フィリピン・LNGターミナル:漁民らがJBICに異議申立て「違法かつ生計手段を破壊する事業者から出資の引き揚げを」

化石燃料

 2023年12月4日、国際協力銀行(JBIC。日本政府100%出資)と大阪ガスが共同出資している企業がフィリピンで推進している「イリハンLNG輸入ターミナル事業」に関し、『環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン』(ガイドライン)に違反しているとし、地元の漁民らがJBICに異議申立書を提出しました。

 異議申立てを行ったのは、Bukluran ng Mangingisda ng Batangas(BMB:バタンガス漁民連合)とバタンガス市及び州在住の漁民リーダーの5名で、代理人として、Protect VIP(ヴェルデ島海峡を守ろう)と Center For Energy, Environment & Development Inc.(CEED)が連名しています。同日、漁民らはバタンガス市からJBICのマニラ事務所を訪問し、異議申立書を直接手渡しました。

 漁民らは、世界で最も生物多様性に富んだ海洋生息環境であり、「海のアマゾン」と呼ばれるヴェルデ島海峡(VIP)におけるガス開発事業によって、水質悪化や沿岸での土砂堆積などが起き、漁業など生計手段に影響が及ぶことを懸念してきました。

また同事業では、土地用途の転換に関する承認を得ずに開発を進めていたことからフィリピン当局が工事の停止命令を出したり、またココナッツの木の伐採許可がないまま工事が進められていたなど、違法性も指摘されてきました。

 今回の異議申立書では、JBICが同事業のフィリピン国内法違反について適切なモニタリングを怠ったことなどから、JBIC自身のガイドラインに違反していると指摘。JBICが出資先であるアトランティック・ガルフ・アンド・パシフィック(AG&P)との株主間契約を徹底的に見直し、AG&Pに対する出資持分を引き揚げる等の対応を行うべきとしています。

 >異議申立書の概要はこちら

 この日は、アラブ首長国連邦(UAE)で開催中のCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議)における「ファイナンスデー」で、日本政府に対して新たな化石燃料プロジェクトへの資金提供を停止するよう求める声も相次ぎました。JBICは気候危機を悪化させ、地域コミュニティの生活や環境にも被害を及ぼす「イリハンLNG輸入ターミナル事業」のような化石燃料開発事業への投融資を今すぐ止めることが求められています。

 以下、現地グループのプレスリリース(和訳)です。
 >プレスリリース英語原文はこちら

ガス事業への資金提供は「カワイイ」ことではない
日本の銀行に住民らが申立て

Protect VIP(ヴェルデ島海峡を守ろう)

プレスリリース

2023年12月4日

JBICマニラ事務所で異議申立書を提出するバタンガスの漁民ら(2023年12月4日)(写真提供:Protect VIP)

Bukluran ng Mangingisda ng Batangas(BMB:バタンガス漁民連合)、漁民リーダー、Protect VIPは、国際協力銀行(JBIC)のマニラ事務所で、JBICが大阪ガスと共同で1億ドルの投資を行っているアトランティック・ガルフ・アンド・パシフィック(AG&P)の行為がフィリピン国内法とJBICの投資規定に違反しているとして異議を申し立てた。

 AG&Pの現地法人であるリンシード・フィールド・パワー社は、バタンガス市で液化天然ガス(LNG)輸入ターミナルを建設したが、ココナッツの木の伐採、土地転換、環境遵守に関する許認可違反のため、Protect VIPから5件の苦情を受けている。地元の漁民は、LNG運搬船からのプリンセス・エンプレス号のような油流出の恐れや、ガス事業がVIPの生物多様性や生産性にもたらす脅威から、ターミナル事業に反対している。

 「JBICには投融資の持続可能性に関する規定があり、それはJBIC自身が課したものであるが、AG&Pへの投資を継続することで、JBICはそれに違反している。JBICが化石燃料への投融資を続けていることは、気候変動の影響を緩和するための1.5℃目標に合致していない。実際、JBICの行為は、日本が化石燃料に対する世界最大の融資国の一つであることを示している。国際金融界の主要プレーヤーである日本は、より持続可能で気候変動に配慮した未来への移行を手本となって先導する機会があるにもかかわらず、倫理的・環境的責任よりも利益を優先する道を選んでいる。」とCEEDの事務局長であり、Protect VIPの共同呼びかけ人であるジェリー・アランセス氏は述べた。

今回の異議申立てには、日本のアニメを象徴するキャラクターに扮し、「ガスはカワイくない」という横断幕を掲げたProtect VIPのメンバーも加わった。「カワイイ」とは、アニメに欠かせない日本の「かわいらしさ」の文化を指す言葉だ。

「リンシードがやっているような法律違反は何らカワイイことではないが、JBICはそれを容認している。私たちの書簡は、JBICに対し、リンシード社が現地の法律を遵守しているかモニタリングすることを怠り、JBICの規定に基づいて事業の環境影響を適切にカテゴリ分類することを怠り、JBICガイドラインで求められている措置を講じなかったことを指摘するものだ。評判の高い国際金融機関として、このような透明性と説明責任の欠如は問題である。私たちは、JBICが法律上の不備について説明責任を果たし、気候変動問題への取り組みを大きく後退させる化石燃料への資金提供から最終的に撤退することを強く求めます。」とアランセスは付け加えた。

 Protect VIPは、JBICがリンシードへの支援を継続することで、同社が建設や操業において地元の環境規制をより一層かいくぐれるようになることを懸念している。

「東ミンドロ州に壊滅的な打撃を与えた油流出は、法律を尊重しないことが、環境と地域の人々に深刻な結果をもたらしうることを示している。LNGは危険な積荷であり、今後VIPを経由しなければならず、環境に脅威をもたらすと同時に、地元の人々の生活様式と生計手段を阻害することになる。私たちはJBICに対し、自らの環境ガイドラインに従い、リンシードへの資金提供を中止するよう強く要請します。」とProtect VIP呼びかけ人のエドウィン・ガリゲス神父は述べた。

地元の漁民もガリゲス神父の懸念に同調し、VIPに多くのガス事業が存在することは、プリンセス・エンプレス号の油流出によってすでに深刻な影響を受けている彼らの生計手段にさらに影響を及ぼすだろうと付け加えた。

「VIP周辺に建設中のガスターミナルや発電所の影響が懸念されます。 漁師たちはすでに油流出の影響から立ち直るのに苦労しているが、ターミナルにLNGを運ぶ大型船によって、このリスクはさらに高まるだろう。 私たちは、JBICが出資する企業のせいで破壊されるかもしれない生計手段も考慮してくれるようお願いしている。」とバタンガス漁民連合のウィルマ・グレゴリオ氏は語った。

 

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