インドネシア・チレボン石炭火力:現地住民・NGOが国際協力銀行(JBIC)に環境モニタリング実査に関する意見書を提出

 2025年12月2日、インドネシアの現地住民ネットワーク及びNGOが国際協力銀行(JBIC。日本政府が全株式保有)に対し、西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業に関してJBICが実施している「環境モニタリング実査」について意見書を提出しました。同事業は現在も商業運転を続ける1号機(66万キロワット。丸紅が出資)及び2号機(100万kW。丸紅とJERAが出資)ともにJBICが融資を行なってきましたが、零細漁民や製塩農家など現地コミュニティの生計手段への影響や健康被害、また2号機の贈収賄事件など、1号機の建設が始まった2007年から今日まで未解決の問題が山積しています。

 JBICは『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(ガイドライン)の規定に基づき、同事業に係る環境社会面での懸念事項について、実査を含むモニタリングを続けています。今年のモニタリング実査においてJBICは、これまでチレボン1号機及び2号機それぞれに関してJBICガイドラインの違反を指摘し、JBICに正式な異議申立て(1号機2号機)を行ってきた現地住民グループであるラペル(Rapel, Rakyat Penyelamat Lingkungan:環境保護民衆)やその支援団体であるインドネシア環境フォーラム(WALHI。FoEインドネシア)等に意見交換の機会を打診していました。

 しかし、ラペルやWALHI等は今回提出した意見書の中で、これまでの経験から、JBICの環境モニタリング実査が、2007年にチレボン1号機が建設を開始してから2号機が稼働を始めた後の今日に至るまで同事業の影響を受け続けてきた地域コミュニティの抱える問題を真に解決することに何ら繋がっていないとし、JBICが同事業への関与を続けることに正当性を与えることになるようなJBICの実査のプロセスへの参加を拒否すると明確に述べています。また、自分たちのJBICに対する一貫した要求が、チレボン事業に係る早急な強制期限前弁済の措置であることも再確認しています。

 詳細は以下をご覧ください。(FoE Japanによる和訳。原文インドネシア語はこちら。英訳はこちら)(PDFはこちら

インドネシア西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業に係る貴行の環境モニタリング実査についての意見書

(原文はインドネシア語。以下は、FoE Japanによる和訳)

2025年12月2日

国際協力銀行 代表取締役総裁 林 信光 様
私たちは、貴行が2025年12月にインドネシア・西ジャワ州チレボン石炭火力発電事業に係る環境モニタリング実査を行われると理解しています。2023年に行った時のようにチレボン市内での意見交換の機会を貴行が私たちに打診されたこともFoE Japanから伺いました。しかしながら、今回は貴行から提示された日程候補の選択肢が一つしかなく、私たちの多くが参加できないことに加え、以下の理由から貴行の打診をお断りすることにしました。

私たちは、この「意見交換」と称される場、あるいは、この会合の目的が何かということを問わざるを得ません。私たちの代表が来日した際に行った貴行との会合を含め、これまで幾度にもわたる貴行との会合の結果、私たちが得られた有益なものは何らありませんでした。

私たちは貴行に対して、チレボン石炭火力発電所1号機及び2号機(チレボン1号機及び2号機)の建設・稼働によって漁獲量が減少し、沿岸の浅瀬で船を使わずに漁を行ってきた零細漁民の生活が苦しくなってきたことについてお伝えしてきました。また事業地周辺の住民が呼吸器系疾患などの健康被害を訴えるケースが増えており、大気汚染に対する懸念についてもお伝えしました。沿岸の零細漁民や周辺住民に配慮し、貴行には融資を止めてもらいたいと何度も要請しました。しかしながら、私たちの切実な訴えや求めはこれまで現場でのよい方向への変化にはつながっておらず、貴行が私たちの報告をまったく信じていないのではないかとさえ感じています。最近、インドネシアの市民団体が発出した「Toxic 20(the 20 Most Dangerous Coal-Fired Power Plants in Indonesia)」[1]という報告では、健康や経済、社会面等のさまざまな指標から、インドネシア国内の石炭火力発電所の中で、このチレボン事業が3番目に「Toxic」であるとの結果を導き出しています。貴行には、このような最新のデータも踏まえながら、私たちがこれまで貴行にお伝えしてきた報告が嘘でないことを独自に検証していただき、その結果を公開していただきたいと思います。

貴行が解決策としてよく言及されるCSR(企業の社会的責任)プログラムも、生計手段や健康への影響を受けてきた住民が抱える問題を真に解決するものではないことを毎回伝えるとともに、誰のためのCSRであるのかを問うてきました。しかし、CSRが影響住民の抱える問題への対処法として効果的であるか否かについての独立した検証は、事業者も貴行を含む銀行団もこれまで一切行っていないと理解しています。

チレボン2号機事業に係る贈収賄事件については、チレボン県元知事、そして現代建設の元幹部がインドネシア汚職撲滅委員会(KPK)により容疑者認定を受け、事業者であるCEPRの元上級幹部2名もインドネシア国外への渡航禁止措置を受けた2019年以降、私たちは一貫して貸付実行の停止、融資未実行残高の取り消し、またこれまでに実行した貸付については強制期限前弁済の措置を速やかにとるよう求めてきました。しかし、貴行は状況を注視しており、認定された事実に応じて貸付契約の内容に基づく適切な対応をとっていくと繰り返すばかりでした。2号機事業に係る収賄のケースを含め、チレボン県元知事の有罪判決が2024年4月に確定[2]した後も、貴行はCEPRに強制期限前弁済の措置を求めず、腐敗した大企業や地元の政治家が不当に巨額の富を得てきたチレボン2号機事業への関与を続けています。

同事業の必要性自体についても、ジャワ・バリ電力系統の供給予備率の高さから、継続的に疑問を呈してきました。以前のRUPTL(2021~2030年)でも40〜60%もの供給予備率が予測されていましたが、今年5月に公表されたRUPTL(2025~2034年)[3]でも、向こう10年間で33~44%の供給予備率が予想されています。ここでも、貴行を含む銀行団が独自に同事業の必要性を検証したという情報は一切ありません。

最近、私たちはチレボン2号機に関して、バイオマス/アンモニア混焼、またCCS/CCUSといった「誤った気候変動対策」の導入が検討され始めたことをAZECの資料[4]から知りました。私たちの率直な感想は、「またか」ということです。チレボン1号機も2号機も、それらの計画について、事前に地域住民に知らされることは一切ありませんでした。その悪影響を受ける地域コミュニティがまるでいないかのように、物事が勝手に決められ、進められていくという状況に深い憤りを感じています。

チレボン1号機におけるADB主導のエネルギー移行メカニズム(ETM)[5]を活用したプロセスもしかりですが、チレボン1号機も2号機も地域住民にもたらしてきた生計手段や健康への甚大な影響等を考慮して、まずは早期に廃止すべきです。「再利用」や「低炭素」などの言葉は、私たちの地域の石炭火力発電所にはもう要りません。

以上の観点から、私たちの貴行に対する一貫した要求は、依然として、チレボン事業において強制期限前弁済の措置を速やかにとることです。私たちのこれまでの経験から判断すると、貴行の環境モニタリング実査は、2007年にチレボン1号機が建設を開始してから2号機が稼働を始めた後の今日に至るまで同事業の影響を受け続けてきた地域コミュニティの抱える問題を真に解決することには何ら繋がっていません。私たちは、貴行が同事業への関与を続けることに正当性を与えることになるような貴行の実査のプロセスへの参加は明確に拒否します。

貴行のご理解とご配慮をよろしくお願いいたします。

以上

署名:
ラペル(Rapel, Rakyat Penyelamat Lingkungan:環境保護民衆)
KARBON (KOALISI RAKYAT BERSIHKAN CIREBON)
WALHI西ジャワ
インドネシア環境フォーラム(WALHI)

【連絡先】
インドネシア環境フォーラム(WALHI)西ジャワ
住所: Jalan Simphoni No. 29, Kel. Turangga, Kec. Lengkong, Kota Bandung, Jawa Barat 40264, Indonesia
TEL: +62 22 63175011
Email: walhijabar@gmail.com


[1] https://toxic20.org/

[2] https://sipp2.pn-bandung.go.id/index.php/detil_perkara

[3] https://web.pln.co.id/stakeholder/ruptl

[4] https://www.meti.go.jp/press/2025/10/20251017001/20251017001-i.pdf

[5] https://www.adb.org/projects/56294-001/main

 

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