【インドネシア環境団体声明】バタン・ガスコンバインドサイクル発電所事業を拒否する:誤ったエネルギー移行であり、地域社会と沿岸生態系への真の脅威となる

2025年10月23日、インドネシア環境フォーラム(WALHI/FoEインドネシア)は、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の下、電源開発株式会社(J-POWER)、伊藤忠商事株式会社、アダロ・パワー社の3社が中ジャワ州バタン県で事業性調査を行っている新規ガス火力発電事業について、エネルギー移行の名の下に化石燃料の利用を永続させるものであり、またバタン石炭火力発電事業によってすでに甚大な被害を受けてきた地域コミュニティと沿岸生態系にさらなる脅威をもたらすものであるとし、同ガス火力発電計画の中止を強く求める声明を発出しました。
このバタン・ガスコンバインドサイクル(CCGT)発電所事業は、2024年8月にジャカルタで開催された第2回AZEC閣僚会合において、同3社による調査実施に関する覚書が発表されたものです。資源エネルギー庁の公表資料「第2回AZEC閣僚会合に向けたMOU案件概要」によれば、同CCGT発電所は、同3社が建設して2022年から稼働中のバタン石炭火力発電所(100万キロワット×2基)に隣接する30ヘクタールの土地を候補地としています。
このバタン石炭火力発電事業は、建設が本格化する以前の2011年から、農業や漁業など生計手段への影響を懸念する住民から強い反対の声があげられ、国際的にも大きな批判を受けた事業の一つです。農地の強制収用や反対の声をあげる複数の住民が不当逮捕・収監されるなど、深刻な人権侵害が報告され、インドネシア国家人権委員会から事業者らに対して人権状況の改善を求める勧告も出されました。また、同事業に融資を行なった国際協力銀行(JBIC。財務省が全株式保有)に対して、住民による異議申立ても行われました。
こうした現地住民の反対や国内外からの批判を無視して推進されたバタン石炭火力発電事業は、今回のWALHIの声明にあるとおり、漁獲量の減少や漁網の損傷、海岸浸食の悪化など、いまだに住民の生活に深刻な被害を及ぼし続けています。石炭火力を強行に推し進めてきた同3社が現在、同地域でガス火力発電事業を進めようとしていることに対し、WALHIは「住民の声が再び無視され、環境破壊が繰り返される可能性が高い」と指摘しています。
またWALHIは、ガスが採掘から燃焼に至るサプライチェーン全体を通じて、メタンを含む多量の温室効果ガスを排出する化石燃料であることを指摘。AZECの枠組みの下でガスが「移行エネルギー」として推進されている現状に対して警鐘を鳴らすとともに、AZECが化石燃料への依存を長引かせるガス関連事業への技術的・財政的支援を正当化する「グリーンウォッシュ」に他ならないと厳しく批判しています。
これまで、バタンCCGT発電所事業に関して、地域住民との協議は一切行われていません。日本企業を含む事業者は、過去の開発事業で生じた問題を繰り返すことのないよう、「バタンは実験場でも、投棄場でもない。エネルギー移行を破壊の口実にしてはならない」というインドネシア市民社会からの声に真摯に耳を傾けるべきです。そして、AZECや脱炭素化の名を借りて、地域コミュニティの生活や環境を脅かす「誤った気候変動対策」の推進をただちに中止することが求められています。
詳細は、以下のWALHIによる声明をご覧下さい。
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(本要請書の原文はインドネシア語。以下は、FoE Japanによる和訳)
インドネシア環境フォーラム(WALHI)声明
バタン・ガスコンバインドサイクル発電所事業を拒否する:
誤ったエネルギー移行であり、地域社会と沿岸生態系への真の脅威となる
2025年10月23日
インドネシア環境フォーラム(WALHI)は、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の下で推進されている、バタン・ガスコンバインドサイクル(CCGT)発電所事業の開発計画を断固として拒否します。この拒否は単なる一つの事業に対するものではなく、エネルギー移行の名の下で、一貫して地域住民の権利を無視し、生態系を破壊し、化石燃料への依存を永続させる開発の在り方そのものに対するより広範な抗議です。
2024年8月に開催された第2回AZEC閣僚会合において、電源開発株式会社(J-POWER)、アダロ・パワー社、伊藤忠商事株式会社の3社は、インドネシア・中ジャワ州におけるCCGT発電所の開発に向けた事業性調査の実施を発表しました。正確な建設予定地は明示されていないものの、事業概要によれば、中ジャワ州バタン県にある既設のバタン石炭火力発電所に隣接する形で、当該CCGT発電所が建設される予定であることが示されています。
バタンCCGT発電所事業は、孤立した事業ではありません。事業性調査を実施しているJ-POWER、アダロ・パワー、伊藤忠商事は、ビマセナ・パワー・インドネシア(BPI)社を通じて開発されたバタン石炭火力発電所の開発を推進した同一の企業体です。2011年以降、彼らの計画と運営においては、地域住民の意味ある参加が確保されておらず、 社会・環境影響の包括的な緩和もなされておらず、生態学的・経済的に重要な地域へ重大な被害がもたらされてきました。
バタン石炭火力発電所の建設により、226ヘクタールに及ぶ土地が犠牲となりました。これらは主として水田や畑地であり、地元の農民の生活を支えてきた土地でした。東ロバンの漁民たちは、かつて漁場までわずか30分で到達し、家族を養うのに十分な漁獲を得ていましたが、今では燃料消費量が増加し、漁獲量も減少する中、3~4時間の船旅に耐えなければなりません。かつて多様な海洋生物の生息地であったプレケテックのサンゴ礁は、今では発電所用の埠頭へと姿を変えてしまいました。埠頭建設に伴う浚渫作業によって生じた土泥は周辺海域に投棄され、魚類の生息地を覆い尽くし、生態系を破壊してしまっています。この投棄された土泥は頻繁に漁網に絡まり、網を損傷させたり使用不能にしたりするため、地域住民の生計手段にさらなる打撃を与えています。
埠頭の建設により海流が変化し、流れが海岸へ向かうようになったため、海岸浸食が深刻化しています。発電所の敷地内では浸食と伐採により、モモタマナやトクサバモクマオウなど沿岸地域の植生が消失しました。積み下ろし作業中の石炭運搬船からの石炭流出や、海に投棄される石炭洗浄水によって、海水も汚染されています。石炭燃焼による大気汚染は地域住民の健康リスクを高めています。また、公正な参加プロセスを経ずに農地が収用されました。同じ企業が新たな事業開発を許可されれば、このような住民の声を無視し、環境を破壊するというパターンが繰り返される可能性は高いでしょう。
現在、バタンCCGTはエネルギー移行の一環として推進されています。しかし、(西ジャワ州)チラマヤにおけるジャワ1 LNG(液化天然ガス)火力発電所のような類似の事例から明らかなように、CCGTはクリーンでも公正でもありません。土地転用、漁場の破壊、海洋環境の劣化、そしてガスパイプラインの敷設に伴う事故リスクなどの影響は、すでに地域住民が実際に直面しているものです。浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU)の操業および再ガス化による排水は、海水温の低下や漁場への悪影響を引き起こす可能性があります。仮にCCGTが近隣のガス田からの陸上パイプラインを使用する場合、爆発、火災、汚染のリスクも伴います。2025年4月にマレー半島で発生したガスパイプラインの爆発事故は、住民に対する深刻かつ否定できない安全リスクを浮き彫りにしました。
さらに、私たちはAZECが推進する「ガスは移行エネルギーである」という主張を拒否します。このような言説は誤解を招き、規範的にも危険です。なぜなら、ガスが温室効果ガスを排出する化石燃料であり、真の再生可能エネルギー源ではないという事実を覆い隠してしまうからです。ガスを「橋渡し」のエネルギーと位置付けることは、化石燃料への依存を長引かせる新たなインフラへの技術的・財政的支援を正当化するものです。こうしたグリーンウォッシュは、公正かつ迅速なエネルギー転換を遅らせ、再生可能エネルギーではなく、化石燃料依存をさらに深める事業に資金を振り向けてしまいます。
化石燃料ガス—化石燃料業界がよく「天然ガス」と称しているもの―は化石由来の炭化水素であり、主成分であるメタンは二酸化炭素よりもはるかに高い地球温暖化係数を持つ温室効果ガスです。クリーンエネルギーとして売り込まれてはいるものの、化石燃料ガスは依然としてCO₂とメタンを排出し、気候危機を悪化させています。インドネシアが化石燃料ガスへの依存を強めることは、エネルギー移行における新たな罠となる危険性があります。採掘から燃焼に至るまで、サプライチェーン全体を通じて発生するメタン排出が、ガスが気候に優しいエネルギーではないことを示しているからです。
私たちはまた、バタンCCGT計画において、影響を受ける地域住民の意味ある参加が欠如してきたことも問題視しています。意思決定は不透明で、公平な住民協議が欠如しています。漁民の生計手段への悪影響、マングローブの劣化、沿岸生態系の破壊は、重要な配慮事項として一度も扱われたことがありません。一方、経済的利益は主要な投資家や政治エリートが不均衡に享受します。環境正義の観点から、住民参加の欠如は単なる手続き上の欠陥ではなく、事業の社会的正当性を損ない、対立と長期的な社会的コストのリスクを高める構造的な権利侵害です。
私たちは、AZEC下の国際資金メカニズムを通じたバタンCCGT事業の資金調達に強く反対します。再生可能エネルギー向けの資金が化石燃料資産の延命につながるガス事業へと転用される「資金ロックイン」のリスクは現実的なものです。このような道筋は、国家および地域の開発を気候目標の達成とは逆行する方向へと縛りつけるものです。したがって、私たちは、脱炭素化支援を掲げる事業、協定、連携に関する完全な透明性を要求します。
私たちは、中央政府および地方政府に対し、バタンCCGT開発計画の中止とAZECの枠組み下における全事業の再評価を要請します。また、投資家および国際金融機関に対しては、移行の名の下に化石燃料の利用を永続させるバタンCCGT事業への資金提供を行わないよう強く求めます。市民社会には、生活空間と気候の未来を脅かす事業に対し、連帯と抗議の声を強めていくことを呼びかけます。
公正なエネルギー移行は、破壊や権利侵害、そして化石燃料依存の上に築くことはできません。私たちは、人びとと環境、そして将来の世代を最優先するエネルギーシステムの変革を求めます。バタンは実験場ではありません。同地域の海岸は投棄場ではありません。移行は、破壊の口実にはなりません。
私たちは、バタンCCGTを拒否します。また、AZECの誤った対策を拒否します。いまこそ、公正で公平かつ持続可能なエネルギー移行を要求します。
署名団体:
インドネシア環境フォーラム(WALHI)/FoEインドネシア
WALHI中ジャワ
連絡先:
インドネシア環境フォーラム(WALHI / FoEインドネシア)
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