アジア開発銀行(ADB)の原子力支援方針に異議、反論を提出
アジア開発銀行(ADB)が現在見直しを進めている原子力支援への方針転換を含むエネルギー政策について、8月6日および22日、FoE Japanを含む複数の市民団体が質問書を提出しました。
その後、ADBからの回答を受領しましたが、多くの点で私たちの懸念に十分に答える内容とは言えませんでした。このため、私たちは、ADBの回答に対するコメントと反論を整理し、ADBの各国の理事宛てに提出しました。
なお、ADBはエネルギー政策の見直しについて、10月初旬の理事会に諮る予定でしたが、これを延期しました。多くの反対意見が出された結果とみられます。
2025年10月6日
エネルギー政策の改定に関するADBの回答への反論
ADB理事各位
私たちは、8月6日および22日に提出した質問に対するADB事務局からの回答を受領いたしました。しかしながら、これらの回答の多くは、私たちの懸念に十分に応えるものとはなっていません。特に、プロセスに関する説明には多くの矛盾が見られます。
これはADBのガバナンスそのものに関わる問題であり、悪しき前例となりかねません。
以下に、ADB事務局の回答に対する私たちの主なコメントと反論を示します。
1. 「原発に融資しない」という文言を削除することは、単なる修正(amendment)ではない
私たちの質問:
原発の部分は現在の政策を抜本的に変更するものであり、「Amendment」と称する軽微な修正ではない。現在のプロセスで進めることは不適切なのではないか。
ADBの回答:
2009年および2021年のADBエネルギー政策は、低炭素ベースロード電力を供給できるという点で、低炭素移行における原子力の役割を認識している。2021年には、能力開発の支援を認めた。
原子力を認め、能力開発を支援する一方で融資を認めないという表現は、政策の目的と原則に整合しない。以上を踏まえ、ADBは今回の変更を「修正(amendment)」とみなし、完全または根本的な政策変更とはみなしていない。
反論:
現行のエネルギー政策は明確に「ADBは原子力発電への融資を行わない」と定めている。その理由として、核拡散、廃棄物管理、安全性に関するリスク、さらにADBの資源に対して非常に高い投資コストを含む多くの障害をあげている。これに矛盾はない。
「原発への融資をしない」という文言を削除することは、大きな政策転換であり、到底「修正(amendment)」とは言えない。
2. 核拡散のリスクについて
私たちの質問:
核不拡散、軍事転用、テロリズム、原子力施設が軍事目標となる可能性に関して、ADBはどのように認識しているか。
ADBの回答:
ADBの禁止投資活動リストには、「武器および弾薬(準軍事的資材を含む)の生産または取引」への融資を除外しており、借入人/顧客はこの禁止事項を遵守する必要がある。
反論:
「武器および弾薬(準軍事的資材を含む)の生産または取引」を禁止投資リストに含めることと、原子力発電がもたらす核拡散やテロリズム、軍事的標的化のリスクとはまったく関係がない。
ADBは小型モジュール炉(SMR)に期待を寄せているようであるが、SMRはむしろ従来型原発よりも核拡散およびテロリズムのリスクを高めることを指摘させていただきたい。
3. 核廃棄物について
私たちの質問:
核廃棄物の最終処分地は、ほとんどの国でいまだ決定されておらず、将来的に大きな困難や社会的影響を伴うことが予想される。ADBはこれをどのように考えているのか。
ADBの回答:
改定案の文言では、開発途上加盟国(DMC)から要請があった場合、ADBは国際原子力機関(IAEA)と協力し、核廃棄物処分が国際基準およびADBの環境・社会要件に沿って行われるよう、必要な技術支援を検討することができる。
廃棄物の処分はプロジェクトの持続可能性および維持設計の一部である。
ADBのセーフガード政策(SPSおよびESF)は、プロジェクトの開発から実施、完了までのすべての段階で、環境・社会的課題を評価・管理することを求めており、有害廃棄物の管理もその対象に含まれる。
反論:
ADBは、先進国ですら核廃棄物処分の問題を解決できていない現状を認識すべきである。
たとえば、日本においては、核廃棄物の最終処分場の候補地を決めるための最初の段階である文献調査ですら、地域社会に大きな分断をもたらし、社会問題化している。再処理工場は、27回も竣工遅延を繰り返している。核廃棄物は政治的経済的に脆弱な地域に押し付けられていることが大きな根本的な倫理的社会的な問題である。こうした問題を含む核廃棄物処分がADBやIAEAによる技術支援で解決できると考えることは非現実的である。
4. ADBのポジションの前提について
私たちの質問:
ADBが現在まで「原発に対して融資をしない」という方針をとってきた理由として、「核拡散、廃棄物、安全に関連するリスク」「ADBの資源と比して大変高額なコスト」を挙げている。これらの状況は現在も何ら変わっていない。それなのに、なぜ、方針を変更するのか。
ADBの回答:
ADBの2021年エネルギー政策は、原子力発電が低炭素ベースロード電力を提供できることから、低炭素移行における役割を認識しつつ、原子力のリスクも認めている。
ADBの立場は2021年10月以降、以下の理由により変化している。
(i) COP28で2050年までに世界の原子力発電容量を3倍にするという宣言
(ii) アジアのDMCで原発建設への関心の高まり
(iii) 次世代型大型炉およびSMRの技術進展
(iv) EV、データセンター、空調向けを含む信頼性の高いクリーン電力需要の増加
(v) 福島第一原発事故を受けた国際的安全基準の強化
反論:
挙げられた(i)~(v)のいずれも、「核拡散、核廃棄物、安全性のリスク」や「ADBの資源に対する高い投資コスト」を解決するものではない。
その上で、以下、各項目に対する反論について記述する。
(i) COP28での「2050年までに原発容量を3倍に」という宣言は、正式なCOP決定ではなく、23カ国による自主的な声明にすぎない。多くの国が参加していないことは、国際的合意から程遠いことを示している。
(ii) DMCの一部が原発建設に関心を示していることは事実であるが、それは核拡散や廃棄物問題が解決したということにはならない。また、大規模・集中型で高コスト・高リスクの原発が、これらの国々に適しているとは限らない。
(iii) 次世代型大型炉は、従来の原発と本質的に同じ問題を抱えている。さらにSMRは軍事転用やテロ攻撃のリスクがより高く、発電容量あたりのコストも現行原発より著しく高額である。
(iv) 原子力発電は、大規模・集中型でリスクが高く、解決不能な核のごみを生み出すものであり、「クリーン」でも「信頼性が高い」とも言えない。
(v) 福島第一原発事故後に国際的安全基準が強化されたかどうかは疑問である。
少なくとも日本では、現行の規制基準は十分とは言えず、規制当局自身もこれらは「安全基準ではない」と繰り返し述べている。
以上は主要な論点のみですが、これだけを見ても、ADBが原子力発電支援へと方向転換することには多くの問題があることが明らかです。
まもなく理事会でエネルギー政策の改定案が審議されると承知していますが、私たちは、理事の皆さまがこの改定案に反対票を投じてくださるよう強く要請いたします。
敬具
国際環境NGO FoE Japan 事務局長 深草亜悠美
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)プログラム・ディレクター 田辺有輝
原子力資料情報室 事務局長 松久保肇
原子力市民委員会 事務局長 村上正子
グリーン・アクション 代表 アイリーン・美緒子・スミス
cc: 財務大臣 加藤 勝信 様
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