COP28総括:不十分な「化石燃料からの脱却」〜気候正義を実現するために連帯を

気候変動2024.1.29

2023年11月30日から12月13日にかけて、第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦・ドバイにて開催されました。2023年3月に公表されたIPCC第6次統合報告書によると、世界の平均気温はすでに1.1℃上昇しています。世界各地で気候災害が日常的に発生しています。紛争も各地で起きています。ガザで多くの命が失われるなかCOP28に参加することについて、市民社会でも議論となり、現場においてもその分断を感じずにはいられませんでした。そのような中で開催されたCOP28の結果は?そして、日本政府や私たち市民が求められていることとは?

交渉の結果は

COP28では、パリ協定下で気候変動国際対策の世界的な進捗を評価するグローバルストックテイク(GST)に多くの注目が集まっていました。GSTは緩和(温室効果ガス排出削減)、適応、実施手段や支援、損失と被害、国際協力など、多くの論点を含んでいます。気候変動対策の根幹である化石燃料の段階的廃止(Phase out from Fossil Fuel)がGSTの合意文書に盛り込まれるかが注目されていましたが、結果的に化石燃料からの脱却(Transition away from fossil fuels)」と、弱められた文言が採択されました。しかしながら、すべての化石燃料からの脱却に触れた初めてのCOP決定と広く受け止められています。 一方で、緩和策として、CCUS(炭素回収利用と貯蔵)、水素、原子力、ジオエンジニアリングなど、化石燃料や既存エネルギーインフラの延命を主目的とした技術が盛り込まれた点は問題です。さらに、世界の再生可能エネルギー容量を3倍にすることも合意文書に盛り込まれましたが、途上国が自国内で再生可能エネルギーの拡大を実施するための先進国からの資金技術提供や、環境社会配慮に関する言及はありませんでした。また、先進国が気候変動への責任を回避するために、気候変動枠組条約やパリ協定の原則である「公平だが差異ある責任」への言及を避けようとする中、改めて先進国の歴史的責任や公平性について合意文章内で再確認されたことは、発展途上国にとって重要な成果です。各国は2025年までに次の気候変動国別目標を提出することになっていますが、グローバルストックテイクにおける決定をどのように解釈し実施するかが、大きな論争となることが予想されます。

焦点の一つであった「損失と被害」については、COP28初日に基金の運用開始が決定・採択されました。損失と被害は途上国が最も重視する議論の一つで、昨年のCOPで気候変動によって生じた損失と被害に対応する基金の立ち上げまでが合意されていました。今回のCOPで基金の運用が開始されたことは歴史的な一歩です。しかし、いくつかの先進国が7億ドル以上の供出を誓約したものの、気候変動によって拡大する損失に対応するにはまったく不十分です。例えば2022年のパキスタンにおける洪水の損害額及び復興費用は30億米ドルと推計されています。また、基金の運用にあたって、資金充填のプロセスが明確ではなく、誰が基金の資金を使えるのかなど、課題や疑問も残されています。

パリ協定では、気候変動への適応能力の強化や気候変動に対する脆弱性を軽減するために、適切な適応策の確保を目的とした世界的な目標(適応世界目標)を定めることが合意されています。この議論において、途上国は具体的な進捗を測るための定量指標や適応資金、実施手段について獲得を望んでいましたが、具体的数値目標は合意文書に盛り込まれず、適応支援の実施手段については既存の合意を改めて言及するに留まっています。今後、合意された分野での進捗を測る指標を定める2年間の作業プログラムを開始することを決定するにとどまりました。しかし、異常気象、農業、食料、水問題への影響など重点分野が合意に列記されたことは評価できます。気候変動の影響のさらなる悪化から世界中の人々とコミュニティを守るためには、公平で、資金の伴った適応対策が極めて重要です。

温室効果ガスの排出量と削減量及び吸収量を国際的に取引するパリ協定第6条の「国際炭素市場」の運用についても議論されましたが、今回の交渉では欧米間の対立が表面化し合意に至らず、2024年6月の補助会合で再度議論されることとなりました。FoEグループを含むNGOは、温室効果ガスの排出量を吸収量で相殺できるものして扱う「ネットゼロ」という考え方に基づいた炭素市場制度は、温室効果ガスの削減につながらないこと、炭素クレジットの拡大が人権侵害や環境破壊の恐れを伴うこと、また、先進国や大規模排出企業の排出分の相殺のために途上国の土地や海洋が使われることは姿を変えた植民地主義であるということを主張してきており、交渉が合意に至らなかったことはこうした気候正義運動の勝利といえます。

*FoEグループがCOP29開催前に各国政府に提出した「COP28における炭素市場交渉に関する要請書」はこちら

COP28から議論が開始された「公正な移行」に関する作業計画では、途上国の長期的な経済移行に対し、国際的な支援を促進させるにあたって、来年以降具体的に「何を(作業計画の範囲)」「どれくらいの期間」「どの程度効力のあるものにすべきか」がCOP28で交渉されました。作業計画の範囲について、持続可能な開発の3つの柱(社会、経済、環境)をすべて扱うことが決定され、途上国の求める結果となりました。作業計画の期限について、途上国は各国の移行が達成されるまで長期的に議論されることを望んでいた一方、先進国は作業計画が1、2年を超えて継続されることを望まず、妥協案として2026年の第8回パリ協定締約国会議でその継続を検討することが合意されました。

会場での市民の動き・雰囲気

交渉の傍ら、会場内では連日、公正で平和な社会のために声をあげる市民の姿がありました。化石燃料の段階的廃止やガス開発の中止を求めるアクション、「損失と被害」に対する資金の増額、原発や化石燃料の延命につながる気候変動対策が会場内で議論されることへの抗議など、議長国が定めたそれぞれの日のテーマや交渉の状況に合わせながら、アクションが行われていました(上記写真参照)。

また、開催国と同じ中東のパレスチナ・ガザでの戦争が続く中で開催されたCOP28は、市民社会の中でも参加をめぐって議論がありました。それでも、会場内では開催期間中、平和や人権、民主主義のために連帯の声をあげる人々の姿がありました。一方で、世界各地で、戦争や紛争、人権侵害に反対し声を上げる市民を沈黙させる圧力が広がっています。そのような世界的な傾向に対し強い懸念もありますが、抑圧に屈せず、連帯して行動することの大切さを改めて感じました。

期間中、FoE Japanのアクションは?

日本の化石燃料投融資への抗議

​​12月4日には、会場内にて日本の化石燃料投融資に抗議するアクションが行われ、「#SayonaraFossilFuels(さよなら化石燃料)」のスローガンが掲げられました。フィリピン、バングラデシュ、アメリカ、オーストラリアから来た市民がスピーチし、日本の化石燃料投融資事業によって、現地コミュニティで健康被害や海洋生態系破壊が起こっていることを訴えました。米国から参加したJohn Beard, Jr.さんは、「私が住むコミュニティは、世界でも最もがん罹患率が高い地域の一つであり、有害なフラッキングガス(水圧破砕法を用いて採掘されるガス。化学物質を含んだ水を地層に圧入する)による影響に苦しんでいる。日本が気候を破壊し、世界がパリ協定の目標達成を妨げている。日本の投資は、南西部の先住民族からテキサス、ルイジアナ、メキシコの港近くに住む人々に至るまで、米国の人々にさらなる打撃を与える」と話しました。

「大規模バイオマス発電による人権への影響」を訴え

バイオマス発電は「カーボンニュートラル」・「再エネ」とされますが、バイオマス発電は燃焼段階で石炭と同等かそれ以上のCO2を排出します。さらに、燃料生産のため「炭素の貯蔵庫」である森林を破壊するだけでなく、「排出削減」としてバイオマス混焼が石炭火力発電所の延命に利用されるなどの問題を抱えています。

 12月6日には「『公正な移行』の失敗−大規模バイオマス発電による人権への影響」をテーマに、市民社会がサイドイベントを開催しました。バイオマス発電に伴い、木質ペレットやパーム油などの生産による土地収奪や、燃料生産工場及び発電所による大気汚染・健康被害などの人権侵害が、世界各地の先住民族をはじめとする地域コミュニティにもたらされています。トーゴやチリ、インドネシア、米国からの登壇者は、「このような事例は気候正義に反する」と訴え、今後のバイオマス発電の拡大は人権侵害や環境破壊をさらに加速させる危険性があることを警告しました。

米国南東部には、貧しい有色人種が多く住む地域にペレット工場が偏在しています。同地域から参加したKatherine Eglandさんは、「このような誤った気候変動対策のために企業は数十億ドルもの補助金を得ている。米国南東部の地域コミュニティは、ペレット工場からの有毒な化学物質排出による大気汚染などの影響を受けるだけでなく、気候変動に対しても最も脆弱である」と指摘しました。

*大規模バイオマス発電に関して詳しくはこちら

「原発による発電容量を世界で3倍」に抗議の声

COP28では、原発についても注目されました。会期3日目の12月2日、米国政府がリードして、2050年までに原発による発電容量を世界で3倍にするという宣言を発表し、日本を含む23カ国が賛同を示しました。これに対して、FoE Japanは「原発は不安定で危険な上に経済合理性にも欠ける電源」「ウラン採掘から運転、廃炉、核燃料の処分に至るまで環境を汚染し、人権を侵害する」とし、原発を気候変動対策にすべきではないとする共同声明を発出しました。同宣言は、米国政府主導の下で発表された有志国によるものですが、グローバルストックテイクに関する合意文書の中でも原発についての言及がありました。「化石燃料から脱却する」「2030年までに再生可能エネルギー容量を世界全体で3倍に拡大する」などの文言が盛り込まれた一方、「ゼロ排出・低排出技術」の一つとして原発も追加されたのです。気をつけなければならないのは、エネルギーの議論においてCOPの会場で焦点となっていた議題は脱化石燃料であり、再生可能エネルギーの拡大です。原発は、本来の対策である化石燃料削減や省エネ・再エネの促進から目を背けさせる「めくらまし」にすぎません。

日本に求められること

すでに世界の平均気温が1.1度上昇し、気候危機が顕在化している今、この 10 年間に排出量を早急かつ迅速に削減することが求められています。ただし、その方法は、気候変動への先進国の歴史的責任と公平性に基づくべきです。

日本は、石炭火力発電はもちろん、化石燃料を燃料とする発電方法、CCS、バイオマス、原発などの誤った気候変動対策に頼っている余裕はありません。また、再エネ3倍が合意文書に盛り込まれましたが、拡大にあたっては脱化石燃料と並行して行われる必要があります。そして、エネルギー転換の取り組みにおいては、現在のシステムが生み出しているのと同じ人権、搾取、環境問題が引き起こされないようにしなければなりません。2024年にはエネルギー基本計画の見直しも行われます。会場での市民社会の訴え、そして国内の市民社会の声を日本の気候変動対策に反映するために、FoE Japanは気候正義を求める世界の市民社会と連帯し、国内外の人々と共に活動を続けていきます。

*COP28に関するそのほかの発信情報はこちら

 

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