原発支援の解禁の撤回を求め、世銀・ADBに5団体が共同書簡~核廃棄物、テロ・攻撃リスク、莫大な費用など指摘

本日、国際環境NGO FoE Japan、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、原子力資料情報室、原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)、原子力市民委員会の5団体は、世界銀行およびアジア開発銀行(ADB)に対して、原発の融資や支援の解禁方針の撤回を求め、書簡および質問書を発出しました。

世界銀行は6月10日の理事会で、原発への融資を禁止する措置の解除を決定しています。また、ADBは、エネルギー政策の見直しの一つとして、原発への支援を含める方針を示しています。

書簡では、「原発の運転によって生じる核廃棄物は何万年も管理が必要であり、ほとんどの国で処分地の選定すら行われていない」ことを指摘し、また「軍事転用、テロや軍事的な攻撃の対象になるリスク」を挙げています。

さらに、原発の建設コストが近年、数兆円にのぼっていることを指摘。途上国に、原発を押し付けることは、危険のみならず、膨大な経済的負担を負わせることになるとして、原発への融資や支援方針の撤回を求めています。

また、5団体は、公衆との協議、情報公開のあり方、核不拡散、軍事転用、テロリスク等に対する見解、核廃棄物の最終処分などに関する質問を両機関に送付し、8月29日までの回答を求めました。

書簡および本文は以下をご覧ください。

2025年8月6日

世界銀行の原子力支援ポリシー変更に関する
要請書および質問書

世界銀行グループ総裁
アジェイ・バンガ様

 6月10日に開催された世銀理事会において、新規原子力プロジェクトに資金を提供し始めることを決定したと報道されています。

 私たちは福島第一原発事故を経験した日本の市民社会の一員として、この決定に驚き、非常に懸念しています。

 原子力発電は、小型モジュール炉(SMR)であっても、ウラン採掘、燃料の生産・加工、運転、廃炉、使用済み核燃料の処分といったすべての段階で放射性物質を環境中に放出します。福島第一原発事故が示す通り、ひとたび事故が発生すれば、広い範囲の環境が汚染され、社会・経済にも大きな打撃となります。

 原発の運転によって生じる核廃棄物は何万年も管理が必要であり、ほとんどの国で処分地の選定すら行われていません。軍事転用、テロや軍事的な攻撃の対象になるリスクもあります。

 原発に関してはテロ対策を理由に秘匿される情報も多く、住民やNGOなどが原発の安全性にかかわる情報に十分アプローチできないことも多いのが現状です。これは世界銀行のセーフガードポリシーに整合しない懸念があります。

 近年、原発建設のコストははねあがり、一基あたり数兆円以上にも達しています(注1)。しかも、当初の計画から数倍に跳ね上がる例が多くみられます。民間からの投資は原発ではなく再エネに向けられた結果、再エネは加速度的に成長しました(注2)。

 途上国に「支援」として、原発建設事業を押し付けることは、危険を背負わせるばかりか、膨大な経済的負担となります。

 そのほかにも、世銀の原発融資に反対すべき理由はたくさんあります。

 私たちは世銀に対して、原発融資解禁を撤回するように求めます。

 私たちはまた、世銀が市民社会とのコンサルテーションも行わずに、このような重大な政策変更を行ったことについても落胆しています。

 いまからでも、世銀はコンサルテーションを行い、原発事故の被害者やウラン採掘の影響を受けている人たちを含めて、多様な人たちの意見に耳を傾けるべきです。

 以上についての貴行としてのお考えをおきかせいただくとともに、8月29日までに添付の質問書にお答えいただければ幸いです。

国際環境NGO FoE Japan 事務局長 深草亜悠美
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)プログラム・ディレクター 田辺有輝
原子力資料情報室 事務局長 松久保肇
原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)共同代表 武藤類子
原子力市民委員会 座長 大島堅一

cc: 財務大臣 加藤 勝信 様

注1)アメリカのボーグル原発は155億ドル、フィンランドのオルキルオト原発は110億ユーロ、フランスのフラマンビル原発は132億ユーロに達した。

注2)2024年、太陽光と風力発電の設備容量の合計は約3.3TWで、原発(約420GW)の8倍近くに達している。


(添付)

質問書

  1. この意思決定を行うにあたって、どのような検討を行ったのか。検討プロセスを開示されたい。
  2. 理事会ではどのような議論が行われたのか。
  3. 市民社会に対するパブリック・コンサルテーションを行う予定はあるか。
  4. 今後どのような手続きをとって具体化するのか。
  5. 支援対象としてはどのような国を想定しているのか。
  6. セーフガードポリシーの変更を伴うのか。
  7. 原子力事業はテロ対策などの理由で情報が秘匿されることが多いが、ステークホルダーに対する十分な情報開示や協議が確保されないのではないか。
  8. 核不拡散、軍事転用、テロリスク、軍事目標になる可能性についてはどのように考えているのか。
  9. 原子力賠償制度や安全規制が未整備な国も多いが、どのように考えているのか。
  10. 核廃棄物の処分については、ほとんどの国が最終処分地を決めていないが、それについてはどのように考えるか。

2025年8月6日

アジア開発銀行(ADB)原子力支援ポリシー変更に関する
要請書および質問書

アジア開発銀行(ADB)
総裁 神田 眞人 様

 私たちは福島第一原発事故を経験した日本の市民社会の一員として、ADBのエネルギー政策の見直しに伴い、アジア開発銀行(ADB)が原子力への支援を含める方針であることを知り、非常に懸念しています(注1)。

 福島第一原発事故が示す通り、原子力発電は、小型モジュール炉(SMR)であっても、ウラン採掘、燃料の生産・加工、運転、廃炉、使用済み核燃料の処分といったすべての段階で放射性物質を環境中に放出します。ひとたび事故が発生すれば、広い範囲の環境が汚染され、社会・経済にも大きな打撃となります。

 原発の運転によって生じる核廃棄物は何万年も管理が必要であり、日本を含むほとんどの国で処分地の選定すら行われていません。軍事転用、テロや軍事的な攻撃の対象になるリスクもあります。

 原発に関してはテロ対策を理由に秘匿される情報も多く、住民やNGOなどが原発の安全性にかかわる情報に十分アプローチできないことも多いのが現状です。これは貴行のセーフガードポリシーに整合しない懸念があります。

 近年、原発建設のコストははねあがり、一基あたり数兆円以上にも達しています(注2)。しかも、当初計画から数倍に跳ね上がる例が多くみられます。民間からの投資は原発ではなく再エネに向けられた結果、再エネは加速度的に成長しました(注3)。

 途上国に「支援」として、原発建設事業を押し付けることは、危険を背負わせるばかりか、膨大な経済的負担となります。

 そのほかにも、貴行の原発支援に反対すべき理由は多くあります。

 私たちは貴行に対して、原発へのいかなる支援も行わないように求めます。

 以上についての貴行としてのお考えをお聞かせいただくとともに、8月29日までに添付の質問書にお答えいただければ幸いです。

国際環境NGO FoE Japan 事務局長 深草亜悠美
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)プログラム・ディレクター 田辺有輝
原子力資料情報室 事務局長 松久保肇
原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)共同代表 武藤類子
原子力市民委員会 座長 大島堅一

cc: 財務大臣 加藤 勝信 様

注1)アメリカのボーグル原発は155億ドル、フィンランドのオルキルオト原発は110億ユーロ、フランスのフラマンビル原発は132億ユーロに達した。

注2)2024年、太陽光と風力発電の設備容量の合計は約3.3TWで、原発(約420GW)の8倍近くに達している。


(添付)

質問書

  1. ADBが原発支援解禁という重要な政策変更を行うのであれば、十分なパブリック・コンサルテーションを行うべきではないか。
  2. 今後どのような手続きをとって具体化するのか。
  3. エネルギー政策の見直しで仮に原発支援を解禁する場合、原発特有の問題に鑑み、セーフガードポリシーの変更を行うのか。
  4. 原子力事業はテロ対策などの理由で情報が秘匿されることが多いが、ステークホルダーに対する十分な情報開示や協議が確保されないのではないか。
  5. 核不拡散、軍事転用、テロリスク、軍事目標になる可能性についてはどのように考えているのか。
  6. 原子力賠償制度や安全規制が未整備な国も多いが、どのように考えているのか。
  7. 核廃棄物の処分については、ほとんどの国が最終処分地を決めておらず、今後も多くの困難や社会的影響が伴うと考えられる。それについてはどのように考えるか。

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