G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合に関する要請書を提出

気候変動

 約2週間後の4月15日〜16日に開催されるG7気候・エネルギー・環境大臣会合(以下、環境大臣会合)に先立ち、国際環境NGO FoE Japanは西村明宏環境大臣宛に要請書を提出しました。

 昨年ドイツで開催されたG7首脳会議において、パリ協定の目標達成に向け気候変動対策やエネルギー政策に取り組む決意が示され、2035年までに国内電力部門を脱炭素化することなどが打ち出されました。議長国である日本政府には、国内政策の強化および、昨年G7が示したコミットメントを上回る成果を出すことが求められます。

 しかし、日本政府がG7閣僚声明において原発の処理汚染水放出のプロセスを「歓迎」する表現を盛り込もうと調整中であること、また日本の共同声明原案が、石炭火力の全廃時期を示していないことから、他のG7が反発していることなどが報道されています。

 汚染水の放出や石炭火力の維持は、環境を守り、気候変動を食い止めていくための議論が行われるべきであるG7環境大臣会合の趣旨と矛盾しています。日本政府は、環境を保全し、気候変動を止めるためのリーダーシップを発揮すべきです。

 詳しくは要請書本文をご覧ください。PDFはこちら

G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合に関する要請書

 2023年4月15日・16日にG7気候・エネルギー・環境大臣会合(以下環境大臣会合)が札幌で開催されます。

 昨年ドイツで開催されたG7首脳会合においては、パリ協定の目標達成に向け気候変動対策やエネルギー政策に取り組む決意が示され、2035年までに国内電力部門を脱炭素化することなどが打ち出されました。議長国である日本政府には、国内政策の強化および、昨年G7で示したコミットメントを上回る成果を出すことが求められます。

 しかし、日本政府が共同声明において原発の処理汚染水放出のプロセスを「歓迎」する表現を盛り込もうと調整中であること[1]、また日本の共同声明原案が、石炭火力の全廃時期を示していないことから、他のG7が反発していることなどが報道されています[2]

 また、日本政府はグリーン・トランスフォーメーション(GX)戦略を打ち出し、G7においてGXをグローバルに推進しようとしていますが、GXの内容は原発推進や化石燃料利用を温存させるだけの水素・アンモニアなど「誤った気候変動対策」にみちています。

 3月20日に発表されたIPCCの第6次統合報告書政策決定者向けサマリーでも、1.5℃目標を達成するためには、この10年の間に全てのセクターにおいて急速にかつ大幅に温室効果ガスを削減する必要があることを強調しています[3]

 汚染水の放出や石炭火力の維持は、環境を守り、気候変動を食い止めていくための議論が行われるべきであるG7環境大臣会合の趣旨と矛盾しています。日本政府は、環境を保全し、気候変動を止めるためのリーダーシップを発揮すべきです。

 環境大臣会合に向けて私たちは以下のことを要請します。

  1. 化石燃料からの脱却を

 2022年、G7は2035年までに国内電力部門を完全に、もしくは大部分を脱炭素化することや、排出削減対策の講じられていない化石燃料エネルギーセクターへの国際的な公的支援を2022年末までに終了することなどにコミットした。しかし日本の2030年度の電源構成を、化石燃料41%(うち石炭火力で19%)、原発20〜22%、再生可能エネルギー36〜38%としており[4]、「2035年までの電力部門での脱炭素化達成」のためには、国内政策の見直しが急務である。

 また、50%の確率で1.5℃以下に抑えるためには、2019年比で2030年までに温室効果ガスの43%を、2035年までに60%を削減する必要がある[5]。なお日本政府の削減目標は、2030年に2013年比で46%で、2019年に直すと37%削減となり、グローバルな削減目標と照らし合わせても不十分である。気候変動に対し歴史的責任の大きい日本は2030年目標を、少なくとも60%削減まで強化すべきである。

 現在、日本政府はGX政策を推進しているが、その内容は、事実上、経済産業省が決めることとなる。脱炭素や環境社会配慮の基準が不明であり、原発の新設や運転延長、水素・アンモニア・バイオマス混焼やCCS(炭素回収貯留)で火力発電を延命させるなど「誤った気候変動対策」が推進されることになる。実用化・商用化の見通しが不確実で、排出量削減効果も経済性も疑問視される水素・アンモニア、CCSなどの燃料や技術をあてにしていては、2035年に間に合わない可能性が高い。また原発は、トラブルや事故、とてつもなく長い年月保管を要する核のごみといったリスクやコストを考慮すると、原発を気候変動の解決策にすべきではない。再生可能エネルギー中心の電力システムへの移行が必要であり、エネルギー需要の抜本的な削減も求められる。

 また、LNG(液化天然ガス)に関して、脱ロシア化石燃料依存等のため一時的な措置として、ガス投資を認める文言が昨年のG7コミュニケに追加されたが、気候変動対策およびロシアの化石燃料依存からの脱却のためには、新規のガスインフラへの投資を継続するのではなく、化石燃料依存そのものから脱却すべきである。

 日本はG7の中でも大きな額の公的資金を化石燃料事業に提供している。昨年のG7で、排出対策の講じられていない化石燃料エネルギーセクターへの新規の国際的な公的支援を2022年末までに終了することに条件付きでコミットしたが、日本政府はこのコミットメントを履行せず新規のガス事業などに公的支援を続けている。2019年から2021年の3年間、日本は化石燃料に毎年平均100億ドル以上の公的資金を投じる一方、再生可能エネルギー事業にはその8分の1にあたる年間平均13億ドルしか投じていなかった[6]。さらに日本政府は、アジア諸国に対する脱炭素化支援の一環として、火力発電所における水素・アンモニア混焼やCCSなどの技術を推進し、3月4日にもアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)閣僚会合を主催した。これらの「誤った気候変動対策」推進にはアジアの市民社会からも反対の声が上がっている[7]

 日本政府は議長国として、2030年までの脱石炭にコミットし、その他の既存のコミットメントについても着実に履行すべきである。また、原発や水素・アンモニアなどの誤った気候変動対策をG7で推進すべきでない。さらにアジア諸国など海外における誤った気候変動対策の推進をやめ、コミュニティのニーズを満たし、人権を尊重する、またパリ協定の目標に沿ったクリーンエネルギーへの支援を強化すべきだ。

  1. 脱原発と汚染水・汚染土の集中管理を

 岸田政権が進めるGX戦略には、原発再稼働や運転期間の延長、次世代革新炉の開発・建設といった内容が含まれており、今国会で関連法案の成立が目指されている。

 政府は、原発推進の理由として、原発が「エネルギー安全保障」「電力安定供給」「自己決定力」などに貢献するとしている。しかし、原発の燃料となるウランは、化石燃料と同様に海外に依存しており、国際情勢によって左右される。原発がテロや戦争のターゲットになる可能性もある。原発はトラブルが多く、大規模集中型電源である原発が計画外に停止すれば、需給ひっ迫リスクを高める。

 世界的にみても、原発の発電コストは増加を続けている。原発の建設費はすでに1兆円を超え、今や原発は最も高い電源だ。日本でも、再稼働のための安全対策費、維持費、廃炉のための費用がふくれあがっている。東京電力は柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働のための安全対策費に1兆円以上も費やしている。

 原発はグリーンでもクリーンでもない。ウランの採掘から燃料加工、原発の運転、核廃棄物の処分、廃炉に至るまで、環境を放射性物質で汚染し続ける。また、原発を運転することは、何万年も管理が必要な核のごみを生み出し続けることになり、将来世代に大きな負の遺産を残す。東日本大震災とそれに続く東京電力福島第一原発事故から12年が経っているが、事故はまだ終わっていない。

 報道によれば、日本政府はG7において「『処理水』放出に向けた透明性のあるプロセスを歓迎する」、除染土を再利用する計画の「進捗(しんちょく)を歓迎する」とする表現を盛り込もうと、各国と調整している。しかし、環境保全や汚染を議論するはずのG7環境大臣会合において、汚染水や汚染土の拡散を「歓迎」するということは、そもそも環境保全や汚染について議論するはずの環境大臣会合の趣旨に反する。

 ALPS処理汚染水については、国・東電は今年夏前にも海洋放出を開始する方針としているが、放出前に得るとしている「漁業者をはじめとする関係者の理解」はまだ得られていない。また、東電は、処理汚染水に残留する放射性物質の核種ごとの総量を示していない。何がどのくらい放出されるのか不明なまま、放出の準備だけが進められている。

 政府は、除染によって生じた土のうち、セシウム134、137について8,000ベクレル/kgを下回るものについて、公共事業等への再利用を進めようとしている。これは原子炉等規制法のもとで放射性物質としての管理を必要としないとするクリアランスレベル(セシウム134、137の場合100ベクレル/kg)の80倍に相当する。また、政府はセシウム以外の放射性物質については測定をしない方針である。福島県内で進められようとした実証事業のうち、二本松市原セ才木(はらせさいき)地区、南相馬市小高区羽倉地区では、住民の反対により環境省は計画の撤回を余儀なくされた。首都圏で計画されている実証事業でも近隣住民が反対している。放射性物質は集中管理が原則である。

  1. 生物多様性・南極保全を

 昨年のG7環境大臣コミュニケは「我々は、気候変動、生物多様性の損失、汚染という 3 つの世界的危機に関して深い懸念を表明し、これらの課題が表裏一体で相互に強化されていること、また、これらの課題は主に人間活動と持続不可能な消費・生産パターンに起因していることを認識する」とし、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させること、2030年までにG7各国の陸地及び海洋の少なくとも30%を保全または保護することなどを盛り込んでいる。

 今回の環境大臣会合でも、最低限これらのコミットメントを再認識し、確実に履行するため国内での取り組みを強化すべきである。

 生物多様性への最大の脅威は、森林伐採や採掘、埋め立てを伴う大規模な開発行為や資源の過剰な採取・消費である。日本においても、リニア中央新幹線や辺野古米軍基地の建設など、大規模な生態系破壊を伴い、必要性も不明確な事業が進行している。こうした事業は中止すべきである。

 また、日本は、木材、パーム油、鉱物資源、牛肉など、多くの資源や食料を輸入しているが、サプライ・チェーンや投融資を通じて海外の生態系破壊に加担することを回避するため、企業や金融機関のデューデリジェンスが問われている。

 さらに、気候変動対策の名を借りて、大規模な森林伐採を伴うメガソーラー開発や、燃料生産のために海外の森林生態系を破壊するおそれのある大規模なバイオマス発電事業も進められてきている。国内においては、土地利用のゾーニング、環境影響評価制度の実効性の強化とともに、森林伐採を伴うなど環境負荷が高い事業をFITなどの優遇策の対象から除外する措置が必要である。

 また、南極における海洋保護区(MPA)の設立が求められているが、新たな海洋保護区の設置が遅れている。昨年のG7環境大臣コミュニケ、また、G7オーシャンディールでは南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)が、条約域内に海洋保護区の代表システムを可能な限り早期に設置するというコミットメントを全面的に支持するとなっている。日本政府は南極における海洋保護区の設立に向けて尽力すべきである。

以上


[1] 朝日新聞「処理水放出のプロセス「歓迎」 G7閣僚声明で日本政府調整」2023年2月22日 https://www.asahi.com/articles/ASR2P6222R28ULBH005.html

[2] 毎日新聞「日本の共同声明原案、他のG7が反発 石炭火力の全廃時期示さず」 2023年3月14日 https://mainichi.jp/articles/20230314/k00/00m/030/202000c

[3] IPCC 第6次統合報告書政策決定者向けサマリー、2023年3月20日 https://report.ipcc.ch/ar6syr/pdf/IPCC_AR6_SYR_SPM.pdf

[4] 第6次エネルギー基本計画、2021年10月22日https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005.html

[5] IPCC

[6] Oil Change International “Japan’s Dirty Secret: World’s top fossil fuel financier is fueling climate chaos and undermining energy security” 2022年11月8日 https://priceofoil.org/2022/11/08/japans-dirty-secret/

[7] プレスリリース:日本の「ゼロエミッション」戦略はグリーンウォッシュ – 18カ国140団体が、G7議長国に対し誤った気候変動対策ではなく、化石燃料からの迅速で公正かつ公平な移行に対し支援するよう求める要請書提出、2023年3月2日  https://foejapan.org/issue/20230302/11728/

 

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