第7次エネルギー基本計画案に対する意見を提出しました
「第7次エネルギー基本計画(案)」が1月26日までパブリック・コメントにかけられています。
FoE Japanでは、以下の意見を提出しました。
1.策定プロセス
2.エネルギー政策の基本的視点
3.2040年度電源構成
4.電力需要
5.省エネ
6.1.5℃目標
7.事業環境整備
8.原子力
9.火力発電の延命、水素・アンモニアの脱炭素効果
10.鉱物資源
11.バイオマス
1.策定プロセス
意見:閣議決定の前に全国で公聴会を開催し、パブリックコメントの内容も含めて十分に分析、反映を行うべきである
第7次エネルギー基本計画案には随所で「双方向のコミュニケーション」の重要性が強調されているが、実際には同案策定過程において、一般市民の声を聴取する機会は「意見箱」とパブリックコメントに限られている。全国約10ヶ所で「説明会」が開催されることとなったが、あくまで「説明」であり、その意見を反映するものではない。閣議決定の前に全国で公聴会を開催し、パブリックコメントとともに市民の声を聴取、検討、反映すべきである。
また、世論調査、討論型世論調査など複数の手段を組み合わせるべきである。
エネルギー基本計画について議論する審議会「総合資源エネルギー調査会基本政策分科会」の17名の委員の構成は、化石燃料や原子力、産業界につながりのある委員が多数を占めている。本来は、気候変動、再エネ、自治体や地域、SDGs、原発事故などに関わる専門家や当事者、環境NGO、そして若い世代も含めて議論を行うべきであった。
既得権益を守ろうとする一部の人たちによる閉ざされた議論のみで、市民参加も国民的議論もほぼないまま、原子力や化石燃料技術の維持・推進が強化されることを強く危惧する。
該当ページ: 82ページ
2.エネルギー政策の基本的視点
意見:エネルギー資源や鉱物資源の採掘の現場で、自然破壊や汚染、人権侵害が頻繁に生じている。第7次エネルギー基本計画案では、S+3Eの一つとして、「環境適合性」を挙げているが(p.15)、脱炭素についてしか言及がない。第6次エネルギー基本計画では「エネルギーの脱炭素化に当たっては(中略)エネルギー供給面のみならず、サプライチェーン全体での環境への影響も評価しながら脱炭素化を進めていく観点が重要である」という記載があったが、このような記述もなくなっている。
エネルギー資源の生産から廃棄にわたるサプライチェーン全体における、環境汚染の回避、生物多様性の保全、人権の尊重の原則を明記すべきである。
また、「公平」の観点、すなわち豊かな生活を享受し、発展してきた先進国としての責任、社会的弱者への配慮、将来世代への責任についても原則に加えるべきである。
該当箇所:p.15
意見:気候危機や生物多様性危機が示す通り、現在のエネルギーの大量生産・大量消費の産業構造は限界を迎えている。鉱物資源やエネルギー資源などの採掘現場においては、環境破壊や人権侵害が頻繁に生じており、地元の人々の生活を脅かしている。現在のまま、際限のない採掘や消費を継続していくことは、いずれ破綻を招く。エネルギー基本計画では、エネルギー需要削減を最優先させる原則を打ち出し、あらゆる分野で具体的に実施していくための対策を詳述すべきである。
該当箇所:全般
意見:「脱炭素電源」として原子力と再エネとを区別せずに記述されているが、これを区別し、「再生可能エネルギーの促進」とすべきである。
原子力は、「S」安全性の観点から大きな課題があるほか、既存原発の大半が30年を超えて老朽化している現実や、新規の建設の経済性が見通せないことからも、2030年2割、2040年2割の目安目標のいずれも、現実的に達しないおそれがある。
日本でポテンシャルのある風力と太陽光を大きく増やしていくためには、変動する出力に合わせ、需要やその他電源を柔軟に調整する必要がある。原子力は、火力と比べても出力調整が容易でない電源であり、原子力を優先することで、再エネの出力抑制がより頻繁に行われるおそれがある。
このように、脱炭素電源といっても原子力の拡大と再エネの拡大は相反するため、それぞれを区別し、「再エネ電源」こそ最優先で拡大させるべきである。
該当箇所:23ページほか
3.2040年度電源構成
意見:2040年度原子力2割としているが、これは、再稼働できる見込みがない原発も含め、30基以上稼働させなければならない非現実的な数字である。政府は、「2割」の前提として、少なくとも原発何基の稼働を想定しているのか示すべきである。
原発に関しては、事故の被害やリスク、放射能汚染や解決不可能な核廃棄物の処分の問題などが山積している。経済的にみても、原発の維持費や建設費は高騰し続けており、今や世界的にも最もコストの高い電源となっている。また、原発はトラブルが頻発している上、ひとたび停止すれば広範囲に影響をもたらすこと、調整力に欠けることから、決して「安定」電源とはいえない。原発ゼロをめざすべきである。
該当箇所:エネルギー基本計画案全般、(関連資料) 2040年度におけるエネルギー需給の見通し
意見:火力3~4割では、国際合意と相反し、1.5℃目標にも整合しない。
COP28ですでに、世界は「化石燃料利用からの脱却」に合意している。またG7では2022年から「電源の大部分を脱炭素化」すること、さらに2024年には「2035年までに石炭火力から脱却」する方向性にも合意している。一方で日本では、石炭火力を含む発電部門の化石燃料利用を継続することが強く主張され、今回2040年の電源構成でも火力を3~4割としており、国際合意に相反している。1.5℃目標を目指すうえでも、できる限り早期に大幅な削減が必要である。火力発電は可能な限り削減し、省エネ・再エネに移行しなければならない。
該当箇所:エネルギー基本計画案全般、(関連資料) 2040年度におけるエネルギー需給の見通し
4.電力需要
意見:DX(データセンター等)による電力需要増加が、根拠あいまいなまま過大評価され、DXによるエネルギー効率改善等の需要削減効果が言及されていない。
デジタル化はデータセンター設置増加等による電力需要の増加をもたらす面もあるが、効率化によりエネルギー需要の低減をもたらす面もある。
第6次エネルギー基本計画においては、デジタル化による省エネルギーを進めることが記述されていた。第7次ではそうした記述がすべて削除されている。
「データセンター」という言葉が、第7次案には16箇所にわたり使用されているが、いずれもデジタル化の進展による電力需要増加を強調する内容である。
政府の総合エネルギー統計(2024)においては、データセンターやIT関係のエネルギー消費は0.46%に過ぎない。政府が引用している電力中央研究所のレポートでも急増や激増とはしていない。世界的にみてもIEAのレポートではデータセンターは増大要因としては大きくない。
該当箇所:p.11ほか
5.省エネ
意見:省エネルギーによるエネルギー削減目標を明記すべきである。
省エネルギーにより、エネルギー需要・電力需要をどこまで削減しようとしているのか不明である。2040年度エネルギー需給見通しにおいて、対策をとらなかった場合(BAU)のエネルギー需要、電力需要の予測値に加え、省エネルギーによる削減見込みを記すべきである。
意見:省エネルギーの内容が具体的ではない。
第6次エネルギー基本計画では、デジタル化による省エネルギーを進めるとして、「シェアリングなど人・物・金の流れの最適化」「テレワークによる移動に伴うエネルギーの削減」「クラウド化による企業システムの省エネルギー」「エネルギーマネジメントシステムの高度化」などについて記述している。また、運輸部門については「物流分野におけるデジタル化の推進」「サプライチェーン全体での大規模な物流効率化、省力化を通じたエネルギー効率向上も進めていく」などとし、「エネルギー消費原単位の小さい輸送手段への転換を図る」「共同輸配送」「輸送網の集約」などの記述がある。こうした記述は第7次エネルギー基本計画では削除されている。
6.1.5℃目標
意見:エネルギー基本計画は、地球温暖化対策計画と相互に連動する関係にある。日本も批准しているパリ協定にある世界全体の気温上昇を1.5℃までに抑える目標を第七次エネルギー基本計画にも書き込み、同時にそれに整合する削減目標とエネルギー政策を掲げる必要がある。
近年、世界の平均気温は上昇し異常気象が頻発している。2024年の世界平均気温は産業革命前と比べ単年ですでに1.6℃上昇している。「今世紀末までに気温上昇を1.5℃までに抑える」目標はすでに見通しが非常に厳しくなるなか、日本を含む先進国が削減目標をより強化することは急務である。そのためには、化石燃料からの脱却を進めなければならない。
現状のエネルギー基本計画案では、この観点が欠落している。1.5℃目標を明記し、より高い削減目標、化石燃料からの脱却を書き込むべきである。
IPCCは第6次統合評価報告書において、世界の気温上昇を1.5℃までに抑えるためには、世界全体で温室効果ガスを2030年までに43%、2035年までに60%(いずれも2019年比)以上削減する必要があるとしている。政府が掲げる削減目標では2050年炭素中立に向けて現状から直線的な削減を想定しているが、2040年までに急速な削減が必要なIPCCの1.5℃目標の道筋からは乖離した想定である。IPCCの年間排出削減率は一定ではなく、政府の想定する道筋では2050年までの日本の累積排出量はIPCCの1.5℃目標の想定を大きく上回り、1.5℃目標とは整合しない。更には、Climate Action Trackerは、1.5℃に整合させるためには、日本は2030年に66%以上、2035年に81%以上の削減目標が必要だとしている(*)。産業革命以降の歴史的責任を加味すればそれ以上である。
- Climate Action Tracker「1.5-aligned 2035 targets for major emitters and Troika countries」、2024年11月 14日 https://climateactiontracker.org/publications/the-climate-crisis-worsens-the-warming-outlook-stagnates/
同、日本に関するページ:https://climateactiontracker.org/countries/japan/2035-ndc/
該当ページ: 3~5ページ、16ページ
7.事業環境整備
意見:「事業環境整備・市場環境整備」(p.24):大型電源について投資額が巨額になることなどから事業者が新たな投資を躊躇する恐れがあるとし、電力分野における必要な投資資金を安定的に確保していくためのファイナンス環境の整備に取り組むとしている。記述が曖昧であるが、原発の新設に際して、建設期間中から電気代にコストを上乗せして一般市民から徴収するイギリスのRABモデルのような制度を新設しようとしているようにもとれる。これは、本来事業者が負うべき原発の巨額の建設費用やリスクを、国民に負わせることになり、受け入れられない。
該当箇所:p.24
意見:「民間金融機関等が取り切れないリスクについて、公的な信用補完の活用とともに、政府の信用力を活用した融資等・・・を検討する」(p.24-25)としている。原発新設に際して原子力事業者が銀行から借り入れることが困難であるため、GX推進機構など政府機関による債務保証を行うことを指していると思われる。原発建設プロジェクトは費用が巨額に上り、事業期間の延長等のリスクが高いため、民間銀行が融資を行わないという判断をすることは容易に想像できる。一方で、エネルギー基本計画案では原発について、「他電源と遜色ないコスト水準」としており矛盾している。事故の被害やリスク、放射能汚染や解決不可能な核廃棄物の処分の問題、莫大なコストを考えれば、原発に対して政府機関による債務保証を行うことには正当性がない。
該当箇所:p.24-25
8.原子力
意見:原子力を「他電力と遜色がないコスト水準」(p.34など)としているが、発電コスト検証ワーキンググループによる原発のコスト試算は大幅な過小評価であり、適切とは言えない。たとえば以下の問題が挙げられる。
・原発新設費用を、7,203億円( 建設費 5,496億円 + 追加安全対策費 1,707億円)としているが、近年建設されている原発の実際の費用は、フィンランドのオルキルオト原発3号機1.7兆円、米ボーグル原発一基当たり2.2兆円、仏フラマンビル原発2.1兆円、英ヒンクリーポイントC原発一基当たり4兆円以上(見込み)となっており大幅な過小評価である。
・追加安全対策費が設置許可変更申請している原発すべてとなっているが、実際の安全対策費は申請時のコストよりも大幅に増えることが多いため、過小評価となっている。
・廃炉費用に、デブリ取り出し以降の放射性廃棄物処分費用が含まれていない。
・事故発生頻度が、4000炉年に1回から12000炉年に1回に変更となっており、安全性が向上したからとしているが、事業者自身がさらなる安全確保を目的として実施している「安全性向上評価」は、自主的主観的なものに過ぎず、コスト試算に使うことは非科学的である。
該当:p.34ほか
意見:原発を「優れた安定供給性」を有する(p.34ほか)としているが、誤りである。原発は固定的な大規模集中型電源であるがゆえの脆弱性、不安定さを有している。「一定出力である」ということは、調整力に欠けるということである。また、原発はトラブルが多く、1997~2010年までの事故故障等の報告件数は267件にものぼる。深刻な事故を回避するために、トラブルの内容によっては他の原発も停止して点検・評価する必要がでてくる。計画外に停止すればその影響は広範囲に及ぶ。
該当:p.34ほか
意見:規制当局とATENA(原子力エネルギー協議会)との連携や意見交換が強調されている(p.34ほか)。実際、ATENAは頻繁に原子力規制委員会と会合を行っている。
一方で、原子力規制委員会は原子力に対して否定的もしくは慎重な意見を有する学識者や市民との意見交換はほとんど行っていない。
ATENAは被規制者でもあり、こうした状況は原子力規制委員会の独立性を損ない、原子力産業にとって都合のよい規制緩和を行う恐れがある。現に、原発運転期間を原則40年とする規定が原子炉等規制法から削除された背景には、ATENAをはじめとする原子力産業からの働きかけがある。原子力規制委員会はATENAなど、原子力産業との会合に慎重になるべきである。
該当箇所:p.34ほか
意見:原子力防災(p.35):現在、地域の「緊急時対応」が「地域原子力防災協議会」で策定され「原子力防災会議」で了承されるという枠組みであるが、「原子力防災会議」では実質的な審議は行われず、時間も5分程度の形式的なものである。避難計画も含む原子力防災計画を、設置変更許可申請の審査対象文書の一つとし、原子力規制委員会による審査の対象とすべきであり、原子炉等規制法に位置づけるべきである。
該当箇所:p.35
意見:「自然災害との複合災害」(p.35):能登半島地震においては、多くの家屋が倒壊し、道路も通行不能となり、万が一原子力複合災害が発生した場合、屋内退避も避難もできない状況が起こりうるということを改めて示した。とりわけ即時避難が必要な5km圏(PAZ)においてもこうした状況になりうることは、住民が放射線による「確定的影響」を回避できない事態に陥りうることを示している。いったんすべての原発を停止し、能登半島地震等を踏まえた包括的な検証を行うべきである。
該当箇所:p.35, 36
意見:「立地地域との共生」(p.35)として、立地地域に対する、さまざまな支援が書かれているが、地域振興が必要なのは原発立地地域だけではない。過疎に悩む自治体は全国各地にある。国の政策に沿って原子力施設を受け入れた地域にことさら手厚い支援を行い、原子力施設を受け入れなかった地域には支援を行わないということは、公平性にかけ、地域の分断を招く。地域振興は、原子力施設受け入れの有無にかかわらず、各地の実情を踏まえて、全国規模で行うべきである。
該当箇所:p.35
意見:「核燃料サイクルの推進」(p.36):核燃料サイクルはすでに破綻している。六ケ所再処理工場は、27 回も工事完成が延期されており、いつ稼働するかもわからない上、事業費は15兆1,000億円に膨れ上がって今後も上昇を続けていくとみられる。稼働したとしても、すでに老朽化しているため、安全性に疑問があるり、大量の放射性物質を環境中に放出するなどさまざまな問題を生み出す。とりだされるプルトニウムについては、プルサーマルで消費できる量はごくわずかであり、使用済みMOX燃料の処理もできない状況である。こうした状況を直視し、核燃料サイクルから撤退すべきである。
該当箇所:pp.36-37
意見:「中間貯蔵施設等に貯蔵された使用済燃料は六ヶ所再処理工場へ搬出するという方針」(p.36):これは従来の資源エネルギー庁の説明と異なる。中間貯蔵施設は、当初は六ヶ所再処理工場で処理しきれない使用済み核燃料を貯蔵することを想定しており、「第二再処理工場」に運び出すとしていた。その後、「第二再処理工場」の計画はうやむやになり、資源エネルギー庁は「そのとき動いている再処理工場に運び出す」としていたが、今年になって市民への説明で「六ヶ所再処理工場に搬出する可能性もある」としていた。稼働するかどうかわからない六ヶ所再処理工場を搬出先として挙げることに対する反発の声も多かった。今回、さらに「可能性もある」という文言が削除された。なし崩し的に説明を少しずつ変えるのではなく、変更した理由を説明すべきである。
該当箇所:p.36
意見:「柏崎刈羽原子力発電所の再稼働への理解が進むよう…政府を挙げて対応を進める」(p.39):これは「再稼働ありき」の結論を地元の市民に押し付けるものであり、不適切である。現在、柏崎刈羽原発の再稼働は「地元同意」が焦点となっているが、政府が介入することにより、地元における冷静な議論をさまたげることになる。その他の原発についても「再稼働に向けて理解活動に取り組んでいく」とするが、同様の弊害が生じるため、やめるべきである。
該当箇所:p.37
意見:「60年の運転期間のカウントから除外することを認める新たな制度」(p.39):60年以上の稼働を許すものであり、撤廃すべきである。原子力規制委員会の高経年化に関する審査は、事業者の確認にもとづくものであるが、事業者が確認できる範囲は限定的であり、信頼性にかける。原発の配管、電気ケーブル、ポンプ、弁などの各部品や材料が、時間の経過とともに劣化するが、交換ができないものも多く、確認が難しい部分も多い。老朽化した原発を動かすべきではない。
該当箇所:p.39
意見:「次世代革新炉の開発・設置」(p.40):撤回すべきである。原発新設は巨額の費用がかかり、建設期間も長期化する傾向にある。原子力事業者のみでは負担することができずに、RABモデルのような新たな制度により、国民に負担を強いることになる。また、核のごみの処分に目途が立たない中、これ以上、放射性廃棄物を生み出すべきではない。
該当箇所:p.40
意見:「世界では、原子力の利用が今後拡大する見込みであり」(p.41):世界の原子力発電は横ばいであり、世界の総発電量に占める原子力の割合は下降傾向にあるという現実からして不適切である。
該当箇所:p.41
意見:「東京電力福島第一原子力発電所事故の経験から得られた教訓を国際社会と共有する」(p.41):共有すべきは、原発の過酷事故の悲惨さや14年もたとうとしているのにいまだに故郷に帰れない人たちの思い、目途のたたない廃炉の現実である。
該当箇所:p.41
9.火力発電の延命、水素・アンモニアの脱炭素効果
意見:火力発電の「脱炭素化」による延命ではなく、火力発電からの早期の脱却をめざすべきである。
LNG火力には水素を、石炭火力にはアンモニアを混焼することで「化石燃料の脱炭素化」をしていくとするが、これには莫大なコストがかかる。また当面は化石燃料由来・海外製造の水素・アンモニアを輸入して利用する計画であり、温室効果ガス排出量は実質的に増える。一部再エネ由来の水素・アンモニアが実現するとしても、発電以外の排出不可避分野での使用に限定すべきである。
CCSについても、国内では適地が限られ、2050年までのロードマップで示される量(年間1.2~2.4億トン、日本の温室効果ガス排出量の1~2割、圧入井240~480本もしくはそれ以上)の実現はまったく見通せない。マレーシア等にCO2を輸出しての貯留も検討されており、国内外から批判の声があがっている。
水素・アンモニアやCCSに関しては、民間では支えきれないコストを政府が支援することがGX基本方針等ですでに決められ、具体的な政策策定に進んでしまっている。温室効果ガス排出削減につながらず、化石燃料の利用をむしろ延命する新技術に頼りながら火力発電を使い続けることはやめ、その資金を省エネ・再エネに振り向けるべきである。
該当箇所:p.41-43
10.鉱物資源
意見:真の「公正な」エネルギー移行のためには、国内外また陸海問わず、鉱物資源の際限ない採掘から脱却しなければならない。第7次エネルギー基本計画案では、鉱物資源等の海外権益獲得や安定供給の重要性が強調されているが、鉱物資源開発の現場で従来起きてきた自然・生態系の破壊、貴重な生物多様性の喪失、土地の収奪、人々の暮らしの破壊、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害などが、気候変動対策の名の下に繰り返されることがあってはならず、鉱物資源の可能な限りの需要削減が大前提である。このため、エネルギー・電力の需要抑制を最優先で進め、公共交通機関の利用促進、カーシェアリングなどによる自動車の削減にも積極的に取り組むべきである。
該当箇所:p.31, p62-64, p70 ほか
意見:鉱物資源開発は広大な面積の開発を伴うため、プロジェクトレベルの環境社会影響の緩和には限界がある。鉱物資源の開発を前提とするのではなく、保護価値の高い生態系に影響が及ぶ開発を行わない、先住民族や現地住民が鉱山開発を拒否する権利を保護・尊重する、企業による責任ある鉱物調達を徹底するなどの取り組みを実践していくことが重要である。
意見:第7次エネルギー基本計画案では、デジタルトランスフォーメーションやグリーントランスフォーメーションの進展に伴う電力需要増加を前提に、銅やリチウム、ニッケルなど重要鉱物の安定供給に関するリスクを日本の産業側の立場で強調している(pp.62-63)。しかし、採掘現場における自然・生態系の破壊(水質汚染、森林伐採など)や人権侵害(土地収奪、生計手段の喪失、健康被害、採掘に反対・懸念の声をあげるコミュニティへの弾圧など)など深刻な問題について、生産現場における住民や先住民族からの視点が欠如している。
該当箇所:p.31, pp62-64, p70 ほか
意見:「リサイクル資源の活用に資する方策を検討する」(p.63)とされているが、第6次エネルギー基本計画で記載されていた「リサイクル資源の最大限の活用、製錬等のプロセス改善・技術開発による回収率向上等のための投資を促進」し、「レアメタルの使用量低減技術やその機能を代替する新材料開発に向けた取組をさらに支援」といった記述は欠落している。第7次エネルギー基本計画案ではリサイクルやレアメタル使用量低減への取り組みに関して大幅に後退していると言わざるを得ない。鉱物資源の採掘現場において自然・生態系の破壊や人権侵害の回避・低減に限界があることを踏まえ、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会からの脱却を目指し、鉱物資源の使用量の低減や最大限のリサイクル活用の取り組みにより力を入れるべきである。
該当箇所:p.31, pp62-64, p70 ほか
意見:「エネルギー分野の脱炭素化に際しては、(中略)国民や産業界の理解を丁寧に得ながら進めていく必要がある」(p.15)としている。しかし、多くを海外から調達する鉱物資源開発では、現地住民や先住民族の生活が脅かされるケースが多い。特に、先住民族、農民、漁民、女性など社会的に脆弱な人々は土地収奪や健全な海洋環境を奪われるなど鉱物資源開発の犠牲になるケースが多いため、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく合意を得る必要がある。第6次エネルギー基本計画では「エネルギーの脱炭素化に当たっては(中略)エネルギー供給面のみならず、サプライチェーン全体での環境への影響も評価しながら脱炭素化を進めていく観点が重要である」とされていたが、第7次ではこうした記載がない。エネルギー政策基本法に記載のある「地球環境の保全」の視点に立ち、サプライチェーン全体における環境汚染や生物多様性の破壊、人権侵害の回避・低減という環境社会配慮上の原則を明記すべきである。
該当箇所:p.31, pp62-64, p70 ほか
意見:第7次エネルギー基本計画案では「国産海洋鉱物資源の開発」に関して、「環境影響把握等の取組を進めていく」(p.63)としている。しかし、海洋鉱物資源の乱開発による漁獲量の低下、漁業の衰退、人々の暮らしへの影響、さらには経済損失などが懸念されるため、環境影響の把握にとどまらず、環境保全のための海洋鉱物資源開発に関する規制の策定が不可欠である。。
該当箇所:pp.63-64
11.バイオマス
意見:基本的考え方(p.33)の記載は、国産バイオマスを念頭に書かれている。一方、現在、1万kW以上の大規模のバイオマス発電所の燃料は、木質ペレットやPKSで、その大部分は輸入に依存している。したがって、バイオマスを「地産地消のエネルギー源」とするのは現実と乖離がある。
該当箇所:p.33
意見:木質ペレットは、主としてカナダ、アメリカ、ベトナムなどから輸入されているが、木質ペレットの生産のために貴重な天然林が伐採されているケースも報告されている。FIT「事業計画策定ガイドライン」には、持続可能性の確認についても盛り込まれているが、その定義がなく、規定も曖昧である。森林減少・劣化の歯止めとはなっていない。森林由来のバイオマス燃料は、副産物、廃棄物に限定すべきである。また、森林・生物多様性の価値が高い地域に影響を及ぼす、人権侵害を伴うなどのバイオマス燃料は排除すべきである。
該当箇所:p.33
意見:森林由来のバイオマス燃料を燃焼させるバイオマス発電は、「カーボン・ニュートラル」ではない。伐採により減少した森林・土壌のカーボンストックが回復するとは限らず、たとえ回復したとしても数十年から数百年要するためである。FIT事業計画策定ガイドラインにおいて、最近、GHG評価についても盛り込まれたが、森林由来のバイオマス燃料生産による森林減少・劣化については評価の対象に含まれておらず、また、燃焼段階においてのCO2排出も対象外となっているため、正しい評価が行われているとはいえない。
このため、バイオマス発電を「再エネ」にカウントすべきではない。
該当箇所:p.33