インドネシア・ソロワコ・ニッケル開発の拡張計画についてVale主要株主に書簡提出「国際規範に沿わない探査の再開はストップして!」

 2023年8月、FoE Japanはインドネシア環境フォーラム(WALHI)南スラウェシ等とともに、親会社であるValeの主要株主(Capital Group、Previ、三井物産、BlackRock)及びPT Vale Indonesia (PTVI)の主要株主(住友金属鉱山、ノルウェー政府)に対し、ソロワコ・ニッケル開発の影響を受ける現地コミュニティの人権を保護するため、迅速かつ適切な措置を講じるよう、PTVIへのエンゲージメントを求める要請書(23ヶ国104団体が賛同)を提出していました。それ以降、すでに半年以上が経過しましたが、現地での問題の根本的な解決には依然として至っていない状況が続いています。

 特に、PTVIが採掘を拡張しようとしているタナマリア鉱区では、中断されていた探査活動がこの3月にも再開されるとの情報が現地で流れており、農家や女性は不安を抱え、現地の緊張感も高まっています。

 本日、FoE Japan、WALHI南スラウェシ、WALHI、アジア太平洋資料センター(PARC)の4団体は、Valeの主要株主に再び書簡を提出し、自分たちの胡椒畑を守ろうと抗議の声をあげている農家や女性へのPTVIの対応が、移転と補償措置に関してValeが遵守するとしている世界銀行グループ国際金融公社(IFC)の「環境と社会の持続可能性に関するパフォーマンス基準」(PS)に違反している点を指摘。株主として、PTVIが国際規範に沿わない探査活動や採掘活動を行うことがないよう、しかるべき対応をPTVI/Valeに対して行うよう要請しました。

 詳細は以下の要請書(FoE Japanによる和訳。原文は英語)をご覧ください。(PDFはこちら

ソロワコ・ニッケル開発事業地周辺における現地コミュニティの基本的人権に関する最新状況について

2024年2月27日

Vale/PT Vale Indonesiaの主要株主の皆様へ

私たちが2023年10月にソロワコ現地での人権状況をあなた方にお伝えして以降、4ヶ月以上が経ちましたが、その間、依然として現地での問題の根本的な解決には至っていないことについて、私たちは深い憂慮の念をお伝えします。

中でも、私たちの最大の懸念は、現在、中断されているPT Vale Indonesia (PTVI)によるタナマリア鉱区における探査活動がこの来る3月にも再開されるとの情報が現地で流れていることです。

PTVIのタナマリア鉱区における探査活動の許可(IPPKH: Ijin Pinjam Pakai Kawasan Hutan/森林地域借用使用許可)は2023年10月3日に期限が切れていると理解しています。新たな許可の発行状況については、依然として当局である環境林業省(KLHK)に照会中ではありますが、私たちは、以下に述べるとおり、PTVIがタナマリア鉱区における探査活動も採掘活動も行えるような状況は整っていないことを強調します。

まず、PTVIはロエハ・ラヤの胡椒栽培に従事する農家や女性との適切かつ有意義で、双方向の話し合いの場を依然として持ってきていません。こうした場が設けられるよう、私たちはあなた方株主にPTVI/Valeへのエンゲージメントを行うよう要請してきたにもかかわらずです。

PTVIのロエハ・ラヤの農家や女性へのこのような対応は、移転と補償措置に関してValeが遵守するとしている世界銀行グループ国際金融公社(IFC)の「環境と社会の持続可能性に関するパフォーマンス基準」(PS)に関し、少なくとも以下の表で示した点において違反しています。

IFC PSの該当箇所及び規定内容IFC PSに違反している現場の状況
PS 1「環境社会リスク影響の評価と管理」
 
ステークホルダーエンゲージメント
 
パラ26
・ステークホルダー分析を行うこと
 
パラ27
・社会的に脆弱な被影響コミュニティが効果的に参加できるよう配慮したステークホルダーエンゲージメント計画を策定・実施すること
・PTVIは2022年初頭に探査を始める前から現在まで、女性を含むコショウ農家や農業労働者、そしてコショウ関連の経済活動に従事する人びとなど多くのステークホルダーの把握や分析をできていない。
 
・PTVIは2022年初頭に探査を始める前から現在まで、女性や農業労働者など社会的に脆弱な立場におかれているコミュニティが協議や意思決定プロセスに適切に参加できるような配慮を行えていない。
PS 1「環境社会リスク影響の評価と管理」
 
情報公開
 
パラ29
・(i) 事業目的・性質・規模、(ii) 提案されている事業活動の期間、(iii) コミュニティに対するリスク及び潜在的な影響と緩和策、(iv) 想定されるステークホルダーエンゲージメントのプロセス、(v) 苦情処理メカニズムといった関連情報への被影響コミュニティのアクセスを確保すること
・PTVIは2022年初頭に探査を始める前から現在まで、左記(i)~(v)に係る情報の適切な公開をコショウ農家らに対して行ってきていない。
PS 1「環境社会リスク影響の評価と管理」
 
協議
 
パラ30
・事業のリスク、影響、緩和策について、被影響コミュニティが意見を表明する機会を提供し、事業者がそれら意見を考慮して対応できるような方法で、協議プロセスを実施すること
 
・被影響コミュニティとの効果的な協議は、外部からの操作、干渉、強制、脅迫のない双方向のプロセスであることが必要
・PTVIは2022年初頭に探査を始める前から現在まで、コショウ農家らが意見を表明できる適切な機会を提供できていない。
 
・PTVIは抗議の声をあげているコショウ農家らに対する軍人や警察官の関与を許容する形となっており、双方向のプロセスによる効果的な協議を行うための素地を損ねている。
PS 1「環境社会リスク影響の評価と管理」
 
情報を提供した上での協議及び参加
 
パラ31
・情報を提供した上での協議及び参加プロセスの実施
 
・協議プロセスは、必要であれば、個別のエンゲージメントを通して、男性及び女性の両者の意見を把握し、適切であれば、影響、緩和メカニズム、便益に関する男性及び女性の異なる懸念や優先事項を反映すること。
・PTVIは2022年初頭に探査を始める前から現在まで、コショウ農家らへの適切な情報提供をできておらず、また適切な協議や参加の機会も提供できていない。
 
・PTVIは2022年初頭に探査を始める前から現在まで、特に女性の農家らに配慮した協議や参加の機会を提供できていない。
IFC PS 5「用地取得及び非自発的住民移転」
 
目的
 
・代替案の検討を通じて移転を回避すること。回避が可能でない場合には、移転を最小化すること
・PTVIは農家の立退きを前提とした対応しかとっておらず、農家の移転や生計手段の喪失をまず回避するという努力を怠っている。

ロエハ・ラヤの胡椒農家や女性は一貫して、PTVIの鉱区から彼らの胡椒畑が除外されることを切に願っており、その要求は今も変わっていません。あなた方は株主として、PTVI/Valeが国際規範に沿わない探査活動や採掘活動を行うことを看過すべきではありません。私たちはあなた方がしかるべき対応/エンゲージメントをPTVI/Valeに対して行うことを要請します。

一方、アスリ村の住民が生活用水/飲料水として利用していた湧水の汚染については、PTVIが用意した井戸からの水配給が開始されていますが、清潔かつ安全な水を必要としているすべての世帯には同水が届いていない状況が続いています。住民からは再三新たな井戸の設置を求める声がPTVIに対して上げられているとのことですが、PTVIの対応は再度遅々としたものに留まっています。

上述のタナマリア鉱区における状況及びアスリ村の状況については、Vale Base Metalsの指示を受けたコンサルタント会社 (twentyfifty Ltd)が2023年11月にソロワコ地域を訪問し、コミュニティとの面談を行ったと理解しています。そして、ロエハ・ラヤの農家と女性、またアスリ村の住民の要求事項は、同コンサルタントがしっかりと把握し、Vale Base Metalsにも伝えられているはずです。

あなた方株主にも、PTVI/Valeを通じて、すでに同コンサルタント会社の調査内容や結果は共有されているのでしょうか。同コンサルタント会社が聞き取った住民の意見が正確に記述・報告され、同コンサルタント会社が住民のための提言を行っているか、住民自身を含め、第三者が精査できるよう、同コンサルタント会社の調査報告書は公開されるべきです。あなた方株主としても、PTVI/Valeが同報告書を公開するよう、しかるべきエンゲージメントを行ってください。

そもそも、私たちがコミュニティから聞いた話によれば、同コンサルタント会社の独立性や調査方法には問題点が散見されます。まず、同コンサルタント会社の調査がValeからの指示を受けたもので、調査費用もValeが賄っているのだとすれば、その時点で、同調査の独立性が疑われます。また昨年11月の調査にあたり、同コンサルタント会社は、ある住民グループとの面談の調整をPTVIを通じて行ったり、PTVIの所有する交通手段を利用したり、(面談そのものには立ち会わなかったものの)警察等の当局が同行したりしていたとのことです。さらに訪問期間が限られていたことから、一部の農家や住民のみとの面談に終わってしまい、より多くの農家から意見を聴取するなどより包括的な調査を行うことは難しかったでしょう。

したがって、私たちは、PTVI/Valeの株主であるあなた方が、PTVI/Valeの説明や同コンサルタント会社の報告書を鵜呑みにするのではなく、現場の状況や住民の意見・要望を慎重に精査するよう要請します。株主として、PTVI/Valeが国際規範に沿わない探査活動や採掘活動を行うことがないよう、しかるべき対応/エンゲージメントをPTVI/Valeに対して行うことを強く要請します。私たちは、4月に開催される定時株主総会で、あなた方株主が(PTVI/Valeに)当該問題について説明責任を果たすよう求める一方で、タナマリア鉱区における探査が3月に開始される予定であると伝えられており、緊急の対応が迫られていることも改めて強調します。

WALHI South Sulawesi
Wahana Lingkungan Hidup Indonesia (WALHI / FoE Indonesia)
国際環境NGO FoE Japan
アジア太平洋資料センター(PARC)

【連絡先】

WALHI South Sulawesi (Muhammad Al Amin, Executive Director)
Add: JL. Aroepala, Kompleks Permata Hijau Lestari Blok Q1, No.8, Rappocini, Kota Makassar, Sulawesi Selatan 90221
Email: muhammad.al.amien@gmail.com / walhisulsel@gmail.com
Tel: +62-8229-3939-591

国際環境NGO FoE Japan(担当:開発金融と環境チーム 波多江)
住所: 1-21-9 Komone, Itabashi-ku, Tokyo, Japan 173-0037
Email: hatae@foejapan.org
Tel: +81 3 6909 5983


 

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