インドネシア住民・NGOがADBに要請書提出「チレボン石炭火力1号機の早期廃止に係る住民・市民社会を軽視する拙速な合意は行わないで」
10月1日、インドネシアの現地住民ネットワーク及びNGOがアジア開発銀行(ADB)に対し、チレボン石炭火力発電事業1号機(チレボン1号機。丸紅出資。国際協力銀行や3メガ銀行が融資)の早期廃止について、地域住民及び市民社会を軽視した拙速な合意を締結しないよう求める要請書を提出しました。チレボン1号機は、日本が最大出資国であるADBの主導するエネルギー移行メカニズム(ETM)を活用する第一号案件として2022年11月に選定されましたが、この間、住民や市民社会の意味ある参加の機会が一切設けられていないことが指摘されてきました。現地住民ネットワーク及びNGOは、こうした市民の参加状況が一向に改善されていないにもかかわらず、現在、今月10月20日の新大統領就任を前に任期の残り少ないインドネシア現政権が、詳細も明かさず、チレボン1号機の早期廃止に係る合意をまさに駆け込みで取りつけようとしていることを憂慮しています。
詳細は以下をご覧ください。(FoE Japanによる和訳。原文インドネシア語はこちら。英訳はこちら)(PDFはこちら)
要請書:チレボン石炭火力発電事業1号機の早期廃止に係る地域住民及び市民社会を軽視する拙速な合意は行わないでください
(原文はインドネシア語。以下は、WALHI西ジャワによる英訳のFoE Japanによる和訳)
2024年10月1日
アジア開発銀行 総裁 浅川 雅嗣 様
私たちは2024年2月に「チレボン石炭火力発電事業1号機のエネルギー移行メカニズム適用に係るポジションペーパー:気候・環境・地域社会のためではなく、大企業の巨大なグリーンウォッシュのためのメカニズムを断固拒否する」[1]を通じて、私たちの意見をすでに貴行にお伝えしてきました。今回の書簡では、来る10月20日の新大統領就任を前に現在、インドネシア現政権がチレボン石炭火力発電事業1号機(チレボン1号機)の早期廃止に係る合意を取りつけようとしていること[2]を憂慮し、いかなる拙速な合意も締結しないよう貴行に要請します。
私たちは上述のポジションペーパー(2024年2月28日付)の中で、チレボン1号機の早期廃止に係るエネルギー移行メカニズム(ETM)活用について2022年11月14日に覚書(MOU)が締結[3]されて以降、同事業の問題に関心を有してきた住民を含む、市民社会による意思決定過程への有意義な参加機会が一切ない事実を強く非難しました。しかし今日に至るまで、市民社会の意思決定過程への参加機会については何ら改善は見られません。任期の残り少ないインドネシア現政権が詳細も明かさず、まさに駆け込みで合意を取りつけようとしていることは、地域住民及び市民社会の軽視に他ならず、協議や参加を重視する貴行のセーフガード政策[4]にも違反することになります。
入手できる範囲の限定的な情報に基づく私たちの理解では、チレボン1号機に関してエネルギー移行と称して現在進められているメカニズム及び枠組みは、喫緊の課題である気候危機を真に解決するものではなく、またチレボン1号機の建設・稼働によって深刻な影響を受けてきた地域住民に対する適切な配慮を欠いたものとなっています。その一方で、同ETMは、チレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)やその出資者である大企業がとるべき気候危機に係る責任を免除し、大企業の利益をむしろ温存させる欺瞞に満ちたものとなってしまっています。
まず、喫緊の気候危機、チレボン1号機の建設・稼働によって生計手段や健康面で地域住民がすでに被ってきた甚大な影響、またジャワ・バリ電力系統における慢性的な電力供給過剰を考慮するならば、チレボン1号機は可能な限り早期に廃止すべきです。それにもかかわらず、現在、ETMを活用して行われようとしているチレボン1号機の早期廃止に向けた枠組みでは、2035年にチレボン1号機を早期廃止乃至再利用することが、すでに決定事項となっています[5]。可能な限りの早期廃止を促すのではなく、今後、チレボン1号機をさらに11年間もの長期にわたり稼働させることに正当性を与え、また石炭火力の延命につながる水素/アンモニア等の混焼といった確立されていない「誤った気候変動対策」によってチレボン1号機を「再利用」する選択肢が残されている現在の枠組みは見直されるべきです。
また、気候危機への対処の必要性からチレボン1号機(660 MW)の早期廃止の実現に向けた議論がなされている中、チレボン1号機と比較して、温室効果ガスの総排出量がより多いチレボン2号機(1,000 MW)の稼働を開始したことは理に適っていません。まずはチレボン2号機の稼働を停止し、こうした矛盾も解消されるべきです。
さらに、チレボン1号機の事業者であるCEPやその出資者である丸紅(32.5%出資)、韓国中部電力(27.5%)、Samtan(20%)、Indika Energy(20%)は、電力購買契約(PPA)の期間を2042年8月から2035年12月に短縮[6]することで生じる損失をETMの融資によって補填されることになっています。チレボン1号機及び2号機の建設・稼働によって、これまで生計手段や健康に影響を受けてきた地域住民への十分な配慮はなされないままであるにもかかわらずです。このように、座礁資産となるべき石炭火力に係る企業の免責を許すような、気候・環境・地域住民にとって不公正かつ不正義な枠組みは見直されるべきです。
したがって、私たちは、チレボン1号機の早期廃止に係る現行のETMや枠組みを一旦白紙に戻す必要性を改めて強調します。その上で、チレボン1号機の建設・稼働による影響を受けてきた地域住民及び市民社会を含む、幅広いステークホルダーによる意味ある参加を確保した形で、チレボン1号機の可能な限り早期の廃止に向けた議論が行われるべきです。貴行が地域住民及び市民社会を軽視した拙速な合意を行わないよう改めて強く求めます。
【連絡先】
インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ
住所: Jalan Simphoni No. 29, Kel. Turangga, Kec. Lengkong, Kota Bandung, Jawa Barat 40264, Indonesia
TEL: +62 22 63175011
Email: walhijabar@gmail.com
[1] https://foejapan.org/issue/20240228/16353/
[2] https://finance.detik.com/energi/d-7528700/sri-mulyani-soal-pensiun-dini-pltu-cirebon-1-jangan-sampai-merugikan-negara ; https://www.krjogja.com/derap-nusantara/1245131768/sri-mulyani-sebut-proses-pensiun-dini-pltu-cirebon-1-masih-berlangsung ; https://www.reuters.com/sustainability/climate-energy/global-plan-early-ditch-coal-power-hits-indonesia-hurdle-2024-09-25/
[3] https://www.adb.org/news/adb-indonesia-partners-sign-landmark-mou-early-retirement-plan-first-coal-power-plant-etm
[4] https://www.adb.org/sites/default/files/institutional-document/32056/safeguard-policy-statement-june2009.pdf
[5] https://www.adb.org/projects/documents/ino-56294-001-ipsa
[6] 脚注5に同じ