インドネシアNGOがニッケル製錬所における労働者の死傷事故を受け、ニッケル生産の停止を要請 ― 労働者の権利擁護を!

開発と人権

日曜日(12/24/2023)、中スラウェシ州のモロワリ県にあるモロワリ工業団地(IMIP)で爆発が発生。火災を起こしたITSS社所有の溶鉱炉から炎と濃い黒煙が出ているのが目撃された。(写真:WALHI中スラウェシのウェブサイトより)

 2023年12月24日の早朝5:30頃(現地時間)、インドネシア中スラウェシ州にあるモロワリ工業団地(IMIP)において、ニッケルを生産するための溶鉱炉で爆発事故が起き、12月27日までに19名(インドネシア人11名、中国人8名)の労働者の死亡が確認されています。また40名以上が重軽傷を負い、現在も治療中との情報もあります。犠牲となられたすべての労働者とご家族の方々に心より哀悼の意を表します。

 今回事故が発生したニッケル製錬所(ニッケル銑鉄の製造施設)は、中国のステンレス鋼大手の青山鋼鐵集団が主導するIndonesia Tsingshan Stainless Steel社(ITSS)が所有するもので、日本の阪和興業も出資しています(出資比率10 %)。阪和興業は、同じくIMIPで操業するIndonesia Guang Ching Nickel and Stainless Steel Industry社(ニッケル銑鉄)及びQMB New Energy Materials社(電池材料向けニッケルコバルト混合水酸化沈殿物(MHP)の製造)にも出資しています(各々5%及び8%)が、前者では今年4月27日にも2名の労働者が亡くなる事故が起きていました。(*この他、IMIPにおいて、阪和興業はDexin Steel Indonesia社の製鉄事業にも10%出資している。)

 自社グループの安全衛生方針で「労働災害による死亡事故ゼロ」を目標に掲げ、人権方針でも国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を支持、尊重するとしている阪和興業が、この4月以降、出資先での労働者の人権保護のために適切な対応をとってきたのかが問われます。

 また中スラウェシ州では、IMIP以外のニッケル製錬所でも死傷事故が相次いで起きていることから、現地NGOは以下の声明にあるとおり、モロワリ県及び北モロワリ県におけるニッケル生産を直ちに停止し、事故に係る徹底的な調査・評価と結果の公開をインドネシア当局等に要請しています。同地域で複数の事業に出資してきた阪和興業にも、こうした現地の声に真摯に耳を傾け、ITSSの製錬所のみではなく、他の製錬所の稼働停止も含めた責任ある対応をとることが求められています。

 ニッケルは、ステンレス鋼、硬貨、携帯機器、調理器具、電池など、私たちの生活のいたるところに使われています。また、気候危機への対策として、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の普及が急速に進む中、リチウムイオン電池の原料であるニッケルの需要はさらに増加傾向にあります。そのニッケルの世界最大の埋蔵量を有するのがインドネシアですが、その開発現場では鉱山の拡張と闘う農家や女性、また鉱山・製錬所で搾取されている労働者への人権侵害の事例が後を絶ちません。

 私たちの日常使っているステンレス製品やスマホ等にも、そして今後一段と需要が増えるEVにも、今回の事故のような製錬所での労働者の犠牲や権利侵害を伴ったニッケルが使われている可能性は否めません。今回の事故で犠牲となった労働者の遺族や重軽傷を負った労働者への補償やケアが適切かつ十分になされるのはもちろんのこと、事故の原因究明に係る調査が迅速かつ公正に行われるとともに、再発防止対策の策定と適切な実施が急務です。

 以下、WALHI(インドネシア環境フォーラム:FoEインドネシア)のスラウェシ島の支部で構成されるスラウェシ連合による声明(2023年12月25日付)の和訳です。(インドネシア語原文はこちら

WALHIスラウェシ連合による声明:ニッケル生産を一時停止し、モロワリと北モロワリのニッケル工業に係る国家戦略プロジェクトを直ちに評価せよ

2023 年 12 月 25日

スラウェシ連合:ITSS製錬所の溶鉱炉の爆発による
犠牲者の方々に哀悼の意を表します

 この日曜日(2023年12月24日)、中スラウェシ州モロワリ県バホドピ郡ラボタ村のモロワリ工業団地(IMIP)のニッケル工業地帯において、インドネシア・チンシャン・ステンレス・スチール社(ITSS:)の所有する製錬所で爆発が起き、少なくとも13人の労働者が死亡、39人の労働者が火傷を負った。犠牲者のうち複数は重傷で、身体の70%に火傷を負ったと推定されている。ニッケル製錬工業地帯では、北モロワリ県のスターダスト・エステート・インベストメント社(SEI)所有のニッケル工業地帯にあるガンバスター・ニッケル・インベスメント社(GNI)の製錬所における爆発事故、またモロワリ県バホモテフェ村のワンシアン社、そしてIMIPにあるモロワリ県ラボタ村の産業用石炭火力発電所の火災が、依然として記憶に新しく、今回の事故までにすでに複数の事故が起きている。モロワリ県および北モロワリ県の工業地帯における他の事故と同様、今回、ITSSの製錬所において多くの犠牲者を出す爆発事故が繰り返し起きたことになるが、これら一連の事故はすべて労働者が犠牲者となっている、とスラウェシ連合のコーディネーターであり、WALHI(インドネシア環境フォーラム)中スラウェシの事務局長であるスナルディ・カティリは述べた。

 改正新鉱業法2020年3号第113条(a)の規定では、不可抗力が発生した場合、鉱業事業許可(IUP)および特別鉱業事業許可(IUPK)保有者に鉱業活動の一時停止を認めることができると規定されている。不可抗力の説明としては、戦争、内乱、反乱、疫病、地震、洪水、火災、人の能力を超えた自然災害および非自然災害が含まれている。

 インドネシア政府が許認可機関として、モロワリ県と北モロワリ県のニッケル工業地帯における国家戦略プロジェクト(PSN)に関する徹底的な評価を実施する間、火災のような事態における不可抗力に該当するケースとして、工業事業許可およびニッケル事業会社許可の取得者に対して一時停止を科すべきである。

 ジョコウィ大統領は法律に基づき、(同地域におけるニッケル生産活動を)直ちに停止しなければならない。また、人命に関わることであるため、年間を通じて再発し続けるこの労働災害を解決するために、事故の直接的な調査を行い、その結果を明らかにするよう、エネルギー鉱物資源省、工業省、商業省、労働省、その他の関係省庁に指示を出すとともに、下院の関係委員会にも直ちに協力を要請すべきである。

 以上の認識に基づき、スラウェシ連合を構成するスナルディ・カティリ(WALHI中スラウェシ事務局長)、ムハマド・アル・アミン(WALHI南スラウェシ事務局長)、アンディ・ラフマン・R(WALHI南東スラウェシ事務局長)は、インドネシア政府および同下院(DPR)に対し、以下の点を要請する:

  1. 中スラウェシ州モロワリ県にあるIMIPにおいて、ニッケル鉱石の製錬の操業を停止するよう、IUP保有者及び工業事業許可保有者に直ちに要請すること。
  2. 中スラウェシ州モロワリ県にあるIMIPにおけるITSS所有の製錬所の爆発事故に関する詳細な調査を実施するため、関係省庁と州レベルの担当者及び下院の関係委員会の担当者で構成されるチームを直ちに結成すること。
  3. 下院に対し、中スラウェシ州モロワリ県および北モロワリ県のニッケル工業地帯における国家戦略プロジェクト(PSN)の実施を徹底的に評価するため、大統領、 関連省庁、ITSSおよびIMIPとともに公聴会を開催するよう求める。
  4. インドネシア政府に対し、関係省庁および下院委員会とともに、中スラウェシ州モロワリ県および北モロワリ県の IMIP工業地域における労働安全衛生(K3)の実施状況について直ちに監査を行うよう求める。
  5. インドネシア政府に対し、関連省庁、インドネシア警察および下院の関連委員会とともに、ITSS製錬所爆発事故の原因を直ちに究明すること、また工業地帯の責任者および製錬所所有者に対して直ちに法律を執行し、ITSS製錬所爆発事故の犠牲となった労働者の遺族に直ちに補償を行うよう要請する。

連絡先:

スナルディ・カティリ WALHI中スラウェシ事務局長 +62 821 9517 6757

ムハマド・アル・アミン WALHI南スラウェシ事務局長 +62 822 9393 9591

アンディ・ラーマン・R WALHI南東スラウェシ事務局長 +62 822 8412 0383

(翻訳責任:FoE Japan)

 

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