南極保全
岐路に立つ南極海洋保護―前進には日本の関与が不可欠
2012年 10月31日
本日のThe Japan Times に、南極・CCAMLRと日本に関する記事が掲載されました。
原文記事はこちら
>https://www.japantimes.co.jp/text/eo20121031a3.html
<和訳>
岐路に立つ南極海洋保護:前進には日本の積極的な関与が不可欠
柳井真結子、クレア・クリスチャン
「南極」と聞いて連想されるものといえば、ペンギンや巨大な氷山といったところでしょう。本当のところ、南極海にあるものはそれだけではありません。世界中の海洋面積の10%を占めるこの海には、実に10,000種もの多様な生物が暮らしています。そこにはまた、生態学的にたぐいまれなる希少価値を持つ環境も多く存在します。例えばロス海は、地球上で最も自然本来の姿を保った海洋生態系であると評価されています。
ロス海がこのように評価されることは大変重要です。ロス海も人間活動から完全に隔離されてきたわけではないものの、その食物網は何世紀も前からほぼ変わらぬ状態を保っています。面積としては南極海のほんの2%を占めるにすぎませんが、ロス海に棲む動物たちの生息数を見ると、コウテイペンギン世界総数の4分の1以上、アデリーペンギンでは世界総数の約3分の1、南太平洋に棲むウェッデルアザラシの半数近くなど、膨大なものです。科学的知見という観点からも、このように手つかずの、勢力ある海洋生態系を研究できるような場所は世界でも大変珍しく、非常に貴重な海域です。この事実を反映して、ロス海大陸棚および大陸斜面を海洋保護区に指定するという提案に対し、これまでに世界の500人以上の科学者が賛同しています。
南極海でもうひとつ注目すべき海域に、南極大陸東沿岸域があります。この広大な海域もやはり多くのペンギンやアザラシ、クジラの生息地です。海底の地形や海洋学的な特徴も希少なものであり、高い生物多様性を支えています。この南極東岸海域にも海洋保護区を設立するという案がありますが、この案には生物多様性ホットスポットである海山域や、3種のアザラシや25種もの海鳥の採餌場として名高いプリッツ湾付近といった重要な海域が含まれていません。
こうした南極海の保護は今週、まさに岐路に立たされています。豪タスマニア州ホバートにおいて11月1日までの日程で、南極の海洋生態系の未来を左右する決断をなす国際会議が開催されており、24の国およびEUの政府代表が討議を進めているのです。この南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR(カムラー))会議には、日本も加盟国として通常通り参加しています。南極海の資源管理を担うCCAMLRはこれまでに、2012年を南極海洋保護区ネットワーク構築開始の初年度とすると宣言しています。そのため加盟諸国はロス海保護区案や南極東岸保護区案をはじめとする複数の海洋保護区指定案について今、審議しています。
このような海洋保護区ネットワークの設立が実現すれば、海洋保護全般にとって大きな前進となります。陸地としては世界の10%がすでに保護区指定されているのに比べ、海洋で保護されている部分は世界全体の海の2%にも達していません。海洋保護の推進は2002年に行われた持続可能な開発に関する世界首脳会議(地球サミット)でも議論され、代表的な海洋保護区ネットワークを2012年までに設立するという目標に各国代表が合意しました。ロス海および南極東岸海洋保護区が設立にこぎつけることは、この合意の実現に向かう貴重な第一歩なのです。
南極海は食糧を、雇用の機会を、そして観光など娯楽の場を、世界中の人々に与えてくれるところでもあります。南極海の保護実現のために、CCAMLR加盟諸国は今、強い指導力を発揮するチャンスを迎えています。けれども、加盟国の中には海洋保護区設立に難色を示す国もあります。その背景には漁業活動の制限や、保護区指定および維持管理にかかるコスト、非加盟国による活動などの問題のほか、科学的根拠が不足しているという見方もあります。保護区支持派はこれに対し、南極海における海洋保護の必要性は膨大な科学研究に基づき裏付けられていること、また海洋保護がそこでどれだけ有益であるかということを明示するべきです。科学者の意見では、海洋保護区の存在は海洋生態系の健全性を保つために不可欠とされています。
今回のCCAMLR会議に関しては、多くの市民団体や連盟組織が、地球市民の注目を集めるよう働きかけています。会議は非公開で、市民団体の参加は厳しく制限され、メディアは出入り禁止です。南極海連盟(AOA)はオンライン署名活動「CCAMLRウォッチ」に取り組んできており、リチャード・ブランソンなど著名人からも支持を獲得しています。AOAは南極南大洋連合(ASOC)と共に、海洋保護区設立がもたらすメリットについて多数の文献を発表してきました。また最近、俳優レオナルド・ディカプリオも政策提言団体アバーズ(Avaaz.org)によるオンライン署名活動を通じ、南極海の保護に賛同する人々の署名を100万人近くから集めています。
南極の海洋生態系の保護を実現するチャンスは今です。世界中でシーフードに対する需要が高まり、また気候変動によりクジラやアザラシ、そしてペンギンなど海鳥たちの生息地やエサに悪影響が見られるなど、南極海への脅威は増大しつつあるのです。
このところ、日本政府の態度は海洋保護区案を支持する方向に向いています。今回の会議で日本はリーダーシップを見せ、保護区案に賛成票を投じて、正しい決断をすべきです。南極海という貴重な海洋生態系の保護を現実のものとするため、主導権を発揮するのは今なのです。
柳井真結子は国際環境NGO FoE Japan 気候変動・南極問題担当者です。クレア・クリスチャンはASOC事務局長です。環境NGOのASOCは、CCAMLRでオブザーバー権(投票権はないが傍聴および発言ができる)を持つ唯一の市民団体です。
(翻訳:ASOC 沼田 美穂子)