インドネシア・ソロワコ・ニッケル開発の影響を受けるコミュニティの基本的人権の保護を!住友金属鉱山に出資者・調達者としての適切な対応を求める要請書を提出

インドネシア環境フォーラム(WALHI)南スラウェシ、WALHI、国際環境NGO FoE Japan、アジア太平洋資料センター(PARC)は、2023年6月12日、50年以上にわたり開発が続けられてきたインドネシア・ソロワコ・ニッケル鉱山・精錬事業に出資(15.03 %)を続け、また同精錬所で生産されるニッケルマットを輸入してきた住友金属鉱山に対し、要請書を提出しました。脱炭素社会の実現に向けた取組みの一環でバッテリー材料の需要が高まる中、ソロワコでは新規の製錬所の建設計画から鉱山の探査・拡張まで、その開発圧力は強まっており、現地コミュニティが直面する環境・社会・人権問題も絶えることがありません。出資先・調達先であるPT Vale Indonesiaが影響を受ける現地コミュニティの基本的人権を保護するよう、迅速かつ適切な対応をとることを住友金属鉱山に求めました。

以下、要請書本文(日本語)です。(英語はこちら) 

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2023年6月12日

住友金属鉱山株式会社
代表取締役社長 野崎 明 様

ソロワコ・ニッケル開発事業地周辺における
現地コミュニティの基本的人権を保護するための措置をPT Vale Indonesiaが講じるよう、
住友金属鉱山に迅速かつ適切な対応を求める要請書

WALHI南スラウェシ
WALHI(インドネシア環境フォーラム)
国際環境NGO FoE Japan
アジア太平洋資料センター(PARC)

私たちは、2021年に南スラウェシ州東ルウ県マリリ郡沿岸のモリ島周辺におけるPT Vale Indonesia(PTVI)による環境汚染の件を貴社に指摘 [1] して以降、ソロワコ・ニッケル開発に関する幾つかの重大な環境・社会・人権問題について、出資者(PTVIへの出資 15.03 %)として、またサプライチェーン(既設のソロワコ精錬所で生産されたニッケルマットの長期特別契約による輸入)の観点から適切な対応をとるよう、貴社に求めてきました。

PT International Nickel Indonesia(PT INCO)によるニッケル開発がソロワコで始まって以降、50年以上にわたり、その広大なコンセッション地域(70,566ヘクタール)の開発現場では、先住民族や農家、漁師、女性など現地コミュニティの人びとが、さまざまな問題に直面してきました。近年、脱炭素社会の実現に向けた取組みの一環でバッテリー材料の需要が高まる中、ソロワコでも、新規の製錬所の建設計画 [2] から鉱山の探査・拡張まで、その開発圧力はむしろ強まっており、現地コミュニティの抱える懸念・問題も絶えることがありません。

まず、ソロワコ鉱山周辺地域の住民にとって重要な生計手段の一つである農地が、ニッケル鉱山の拡張の度に奪われてきました。コンセッション地域内では、PTVIの採掘地域が農地にまで拡張される場合、農家は立退かざるを得ませんでした。補償金が支払われても、耕作につぎ込んできた労働力や肥料等の必要経費を考慮すれば、決して十分な額ではなかったとの報告もあります。そもそも、金銭補償は使い切ってしまえば終わりのため、持続可能な措置とは到底言えません。また、まったく補償がないケースも含め、補償水準や内容が一律でないためにコミュニティの分断を招いている例も報告されています。

PTVIのコンセッション地域と農地が重なっているが故に、PTVIの土地から立ち退くよう、警察や警備員から農家に対して脅し・嫌がらせなども起きています。農家は、汗水流して耕してきた農地をいつ奪われるか戦々恐々としながら耕作を続けているのが現状です。

現在、PTVIが探査活動を行っているタナマリア鉱区については、適切な住民協議もないまま進められており、農家らから探査の中止を求める声があがっています。ソロワコ周辺では、この20年の間、胡椒栽培が莫大な恩恵をコミュニティにもたらしてきました。女性を含む胡椒農家や胡椒関連の経済活動従事者らにとって、タナマリア鉱区での鉱山拡張は、生活を脅かす重大な懸念事項です。農業を続けられるよう、こうした農地をPTVIのコンセッション地域から外してもらいたいというのが、農家の切なる願いです。

また、ソロワコ鉱山周辺の環境汚染も現地コミュニティの生活を脅かしてきました。2023年2月には、トウティ郡アスリ村のコミュニティが水源として使っていた近くの湧水が茶色く濁ってしまっただけではなく、水源自体が枯れてしまう日も出てきたため、住民がPTVIの迅速な対応を求め、抗議の声をあげました。さらに、2022年10月にFoE JapanとWALHI南スラウェシが行った水質調査では、この水源から、日本の水道水質基準(0.02 mg/L)[3]及び世界保健機関(WHO)飲料水水質ガイドラインの基準値(0.05 mg/L)[4]やインドネシアの飲料水水質基準(0.05 mg/L)[5]を超過する六価クロム負荷が検出されています。

アスリ村のコミュニティの水源及び住宅のすぐ上で拡張を続けるPTVIの採掘活動(写真:2022年7月)
PTVIの採掘活動の影響を受けるアスリ村のコミュニティの水源の一つ(20家族が利用)(写真:2023年1月10日)
アスリ村のコミュニティが利用している水の六価クロム簡易検知管による検査結果(0.05 mg/L)(写真:2022年10月23日)
アスリ村のコミュニティは、他の水源がないため、家庭用に汚染された湧水を少しずつ貯めて利用している(写真:2023年1月10日)

探査活動が進められている上述のタナマリア鉱区では、同地域の胡椒農家によれば、少なくとも数十の湧水があると言われており、コミュニティだけでなく、そこに暮らす動植物を含む、熱帯雨林地域の生態系への影響も懸念されています。

貴社は、最近、「住友金属鉱山グループ 水に関する方針」[6] を制定されています。貴社も認識されているとおり、「水は地域社会および周囲の生態系に欠くべからざる重要な資源」であり、「水へのアクセスは、」「地域社会にとっても非常に重要」なものです。同方針は、「グループ(住友金属鉱山株式会社およびその子会社)の事業全体」にしか適用されないことになっていますが、貴社の出資先や調達先で「水へのアクセス」に係る重大な人権侵害が起きていることは、大変残念なことであり、皮肉なことでもあります。

清潔かつ安全な水を享受することは、女性や子どもを含む現地コミュニティの基本的人権の一つです。発がん性、肝臓障害、皮膚疾患等が指摘される毒性の高い重金属である六価クロムによる事業地周辺の環境汚染については、地域住民の健康被害等を未然に防止する観点が重要です。地元政府機関の甘い監視や規制の下、『ダブル・スタンダード』が許容されるべきではなく、日本国内と同等の基準の遵守を調達先にも求めていく積極的な姿勢が、貴社にも求められています。

さらに、自分たちの生活を守るため、PTVIに対応の改善を求めて声をあげてきた現地コミュニティの「表現の自由」が抑圧されてきたことも看過できない重要な問題です。

2022年3月には、先住民族の権利の尊重、清潔な水へのアクセス、農地に対する権利の尊重、青年層への雇用機会の確保をPTVIに求めた住民らが抗議活動を行った際、7名が不当に逮捕・勾留され、その家族も含め、経済的かつ精神的な負担を強いられました。2023年2月には、上述のアスリ村のコミュニティの抗議に対し、警察や諜報機関などの地元当局が住民のリーダーを呼び出して抗議行動を止めるよう指示するなど、介入や脅迫があったため、コミュニティは抗議行動を中止せざるを得ませんでした。

このように先住民族を含む住民の「表現の自由」が著しく侵害されている状況はあってはならないことです。ソロワコにおけるニッケル開発事業の出資者であり、調達者である貴社も、こうした人権侵害への加担を回避するための適切な対応が求められています。

以上のことから、私たちは貴社に対し、貴社の出資先かつ調達先であるPTVIが以下の措置を確実に講じるよう、迅速かつ適切な対応をとることを要請します。

  1. 現地コミュニティが生活の糧としている農地及び十分な緩衝地帯を採掘対象地域から除外すること(探査中のタナマリア鉱区を含む)。
  2. 現地コミュニティの清潔かつ安全な水のアクセスを確保するための適切な救済措置を直ちに講じること。また、水のアクセスに係る問題の再発防止計画を立て、それを公表すること。
  3. 将来にわたり有害物質による環境汚染を防ぐため、生態系に不可欠な場所(森林や河川、現地コミュニティの水源地の上流など)でのニッケル採掘活動を停止すること。
  4. 河川や水源地域の環境修復を行うこと。
  5. 清潔かつ安全な水へのアクセスを含む、健康や生活に関する現地コミュニティの人権を尊重すること。
  6. ニッケル開発の影響を受ける現地コミュニティの表現の自由を尊重すること。

ソロワコ・ニッケル開発の影響を受ける現地コミュニティが、農業を続けることができ、健康な生活を送ることができ、反対や懸念を自由に表明することができること――それはすべて基本的人権です。貴社は「国連ビジネスと人権指導原則」の支持を表明しており、ご自身の人権方針 [7] もお持ちです。貴社のご理解と誠意ある対応を期待します。

【添付資料】
WALHI南スラウェシ及びロエハ/マハロナ胡椒農民団体による共同声明「タナマリア鉱区(ルメレオ山地)におけるヴァーレインドネシア社のニッケル鉱山の探査及び拡張の中止を求め、胡椒農家の生活とスラウェシ島の動植物の生息地を守ろう」

【連絡先】
国際環境NGO FoE Japan(担当:波多江)
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9 2F
TEL: 03-6909-5983
Email: hatae@foejapan.org

脚注:
[1] https://sulsel.suara.com/read/2021/08/24/170705/walhi-sulsel-desak-pt-vale-hentikan-sementara-produksi-nikel
[2] https://www.vale.com/documents/44618/1438416/PT+Vale+and+Huayou+Show+Sustainability+Commitment+by+Building+a+new+HPAL+Plant+for+Limonite+Nickel+Ore+in+Luwu+Timur.pdf/3f0a54cf-12f6-845e-94e2-3950d845d998?version=1.0&t=1668006561928
[3] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html#01
[4] https://www.who.int/teams/environment-climate-change-and-health/water-sanitation-and-health/water-safety-and-quality/drinking-water-quality-guidelines
[5] https://jdih.setkab.go.id/PUUdoc/176367/Lampiran_VI_Salinan_PP_Nomor_22_Tahun_2021.pdf
[6] https://www.smm.co.jp/sustainability/management/water_policy/
[7] https://www.smm.co.jp/sustainability/management/humanrights_procurement/

 

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