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フィリピン・サンロケダム
問題点(1) ダム建設地の上流域に住む先住民族の懸念
◆先住民族の合意の欠如と先住民族権利法違反の問題
ダム上流域のイトゴン町ダルピリップ村に暮らす先住イバロイ民族は、計画が明らかになった1995年当初から土砂堆積等によって川沿いの村が土砂に埋まってしまうことを懸念。プロジェクト反対の姿勢を明らかにしてきた。すでに上流の2つのダムにより 、イバロイ民族の村が土砂に埋まってしまった経験をもつからだ。これは、サンロケダムの建設がフィリピンの国内法『先住民族権利法(IPRA)』に違反して進められている疑いがあることを意味する。
この法律は、先住民族の地域社会へ悪影響をもたらすプロジェクトから先住民族を保護することを明記。プロジェクトが先住民族の地域社会に影響を与える場合、その地域社会が「①自由な選択権をもち、②十分な情報を与えられた上で、③事前に」合意することをプロジェクト実施の条件としている。また、この要件が満たされない場合、先住民族委員会(NCIP)がプロジェクトを中止する権限を認めている。
イトゴン町の先住民族らは、IPRAの要請する「合意」なしにプロジェクトが進められていることを指摘し、NCIPにサンロケダムの建設を中止する権利を行使するよう訴え続けている 。2001年6月には、NCIPの調査チームが、「ダム事業の着工以前に必要とされている、影響を受ける先住民族の事前合意はなかった」と記した報告書を提出している。今後、この違法性の問題はフィリピンの最高裁に問われる予定となっている。
◆自治体の合意の欠如と地方自治法違反の問題
ベンゲット州は、ダム貯水池の予定地に含まれているため、明らかにプロジェクトの影響を受けることになるが、1999年4月の州議会決議においてプロジェクトへの反対姿勢を明らかにした。現在もプロジェクトの承認決議を可決していない状況が続いている。
イトゴン町は、建設工事がすでに始まってしまい、事業を止めることは不可能だろうと考えたため、1999年1月、上流の先住民族の生活に被害を与えないことを条件(「17つの条件」を提示)にプロジェクトに合意した。しかし、2000年9月、イトゴン町評議会は事業者がこの条件を満たしていないことを理由に、プロジェクトの承認を撤回する決議を行なった。この決議は一度、町長により拒否権が発動されたが、翌2001年1月、評議会は再度その承認の撤回決議を行なっている。また、同町評議会は2002年1月にも、17つの条件の遵守状況について評価を行ない、依然として条件が満たされていない状況を明らかにし、事業者に条件を遵守するよう求めている。
以上のことは、いかなる政府事業であっても、影響を受ける当該地方自治体の支持が必要であると定めたフィリピンの国内法『地方自治法(LGC)』にサンロケダムの建設が違反していることを意味する。今後、この違法性の問題はフィリピンの最高裁に問われる予定となっている。
問題点
1 >サンロケダム建設地の上流域に住む先住民族の懸念
2 >サンロケダム建設地とその下流域の人々への影響
3 >プロジェクトの経済効果
4 >円借款および輸出信用における日本政府の政策の矛盾