インドネシア市民団体から日本政府・JICAに要請書提出「透明性のない『エネルギー移行マスタープラン策定支援』を通じた『誤った気候変動対策』推進を直ちに中止せよ」

日本政府に対する要請書「インドネシアでの化石燃料の延命と環境・生活破壊は直ちに止めて―公正かつ公平なエネルギー移行に地域コミュニティと市民社会の意味ある参加を」を提出し、在ジャカルタ日本大使館前でアクションを行った市民団体(2023年12月15日)。インドネシア市民団体は日本政府に対し、こうした要請を繰り返し行っている。

2025年9月15日、WALHI(インドネシア環境フォーラム/FoEインドネシア)を含む、インドネシアの6つの市民団体が日本の外務大臣及び国際協力機構(JICA)理事長宛てに要請書「インドネシアにおける透明性のない『エネルギートランジションマスタープラン策定支援プロジェクト』を通じた『誤った気候変動対策』推進をJICAは直ちに中止せよー公正かつ公平なエネルギー移行の実現には地域コミュニティと市民社会の意味ある参加が不可欠」を提出しました。

JICAは現在、JERA、東京電力パワーグリッド、東電設計、三菱総合研究所の4社に委託し、インドネシアにおけるエネルギー移行マスタープランの策定支援を進めています。今回、要請書を提出したインドネシアの市民団体は、JICAの同マスタープラン策定支援の開始前、また実施が始まった後も、日本政府が「エネルギー移行」の名の下にCCUS(炭素回収・利用・貯留)、水素、アンモニア、バイオマス、LNG(液化天然ガス)等の技術を推進することで、化石燃料の利用を延命させ、環境及び地域社会の安全を脅かしていることを懸念し、こうした「誤った気候変動対策」をインドネシアに押し付けるような支援を直ちに中止するよう求めてきました。

しかし、FoE JapanがJICAに同策定支援の進捗について照会したところ、こうしたエネルギー移行の問題に関心の高いインドネシア市民団体に何も周知されぬまま、エネルギー移行マスタープランに関するステークホルダーミーティングやパブリックコメントがすでに実施されていたことがわかりました。

こうした事態を受け、インドネシア市民団体は同要請書の中で、「インドネシア各地の地域コミュニティや市民の生活・文化・安全・環境・人権に大きく影響を及ぼすことになるエネルギー移行計画が、このように透明性を欠いた排他的な方法で決定されていくこと」に強い抗議の意を示しています。また、迅速で公正かつ公平なエネルギー移行を実現していくために、地域コミュニティと市民団体の意味ある参加が不可欠であることを強調し、JICAが透明性・情報公開・意味ある参加のないまま、非民主的なプロセスで同エネルギー移行マスタープランの策定支援を続けていくことに警鐘を鳴らしています。インドネシア市民団体は、JICAが同支援を続けるのであれば、まずは、情報周知の方法が適切かつ十分であったか徹底的な検証をした上で、地域コミュニティや市民社会の意見がマスタープランに意味ある形で反映されることを確保するため、ステークホルダーミーティング等を含め、策定プロセスを初めからやり直すよう求めています。

以下、インドネシア市民団体から外務省及びJICAへ提出した要請書(和訳)です。

要請書(和訳)PDF版

(本要請書の原文はインドネシア語。以下は FoE Japanによる和訳)

2025年9月15日

外務大臣 岩屋 毅 様
独立行政法人国際協力機構 理事長 田中 明彦 様

要請書:インドネシアにおける透明性のない『エネルギートランジションマスタープラン策定支援プロジェクト』を通じた「誤った気候変動対策」推進をJICAは直ちに中止せよー公正かつ公平なエネルギー移行の実現には地域コミュニティと市民社会の意味ある参加が不可欠

私たち署名者は、エネルギー、気候、環境、人権の課題に取り組むインドネシアの市民団体です。私たちは、日本政府に対し、エネルギー移行や脱炭素化の名の下にインドネシアで「誤った気候変動対策」を推進しないよう、繰り返し要請してきました。

特に、国際協力機構(JICA)の進める『エネルギートランジションマスタープラン策定支援プロジェクト』(以下、プロジェクト)については、2023年12月[1]および2024年8月[2]に日本政府へ提出した書簡の中で言及しています。これらの書簡では、2023年8月にJICAとインドネシア国有電力会社(PLN)との間で締結された合意[3]に強い懸念を表明してきました。同合意は、CCUS、水素、アンモニア、バイオマス、LNG等の技術を推進しており、真のエネルギー移行を促進するどころか、「エネルギー移行」の名の下で化石燃料の利用を延命させる危険性があるためです。したがって、私たちはインドネシアにこうした「誤った気候変動対策」を押し付けるような支援を直ちに中止するよう求めてきました。

この間、同プロジェクトの進捗状況について、私たちは関心を持ち続けてきましたが、私たちが唯一知り得た情報は、株式会社JERA、東京電力パワーグリッド株式会社、東電設計株式会社、株式会社三菱総合研究所の4社がJICAの委託業務として同プロジェクトを2024年2月に開始したというもの[4]のみでした。

しかしながら、今般、インドネシアにおけるエネルギー移行の問題に私たちと一緒に取り組んできた日本の市民団体(FoE Japan)がJICAに照会したところ、同プロジェクトに関連して、すでにステークホルダーミーティングが2024年7月に実施済みであること、またパブリックコメントが2025年1月15~30日に実施済みであることがわかりました。

同プロジェクトの開始前及び実施中に、私たちが日本政府に対して同プロジェクトに係る懸念や要請を伝えてきた事実を考慮すれば、私たち市民団体がインドネシアにおけるエネルギー移行の問題に高い関心を有するステークホルダーであることは明らかです。それにもかかわらず、私たち複数の市民団体が上記のようなステークホルダーミーティングやパブリックコメントの情報について一切知らされてこず、意見を表明する機会を奪われていたことは極めて遺憾です。JICAをはじめ、同プロジェクトの関係者が多様な市民社会の意見を同プロジェクトに意味ある形で反映しようという意思を有しているのか、疑問を呈さざるを得ません。インドネシア各地の地域コミュニティや市民の生活・文化・安全・環境・人権に大きく影響を及ぼすことになるエネルギー移行計画が、このように透明性を欠いた排他的な方法で決定されていくことに私たちは強い抗議の意を表明します。

上述のJICAとPLNの合意文書(2023年8月)[5]によれば、同プロジェクトの期間は2年とされていることから、2026年2月頃までに同プロジェクトの成果物である「マスタープラン」が完成予定であると推察します。これを踏まえると、私たちは問わざるを得ません。これから約半年間、透明性のないまま、非民主的なプロセスで「マスタープラン」の策定支援をJICAは続けるのでしょうか。

JICAが仮に同プロジェクトを依然として継続したいのであれば、まずは、JICAを含め、同プロジェクトの関係者による市民社会や地域コミュニティへの情報周知の方法が適切かつ十分であったか徹底的な検証がなされるべきです。その上で、地域コミュニティや市民社会の意見がマスタープランに意味ある形で反映されることを確保するため、同プロジェクトに係るステークホルダーミーティング等を含め、策定プロセスを初めからやり直すことを強く求めます。

これまで日本政府に提出してきた要請書の中で繰り返し述べてきた通り、迅速で公正かつ公平な脱炭素化/エネルギー移行は、地域コミュニティと市民団体の意味ある参加を確保した形で行われなくてはなりません。そのためには、ステークホルダーへの適切かつ十分な透明性と情報公開が不可欠です。

JICAには、これまで非民主的かつ持続可能でないエネルギー事業の影響を受けてきた地域コミュニティや市民団体の声に真摯に耳を傾け、同プロジェクトの実施に際して適切な対応を取るよう改めて強く要請します。これには、化石燃料の利用延命をもたらし、地域コミュニティの環境や生活を破壊するCCUS、水素、アンモニア、バイオマス、LNGといった「誤った気候変動対策」の推進をやめるよう求める私たちの繰り返しの要請も含まれます。

署名団体:

1. インドネシア環境フォーラム/Wahana Lingkungan Hidup Indonesia (WALHI/Friends of the Earth Indonesia)
2. 350 Indonesia
3. Aksi Ekologi & Emansipasi Rakyat (AEER)
4. Center of Economic and Law Studies (CELIOS)
5. Jaringan Advokasi Tambang (JATAM)
6. Trend Asia

連絡先:

インドネシア環境フォーラム(WALHI / FoEインドネシア)
住所:Jln. Tegal Parang Utara No 14, Jakarta Selatan 12790. INDONESIA
email: informasi@walhi.or.id
TEL: +62-21-79193363


[1] https://foejapan.org/issue/20231215/15420/

[2] https://foejapan.org/issue/20240820/19964/

[3] https://www.jica.go.jp/Resource/english/our_work/social_environmental/id/asia/southeast/indonesia/pj8nfn000000og6h-att/report_02.pdf

[4] https://www.jera.co.jp/news/information/20240219_1818

[5] 脚注3に同じ

 

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