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CCAMLR第37回総会開催に向けてASOCがCCAMLRに提出した9つの文書
2018年10月18日
南極南大洋連合(ASOC)では2018年10月22日~11月2日までオーストラリア、タスマニアにて開催される南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)第37回総会に向けて、9つの文書を提出し、2020年までに南極海の代表的なMPAシステム設立の決定を目指し、事態を早急に進展させることを訴えました。
それら文書の要旨と1つの文書(全文)の和訳を以下に紹介します(FoE Japan仮訳)。
<文書一覧>
■CCAMLR-XXXVII/BG/26:CCAMLRと気候変動:緊急行動の必要性
■CCAMLR-XXXVII/BG/35:極海コードのためにエンジン全開-漁船向け安全措置の策定と海獣忌避措置の実施
■CCAMLR-XXXVII/BG/36:代表的な海洋保護区システムの構築というCCAMLR公約の実現に向けて
⇒全文(仮訳)はこちら
■CCAMLR-XXXVII/BG/37:CAMLR条約海域における漁獲の海上積み替えに対するCCAMLRによる監視のギャップをなくすために
■CCAMLR-XXXVII/BG/40:CCAMLRに対するASOCの報告
■SC-CAMLR-XXXVII/BG/17:生態系に基づくナンキョクオキアミ漁の予防的管理:未完の事業
■SC-CAMLR-XXXVII/BG/18:マイクロプラスチックという新たな脅威に対する南極海での対応
■SC-CAMLR-XXXVII/BG/28:CCAMLRによる研究目的および試験操業目的の漁業:学術研究を装った商業漁業
■SC-CAMLR-XXXVII/BG/29:CCAMLRの科学は時代に追いついているか?
■ CCAMLR-XXXVII/BG/26:CCAMLRと気候変動:緊急行動の必要性
【要旨】
CCAMLR加盟諸国は、気候変動が南極海の生態系にとって深刻な脅威であると認めたものの、CAMLR条約海域における気候変動への対応として包括的な措置を導入するには至っていません。本議題でASOCは、今年発表された2つの重要な科学論文について取り上げます。気候変動が続く中、南極の、そしてこの地球全体の将来がどのようなものになるかというシナリオを、専門家が提言したものです。これらの論文では、気候変動に何の対応も行わないことが招く劇的な結末について明らかにされただけでなく、今すぐに適切な政策が講じられれば、そうした結末はまだ防ぐことができる、ということも強調されています。ただ、世界の国々が行動を起こすべき期限は急速に迫ってきています。気候変動への対応は地球全体として調和のとれたものとすべきであり、CCAMLRはもちろん、あらゆる統治組織がそれぞれの役割を果たすとともに、他の取り組みとの融合を図ってゆかなければなりません。したがって、ASOCはCCAMLRに対し、以下を行うよう勧告します。
- 他の国際組織・機関との連携を強化する。
- 気候変動への配慮を決定および措置事項に組み入れる。
- 包括的な気候変動戦略と作業プログラムを実施する。
- 海洋保護区(MPA)ネットワークを指定する。
■ CCAMLR-XXXVII/BG/35:極海コードのためにエンジン全開-漁船向け安全措置の策定と海獣忌避措置の実施
【要旨】
本議題では、漁船を含む非SOLAS船について国際海事機関(International Maritime Organization:IMO)が行っている安全措置策定の進捗状況をまとめ、極海コードに基づく海獣忌避措置の施行に関する最新の考察について検討します。ASOCは、南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(Commission for the Conservation of Antarctic Marine Living Resources:CCAMLR)およびその加盟諸国に対し、以下を実行するよう求めます。
- IMOによる、極海コード下の漁船を含む措置の策定を支援する。
- ケープタウン協定を批准する。
- CCAMLR決議20/XXIIを保護措置に格上げし、ライセンス対象を最低耐氷クラスICE-1C以上の船舶に限定するようCAMLR加盟諸国に義務付ける。
- 海獣忌避計画におけるIMOと南極条約体制との協力拡大に貢献するよう、SC-CAMLRに求める。
- 海獣に関するデータの適切な収集・解析方法と、データを関連する利害関係者に利用可能とし、かつ利用されるようにする最善の方法について助言するよう、SC-CAMLRに求める。
■ CCAMLR-XXXVII/BG/36:代表的な海洋保護区システムの構築というCCAMLR公約の実現に向けて
⇒全文(仮訳)はこちら
【要旨】
代表的な海洋保護区(marine protected area:MPA)ネットワークを設立すると、南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)が初めて公約したのは2009年のことです。本議題では、この公約実現に向けたCCAMLRの今日までの歩みの概要を示します。ロス海MPAの採択および発効の実現から間もない今、ASOCはCCAMLRに対し、2020年までに南極海の代表的なMPAシステム設立を決定すべく、事態を早急に進展させるよう求めます。具体的には、CCAMLRが本年中に以下を実現するよう勧告します。
- MacRobertson、Drygalski、及びD’Urville Sea-Mertz海域を含む東南極海域MPA案を採択する。
- ウェッデル海MPAを、境界線を変更することなく採択し、これまでにSC-CAMLRおよびWG-EMMにより支持されているとおり、ウェッデル循環の生態学的境界を包含するMPAとする。
- 海域1のMPAの採択に向け、すべての重要海域における禁漁区指定も含め、業務をさらに進展させ、保護目的が確実に達成されるようにする。
- 既存のMPAについて、引き続き研究およびモニタリング計画の策定、実施を行う。
■ CCAMLR-XXXVII/BG/37:CAMLR条約海域における漁獲の海上積み替えに対するCCAMLRによる監視のギャップをなくすために
【要旨】
本議題でASOCは、漁獲の海上積み替えについて、CCAMLRの規定を強化する機は熟したと主張します。漁獲の積み替えをめぐっては「大きなギャップ」の存在が、CCAMLRの第2回業績評価により指摘されています。CCAMLR加盟諸国は、その勧告に基づき行動するよう求められます。CAMLR条約海域における現行の積み替え規定は、世界各地のRFMOのものと比較すると、最高水準とは言えないものです。ASOCは、過去の提案を足掛かりとし、以下の規定を伴う保護措置を採択するようCCAMLRに勧告します。
- 包括的かつ公表されているCCAMLRの公認輸送船記録の確立。
- 輸送船を適用対象とする「モニタリング、規制、及び監視(Monitoring, Control and Surveillance:MCS)」パッケージの策定。
- すべてのCCAMLR漁業への適用。
- すべての漁獲積み替えに関する情報を事務局に報告するよう義務付け。なお事務局は、CAMLR条約海域内で発生した積み替えに関する情報を掲載した年次報告書をSCIC用に作成。
■ SC-CAMLR-XXXVII/BG/17:生態系に基づくナンキョクオキアミ漁の予防的管理:未完の事業
【要旨】
南極半島では気候変動による多大な影響が認められる中、ナンキョクオキアミ漁は拡大しつつあります。気候変動と海洋酸性化は、海洋生態系に劇的な影響を及ぼす可能性があり、特にオキアミはほぼ確実に影響を受けるでしょう。したがって、保護目的に沿ってオキアミ漁の予防的管理を強化することはCCAMLRの責務です。本議題ではオキアミ漁に関する最新情報を示し、オキアミ漁管理における気候変動への配慮について考察し、オキアミの研究や、生態系に基づく管理、モニタリング、混獲、および法令遵守など、オキアミ漁に関連する重要な側面について取り上げます。結論として、これら一つ一つの課題について状況を進展させるための様々な勧告を提示しています。CCAMLRに対するASOCからの勧告の内容は以下のようなものです。
- 漁業管理に気候変動に関する情報を取り入れる。
- オキアミ生物量について最新の推定値を求める。
- オキアミ漁に関する生態系に基づく管理措置をさらに充実させるための詳細な作業計画と作業日程に合意する。
- CCAMLR生態系モニタリングプログラム(CCAMLR Ecosystem Monitoring Program:CEMP)を見直し、生態系全体をより正確に反映したものとする。
- 混獲の特定状況を改善し、かつ混獲を最小限に抑制するための基準を策定する。
- より正確で一貫した漁獲報告方法を策定し、より精密な2時間おきの報告とする。
■ SC-CAMLR-XXXVII/BG/18:マイクロプラスチックという新たな脅威に対する南極海での対応
【要旨】
南極海におけるマイクロプラスチック汚染という新たな課題の研究が進み、南極の複数の海域でマイクロプラスチックが検出されています。マイクロプラスチックは生態系に負の影響をもたらすおそれがあり、特にオキアミ類や魚類が飲み込んでしまうと深刻な影響があるかもしれません。本議題においてASOCはCOLTOとともに、既存の研究結果をまとめ、マイクロプラスチック汚染の低減策として洗濯排水をろ過する方法などを解説します。両団体はさらに、以下のように勧告しています。
- 現在稼働中のすべての船舶および研究施設において、生活排水や洗濯排水を通じて環境に放出されるマイクロプラスチックやマイクロファイバーの発生源となり得る物品を制限する方法を検討する。一部の漁船では、マイクロプラスチックやマイクロファイバーの海洋への放出を低減するための新しい技術がすでに導入されています。
- CCAMLR加盟諸国およびオブザーバーは、SC-CAMLRとともに、SCARアクショングループが設立されたことに留意し、マイクロプラスチックの研究に参画する機会を探る。
- CCAMLRが採択した海洋保護区(MPA)の研究およびモニタリング計画には、さらなる研究を要する分野としてマイクロプラスチック汚染を盛り込むべきである。
■ SC-CAMLR-XXXVII/BG/28:CCAMLRによる研究目的および試験操業目的の漁業:学術研究を装った商業漁業
【要旨】
本議題では、保護措置24-01のもとで行われる研究、ならびに試験操業漁業に関する保護措置が、CAMLR条約の目的に適合していない、というASOCの懸念に着目します。研究目的および試験操業目的の漁業活動は、対象魚種や生態系への影響に関する知見を広げるようなものではなく、南極の海洋生物資源の未来を危険にさらしています。CAMLR条約海域における研究目的および試験操業目的の漁業への取り組みに対しては、第2回業績評価や科学委員会の複数の作業グループからも懸念の声が上がっています(SC-CAMLR XXXVI/01、SC-CAMLR XXXVI、WG-SAM-18)。ASOCでは、こうした懸念に対処する必要があると強く支持しており、CCAMLRに対し以下のように勧告します。
- 海域別に高水準の戦略を立て、海域別の目的や、優先事項、研究計画、報告要件などの詳細を示す。
- 研究目的や、新規操業、および試験操業の漁業について、CM 24-01に基づく研究目的の漁業を非商業的の研究調査に限定することも含め、明確な基準要件を確立する。
- 現行および将来の新規操業または試験操業漁業活動を、海域別に設定された優先研究事項と整合させる。
■ SC-CAMLR-XXXVII/BG/29:CCAMLRの科学は時代に追いついているか?
【要旨】
環境に新たな変化が出現し、それら変化に伴い最新の科学的知見が発展し、予防技術や軽減技術が進歩し、中には「CCAMLRクラブ」の部外者である専門家が開発した手法もあるという現状を踏まえ、本議題では、CCAMLRによるCCAMLR保護措置の定期的レビューおよび更新に関する処理能力と献身性に対し、疑義を呈します。事例として、VMEの保護、そして海洋ゴミとプラスチック汚染の軽減という、2つの課題について検討しました。その結果、関連する管理措置が最新の環境条件を反映し、最新の知識または利用可能な最善の科学的知見に基づいたものであるためには、どちらの場合も直ちに見直しを行わなければならない、との結論に達しました。そこでASOCはCCAMLRに対し、以下を勧告します。
- 1年または2年に1回のように自動的な更新が行われない保護措置について、定期的な見直しを行うようにするプロセスを導入する。
- CCAMLR加盟諸国の懸案事項について、関連分野の国際的な専門家による幅広い参画を促す。
- 影響と軽減方法に関する最新の科学的知見が反映されるよう、現行のVME関連保護措置とプロセス、および海洋ゴミに関するガイドラインの見直しと更新を早急に行う。