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フィリピン・サンロケダム
問題点(2) ダム建設地とその下流域の人々への影響
サンロケダム(左後方)と貯水池 (2002年9月) |
プロジェクトによって立ち退きを迫られた人々は約781世帯 にのぼり、すでに全世帯が移転を完了。この非自発的移転住民に加え、①アグノ川沿いで砂金採取をしてきた住民、②プロジェクト用地に土地を所有していた住民、③プロジェクトの影響による農業用水の不足を訴える住民――等がプロジェクトにより生計手段を失い、現在、生活難に直面している。本来、プロジェクトによって改善されるべき住民の生活水準は、以前の水準の維持すらできていないのが現状だ。
◆砂金採取の喪失とその補償・代替の生計手段の欠如
アグノ川流域はフィリピンの中でも有数の砂金採取場であり、それは流域住民の貴重な現金収入源であった。しかし、サンロケダムの建設により下流で砂金採りができなくなってしまうことは住民に適切に伝えられてこなかった。
砂金採取者のダム反対の声は2001年から強まり、砂金採りの禁止によりこれまでに受けた損失の金銭補償と砂金採取の継続を求め、これまで数度にわたり要望書が提出されている 。
しかし、この重要な現金収入の手段であった砂金採取に対する事業者の評価は低く、現在のところ、金銭補償についてはまったく考えられていない。また、2001年に、砂金採取を補償対象とし、生活再建プロジェクトを提供することを決めた事業者だが、その対象者は最小限の砂金採取者に限定されており 、また、喪失した現金収入分を代替するような有効かつ持続性を備えた生活再建プロジェクトは提供されていない。
◆生活再建計画の不備
売却され誰も住んでいない カマンガン再定住地の家 (2002年9月) ダム建設が始まってから水が来なくなった という採石場近くの灌漑用水路の跡 (2002年9月) 採石場近くの荒野、 ダム建設が始まる前は農地だったという (2002年9月) |
生計手段を失った人々は今、新たな生計手段を必要としている。しかし、事業者の提供している生活再建プロジェクト(養豚など)や技術支援(キノコ栽培やキルト作りなど)では、生活に最低限必要な収入も得ることはできない。また、生活再建プロジェクトは貸付け形式となっているため、参加した住民がその貸付を返済できないケースも出ている。これらの生活再建計画の有効性および持続性に疑問をもつ住民は多く、事業者の生活再建プロジェクトへの参加自体を拒否している住民も多くいる。
このような生活再建プロジェクトの不備は、住民・NGOにより再三指摘されてきたが、事業者による適切な対応は何ら取られていない。その結果、カマンガアン再定住地では、約180世帯のうち、すでに約30世帯の人々が生計を立てられず、家を売却、また、約30世帯の人々が家をレンタルで他人に貸し出し、再定住地を後にしている。
◆灌漑用水の不足
農地がプロジェクト用地として買収された人々とは別に、工事の始まった1998年以来、灌漑用水の不足のため、収穫のできなくなった農家や収穫期・収穫量の減少した農家が多発している(多くは水稲作)。
事業者は、ダムの建築資材を用立てるためにアグノ川沿いの広範囲で採石作業を行なったが、住民は、この露天掘りの掘削作業がところによって深さ15m近くにまで及んだために水位が下がり、灌漑地まで水が上がってこなくなったことを指摘。また、2001年の洪水により採石場に位置していた既存の灌漑用ダムが崩壊し、サン・マニュエル町を中心とした多くの農家が水不足に苦しんでいるが、この灌漑用ダムの周辺で行なわれた採石がダムの崩壊の一因としてあげられている。その他、2002年8月に貯水が開始されて以来、アグノ川自体の流水量が減少し、灌漑用水が不足しているとの苦情も出されている。
このようにプロジェクトが原因となって引き起こされた苦情については、現地の苦情処理機関 が客観的科学調査の上、適正な補償を支払うことになっているが、これまで適切な問題解決は図られていない。
◆補償の適正評価と支払い手続きの不備
プロジェクトの影響を受ける人々は、新しい生活を始めるための十分な補償を必要としている。そのためには、彼らの被る損害額が適正に評価されなければならない。しかし、事業者の補償額の査定に対しては、補償価格の設定における過小評価、補償額の下方修正、調査時期の不適切な選定(収穫を終えた後の作物の調査等)などの問題が指摘されている。
また、プロジェクトが98%進んでいる一方で、補償の支払いが完了していないケースが多発しており、住民の懸念が増大している。とくに土地の補償に関しては、多額をかけて土地の登記書などの必要文書を準備したにもかかわらず、明確な理由も告げられないまま、依然として補償が支払われていないケースも多い。NPCの土地収用リスト(Masterlist Expropriation)(2002年8月20日時点)でも、依然437件の補償未完了のケースが確認されている。
問題点
1 >サンロケダム建設地の上流域に住む先住民族の懸念
2 >サンロケダム建設地とその下流域の人々への影響
3 >プロジェクトの経済効果
4 >円借款および輸出信用における日本政府の政策の矛盾