インドネシア・ソロワコ・ニッケル開発の拡張計画についてVale主要株主に書簡提出「コミュニティの探査・採掘を拒否する権利を尊重した対応を」

開発と人権

 FoE Japanは2023年8月以降、インドネシア環境フォーラム(WALHI)南スラウェシ、WALHI、アジア太平洋資料センター(PARC)とともに、PT Vale Indonesia (PTVI)の主要株主(住友金属鉱山、ノルウェー政府)及びPTVIの親会社であるValeの主要株主(Capital Group、Previ、三井物産、BlackRock)に対し、ソロワコ・ニッケル開発の影響を受ける現地コミュニティの人権を保護するため、PTVI/Valeが迅速かつ適切な措置を講じるよう、PTVI/Valeへの適切なエンゲージメントを継続して求めてきました。

 2024年2月以降は特に、PTVIがタナマリア鉱区において探査活動の再開、ましてや採掘活動を開始できるような状況が依然整っていないことを強調し、国際規範に沿わない探査活動や採掘活動を行うことがないよう、しかるべき対応をPTVI/Valeに対して働きかけるよう主要株主に対して要請していました。

 一方、Valeはこの間、2024年4月に同社ウェブサイト上の「ESG Controversies」のページに「インドネシアにおけるPTVIの社会・環境影響(PTVI Social & Environmental impacts, Indonesia)」に係る情報を掲載。その後も、Vale Base Metals(VBM)が2023年後半に委託したコンサルタントによる人権状況に関する調査報告書の要約と、同コンサルタントの提言を受けてのPTVIのアクションプランが公開されています。

 しかし、同アクションプランで提示されているタナマリア鉱区に係る問題へのPTVIの対処方法は、問題を解決するどころか、むしろ現場での緊張感を悪化させ、対立や地域分断をより助長するものになってしまっています。例えば、PTVIは移転計画の策定をアクションプランで提示していますが、そもそも胡椒農家や女性たちは移転も補償も望んでいないため、解決策とはなりえない状況です。タナマリア鉱区内で胡椒栽培を営んできた農家や女性たちは、開発・探査の見直しを切実に願ってきましたが、PTVIはこれらの要求に対して一向に配慮を示そうとしていません。

 こうした状況を受け、2024年10月23日、FoE Japanは再度、WALHI南スラウェシ、WALHI、PARCとともに、PTVI/Valeの主要株主に書簡を提出し、探査を拒否するロエハ・ラヤの胡椒農家や女性らの権利を尊重した上で、PTVIが鉱業コンセッションからタナマリア鉱区を除外することを主要株主からもPTVI/Valeに働きかけるよう要請しました。

 詳細は以下の要請書(FoE Japanによる和訳。原文は英語)をご覧ください。(PDFはこちら

要請書:ソロワコニッケル事業/タナマリア鉱区におけるロエハ・ラヤ地域のコミュニティの意見を無視せず尊重し、探査・採掘ありきではない対応をとるよう、PT Vale Indonesia/Valeへの働きかけを

2024年10月23日

Vale/PT Vale Indonesiaの主要株主の皆様へ

私たちは2023年8月[1]からこれまで、PT Vale Indonesia(PTVI)/PT Vale Indonesia(PTVI)の親会社Vale社(Vale)の主要株主の一つである皆様に対し、インドネシア南スラウェシ州東ルウ県で行われてきたソロワコニッケル開発事業におけるPTVIによる人権侵害への加担を回避すべく、PTVI/Valeへの適切なエンゲージメントを継続して求めてきました。

今年2月[2]以降は特に、PTVIがタナマリア鉱区において探査活動の再開、ましてや商業的採掘活動を開始できるような状況が依然整っていないことを強調してきました。具体的には、PTVIがロエハ・ラヤ地域で胡椒栽培に従事する農家や女性との適切かつ有意義で、双方向の話し合いの場を依然として持ってきていないこと、また移転と補償措置に関してValeが遵守するとしている世界銀行グループ国際金融公社(IFC)の「環境と社会の持続可能性に関するパフォーマンス基準」(PS)に違反する状況が複数みられることを指摘しました。

一方、Valeはこの間、2024年4月に同社ウェブサイト上の「ESG Controversies」のページに「インドネシアにおけるPTVIの社会・環境影響(PTVI Social & Environmental impacts, Indonesia)」に係る情報を掲載しました[3]。また同情報はつい最近にも更新されたようで、Vale Base Metals(VBM)が2023年後半に委託したコンサルタントによる調査報告書の要約(2024年7月)[4]と、同コンサルタントの提言を受けてのPTVIのアクションプラン(作成時期不明)[5]も公開されています。私たちは、透明性と責任ある企業行動を掲げるPTVI/Valeが、皆様のような株主にこれらの情報を提供しているものと確信しています。

しかしながら、私たちはここで、同アクションプランで提示されているタナマリア鉱区に係る問題のPTVIによる対処方法が、問題を解決するどころか、むしろ現場での緊張感を悪化させ、対立や地域分断をより助長するものになっていることを強く非難します。コミュニティの人びとは、開発/探査の見直しを切実に願ってきましたが、PTVIはこれらの要求に対して一向に配慮を示そうとしていません。

ロエハ・ラヤの胡椒農家や女性たちは、一貫してタナマリア鉱区におけるPTVIの活動に抗議の意思を示し続けてきました[6]。農家らの切なる願いは、自分たちの重要な生計手段である胡椒畑のあるタナマリア鉱区をPTVIが鉱業コンセッションから除外することです。こうした現地コミュニティの意思を尊重することなく行われるPTVIのいかなる活動も、社会的操業許可(Social Licene to Operate:SLO)のないまま行われることとなり、問題解決につながらないことは明らかです。また、PTVIのアクションプランで提示されている「土地取得・移転フレームワーク」(LARF)の策定は、たとえその内容が国際規範に沿ったものになるとしても、補償も移転も望んでいない胡椒農家らにとって解決策とはなりえません。

実際、PTVIは地域コミュニティとの適切かつ有意義な双方向の話し合いの場を依然として実現できていません。添付のロエハ・ラヤ胡椒農民団体及びロエハ・ラヤの闘う女性団体によるPTVIへの書簡(2024年10月14日にPTVIに提出[7])に記されているとおり、PTVIは去る10月2日にタナマリア鉱区での探査活動の再開について話し合いの場を設けたとのことですが、透明性のない閉鎖的な方法であったため、胡椒農家らのPTVIに対する不信感はますます増幅しています。

また同書簡の中で、胡椒農家と女性らは、PTVIがタナマリア鉱区でのあらゆる活動を止めること、探査活動の拠点となっているキャンプを撤去することを要求し、改めてタナマリア鉱区での探査・採掘活動を拒否すると表明しています。さらに、胡椒農家と女性らが移転や補償、「CSR」の提供を望んでいないことも明確に述べられています。

PTVIはタナマリア鉱区における探査の継続や採掘の実施を前提とした対応を早急に改めなくてはなりません。いま必要なのは、まずここに添付したロエハ・ラヤの胡椒農家や女性らの書簡で述べられている彼らの意見を正確に理解し、探査を拒否する彼らの権利を尊重した上で、開発を行わない選択肢を排除しない形での対応をとっていくことです。

これまでの繰り返しになりますが、PTVIのタナマリア鉱区における探査及び採掘活動については、ロエハ・ラヤの胡椒農家及び女性が生計手段の喪失・影響について、継続的に懸念の声をあげ、探査・採掘に対する同意の意思を示していません。したがって、彼らの要求に配慮し、PTVIの鉱業コンセッションからタナマリア鉱区を除外することを皆様からもPTVI/Valeに働きかけてください。コミュニティの慎ましやかな望みは、不安なく平和に暮らすことです。

また去る10月2日のPTVIによる現地での話し合いが失敗に終わったことから、警察や軍などの関与が再び強化されることも考えられます。私たちは、PTVI/Valeの主要株主の一つである皆様が、地域コミュニティの表現の自由を含む、基本的人権の侵害に加担せぬよう、PTVI/Valeにしかるべき対応を求めるエンゲージメントを行うよう改めて要請します。

WALHI South Sulawesi
Wahana Lingkungan Hidup Indonesia (WALHI / FoE Indonesia)
国際環境NGO FoE Japan
アジア太平洋資料センター(PARC)

【添付資料】

  • 「Pernyataan Sikap Masyarakat Loeha Raya(ロエハ・ラヤのコミュニティの意見表明)」(2024年10月8日付)(インドネシア語原文)
  • 「Statement of Position of Loeha Raya Community」(2024年10月8日付)(英訳)

連絡先:
WALHI South Sulawesi (Muhammad Al Amin, Executive Director)
Add: JL. Aroepala, Kompleks Permata Hijau Lestari Blok Q1, No.8, Rappocini, Kota Makassar, Sulawesi Selatan 90221
Email: muhammad.al.amien@gmail.com / walhisulsel@gmail.com
Tel: +62-8229-3939-591

国際環境NGO FoE Japan(担当:開発金融と環境チーム 波多江)
住所: 1-21-9 Komone, Itabashi-ku, Tokyo, Japan 173-0037
Email: hatae@foejapan.org
Tel: +81 3 6909 5983


[1] https://foejapan.org/issue/20230818/13920/

[2] https://foejapan.org/issue/20240227/16316/

[3] https://vale.com/esg/controversies

[4] https://vale.com/documents/d/guest/ptvi-investigation-public-report-_-20240730

[5] https://vale.com/documents/d/guest/human-rights-commitment-and-action-plan

[6] https://walhisulsel.or.id/4354-konsisten-menolak-vale-masyarakat-blok-tanamalia-tegas-tolak-fasilitas-tambang-milik-pt-vale-indonesia/

[7] https://walhisulsel.or.id/4470-sending-letter-to-pt-vale-indonesia-apl-asks-to-vacate-nickel-mining-exploration-camp-in-tanamalia/

 

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