ポジションペーパー:「自然に基づく解決策」

気候変動2023.7.10

FoEインターナショナル(FoEI)によるポジションペーパー「自然に基づく解決策:羊の皮をかぶったオオカミ」(2021年10月発表)の日本語訳を公開しました。(原文はこちら)

近年、気候変動対策の文脈でよく聞かれる「自然に基づく解決策(Nature Based Solutions, NBS)」。FoEIはNBSという概念について問題点を指摘するポジションペーパーを発表しています。この度、日本語訳を発表しました。

NBSは、気候変動や生物多様性損失へのさまざまな対策の総称として使用されます。

NBSは、泥炭地の回復から単一栽培のプランテーションまで、あらゆるものを含みうる、広範で曖昧な概念です。それゆえFoEIはNBSに対して強い懸念を抱いています。

ポジションペーパーは、NBSが

・新たな土地収奪につながっている。

・自然の金融商品化を助長させる。

・集約農業や新たな遺伝子技術を含むいわゆる「持続可能な集約化」を新たに正当化する。

・排出量を削減するのではなく、地域コミュニティに弊害をもたらす炭素市場やオフセットの仕組みが大規模に拡大される。

・政府・民間企業を問わず行われるグリーンウォッシュや化石燃料由来の排出量増加の隠ぺいにつながる。

などの問題と繋がっていることを指摘。

気候危機対策のためには、化石燃料を燃やすことにより発生する温室効果ガスの量をいかに減らしていくかが肝心です。しかしNBSはそう言った根本的な削減対策から人々の注意をそらすものであるとポジションペーパーは述べています。また自然には金銭的価値以外にも、文化的・生態的な価値がありますが、自然を"解決策"という道具として認識する過程で、それらの価値がないがしろにされてしまう恐れがあります。

ペーパーは具体的な例にも言及しています。

例えば、大手石油会社のシェルは、「自然に基づく解決策」 の大幅拡大を目指しており、「ブラジルとほぼ同じ面積」の土地で植林するとしています。ネスレ社は、「プロジェクト・レリーフ(Project RELeaf)」 に 400 万スイスフランを投じ、2023 年までにマレーシアで 300 万本の植林を行うと発表しました。イタリアの化石燃料大手のエニ社は、石油とガスを2025年までに年率3.5%で増産する計画であり、その上で、2050 年までに年間 3,000 万トンを一次林と二次林の保全事業でオフセットすることにより、同年までにカーボンフットプリン トを 80%削減すると主張しています。

日本企業や日本政府方針の中でもみられるようになったNBSですが、その実態について注視する必要があります。

環境問題を純粋に懸念する人々やグループから、NBSに期待する声も上がっていますが、自然を利用しようとする企業や政府により歪められたNBSは解答ではありません。

詳しくはポジションペーパーをご覧ください。

 

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