公開書簡:「気候変動に脆弱な途上国に化石燃料の余地はない」G7諸国は、誤ったエネルギー移行技術の普及を否定すべき

脱化石燃料2023.7.10
在フィリピン大使館前でのアクション(2022年9月)(写真:APMDD)

2023年4月14日、G7気候・エネルギー・環境大臣会合(札幌にて4月15、16日に開催)を前に、東南アジアを中心とする39の気候・環境保護団体が、G7諸国による誤ったエネルギー移行技術の推進を非難する公開書簡を提出しました。これらの技術には、化石燃料ガス、既存の石炭・ガス火力発電所におけるアンモニア・水素・バイオマス混焼、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などが含まれ、気候危機が深刻化する中で化石燃料の利用を延命させることが懸念されています。

特にG7議長国である日本は、自国の「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策を通じて、アジアにおいても化石燃料まみれのエネルギー戦略を推進しています。日本がアジアで誤った気候変動対策を押し付けることは、パリ協定の1.5℃目標の達成を脅かすばかりではなく、生物多様性や地域の人びとの生計手段までもを危険にさらします。また、グローバルサウスの人びとを数十年にわたる座礁資産、債務の罠、多大な温室効果ガス排出に縛り付けることにもなります。

日本はアジアにおいて、グリーンウォッシュに他ならない「まやかし」の対策による化石燃料まみれのエネルギー戦略を売り込むことを直ちにやめることが求められています。

以下、公開書簡の和訳です。原文(英語)はこちらをご覧ください。

公開書簡:「気候変動に脆弱な途上国に化石燃料の余地はない」G7諸国は、誤ったエネルギー移行技術の普及を否定すべき

2023年4月14日

日本、米国、英国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリアの大統領、首相、気候・エネルギー・環境大臣の皆様へ:

今週、世界のリーダーたちが気候・エネルギー・環境大臣会合に集まる中、私たちは、影響力のある国々が途上国に化石燃料を売り込むのをやめるよう、さらに強く要請します。G7諸国が公正で公平なエネルギー移行を支援しなければならない時が来ているのです。

インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、バングラデシュ、パキスタンを含む途上国は、石炭火力へのアンモニア混焼やガス火力への水素混焼など、いわゆる「エネルギー移行」技術を用いて化石燃料の利用を延命する計画の受け皿とされている一方で、化石燃料ガスの拡大と闘ってきました。気候危機の最前線にいる国々でもあるからです。

化石燃料の段階的廃止を求める世界的な要請にもかかわらず、G7諸国は自国や海外での化石燃料の拡大を終わらせるという明確なコミットメントを示していません。最近のG7コミュニケの草案では、国際エネルギー機関(IEA)が気温上昇を1.5℃以内に抑えるためには化石燃料の供給に対する新規の投資を停止すべきとしているにもかかわらず、閣僚たちがガス上流開発への新規の投資の必要性に同意していることが示されています。

調査によれば、2020年から2022年にかけて、G7は新たな化石燃料事業に対し730億米ドルの公的資金を投入しましたが、これは同期間のクリーンエネルギーに対する支援の2.6倍に相当するものでした。英国、カナダ、フランスは、この化石燃料への資金供与を終わらせるというコミットメントを実行に移していますが、日本、イタリア、ドイツはまだ実行していません。米国はコミットメントを実行したと主張していますが、その化石燃料への資金供与方針は公開されていない状況です。

特に日本は、G7議長国である立場を利用して、化石燃料への資金提供を増やし、自国の「グリーントランスフォーメーション(GX)」政策を通じて、アジアにおいて化石燃料まみれのエネルギー戦略を推進しています。日本政府は、今後10年間で1兆1千億ドル以上の公的及び民間資本を動員し、日本の22の業種を刷新し、パートナー国に日本の技術や資金を提供することを目標としています。しかし、日本の言う「現実的なエネルギー移行」は、液化天然ガス(LNG)、化石燃料ベースの既存の火力発電所におけるアンモニア・水素・バイオマス混焼、二酸化炭素回収・貯留(CCS)など、化石燃料ベースの技術の使用に大きく依存しています。さらに、G7コミュニケの草案では、アンモニアを「効果的な排出削減」ツールとして挙げています。しかし専門家は、現時点で最も確立された方法でつくられているアンモニアが、排出量の多い化石燃料である石炭とガスから生産されていることに警鐘を鳴らしています。

私たちは、日本が化石燃料技術をG7コミュニケに入れようとすることに反対し、文案から気候変動対策の重要性が欠落していることを批判したとされる米国と英国に歓迎の意を表しますが、途上国のエネルギー移行を支援する具体的な行動に結びつけるためには、もっと多くのことを行う必要があります。再生可能エネルギーが世界的に安価になっている現在、化石燃料への依存は座礁資産のリスクを高め 、今後、気候災害のリスク増大を背景に、途上国をさらに債務と不安定な経済状態に引きずり込むでしょう。

したがって、私たちは、日本、米国、英国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリアの大統領、首相、気候・エネルギー・環境大臣に対し、前回のG7サミットでのコミットメントを守り、以下の要求を実行に移すよう要請します:

日本が推進する誤ったエネルギー移行策を否定すること。トランジション・ゼロによれば、日本はグリーントランスフォーメーション(GX)を通じて、アンモニア、水素、原子力、CCSに1兆1千億ドルもの巨額の資金提供を計画していますが、東南アジアでネットゼロを達成する手助けにはならないとのことです。アンモニアと水素の大部分は化石燃料から生産されており、そのライフサイクルを通じてメタンの排出が伴います。日本が東南アジアで推進している技術の一つであるアンモニア混焼は、技術的に最も実現可能な混焼率(アンモニア20%、石炭80%)であっても、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピンにおいてネットゼロを達成するほどの排出量削減にはなりません。

もし日本がアジアで誤った技術を押し付けることに成功すれば、地球規模では、パリ協定の重要な1.5℃の達成が脅かされることになります。したがって、日本がアジアにおいてグリーンウォッシュに他ならない、まやかしの解決策で、化石燃料まみれのエネルギー戦略を売り込むことを許してはなりません。

東南アジアでの化石燃料ガスへの資金提供を止めること。国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までのネットゼロ実現に向け、「新たな油田やガス田は不要」と述べています。さらに、IEAはガスの黄金時代は終わったと宣言しています。アジアでは、ロシアのウクライナ侵攻により、価格高騰と供給不安からガス需要の伸びが止まり、私たちはこの事態を目の当たりにしています。

しかし、日本、フランス、英国、米国、ドイツ、イタリアは、東南アジアにおけるパリ協定後の化石燃料ガス事業の資金調達先として上位に名を連ねています。化石燃料ガス発電所やターミナルのさらなる開発は、気候変動対策を遅らせているだけではありません。生物多様性や人びとの生計手段までもを危険にさらしているのです。私たちは、化石燃料ガスが移行燃料でないことを繰り返し指摘します。むしろ、途上国を数十年にわたる座礁資産、債務の罠、(多大な)排出に縛り付ける、 リスクの高い危険な投資なのです。

エネルギー移行に必要な資金を提供するための公平で公正なメカニズムにコミットすること。化石燃料への継続的な投資は、太陽光や風力などのより安価でクリーンな代替エネルギーとの競争が増し、化石燃料の需要が減少する中で、座礁資産や政府歳入の不足というリスクを増大させます。私たちは、G7のリーダーたちが、クリーンエネルギーへの投資機会を活かし、すべての化石燃料からの公正かつ公平な移行を促進することを強く求めます。

最新のIPCC統合報告書は、気候の壊滅的な状況を回避するための最も確実な方法は、化石燃料を段階的に削減することであると明確に述べています。温室効果ガスの排出量を2030年までにほぼ半減させ、1.5℃を超えないようにし、さらに削減を進めなければなりません。つまり、公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)やエネルギー移行メカニズム(ETM)のようなすべての資金供与メカニズムに、化石燃料をベースとした解決策を一貫して含めてはならないのです。

私たちは、2022年末までに化石燃料に対する国際的な公的資金の供与を終了させるというG7諸国の先のコミットメントに続いて、(そのコミットメントの実行における)明確さと透明性を要求します。また、化石燃料依存による経済及び環境への影響から地域社会が確実に保護されるよう、要求を強めていきます。

途上国において、エネルギー移行のための誤った解決策を進める余地はありません。世界が必要としているのは、再生可能エネルギーを主体とした、透明性の高い、公正で公平なエネルギー移行の仕組みです。G7は影響力のある国として、化石燃料を段階的に廃止し、再生可能エネルギーを拡大するための行動にコミットしなければなりません。現実的なエネルギー移行は、リアルゼロへの道筋に向けた野心的で人びとを中心とした行動を気候危機が必要としているという現実に向き合わなければならないのです。

署名団体:

  1. Trend Asia
  2. Friends of the Earth – Japan 
  3. Japan Center for a Sustainable Environment and Society (JACSES) 
  4. Greenpeace Southeast Asia
  5. Wahana Lingkungan Hidup Indonesia (WALHI) / Friends of the Earth – Indonesia
  6. Kiko Network
  7. Centre for Financial Accountability
  8. EcoWaste Coalition
  9. Wahana Lingkungan Hidup Indonesia (WALHI) West Java
  10. Vietnam Zero Waste Alliance 
  11. Waterkeepers Bangladesh
  12. Bangladesh Poribesh Andolon (BAPA)
  13. Bangladesh Working Group on External Debt (BWGED)
  14. Coastal Livelihood and Environmental Action Network (CLEAN)
  15. Koalisi Rakyat untuk Hak atas Air (KRuHA) / People’s Coalition for the Right to Water
  16. 350.org
  17. Aotearoa Plastic Pollution Alliance (APPA)
  18. Mighty Earth
  19. Mekong Watch 
  20. Green Vientiane 
  21. Center for Energy, Ecology, and Development 
  22. NGO Forum on ADB
  23. Sahabat Alam Malaysia
  24. Friends of the Earth Papua New Guinea
  25. Recourse
  26. WasteLess India 
  27. Asian Peoples’ Movement on Debt and Development (APMDD)
  28. Break Free From Plastic 
  29. Friends of the Earth – Australia 
  30. Friends of the Earth – Nepal / Pro Public
  31. Mother Earth Foundation 
  32. Pacific Environment – United States
  33. Oil Change International 
  34. Legal Rights and Natural Resources Center
  35. Centre for Environmental Justice / Friends of the Earth – Sri Lanka
  36. Initiatives for Dialogue and Empowerment through Alternative Legal Services (IDEALS, Inc)
  37. Fair Finance Asia
  38. Solutions for Our Climate 
  39. Asia Energy Network 
 

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