CCS(炭素回収貯留)ってなに?

気候変動2024.3.29

社会の脱炭素化が急がれる中、炭素を回収して地中などに貯留する「CCS(炭素回収貯留)」が注目されています。CCSは気候変動対策になるのでしょうか?よくある質問と回答をまとめました。

Q. CCS(炭素回収貯留)とは何でしょうか?
Q. CCSはすでに行われているのでしょうか?
Q. 日本に回収した炭素を埋める場所はあるのでしょうか?
Q. CCSは環境に悪影響を及ぼさないのでしょうか?
Q. CCSは気候変動対策として有効なのでしょうか?
Q. IPCCがネットゼロ達成のためにCCSが必要だといっているのは本当でしょうか?
Q. CCSは経済的に成り立つのでしょうか?
Q. 日本政府はどれくらいCCSを導入する予定なのでしょうか?

Q. CCS(炭素回収貯留)とはなんでしょうか?

CCSとは、Carbon Capture and Storage(炭素回収貯留)の略で、製油所や発電所、工場などから出る二酸化炭素(CO2)を分離・回収して地中に貯めることを指します。回収したCO2を利用する場合はCCU(炭素回収・利用)やCCUS(炭素回収利用・貯留)と呼びます。陸地や海底に地中貯留を行う場合、回収したCO2を液化して輸送し、圧入井を通じて貯留に適した地層に注入されます。[TOP]

Q. CCSはすでに行われているのでしょうか?

CCSの技術は1970年代から研究されていますが、実現例は多くありません。実際に実施されているのは、回収したCO2を油田に圧入し、原油の採掘量を上げるEOR(原油増進回収)というタイプで、むしろ化石燃料の増産を促進しています。発電所などにCO2回収装置を設置してCO2を回収する事業は、コストの高さなどが原因であまり進んでいません。日本では規模の大きなものとして、北海道の苫小牧で「CCS大規模実証試験」が行われています。同事業では、2016年4月から2019年11月の3年半をかけ、2つの圧入井から合計30万トンが圧入され、現在もモニタリングが続けられています。発電所などに設置して稼働している例はまだありません。(関連ブログ:本当にできる?日本でのCCSの可能性と苫小牧実証事業 | FoE Japanブログ

海外では、米国、カナダ、ノルウェーなどで実例があります。グローバルCCSインスティテュートのデータベースによると、稼働中(Operational)とされるCCS事業が100近く登録されていますが、EORやすでに終了した事業、実証実験レベルのものがほとんどです1。回収されたCO2の4分の3近くがEORに利用されており、化石燃料生産を後押ししているだけなのがよく伺えます2(図1)。[TOP]

図1:二酸化炭素回収の取り組みは大手石油会社に利益(出典:IEEFAの資料を翻訳

Q. 日本に回収した炭素を埋める場所はあるのでしょうか?

これまで世界で実現した商業規模のCCS事業31件のうち、28は陸域での実施で、22は原油増進回収(EOR)でした3。日本にはほとんど油田がなく、EORを行うことは現実的ではありません(そもそもEORであれば脱炭素に貢献しません)。

地中に注入するためには、地層にいくつかの条件が必要とされています。グローバルCCSインスティチュートによると、一つは地下1km以深であること、地層にCO2を十分に貯留できる多数の小さなボイド(空洞)があること、CO2が漏れ出るのを防ぐ地層(キャップロック)が存在することです。このような特徴を持つ地層のほとんどが堆積盆地と呼ばれる地質にあります。

日本CCS調査株式会社によれば、日本の領域内、特に海洋に大規模な貯留ポテンシャルがあるとされていますが、コストが高く、具体的な貯留地はまだ見つかっていません。また回収したCO2を運ぶ輸送船もまだなく、実証実験が始まろうとしている段階です。加えて日本政府内では、国内における適地確保に課題があり貯留コストが高いことから、安価に貯留できると予測される海外にCO2を運んで貯留するという議論まで行われています。[TOP]

Q. CCSは環境に悪影響を及ぼさないのでしょうか?

CCSには様々な環境影響が懸念されています。

例えば、地中に注入することにより地震が誘発される可能性、二酸化炭素が漏れ出した時のリスク、水ストレスの増加、海洋酸性化などが挙げられます。

例えばアルジェリアで行われたCCS事業では枯渇したガス田にCO2を圧入していましたが、CO2が漏れ出るのを防ぐ地層に動きが認められ、漏出の懸念もあったために注入が中断されました4。2020年、アメリカ・ミシシッピ州におけるEOR事業に付随するCO2輸送パイプラインが破損、300人が避難し45名がCO2中毒症状で病院に運ばれました5

火力発電所にCCSを設置する場合、発電所そのものに必要な冷却水に加えて、CCS装置にも冷却水が必要になります。そのため、すでに水不足が生じている地域においては特に、CCSの導入が水ストレスを増加させることが懸念されています。

燃焼後、排ガスからCO2を回収する技術として、化学吸収法(アミン等の溶剤を用いて化学的にCO2を吸収液に吸収させ分離する方法)、物理吸収法(高圧下でCO2を物理吸収液に吸収させて分離する方法)、膜分離法(CO2 が選択的に透過する膜を用いて分離する方法)、深冷分離法(極低温下で液化し沸点の違いを用いて分離する方法)があります。苫小牧でも採用されているアミン吸着法については、アミンによる生態系や環境への有害性も懸念されています6。[TOP]

Q. CCSは気候変動対策として有効なのでしょうか?

気候危機を食い止めるためには、温室効果ガスの確実な削減に貢献する対策を早期に実行することが必要です。化石燃料の採掘や燃焼からのCO2を分離・回収・貯留しようというCCSは、化石燃料の利用を継続し、温室効果ガスの排出を前提とした技術といえます。また、CCSによって全ての二酸化炭素が回収されるわけではありません。90%程度の回収率が目安とされていますが、実際の回収率は60〜70%に止まっています。また、回収されるのはCO2のみで、メタンなどその他の温室効果ガスが回収されているわけではありません。さらに分離・回収のために莫大なエネルギーや水が必要になります。特に電力セクターにおいては、再生可能エネルギーや省エネなど、より確実で安価な脱炭素技術が存在します。[TOP]

Q. IPCCがネットゼロ達成のためにCCSが必要だといっているのは本当でしょうか?

気候変動対策として最も必要とされているのは化石燃料依存からの脱却です。

IPCCは、CCSを最もコストが高く削減効果が小さい技術の一つとして認識しています。図2は、それぞれの緩和策がもたらす削減効果を示しています。バーの長さは削減への貢献量を示し、色はコストを示しています(青色はコストが安く、赤はコストが高い)。これを見ると、CCSはコストも高く、削減効果も薄いことが示されていることがわかります。一方で、風力や太陽光などはコストも安く、削減効果も高いことが示されています。

さらに、貯留の安全性やコストへの懸念、そして貯留や運搬時に二酸化炭素が漏れ出るリスクも見逃せないことなどを指摘しています。さらにCCSの利用が化石燃料利用を延長させてしまうことにも触れられています7。IPCCによるシナリオの中にCCSが含まれていますが、あくまでCCSは限定的な利用に留められており、化石燃料のフェーズアウトが最優先であることは間違いありません。[TOP]

図2:2030年における排出削減対策と削減費用別の削減ポテンシャル(出典:IPCCをもとに国立環境研究所が作成

Q. CCSは経済的に成り立つのでしょうか?

過去に行われたCCS事業は、ほとんどすべてと言っていいほど失敗しています。1995年から2018年の間に計画されたCCS事業のうち、資金不足などから43%が中止か延期されていました。さらに大規模な事業(年間3万トン以上のCO2を回収するもの)に至っては78%が中止か延期されていました8

2022年に経済産業省のCCS事業コスト・実施スキーム検討ワーキンググループで示された試算によると、足元のCCSコストは12,800円〜20,200円/tCO2で、これを2050年までに6割程度に低下させるとしています。日本政府のCCS長期ロードマップは「コスト目標に向け、引き続き、コスト低減を可能にする技術の研究開発・実証を推進する」とあり、目標到達が可能なのか曖昧です。6割となっても、高額であることには変わりありません。

またIEEFAの調査でも、発電所におけるCCSの導入は発電コストを大幅に増大させることが示されています。エネルギー別LCOEの比較を示す図3をみると、CCS付きの石炭火力およびガス火力は、蓄電設備を備えた洋上風力や太陽光発電のコストを大幅に上回っています。[TOP]

図3:エネルギー別LCOE(発電量あたりのコスト)比較(出典:IEEFAの資料を翻訳

Q. 日本政府はどれくらいCCSを導入する予定なのでしょうか?

日本政府は2022年度、CCS長期ロードマップを作成し、2050年までに二酸化炭素を年間1.2億トン〜2.4億トン貯留する目標を立てています。また、2030年までにCCS事業を本格的に開始するために、コストの低減や法整備、国民理解を深めるとしています。仮に2030年にCCS事業を本格的に開始した場合、CO2圧入井1本あたりの貯留可能量を年間50万トンと仮定すると、2050年までの20年間で年間12〜24本の圧入井を増やす必要があります。苫小牧の実証実験が3年間で30万トンであること、また国内における貯留適地がまだ選定されていないことも考えると、とても実現可能性があるようには見えません。

日本政府は2023年に先進的CCS事業を7つ選定しましたが、そのうちの2つは海外へのCO2輸送を前提にしています9

ちなみに日本の年間排出量は11億2,200万トン(二酸化炭素(CO2)換算、2021年)です。年間1.2~2.4億トンとは、その10~20%に当たります。削減効果が不確実でコストの高い技術に頼るのではなく、省エネと再エネで削減量を減らすことを今すぐに始めるべきではないでしょうか。[TOP]

図4:CCS事業7案件(出典:経済産業省)

注釈

1. https://co2re.co/FacilityData, 2023年10月閲覧
2. IEEFA, “The carbon capture crux: Lessons learned" 2022年8月
3. 自然エネルギー財団「CCS火力発電政策の 隘路とリスク」2022年
4. MIT, “In Salah Fact Sheet: Carbon Dioxide Capture and Storage Project"
5. ハフィントンポスト “The Gassing Of Satartia" 2022年8月, The Intercept “Louisiana rushes buildout of carbon pipelines, adding to dangers plaguing cancer ally" 2023年8月
6. 環境省資料「二酸化炭素分離・回収プロセスの環境負荷評価」
7. CIEL, “IPCC Unsummarized" 2022年4月
8. Wang et al, “What went wrong? Learning from three decades of carbon capture, utilization and sequestration (CCUS) pilot and demonstration projects” Energy 2021年11月
9. 経済産業省「日本のCCS事業への本格始動」2023年6月

参考

CCS、ブルー水素に関する動画も公開しています

FoE Japanでは、FoE Scotlandが制作したCCS、そしてブルー水素に関する動画に、日本語訳字幕を追記しました。

ぜひご覧ください。

CCS(炭素回収貯留)は気候変動対策?〜グリーンウォッシュにだまされないで!〜

ブルー水素は気候変動対策?〜発電事業者や化石燃料企業のグリーンウォッシュに注意!〜
 

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