大な影響は十分に顧みられることなく、2035年にチレボン1号機を早期廃止乃至「再利用(repurpose)」することが、すでに決定事項となっています。このように可能な限りの早期廃止を促すのではなく、今後、チレボン1号機をさらに10年間もの長期にわたり稼働させることに正当性を与え、また石炭火力の延命につながる水素/アンモニア等の混焼といった確立されていない「誤った気候変動対策」によってチレボン1号機を「再利用」する選択肢が残されている現在の枠組みは見直されるべきです。
また現行のETMは、座礁資産となるべき石炭火力に係る責任について企業の免責を許す仕組みとなっており、2023年に稼働を開始したチレボン石炭火力発電所2号機にも出資する丸紅等がこのETMの恩恵を受けるという不公正かつ不正義な枠組みを露呈させています。
ADBは現地住民ネットワーク及びNGOの度重なる指摘と要請に真摯に耳を傾け、チレボン1号機の早期廃止に係る現行のETMや枠組みを一旦白紙に戻した上で、チレボン1号機の建設・稼働による影響を受けてきた地域住民及び市民社会を含む、幅広いステークホルダーによる意味ある参加を確保した議論とプロセスを求められています。
詳細は以下をご覧ください。(FoE Japanによる和訳。原文インドネシア語はこちら。英訳はこちら)(PDFはこちら)
要請書:気候・環境・地域社会のためにチレボン石炭火力発電事業1号機の早期廃止に係る現行のエネルギー移行メカニズムによるアプローチを一旦白紙にしてください
(原文はインドネシア語。以下は、WALHI西ジャワによる英訳のFoE Japanによる和訳)
2025年4月30日
アジア開発銀行 総裁 神田 眞人 様
私たちは来週イタリアで始まるアジア開発銀行(ADB)第58回年次総会を前に、私たちが長年取り組んできたインドネシア西ジャワ州のチレボン石炭火力発電事業1号機(チレボン1号機)及び2号機(チレボン2号機)の建設及び操業によって引き起こされてきた環境・社会・人権等の問題について、貴行に改めて注意喚起したく本要請書をお送りします。
これまで私たちが継続的に指摘してきた問題は、チレボン1号機の早期廃止の枠組みを決める上でも、またそのプロセスを進めていく上でも、考慮されるべき重要な事項です。2022年11月14日に貴行、インドネシア投資公社(INA)、インドネシア国有電力公社(PLN)、及びチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)との間で本件に係る覚書が締結されて以降、私たちはこの点について、少なくとも以下の文書を貴行に提出し、意見を表明してきました。
- 【共同声明】気候・環境・社会の状況はチレボン石炭火力発電所1号機のより早期の閉鎖と2号機の稼働開始の停止を必要としている ― インドネシアにおける石炭火力発電所の早期閉鎖計画 第一号案件の発表を受けての市民社会からのコメント(2022年11月14日)[1]
- インドネシア・チレボン石炭火力発電事業2号機への貸出停止と1号機の早期廃止に向けた責任ある対応を求める要請書(2023年5月22日)[2]
- チレボン石炭火力発電事業1号機のエネルギー移行メカニズム適用に係るポジションペーパー:気候・環境・地域社会のためではなく、大企業の巨大なグリーンウォッシュのためのメカニズムを断固拒否する(2024年2月28日)[3]
- 要請書:チレボン石炭火力発電事業1号機の早期廃止に係る地域住民及び市民社会を軽視する拙速な合意は行わないでください(2024年10月1日)[4]
しかし、貴行が現在エネルギー移行メカニズム(ETM)の下で進めようとしているチレボン1号機の早期廃止に向けたアプローチは、私たちが指摘してきたこれまでの問題や状況を依然として十分に理解したものとはなっていません。それは、貴行から私たちへの直近の回答書(2024年10月31日付)の内容からも明らかです。貴行は同回答書の中で私たちの書簡に感謝の意を示しながらも、その字面を追うのみで、私たちの意見を真摯に理解をしようとも、十分に反映した対応をとろうともしてきませんでした。
例えば参加や協議について、貴行は「Since July 2023, our team went down to Cirebon at four different instances to solicit inputs from a broad range of stakeholders, 」また「(We) engaged with at least 180 individuals composed of village heads and people from affected groups」等と説明していますが、そのことをもって有意義な参加機会を確保できているとは言えません。事業者であるCEPや村長などを通さない形で、チレボン1号機の建設・稼働による影響を受けてきたより多くの地域住民の意見が尊重され、意思決定プロセスに反映されなくてはなりません。
また、貴行は同回答書の中で、「We regret that WALHI was unable to participate in this engagement」と述べていますが、私たちは参加できなかったのではなく、参加を拒否していることを改めて表明します。拒否の理由は、2024年2月のポジション・ペーパー[5]に記した4点であり、後述のとおり、これらの点には依然として何ら改善が見られません。
チレボン1号機の早期廃止の時期については、貴行は「We understand your concerns about the urgency of retiring Cirebon 1 at the earliest possible date due to the imminent climate crisis.」また「The current timeline for retirement or repurposing by 2035 aims to balance these aspects (considering technical and financial constraints), ensuring that the transition is just and feasible.」と回答しています。しかし私たちは、「チレボン1号機は可能な限り早期に廃止すべき」という主張の理由として、喫緊の気候危機だけではなく、チレボン1号機の建設・稼働によって生計手段や健康面で地域住民がすでに被ってきた甚大な影響、またジャワ・バリ電力系統における慢性的な電力供給過剰を明確に挙げてきました。上記の貴行の回答を拝読する限り、貴行は技術的・財政的制約とのバランスは考慮しているものの、地域住民へのこれまでの影響や電力供給の状況を過小評価しているようです。
石炭火力の「再利用」については、「We are dedicated to backing various clean energy Solution」との回答が貴行からありました。しかし貴行が示した「clean」から、私たちが継続的に懸念を示している確立されていない水素/アンモニア等の「誤った気候変動対策」が除外されるか否かについての回答は依然としてありません。石炭火力の延命につながる技術でチレボン1号機を「再利用」することは、同発電所による地域住民や環境への影響、そして気候への影響を長引かせるだけであり、2028~2030年に評価や結論を先延ばしする類の議論ではありません。
温室効果ガスの総排出量がチレボン1号機(660 MW)より多いチレボン2号機(1,000 MW)の稼働については、「Cirebon 2 is a separate project with its own power purchase agreement and legal bindings, without any involvement by ADB.」との回答がありました。しかし、私たちは法的拘束力や形式を問題にしているのではありません。また貴行が同回答書で「ADB is diligently working to obtain assurances from entities involved in ETM that they will refrain from pursuing new coal power investments.」と回答している一方で、チレボン2号機のような新規の石炭火力発電所に関して「ADBの関与がない」点に言及することは理に適っていません。
チレボン1号機の事業者であるCEPの出資者は、丸紅(32.5%)、韓国中部発電(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%)であり、チレボン2号機の事業者であるチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)の出資者は、丸紅(35%)、Samtan(20%)、IMECO(18.75%)、韓国中部発電(10%)、JERA(10%)、Indika Energy(6.25%)であるため、丸紅など複数の出資者は2022年11月からチレボン1号機の早期廃止を掲げつつ、2023年にチレボン2号機の稼働を開始したことになります。この事実は、ETMに関与する出資者が新規の石炭火力発電所の投資を継続しているということであり、貴行の上述の「diligently working」が失敗に終わっていることは明らかです。
事業者への補填については、「A fundamental principle of the ETM is to offer financing that maintains a neutral rate of return for CFPP sponsors while addressing the needs of workers and local communities during the transition.」との貴行の回答がありました。しかしまず、このようなETMの基本原則は、座礁資産となるべき石炭火力に係る責任について企業の免責を許す仕組みとなっています。これまで石炭火力の建設・稼働を推進し、莫大な利益を得てきた大企業が、その代償として気候や環境、地域住民が犠牲とされてきたことに対してとるべき相応の責任を何ら考慮していません。このような、気候・環境・地域住民にとって不公正かつ不正義な枠組みは見直されなくてはなりません。
貴行は「We will continue to work towards a just and sustainable transition for Cirebon 1, ensuring that the voices of local communities and civil society are heard and respected.」と回答をしています。しかしまずは、チレボン1号機の早期廃止に係る現行のETMや枠組みを一旦白紙に戻す必要性を私たちは改めて強調します。その上で、チレボン1号機の建設・稼働による影響を受けてきた地域住民及び市民社会を含む、幅広いステークホルダーによる意味ある参加を確保した形で、チレボン1号機の可能な限り早期の廃止に向けた議論が行われるべきです。
インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ
WALHI Eksekutif Nasional
Rapel (Rakyat Penyelamat Lingkungan)
KARBON (KOALISI RAKYAT BERSIHKAN CIREBON)
【連絡先】
インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ
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TEL: +62 22 63175011
Email: walhijabar@gmail.com
[1] https://foejapan.org/issue/20221114/10287/
[2] https://foejapan.org/issue/20230531/13044/
[3] https://foejapan.org/issue/20240228/16353/
[4] https://foejapan.org/issue/20241001/20521/
[5] 脚注3に同じ