インドネシア・ソロワコ・ニッケル開発の影響を受けるコミュニティの基本的人権の保護を!Vale社の主要株主に人権侵害の加担を回避するための適切な対応を求める要請書(23ヶ国104団体賛同)を提出

 インドネシアでは、農地や清潔な水など自分たちの生活をPT Vale Indonesia(PTVI)のニッケル開発拡張計画から守ろうとするコミュニティーの闘いが続いています。一方、採掘鉱区から農地を除外するよう要求している農民に対する深刻な人権侵害も続いています。

 本日、FoE Japanはインドネシア環境フォーラム(WALHI)南スラウェシ等とともに、親会社であるValeの主要株主(Capital Group、Previ、三井物産、BlackRock)及びPTVIの主要株主(住友金属鉱山、ノルウェー政府)に対し、ソロワコ・ニッケル開発の影響を受ける現地コミュニティの人権を保護するため、迅速かつ適切な措置を講じるよう、PTVIへのエンゲージメントを求める要請書(国際・地域レベルで活動する団体を含む、23ヶ国104団体が賛同)を提出しました。

 PTVI(旧PT INCO)によるニッケル開発がソロワコで始まって以降、50年以上にわたり、その広大なコンセッション地域(70,566ヘクタール)の開発現場では、先住民族や農家、漁師、女性など現地コミュニティの人びとが、さまざまな問題に直面してきました。近年、脱炭素社会の実現に向けた取組みの一環でバッテリー材料の需要が高まる中、ソロワコでも、新規の製錬所の建設計画から鉱山の探査・拡張まで、その開発圧力はむしろ強まっており、現地コミュニティの抱える懸念・問題も絶えることがありません。

 PTVIが現地コミュニティの生活と水源に深刻な影響を及ぼしてきたため、住民はPTVIに対して声を上げてきました。しかし、同社は今日に至るまで、これらの問題に対処するための適切かつ迅速な措置を講じていません。また、警察や軍を含むインドネシア当局が、抑圧的な手段でコミュニティの抗議を止めさせようとしていることも大きな懸念材料であり、深刻な人権侵害です。

 ソロワコ・ニッケル開発の影響を受ける現地コミュニティが、農業を続けることができ、健康な生活を送ることができ、反対や懸念を自由に表明することができること――それはすべて基本的人権です。ValeとPTVIの主要株主は、自らが人権侵害に加担しないよう、「国連ビジネスと人権指導原則」に基づく責任ある対応を求められています。

 詳細は以下の要請書(FoE Japanによる和訳。原文は英語)をご覧ください。(PDFはこちら

ソロワコ・ニッケル開発事業地周辺における現地コミュニティの基本的人権を保護するための措置をPT Vale Indonesiaが講じるよう、迅速かつ適切な対応を求める要請書

2023年8月18日

Vale/PT Vale Indonesiaの主要株主の皆様へ

 私たちは、インドネシアの南スラウェシ州東ルウ県におけるPT Vale Indonesia(PTVI)のソロワコ・ニッケル開発事業(以下、本事業)の影響を受けている現地コミュ ニティとともに、環境・社会・人権問題に取り組んでいる市民社会団体です。本日、私たちは、PTVIの親会社であるヴァーレ社の主要な株主のひとつである貴殿に対し、以下に述べるような本事業における人権侵害に加担することを自ら回避できるよう、本要請書を送付いたします。

 PT International Nickel Indonesia(PT INCO)によるニッケル開発がソロワコで始まって以降、50年以上にわたり、その広大なコンセッション地域(70,566ヘクタール)の開発現場では、先住民族や農家、漁師、女性など現地コミュニティの人びとが、さまざまな問題に直面してきました。近年、脱炭素社会の実現に向けた取組みの一環でバッテリー材料の需要が高まる中、ソロワコでも、新規の製錬所の建設計画[1]から鉱山の探査・拡張まで、その開発圧力はむしろ強まっており、現地コミュニティの抱える懸念・問題も絶えることがありません。

 まず、ソロワコ鉱山周辺地域の住民にとって重要な生計手段の一つである農地が、ニッケル鉱山の拡張の度に奪われてきました。コンセッション地域内では、PTVIの採掘地域が農地にまで拡張される場合、農家は立退かざるを得ませんでした。補償金が支払われても、耕作につぎ込んできた労働力や肥料等の必要経費を考慮すれば、決して十分な額ではなかったとの報告もあります。そもそも、金銭補償は使い切ってしまえば終わりのため、持続可能な措置とは到底言えません。また、まったく補償がないケースも含め、補償水準や内容が一律でないためにコミュニティの分断を招いている例も報告されています。

 PTVIのコンセッション地域と農地が重なっているが故に、PTVIの土地から立ち退くよう、警察や警備員から農家に対して脅し・嫌がらせなども起きています。農家は、汗水流して耕してきた農地をいつ奪われるか戦々恐々としながら耕作を続けているのが現状です。

 現在、PTVIが探査活動を行っているタナマリア鉱区については、適切な住民協議もないまま進められており、農家らから探査の中止を求める声があがっています。ソロワコ周辺では、この20年の間、胡椒栽培が莫大な恩恵をコミュニティにもたらしてきました。女性を含む胡椒農家や胡椒関連の経済活動従事者らにとって、タナマリア鉱区での鉱山拡張は、生活を脅かす重大な懸念事項です。農業を続けられるよう、こうした農地をPTVIのコンセッション地域から外してもらいたいというのが、農家の切なる願いです。

 また、ソロワコ鉱山周辺の環境汚染も現地コミュニティの生活を脅かしてきました。2023年2月には、トウティ郡アスリ村のコミュニティが水源として使っていた近くの湧水が、雨天時に茶色く濁ってしまい、乾季には水源自体が枯れてしまう日も出てきたため、住民がPTVIの迅速な対応を求め、抗議の声をあげました。コミュニティの証言によれば、そうした水の問題は、近隣で採掘活動が始まる前は起きなかったとのことです。さらに、2022年10月にFoE JapanとWALHI南スラウェシが行った水質調査では、この水源から、世界保健機関(WHO)飲料水水質ガイドラインの基準値(0.05 mg/L)[2]やインドネシア政府の飲料水水質基準(0.05 mg/L)[3]を超過する六価クロム負荷が検出されています。PTVIは、コミュニティの苦情から5ヶ月以上経った現在も、清潔で安全な水をコミュニティに提供できていません。

アスリ村のコミュニティの水源及び住宅のすぐ上で拡張を続けるPTVIの採掘活動(写真:2022年7月)
PTVIの採掘活動の影響を受けるアスリ村のコミュニティの水源の一つ(20家族が利用)(写真:2023年1月10日)
アスリ村のコミュニティが利用している水の六価クロム簡易検知管による検査結果(0.05 mg/L)(写真:2022年10月23日)
アスリ村のコミュニティは、他の水源がないため、家庭用に汚染された湧水を少しずつ貯めて利用している(写真:2023年1月10日)

 探査活動が進められている上述のタナマリア鉱区では、同地域の胡椒農家によれば、少なくとも数十の湧水があると言われており、コミュニティだけでなく、そこに暮らす動植物を含む、熱帯雨林地域の生態系への影響も懸念されています。

 清潔かつ安全な水を享受することは、女性や子どもを含む現地コミュニティの基本的人権の一つです。発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等が指摘される毒性の高い重金属である六価クロムによる事業地周辺の環境汚染については、長期的に地域住民の健康被害等を未然に防止する観点が重要です。

 さらに、自分たちの生活を守るため、PTVIに対応の改善を求めて声をあげてきた現地コミュニティの「表現の自由」が抑圧されてきたことも看過できない重要な問題です。

 2022年3月には、先住民族の権利の尊重、清潔な水へのアクセス、農地に対する権利の尊重、青年層への雇用機会の確保をPTVIに求めた住民らが抗議活動を行った際、7名が不当に逮捕・勾留され、その家族も含め、経済的かつ精神的な負担を強いられました。2023年2月には、上述のアスリ村のコミュニティの抗議に対し、警察や諜報機関などの地元当局が住民のリーダーを呼び出して抗議行動を止めるよう指示するなど、介入や脅迫があったため、コミュニティは抗議行動を中止せざるを得ませんでした。

 同様に、2023年6月と7月には、PTVIにタナマリア鉱区での探査を中止するよう求めていた農民たちが、現地で軍と重装備の警察官の存在を確認しています。これは、PTVIが抑圧的な方法を好み、適切な協議によってコミュニティから同意を得るプロセスを一切無視していることを明確に示しています。[4] [5]このような現地レベルでの抑圧的な状況に続いて、インドネシア地方軍管区司令部は、農民を支援してきたWALHI南スラウェシの事務所(マカッサル)を訪問し、尋問さえ行いました。

このように先住民族を含む住民の「表現の自由」が著しく侵害されている状況はあってはならないことです。ソロワコにおけるニッケル開発事業に出資しているヴァーレ乃至事業実施者PTVIの株主である貴殿も、こうした人権侵害への加担を回避するための適切な対応が求められています。

以上のことから、私たちは貴社に対し、PTVIが以下の措置を確実に講じるよう、迅速かつ適切な対応をとることを要請します。

  1. タナマリア鉱区全体を伐採権から除外すること。なぜなら、タナマリア鉱区は、現地コミュニティが生活の糧としている農地と、スラウェシ固有の動植物が生息する熱帯雨林の生態系・景観から構成されているからである;
  2. 現地コミュニティが生活の糧としている農地及び十分な緩衝地帯を採掘対象地域から除外すること(探査中のタナマリア鉱区を含む)。
  3. 現地コミュニティの清潔かつ安全な水のアクセスを確保するための適切な救済措置を直ちに講じること。また、水のアクセスに係る問題の再発防止計画を立て、それを公表すること。
  4. 将来にわたり有害物質による環境汚染を防ぐため、生態系に不可欠な場所(森林や河川、現地コミュニティの水源地の上流など)でのニッケル採掘活動を停止すること。
  5. 河川やコミュニティの水源地域の環境修復を行うこと。
  6. 清潔かつ安全な水へのアクセスを含む、健康や生活に関する現地コミュニティの人権を尊重すること。
  7. ニッケル開発の影響を受ける現地コミュニティの表現の自由を尊重すること。

ソロワコ・ニッケル開発の影響を受ける現地コミュニティが、農業を続けることができ、健康な生活を送ることができ、反対や懸念を自由に表明することができること――それはすべて基本的人権です。「国連ビジネスと人権指導原則」に基づく貴社の誠意ある対応を期待します。

(以下、23ヵ国104団体署名)

呼びかけ団体
WALHI South Sulawesi
Wahana Lingkungan Hidup Indonesia (WALHI / FoE Indonesia)
国際環境NGO FoE Japan
アジア太平洋資料センター(PARC)

賛同団体
(略。英語原文のPDF参照)

【添付資料】

【連絡先】

WALHI South Sulawesi (Muhammad Al Amin, Executive Director)
Add: JL. Aroepala, Kompleks Permata Hijau Lestari Blok Q1, No.8, Rappocini, Kota Makassar, Sulawesi Selatan 90221
Email: muhammad.al.amien@gmail.com / walhisulsel@gmail.com
Tel: +62-8229-3939-591

国際環境NGO FoE Japan(担当:開発金融と環境チーム 波多江)
住所: 1-21-9 Komone, Itabashi-ku, Tokyo, Japan 173-0037
Email: hatae@foejapan.org
Tel: +81 3 6909 5983


[1] https://www.vale.com/documents/44618/1438416/PT+Vale+and+Huayou+Show+Sustainability+Commitment+by+Building+a+new+HPAL+Plant+for+Limonite+Nickel+Ore+in+Luwu+Timur.pdf/3f0a54cf-12f6-845e-94e2-3950d845d998?version=1.0&t=1668006561928

[2] https://www.who.int/teams/environment-climate-change-and-health/water-sanitation-and-health/water-safety-and-quality/drinking-water-quality-guidelines

[3] https://jdih.setkab.go.id/PUUdoc/176367/Lampiran_VI_Salinan_PP_Nomor_22_Tahun_2021.pdf

[4] https://www.journaltelegraf.com/2023/06/tuntutan-petani-dan-perempuan-merica.html

[5] https://www.indeksmedia.id/2023/07/26/petani-dan-perempuan-ketakutan-walhi-sulsel-desak-pt-vale-indonesia-hentikan-militerisasi-di-blok-tanamalia-luwu-timur/

 

関連する記事

農家と女性たちが怯えている:WALHI南スラウェシはヴァーレインドネシア社にタナマリア鉱区での探査活動における軍事化を止めるよう求める

開発と人権

ニッケル鉱山拡張にNO!インドネシアの農家・女性が抗議アクション

開発と人権

インドネシア・ソロワコ・ニッケル開発の影響を受けるコミュニティの基本的人権の保護を!住友金属鉱山に出資者・調達者としての適切な対応を求める要請書を提出

開発と人権

インドネシアで住民協議もないまま進むニッケル鉱山拡張計画:現地NGOと農家らが「探査の中止」を求める共同声明

開発と人権

C7気候・環境正義分科会の有志パネルによる重要鉱物調達にかかわるG7及びG7環境大臣会合への提言

開発と人権

インドネシア:ソロワコ・ニッケル鉱山開発・精錬事業とは?

開発と人権

関連するトピック

関連するプロジェクト