インドネシア・チレボン石炭火力2号機の贈収賄で有罪確定ー「JBICは公的融資停止を!」現地住民・NGOから要請

2023年5月の来日時にチレボン2号機への融資停止を求める要請書をJBICに直接提出した住民ら

 国際協力銀行(JBIC。日本政府が全株式保有)が7億3,100万米ドルの貸付契約を事業者(丸紅とJERAが出資)と締結しているインドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業 拡張計画(2号機事業)において、収賄で起訴されていたチレボン県元知事の有罪がインドネシアの最高裁で確定しました。これを受け、8月7日、現地住民組織とNGO4団体は、財務省及びJBICに対し、同事業への貸付実行の停止、またこれまでに実行した貸付の強制期限前弁済の措置を速やかにとるよう求める要請書を提出しました。

 住民らは同事業による生計手段や健康への悪影響を懸念し、事業に反対し続けてきた他、JBICに対しても異議申立書を提出したり融資停止を求めてきました。しかし昨年5月、2号機の商業運転を開始したことをJERAがホームページ上で発表しています。今回の要請書の中で住民らは、現地コミュニティが直面してきた深刻な被害が、「腐敗した大企業や地元の政治家が不当に巨額の富を得てきた2号機事業のために引き起こされてきたことは、許容しがたい不正義」だとしています。同事業には3メガ銀行(三井住友、三菱UFJ、みずほ)も協調融資を行っていますが、日本の官民が深く関与する同事業が贈収賄も絡む不当な形で進められてきたことに鑑み、早急かつ適切な対応と説明責任が日本の各関係者に求められています。

 同事業を巡る贈収賄疑惑は2019年から指摘されてきましたが、2023年3月にインドネシア汚職撲滅委員会(KPK)が一連の収賄・マネーロンダリング事件に関して元知事を起訴し、2023年8月18日付の第一審判決並びに2023年10月17日付の控訴審判決において、2号機事業に係る収賄のケースを含め、有罪判決が言い渡されていました。その後、KPK及び被告が各々上告していたものの、今般、最高裁が2024年4月3日付で上告棄却の決定を下していたことが明らかとなったものです。

 第一審及び控訴審判決では、同事業の建設工事を請け負っていた韓国の現代建設から元知事に対して、70億2,000万ルピア(約6,360万円)の支払いがなされていた事実が詳しく記されています。さらに、事業者の元上級幹部から元知事に対して許認可の円滑な発行や住民によるデモの沈静化を求めたこと、また元知事に対して10億ルピアが手渡されたことにも言及がなされています。

 JBICは「公的輸出信用と贈賄に関するOECD理事会勧告」(OECD贈賄勧告)に基づき、「贈賄防止への取り組み」を公表しており、「贈賄行為への関与が認められた場合」に「貸出停止」、「融資未実行残高の取り消し」、また「強制期限前弁済」などの適切な措置を取るとしています。チレボン2号機事業において、JBICの直接の借入人である事業者の元上級幹部が贈賄行為に関与していたことを重く受け止め、JBICは不当に進められた事業に供与した公的資金について迅速かつ適切な措置を講じるとともに、市民に対しても公的機関としての説明責任を果たすべきです。

 以下、インドネシア現地住民組織及びNGOから財務省及びJBICに対する要請書の本文(和訳)です。(英語原文はこちら

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腐敗にまみれたインドネシア・チレボン石炭火力発電事業 拡張計画への公的資金供与の早急な停止措置を求める要請書

2024年8月7日

財務大臣 鈴木 俊一 様
国際協力銀行 代表取締役総裁 林 信光 様

 私たちは、国際協力銀行(JBIC)が2017年11月14日以降、貸付を実行してきたインドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業 拡張計画(2号機。1,000メガワット)(2号機事業)[1]について、同2号機事業に係る収賄のケースを含め、チレボン県元知事の有罪判決が確定したことを確認しました [2]。この事実を受け、不当に進められてきた同2号機事業に対して公的資金の供与を続けているJBICに対し、「公的輸出信用と贈賄に関するOECD理事会勧告」(OECD贈賄勧告)[3]及びJBICの「贈賄防止への取り組み」[4]に基づき、2号機事業への貸付実行の停止、融資未実行残高の取り消し、またこれまでに実行した貸付については強制期限前弁済の措置を速やかにとることを強く求めます。

 2号機事業に係る贈収賄疑惑は2019年から指摘されてきました。2023年3月にインドネシア汚職撲滅委員会(KPK)が一連の収賄・マネーロンダリング事件に関してチレボン県元知事を起訴し、2023年8月18日付の第一審判決並びに2023年10月17日付の控訴審判決において、2号機事業に係る収賄のケースを含め、チレボン県元知事に有罪判決が言い渡されました。その後、KPK及び被告が各々上告していたものの、2024年4月3日付で最高裁が上告棄却の決定を下していたことが明らかになりました。つまり、控訴審判決の内容が有効となります。

 控訴審判決では、私たちがこれまでも指摘してきたとおり、2号機事業に係る収賄ケースについて、概ね以下のような内容が含まれています(役職は当時)。

  • チレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)の上級幹部2名(うち一名はCEPR社長Heru Dewanto。もう一名はTeguh Haryono)がチレボン県知事に対し、CEPRが申請した石炭火力発電所2号機の建設許可の手続きを滞りなく行い、さらに2号機建設に対するデモへの対処支援を求め、チレボン県知事に10億ルピアを渡した。
  • CEPR上級幹部2名(同上)が、2号機事業のEPC契約者である現代建設(Hyundai Engineering and Construction Co., Ltd.)の関係者(副ゼネラルマネージャーHERRY JUNG、管理運営マネージャーKIM TAE HWA、2号機建設現場プロジェクトマネージャーAM HUH)とチレボン県知事を双方に紹介した。CEPR側はチレボン県知事に対し、CEPRの許認可申請の手続きに関連して、今後、HERRY JUNGが許認可手続きを引き続き行うことを伝えた。さらにチレボン県知事に対し、CEPRの申請手続きが迅速に進むように支援を求めるとともに、デモへの対処を求めた。その他、チレボン県知事の「運営資金」の提供が現代建設の上記3名から行われることが伝えられた。
  • 現代建設のHERRY JUNGがチレボン県知事に対し、建設許可と住民のデモの問題を再び伝えたことを受け、チレボン県知事はDPMPTSP(統合投資許認可サービス局)役人に対してCEPRの許認可手続きを早める手助けをするように命じた。許認可手続きの手助けをした後、現代建設のHERRY JUNGからDPMPTSPの役人に直接5,000万ルピアが支払われた。
  • Ÿチレボン県知事が住民の抗議を沈静化するためとして「運営資金」を要求した。この「資金」は、現代建設から架空のコンサルティング業務の契約金(100億ルピア)として支払われることになった。
  • チレボン県知事は、ブブル郡長に彼女の義理の息子(2号機事業地であるアスタナジャプラ郡の元郡長の義理の息子でもある)の会社ミラデス・インダ・マンディリ社(MIM社)を現代建設との架空契約に参加させるよう求めた。しかし、MIM社はコンサルタント会社ではなく、単なるイベント企画会社に過ぎなかった。
  • 2017年6月14日、MIM社と現代建設の間で、2号機事業のコンサルタント業務に係る架空のプロジェクト契約(総額100億ルピア)が結ばれた。
  • 2017年6月から2018年10月の間、4回に分けて70億2,000万ルピアの「資金」が現代建設の複数の関係者からMIM社を通じてチレボン県知事に支払われた。
  • 2017年7月にチレボン県知事らは、現代建設が費用を負担する形で韓国を旅行した。

 2号機事業に係る贈収賄ケースについては、すでに2019年にチレボン県元知事、そして現代建設の元幹部がKPKにより容疑者認定を受けていた他、上述のCEPRの元上級幹部2名もインドネシア国外への渡航禁止措置を受けていました。そして上述のとおり、判決文において、2号機事業に係る贈収賄行為が確実に行われていたこと、また現代建設だけでなくJBICの直接の借入人であるCEPRの元上級幹部が同贈賄行為に関与していたことが言及されていることは極めて重大な事実です。

 私たちはこれまでも、一貫して貸付実行の停止等をJBICに求めてきました。その最大の理由は、現地コミュニティの生活・文化・健康への影響です。チレボン石炭火力発電所1号機(660メガワット)(1号機事業)の建設が始まった2007年以降、小規模漁業や塩田など沿岸域での生計手段に甚大な悪影響が及び、住民は苦しい生活を強いられてきました。『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』の違反を指摘した1号機に係る住民の異議申立書(2016年11月)[5]及び2号機に係る異議申立書(2017年5月)[6]の中では、その具体的な説明がなされています。

 このように現地コミュニティが直面してきた生計手段や健康などへの深刻な被害が、腐敗した大企業や地元の政治家が不当に巨額の富を得てきた2号機事業のために引き起こされてきたことは、許容しがたい不正義です。また2号機事業では、チレボン県空間計画への違反と環境許認可の不当な発行など違法なプロセス、反対・懸念の声をあげる住民への嫌がらせや脅迫などの人権侵害、気候変動対策への逆行など、看過できないその他の問題が多く指摘されてきました。そもそも、40〜60%もの供給予備率(2021〜2030年)を抱えることが予想されてきたジャワ・バリ電力系統[7]では、2号機事業の必要性自体も疑問視されてきました。

 日本政府とJBICは、2号機事業への貸付実行の停止、融資未実行残高の取り消し、強制期限前弁済の措置を速やかにとることで、不正義かつ不当で不必要な2号機事業に対して公的資金を供与し続けてきた責任を取るべきです。また2号機事業の収賄ケースに係る有罪判決が確定したことを受け、JBICがどのような措置を取る予定/取ったかについても、公的機関としての説明責任を果たすべきです。早急かつ適切な対応を日本政府及びJBICに改めて強く要請します。

以上

署名:
ラペル(Rapel, Rakyat Penyelamat Lingkungan:環境保護民衆)
KARBON (KOALISI RAKYAT BERSIHKAN CIREBON)
WALHI西ジャワ
インドネシア環境フォーラム(WALHI)

Cc:
経済産業大臣 齋藤 健 様
日本貿易保険 代表取締役社長 黒田 篤郎 様
韓国輸出入銀行 会長兼社長 Yoon Hee-sung 様
株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 代表執行役社長 グループCEO 亀澤 宏規 様
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 執行役社長 中島 達 様
株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行役社長 木原 正裕 様
アジア開発銀行 総裁 浅川 雅嗣 様

【連絡先】
インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ
住所: Jalan Simphoni No. 29, Kel. Turangga, Kec. Lengkong, Kota Bandung, Jawa Barat 40264, Indonesia
TEL: +62 22 63175011
Email: walhijabar@gmail.com

【脚注】
[1] https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2017/1114-58532.html

[2] https://sipp.pn-bandung.go.id/ (事件番号:49/Pid.Sus-TPK/2023/PN Bdg)(上告審判決番号:2605 K/Pid.Sus/2024)

[3] https://one.oecd.org/document/TAD/ECG(2019)2/En/pdf OECD贈賄勧告では、「公的な輸出信用支援の供与後」の措置として、「取引に関連して、関係者の一人が贈賄禁止法違反で有罪判決を受けたり、同等の措置を受けた」ことが判明した場合、「国内法に則り、贈賄に責任のない関係者の権利を損なうこと」のない形で、「通常よりも厳格なデューディリジェンスの実施、支払拒否、供与した金額の返済」など適切な措置をとることが勧告されている。

[4] https://www.jbic.go.jp/ja/support-menu/export/prevention.html

[5] https://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/161110.html

[6] https://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/170524.html

[7] https://ieefa.org/wp-content/uploads/2022/03/Indonesia-Wants-to-Go-Greener-but-PLN-Is-Stuck-With-Excess-Capacity_November-2021_JAPANESE_F.pdf

 

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