【声明】G7気候・エネルギー・環境大臣会合に対する声明―気候危機からも原発事故からも目を背ける日本政府の姿勢が鮮明に―

気候変動2023.7.10

2023年4月15、16日に札幌で開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合とその共同声明に対し、FoE Japanとして以下の声明を発出しました。
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▼環境大臣会合共同声明の全文・仮訳はこちら
環境省「G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合」
https://www.env.go.jp/earth/g7/2023_sapporo_emm/index.html

声明:G7気候・エネルギー・環境大臣会合
―気候危機からも原発事故からも目を背ける日本政府の姿勢が鮮明に―

 2023年4月15、16日にG7気候・エネルギー・環境大臣会合(以下環境大臣会合)が札幌で開催された。共同声明では、昨年に引き続き2035年までに国内電力部門を脱炭素化することが盛り込まれた(*1)。また「クリーンエネルギー」への転換の加速がエネルギー安全保障への鍵であり、排出対策の講じられていない化石燃料のフェーズアウトの加速が必要であることにも触れられた(*2)。さらに、2030年までに洋上風力を150GWまで、また太陽光を1TW以上増加させることに貢献するようコミットした(*3)。

 これは気候危機が加速する中、一刻も早い対策の強化が求められることに対する国際社会の強い危機感を示したものである。一方で、石炭火力の全廃時期について含めることに反対したり、「つなぎの燃料」としてガスを維持するように主張したりと、G7の中でも日本の後ろ向きな姿勢が際立った。

 原子力については、日本政府は、G7全体として原発推進を打ち出そうとした。ALPS処理汚染水の海洋放出についても、G7各国が「歓迎する」という文言を声明に書き込もうとした(*4)。原発事故当事国であるにも関わらず、このような提案が行われていたことは非常に遺憾である。

グローバルな削減目標に見合う日本の取組み強化を

 2023年3月20日に発表されたIPCCの第6次統合報告書政策決定者向けサマリーでは、1.5℃目標を達成するためには、この10年の間に全てのセクターにおいて急速にかつ大幅に温室効果ガスを削減する必要があることを強調している(*5)。共同声明では50%の確率で1.5℃以下に抑えるためには、2019年比で2030年までに温室効果ガスの43%を、2035年までに60%を削減しなくてはならないことが記載された(*6)。日本政府の削減目標は、2030年に2013年度比で46%であるが、2019年度比に換算すると37%削減となり、グローバルな削減目標と照らし合わせても不十分であることが改めて示された。

 先進国は2030年までに石炭火力を全廃する必要がある。しかし、今回の共同声明では全廃時期を含めることについて、日本などが反対していたことが報じられ(*7)、共同声明には含まれなかった。石炭火力をいまだに使い続ける方針を変えず、非効率石炭火力の全廃すら不透明という状況の日本が、国際社会の中で取り残されていることが改めて浮き彫りとなっている。また、LNG(液化天然ガス)に関しては、すでに昨年の共同声明に、脱ロシア化石燃料依存等のため一時的な措置として、ガス投資を認める文言が追加されていた。今回の共同声明においても、クリーンエネルギーへの転換とガス需要の削減が優先であるとした上で、気候目標と整合する限りにおいて、ガスへの投資はエネルギー危機によって起こりうる供給不足に対処するために役立つ可能性があるとした(*8)。しかし、気候変動対策およびロシアの化石燃料依存からの脱却のためには、新規のガスインフラへの投資を継続するのではなく、化石燃料依存そのものから脱却すべきである。

 さらに、昨年のG7で、排出対策が講じられていない化石燃料エネルギーセクターへの新規の国際的な公的支援を2022年末までに終了することが条件付きでコミットされたものの、日本政府はこの約束を履行せず新規のガス事業などに公的支援を続けてきている。それにもかかわらず、今回の共同声明はこうした事実から目をそむけ、新規の国際的な公的支援がすでに終了したとしている(*9)。オイル・チェンジ・インターナショナルの調査によると、2020年から2022年の間、G7は780億米ドルもの資金を化石燃料事業に投じており、日本、イタリア、ドイツは新規支援を止める方針をまだ打ち出しておらず、2022年以降も新規事業への支援を継続している(*10)。

まやかしのGXは真の対策を遅らせる

 環境大臣共同声明において、国際的な「グリーントランスフォーメーション」の推進が明記された(*11)。一方で日本政府が推進する「GX」は原発の新設や運転延長、水素・アンモニア・バイオマス混焼やCCS(炭素回収貯留)で火力発電を延命させるなど、炭素削減効果が不確かでありパリ協定の1.5℃目標と整合しない「誤った気候変動対策」に満ちている。実用化・商用化の見通しが不確実で、排出量削減効果も経済性も疑問視される水素・アンモニア、CCSなどの燃料や技術は真の対策を遅らせ、2035年に到底間に合わない。共同声明の中では、低炭素技術として水素・アンモニアについて触れられているものの、その開発や利用にあたって排出削減効果の影響を発揮できる必要性や1.5℃目標との整合性など、さまざまな条件が付された形となっている(*12)。

 現在、国会で審議中のGX関連法案には問題が山積している(*13)。日本をはじめとするG7は、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギー中心の電力システムへの移行、エネルギー需要の抜本的な削減、社会格差の解消や人権などこそ重視するべきだ。

原発は最大のグリーンウォッシュ

 日本政府は現在、「脱炭素」を名目に原発を推進しようとしており、国会においてグリーントランスフォーメーション(GX)関連法案が審議されている。

 日本政府は、G7気候・エネルギー・環境大臣会合の共同声明に、原発の重要性を盛り込みたい意向であったが、結局、「我々は」という言葉ではなく「原子力を活用していく国々は」という主語に置き換わった(*14)。

 また福島第一原発事故に由来するALPS処理汚染水の海洋放出や除染で生じた汚染土の再利用に関して、G7の賛同を得たい考えであったことが事前に報道されていた。これについては、「廃炉作業の着実な進展と科学的根拠に基づく日本の国際原子力機関(IAEA)との透明性ある取り組みを歓迎し、処理水の海洋放出についてIAEAの安全性の検証を支持する」(*15)という表現となった。しかし、現実に目を向ければ、デブリ取り出しは暗礁に乗り上げており、最近、1号機の原子炉を支える土台部のコンクリートがはげ落ち、鉄骨がむき出しになっていることがようやく明らかになるなど、廃炉作業は難航を極めている。ALPS処理汚染水の海洋放出に関しては、放出する放射性物質の総量が明らかになっていないこと、地元の漁業者をはじめ多くの人々が反対していることなどの問題がある。さらに、汚染土の再利用に関しては、放射性物質の拡散を招く恐れがあり、実証事業の地元住民が強く反対している。これらの事実に目をそむけ、日本政府に忖度する文言が盛り込まれたことは残念である。

 原発は、ウラン採掘から、燃料製造、運転、廃炉、核燃料の処分に至るまで、放射性物質で環境を汚染し、人権侵害をひきおこす。トラブルや事故、放射能汚染、何万年も保管を要する核のごみといった原発のリスクやコストを考慮すると、気候変動の解決策にすべきではない。日本が推進する現在のGXは、衰退する原子力産業を国費を投じて救済するものであり、グリーンウォッシングに他ならない。

 東電福島第一原発事故は収束していない。日本が行うべきことは、汚染水の海洋放出に対するG7他国の理解を得ることや、再稼働や新設の推進ではなく、原発事故の実相を世界に伝え、放射性物質を環境中に拡散することをやめ、核の脅威のない未来のためにリーダーシップを発揮することだ。

以上

*1 パラグラフ66
*2 パラグラフ49
*3 パラグラフ64
*4 朝日新聞「処理水放出のプロセス「歓迎」 G7閣僚声明で日本政府調整」2023年2月22日 https://www.asahi.com/articles/ASR2P6222R28ULBH005.html
*5 IPCC、第6次統合報告書政策決定者向けサマリー、2023年3月20日 https://report.ipcc.ch/ar6syr/pdf/IPCC_AR6_SYR_SPM.pdf
*6 パラグラフ44
*7 毎日新聞「日本の共同声明原案、他のG7が反発 石炭火力の全廃時期示さず」 2023年3月14日 https://mainichi.jp/articles/20230314/k00/00m/030/202000c
*8 パラグラフ69
*9 パラグラフ74
*10 Oil Change International, “Briefing:G7 countries can shift billions into clean energy if they strengthen their commitment to end international fossil fiance”, 2023年4月
*11 パラグラフ2
*12 パラグラフ67
*13 FoE Japan「GX推進法案を通してはならない5つの理由」https://foejapan.org/issue/20230322/12011/
FoE Japan「GX 脱炭素電源法案の問題点」https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/230410_GX.pdf
*14 パラグラフ70:“Those countries that opt to use nuclear energy recognize its potential to provide affordable low-carbon energy that can reduce dependence on fossil fuels, to address the climate crisis and to ensure global energy security as a source of baseload energy and grid flexibility.”(原子力エネルギーの使用を選択した国々は、化石燃料への依存を低減し得る低廉な低炭素エネルギーを提供し、気候危機に対処し、及びベースロード電源や系統の柔軟性の源泉として世界のエネルギー安全保障を確保する原子力エネルギーの潜在性を認識する。)
*15 パラグラフ71 :“We support the IAEA’s independent review to ensure that the discharge of Advanced Liquid Processing System (ALPS) treated water will be conducted consistent with IAEA safety standards and international law and that it will not cause any harm to humans and the environment, which is essential for the decommissioning of the site and the reconstruction of Fukushima”(我々は、同発電所の廃炉及び福島の復興に不可欠である多核種除去システム(ALPS)処理水の放出が、IAEA 安全基準及び国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するための IAEA による独立したレビューを支持する)



 

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