インドネシア・スラウェシ島NGO連合の声明「熱帯雨林や住民を守るため、ニッケル生産への投融資停止を。森林を破壊して原料を得る電気自動車は気候変動対策にはなりえない」

開発と人権
©WALHI SULSEL

 11月15、16日にインドネシア・バリ島で開催されているG20首脳会議に向け、スラウェシ島の熱帯雨林やそこで暮らす人びとを守るため、電気自動車に利用されるニッケルの生産への投融資を止めるよう求める声明が、スラウェシ島の市民社会から発出されました。

 脱炭素化社会を目指して推進されている再生可能エネルギーや電気自動車に必要な鉱物の一つとして、ニッケルの需要は世界的に増えることが見込まれています。実際、今年に入ってからも、テスラやフォードなどがスラウェシ島でのニッケル調達の動きを活発化させています。

 スラウェシ島では、住友金属鉱山なども1970年代からニッケル開発に携わっており、日本の私たちの生活との関わりも非常に深いものがあります。

 そのスラウェシ島では今、これまで経験してきた森林破壊や環境汚染、生計手段への影響が、より悪化するのではないかと人びとが危機感を抱いています。そして、電気自動車は環境にやさしくもなく、気候変動対策になることもないと断言しています。その理由はなぜでしょうか。

 以下、WALHI(インドネシア環境フォーラム:FoEインドネシア)のスラウェシ島5州の支部で構成されるスラウェシ連合による声明(2022年11月14日付)の和訳をぜひご一読ください。(英語はこちら

バリ島ヌサドゥアでのG20首脳会議に関連した
ニッケル生産による悪影響を受ける人びと及びスラウェシ連合の公式声明

「スラウェシの熱帯雨林と人びとを守ろう: インドネシアにおける鉱山、ニッケル精錬所、そしてニッケル生産を支える石炭火力発電所への投融資を停止して。電気自動車は気候変動に対する誤った対策」

 まもなくバリ島ヌサドゥアでG20首脳会議が開催されます。先進国と途上国の首脳が集まり、世界中で起きている問題、特に欧米諸国が経験し始めている経済危機について議論が行われます。この危機は、海外からの投資に依存しているインドネシアや他のグローバル・サウスの国々にも打撃を与えるでしょう。したがって、欧米の銀行の金利上昇によって、欧米の投資家の外資がインドネシアから撤退しないようにすることが、G20における途上国の関心事の一つです。G20首脳会議におけるインドネシアの関心は、先進国に対して、特に技術や電気自動車に関連するエネルギー、運輸、原材料の分野への投資を増やすよう説得することです。

 今回のG20では、インドネシア政府が先進国に対して、インドネシアの熱帯雨林内、特にスラウェシ島で発見されているニッケルへの投融資の可能性について提示していくものと考えられます。インドネシアは世界の電気自動車の生産を支えるために、世界的な電池原料の生産拠点になろうと意欲を見せています。インドネシア政府は今回のG20で、エネルギー移行をテーマとした電気自動車の展示会を開催する見込みです。

 G20の開催を前にして、スラウェシ島で人権擁護や環境保護に取組むNGOの連合体であるスラウェシ連合は、世界のリーダーに対してスラウェシ島の人びとの要望や意見を届けることが重要であると考えます。インドネシア政府の方針が、しばしば人びとの民意を反映したものではないことから、私たちはこのことを非常に重要だと考えています。

 G20諸国、特にアメリカ、カナダ、ヨーロッパ諸国、日本、中国、オーストラリアの首脳は現在、インドネシアの、特に森林の周辺で暮らす人びとの生活水準が現在低下していることに留意すべきです。特にスラウェシのニッケル鉱山や精錬所、そして石炭火力発電所の周辺で暮らす農民、漁民の場合はその傾向が顕著です。ニッケル鉱山がスラウェシ島の熱帯雨林に拡大する前は、モロワリ、北モロワリ(中スラウェシ州)、東ルウ(南スラウェシ州)、コナウェ、北コナウェ、その他の東南スラウェシ州の地域の農家は毎年2回の収穫に頼ることができました。しかし、ニッケル鉱山や精錬所の操業開始後、コミュニティの水田は鉱山の汚泥や精錬所の廃棄物で汚染されたため、何度も不作に見舞われています。農家はもはや立ち行かなくなったため、水田を売らざるを得なくなりました。

ヴァーレ・インドネシア社の採掘現場(©WALHI SULSEL)

 河川や海域の汚染は、ニッケル鉱山や精錬所に伴う避けられない問題です。電気自動車を推進する国の首脳たちは、スラウェシ島のニッケル鉱山や精錬所が熱帯雨林を破壊しているだけでなく、海岸線にまで影響を及ぼしていることを知るべきです。南スラウェシ州のマリリ川では、降雨のたびに鉱山の泥が流れ込み、赤色になってしまっています。泥は海まで流れて海岸線を汚し、その結果、魚が減少し、漁師は以前よりも遠くまで魚を獲りに行かざるを得ず、生活に影響が及んでいます。南スラウェシ州マリリ県ランピア村でも同様で、鉱山跡からの泥が直接海を汚しています。WALHI南スラウェシのチームが視察した結果によると、ランピア海岸のニッケル鉱山の汚泥は海岸線から100mまで達しており、ランピアの海岸のマングローブ林にも影響が及んでいました。そのため、ランピアの漁民の生活に大きな影響を及ぼしています。

 女性もニッケル採掘の悪影響を実感しています。ソロワコの女性たち、特に先住民族カロンシエの女性たちは、カナダや日本の企業が所有するニッケル鉱山や精錬所によって、土地を耕すことができなくなり、自給自足の生活を送るという夢を打ち砕かれてしまいました。彼女たちの慣習的な農地は、ニッケル鉱山会社に補償金なしで取られてしまいました。会社が所有するゴルフ場に変えられてしまった土地もあります。彼女たちは、きれいな水を手に入れることもできず、ニッケル鉱山の泥で汚染された汚い河川の水を使わざるを得ません。現在の居住地は、先住民族カロンシエの人びとの慣習的な土地の権利をまったく無視してフェンスで囲われています。

 南スラウェシでの直近のニッケル採掘現場の拡張は、長年にわたり現地の人びとの家族を支え、良い収入をもたらしてきたコミュニティの営むコショウ畑からの立ち退きや収奪につながっています。

 人びとの、特に女性の生計手段の喪失に影響を与える熱帯雨林の破壊は、中スラウェシ州や南東スラウェシ州でも見られます。中スラウェシ州、具体的にはモロワリ県と北モロワリ県では、生活手段の源であった海岸や海が、中国企業の出資するニッケル鉱山跡やニッケル精錬所からの汚泥と鉱滓の廃棄物で汚染されたため、漁師が収入を失わざるを得ない事態が発生しています。その結果、漁師は漁業をやめ、漁師時代より少ない稼ぎの建設労働者や精錬工場の労働者になることを選択しました。

北モロワリのGNI社精錬所(©WALHI SULTENG)

 ニッケル鉱山や精錬所がスラウェシ島の森林、河川、海岸、コミュニティに与える深刻な影響とは別に、私たちは以下の理由から、ニッケル、電池、電気自動車が地球規模の気候危機に対する特効薬ではないと確信しています。

1. インドネシアでのニッケル生産の増加や、北の先進国でのバッテリーや電気自動車の生産は熱帯雨林、特にスラウェシ島の熱帯雨林の破壊に直接的に寄与しています。これらの熱帯雨林は、気候変動の脅威の中で、現地コミュニティと世界にとって不可欠な資源です。スラウェシ島の熱帯雨林は、インドネシアの工場や先進国の産業、化石燃料の発電所から排出される炭素を吸収しています。したがって、森林を破壊して原料を得る電気自動車産業を環境にやさしい産業で、気候変動対策になると称するのは、非常に誤解を招くものです。

2. スラウェシ島のニッケル精錬所を動かす電力エネルギーの80%は石炭火力発電所から供給されています。これは現在、世界の首脳たちが声高に主張している持続可能な開発や環境配慮型ビジネスの実践、気候変動の緩和戦略といった原則に反しています。精錬所で石炭火力を使用するため、ニッケル生産に伴う排出量は二重になります。

3. スラウェシ島でのニッケル生産量の増加は、石炭の需要増加につながるため、他の島、特にインドネシアの石炭採掘の中心地であるカリマンタンの森林破壊も加速させることになります。電気自動車を生産する限り、スラウェシやカリマンタンの熱帯雨林を破壊し、炭素排出量を増加させることになるため、電気自動車は気候変動の対策にはなり得ません。

4. 最後に、電気自動車の充電に汚いエネルギーの電力を使うことについて考察します。化石燃料が世界で最も普及している電力源である限り、環境破壊は留まるところを知りません。電気自動車を使う人が増えれば増えるほど、ニッケル鉱山や炭鉱が熱帯雨林を食い荒らし続け、石炭火力発電所がどんどん建設されていくでしょう。

 したがって、インドネシア、特にスラウェシ島におけるニッケル産業への投融資は、熱帯雨林の破壊速度をさらに加速させ、熱帯雨林の破壊をさらに加速させ、気候変動の急激な進行に拍車をかけています。脆弱な先住民族やコミュニティは、彼らの生計手段にも悪影響が及び、喪失してしまうことさえあるため、さらに困窮しています。

 インドネシアに残された熱帯雨林を守り、スラウェシ島の人々の生活、特に女性と子供たちを守るために、鉱業とニッケル産業による環境破壊の影響を受けているすべてのコミュニティ、農民、漁師たちを代表し、私たちスラウェシ連合は、G20 諸国の首脳たち、特に中国の習近平国家主席と主要な国際開発金融機関(MDBs)が、インドネシア、特にスラウェシ島におけるニッケル鉱山、ニッケル精錬所建設、電池産業、また関連した石炭火力発電所への投資終了を確約するよう要請します。また私たちは、G20諸国の首相およびビジネスリーダーに対し、電気自動車が環境に優しい代替手段であり、気候危機の解決策であると宣伝することをやめるよう要求します。

 私たちは以下を具体的に要求します。

  1. G20諸国の首脳、特にアメリカ、中国の大統領、カナダ、日本、イギリスの首相、EU の首脳、ドイツの首相が、世界中の、特にスラウェシ島の熱帯雨林を破壊する投資支援の停止を確約すること。私たちは、鉱業分野、特にニッケル鉱山への投資支援の中止を具体的に要求します。
  2. 国際金融機関が鉱業部門、特にインドネシアにおけるニッケル鉱山への融資を停止すること。これには、ニッケル精錬所を動かすための補助的な石炭発電所を建設するための融資も含まれます。国際金融機関は、持続可能なビジネス、特に世界中の熱帯雨林を保護するビジネスへの融資と投資にシフトしなければなりません。
  3. インドネシア政府、特にジョコウィ大統領は、鉱業事業許可証、とりわけニッケルの鉱業事業許可証の発行を直ちに停止すること。また、ジョコウィ大統領には、スラウェシ島をはじめとするインドネシアの島々の熱帯雨林を破壊している鉱業許可を取り消すよう要求します。

 また最後に、私たちは、インドネシア、特にスラウェシ島の熱帯雨林の破壊を止めるために、世界中のすべての人々がスラウェシ連合とスラウェシ島の人びとを支援するよう呼びかけます。熱帯雨林を守ることは、私たちの地球上の生命を守る最も強力な方法です。

マカッサルに於いて、20221114

スラウェシ連合
WALHI中スラウェシ事務局長 Sunardi
WALHI北スラウェシ事務局長 Theo Runtuwene
WALHI南スラウェシ事務局長 Muhammad Al Amin
WALHI南東スラウェシ事務局長 Saharuddin
WAHLI西スラウェシ事務局長Asnawi

 

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