採掘の影響にさらされるコミュニティの拒否する権利の明言化を!国連パネルへ提言を送付
2024年5月、国連事務総長の直下組織として「エネルギー・トランジションにかかわる重要鉱物(CETM)に関するパネル」が招集され、CETMの確保・安定供給だけでなくサプライチェーンにかかわる環境・人権問題の予防策まで検討することがそのミッションとして位置づけられました。
このパネルに対し、国際環境NGO FoE Japanは鉱物サプライチェーンに関して共同調査を重ねているアジア太平洋資料センター(PARC)と共に、採掘の影響にさらされるコミュニティの採掘事業を拒否する権利と「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」の取得に関する提言を提出しました。
提出された原文は英文になりますが、下記に日本語訳を掲載します。
国連事務総長による「エネルギー・トランジションにかかわる重要鉱物(CETM)に関するパネル」への提言
2024年7月29日
FoE Japanとアジア太平洋資料センター(PARC)はエネルギートランジションに重要な鉱物(CETM)の採掘により影響を受けうるコミュニティには採掘プロジェクトを拒否する権利があると確信しています。また、そのような権利はパネルの言うところの「持続可能で、責任ある公正なバリューチェーン」を検討する際に尊重され、明示的に強調されるべきであると考えます。
FoE JapanとPARCは日本の市民社会組織であり、日本企業によるグローバルサウスでの事業展開によって生じる人権侵害や環境破壊の影響を調査し、その影響を受けるコミュニティの支援を行うとともに、改善状況の評価や予防的政策提言を行ってきた組織です。両団体ともに数十年に及ぶそのような開発現場での経験に基づいて下記の点を述べたいと思います。
エクアドル、インバブラ県のフニン村ではコミュニティが繰り返し領地内での採掘への反対姿勢を示していたにも関わらず30年に渡って採掘の脅威にさらされました。村の人びとは採掘のもたらしうる生命と暮らしへの影響を自ら学び、集団的意思決定を行いました。しかし、採掘事業者からの介入、暴力を匂わせる脅迫と実際の警察や民兵組織による暴力行為を通じた圧力を受け続けました。絶え間なく押し寄せる威圧行為は採掘行為が行われるに至る前からコミュニティ内の関係性を修復不可能な形に変質させ、根本的に村での暮らしを変えてしまいました。コミュニティははっきりと採掘プロジェクトへの反対意思を示しており、それは揺らがないものでした。しかし、計画されていた鉱山が裁判にて白紙に戻された時点で、すでにコミュニティは被害を受けています。
最近の事例ではインドネシア南スラウェシ州のロエハ村の住民は付近の鉱山が自分たちの胡椒畑へ拡大される危険にさらされていますが、住民は暮らしを支えてきた農地への鉱山の進出に対して声高に拒否の姿勢を示しています。にもかかわらず、採掘プロジェクトにかかわる従業員らは住民に事前に知らせたり協議したりすることも一切ないまま、まさに農地の中に重機を持ち込み始めました。この行為と探査作業によってすでに農産物そのものや収穫後の作業に負の影響をもたらしており、コミュニティの中での不要な対立関係を作り出し、人びとを戦々恐々とさせています。自分たちが生活を営んでいる地域内でのニッケル採掘に明確かつ強固な反対姿勢を示しているにもかかわらずです。
採掘事業者は影響を受けるコミュニティとの間で長期戦に持ち込むべきではありません。長期化した対立はコミュニティ内の関係性を破壊し、明らかに不要な心身への負担をコミュニティのメンバーに課すことになります。コミュニティがCETMの採掘に対して反対の意思を示したならば、それは即時拒否する権利の行使として認識されるべきです。その時点からの介入行為は「自由意思による十分な情報に基づく事前の同意(FPIC)」の原則に違反するものとしてとらえられるべきです。さらに、グローバルな採掘事業者はしばしば農村地域の発展途上にあるコミュニティを圧倒するリソースを保持しています。ゆえに、コミュニティからの明確な反対が示された場合にはプロジェクトの速やかな撤退にて対応すべきです。
私たちはまた、権利者はしばしばその権利を慣習的な方法で有していることを指摘します。採掘事業は土地に関する権利が曖昧であるか、あるいは法的に定められていない辺鄙な場所にて進められる傾向があります。また、土地権が定められている場合でも、それは慣習的な利用と一致せず、競合する場合が多く見られます。そのため、FPICの義務に関しては慣習的な土地所有・利用を尊重することの重要性を強調したいと思います。
私たちは、パネルが招集された際の背景文書において、需要を減らす取り組みや代替鉱物の検討、リサイクルなどの手段が、少なくとも短期的には、グローバルなCETM需要を満たすのに十分ではないと認識されていると理解しています。しかしながら、私たちはそのような不足を補うためにCETMの採掘によって影響を受けるコミュニティに負担のしわ寄せが来ることはあってはならないと考えます。そうしたコミュニティはほとんどの場合、最も気候危機に加担してこなかった人びとです。グローバルなCETM需要に対応しきれないことによって生じる影響は、まずもってこれまでに最も温室効果ガスを排出してきた人びとの間で対処するべき問題です。
これはグローバルノースでは好まれないでしょうし、化石燃料への依存度の高いところでは経済的な混乱ももたらすかもしれません。しかしそれらの経済基盤を持つ人びとは何十年も警告されてきました。その対応への遅さが、採掘の影響を受けうるコミュニティの犠牲によって補われるようなことがあってはなりません。
背景文書はまた、鉱業セクターがハイリスク産業であることを認めています。コミュニティは影響を危惧し、予防原則に基づいて採掘行為を防ぎたいと思う正当な権利があります。私たちはそのようなコミュニティのCETM採掘を拒否する権利が強調され、「持続可能で責任ある公正なバリューチェーン」の重要要素であると認められることを提案します。さらに、この権利が慣習的地権者にも適用されることを提言します。
また、コミュニティの個々人への利益供与、インフラ開発事業などのオファーや採掘事業者における雇用の呼びかけなどは自由意思を妨げるものであり、「自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)」の原則に反するものであると明示されることも求めます。過度に長期間にわたってコミュニティの意思決定に介入する行為は、それ自体がコミュニティの拒否する権利を侵害するものであると非難されるべきです。
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