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フィリピン・サンロケダム
プロジェクトの概要
フィリピンのルソン島北部を流れるアグノ川で、アジアで最大級の規模を誇る巨大ダム「サンロケ多目的ダム」が建設された。主要な目的には345MWの水力発電が掲げられ、鉱山採掘や輸出農業、輸出工業、観光業等の経済開発を推進しようとするフィリピンの国家最優先プロジェクトとなっている。水力発電のほかには、下流に広がるパンガシナン平野80,000haの灌漑、また洪水の制御等の役割が期待されている。
地図:フィリピン |
◆ 目的: 水力発電(345MW)、灌漑(70,800ha)、洪水対策、水質改善
◆ 場所: ルソン島パンガシナン州アグノ川上流
- パンガシナン州サン・マニュエル町、サン・ニコラス町、
ベンゲット州イトゴン町
◆ ダム規模: 高さ200m、堰堤長1.2km、貯水量8億5千万m3
◆ 総事業費: 11.91億ドル(約1,200億円)
◆ 事業者: サンロケパワー社(SRPC)(出資は丸紅、関西電力)
、
フィリピン電力公社(NPC)
◆ 融資者: 国際協力銀行(投資金融 約3.5億ドル、アンタイド4億ドル)
民間銀行(投資金融 約1.5億ドル分)
◆ 影響住民: 約4,000haの収用に伴い影響を受けた地主・小作2,545世帯
(約680世帯の移転を含む)
数千人の砂金採取者
ダムからの放水による洪水拡大で被害を受けるダム下流の住民
ダム上流の土砂堆積により村が埋まる可能性のある先住民族
資金の流れ
事業費の大半は、JBIC(当時の日本輸出入銀行)の融資で、1998年10月に同事業の発電部門に市中金融機関との協調融資で約5億ドルの融資が行なわれた。その後、調査が不十分であったことが判明し、融資は一時凍結されたが、1999年9月にダム部門への4億ドルの追加融資が決定された。
すでに工事は完了し、2003年5月に発電部門の商業運転を開始。2005年1月には、全貸付を終了し、現在は返済期間に入っている。
事業の経緯
年月日 | 事項 | |
1974頃~ | 当時マルコス政権 | サンロケダムの建設計画を模索 |
1983.3.~ | 中曽根政権 | ODAによる資金拠出を検討 |
1983.7.~ | 国際協力事業団(JICA) | サンロケダムの実行可能性調査について追加調査(水文分野)を開始(85年に最終報告書を提出) |
1984.3.および8. | 国会 | サンロケダムに関する中曽根-マルコス疑惑を追及 |
1984.4. | 中曽根政権 | サンロケダム事業へのODA拠出見送り |
1986.3~5.および1987.5. | 国会 | サンロケダムに関する中曽根-マルコス疑惑を追及 |
1996. | SSIPM(サンタナイ先住民族運動) | 設立、先住民族によるサンロケダムの建設反対運動を展開 |
1997.10.11 | NPC-SRPC | 電力購買契約の締結 |
1997.10.29 | 先住民族権利法の制定(2週間後に発効) | |
1998.2. | フィリピン環境天然資源省(DENR) | 環境応諾証明書(ECC)を発行 |
1998.2. | SRPC | 工事着工(サンロケの家屋取り壊し開始) |
1998.10.27. | 旧輸銀→SRPC | 約5億ドルの投資金融融資承認(旧輸銀・日本民間銀行団(東京三菱、富士、住友、住友信託、農林中金、さくら、三和)による協調融資) |
1999.1. | イトゴン町評議会 | 17つの条件のもと、プロジェクトを支持 |
1999.1. | 旧輸銀 | 外部専門家を含んだ調査団をフィリピンに派遣 |
1999.2. | 旧輸銀 | 融資の一時停止 |
1999.3. | 上流部での社会環境調査終了 上流部の立ち退き世帯が61世帯に増加 |
|
1999.9.22. | 旧輸銀→NPC | 融資再開 4億ドルのアンタイドローンを承認 |
2000.5.31. | フィリピン上院 | 電力購買契約の再検討を促す決議採択 |
2000.9. | イトゴン町評議会 | プロジェクト支持を撤回する決議を可決(市長拒否権発動) |
2000.10. | サン・ニコラス町評議会 | プロジェクト支持を撤回する決議を可決(市長拒否権発動) |
2001.1. | イトゴン町評議会 | プロジェクト支持を撤回する決議を再度可決 |
2001.3. | TIMMAWA(下流の農民組織) | 設立、ダム建設下流の反対運動が活発化 |
2001.6. | フィリピン先住民族委員会調査チーム | プロジェクトに対する先住民族の事前合意の有無についてイトゴン町で調査 報告書を提出 |
2001.7. | NPC、SRPC | アグノ川下流沿いでの砂金採取を本格的に禁止 |
2001.10. | 日本政府 | サンロケダム灌漑部門へのODA拠出を見送り |
2002.8.8. | SRPC、NPC | ダム湖への貯水を開始 |
2002.9. | フィリピン上院議員 | サンロケ多目的ダム事業に関する公聴会 |
2002.12. | 国連人権委員会特別報告者 | サンロケダムの先住民族への権利侵害に関する公聴会 |
2003.3. | イトゴン町評議会 | プロジェクト支持を撤回する決議を可決 |
2003.5. | SRPC | 完工、商業運転開始 |
2004.1.31 | JBIC | 事業者への全貸付を終了 |