インドネシアで住民の生活の糧や水源を奪ったまま続くニッケル採掘――日本の事業関係者も責任ある対応を!
「ニッケルの採掘で水源が汚染され、住民は毎日汚い水を使用しなければなりません。」――南スラウェシ州のソロワコ・ニッケル鉱山開発・精錬事業の現場から、また深刻な人権侵害の報告が届いています。気候変動対策の中で需要の大幅な伸びが見込まれている鉱物資源の開発現場では、健康な日常生活を送る権利をすでに奪われている人びとがいます。
住民の皆さんが暮らす村のまさに真上でニッケルの採掘が始まったのは2017年。それ以来、重要な生計手段だったコショウ畑を失い、採掘現場から飛来してくる粉塵にも悩まされてきました。2022年7月には、採掘現場から直接土砂が崩れ落ち、自分たちの住宅近くの道路に影響が及ぶこともありました。水源として使っていた近くの湧水も茶色く濁ってしまい、今では水源自体が枯れてしまう日さえあります。
業を煮やした住民の皆さんは、この2月初めに道路に出て、叫びました。
「ヴァーレインドネシア社はすぐに対応を!」
しかし、こうした声をあげるだけで、警察から脅しを受け、抗議活動を続けることすらままならないとのことです。
現地で住民の支援を続ける環境団体WALHI(インドネシア環境フォーラム:FoEインドネシア)南スラウェシは、こう訴えています。
「事業関係者全員が、これらの影響に対して責任を負わなければなりません。(事業者ヴァーレインドネシア社の株主である)ヴァーレカナダ社、住友金属鉱山、そして国内外の金融機関に至るまでです。しかし、より重要なことは、住民、特に女性や子どもたちを救うために、まず同地域でのニッケル採掘事業を停止しなければならないということです。」
ソロワコで採掘され、精錬所で生産されたニッケルマットは、1978年から全量が日本に輸入(※)されています。住友金属鉱山など関係者は、問題の解決に向けて早急かつ適切な対応を事業者であるヴァーレインドネシア社に求めるとともに、基本的人権の尊重・回復を求めて声をあげている住民が脅迫や嫌がらせなどの人権侵害を受けることがないよう、しかるべき対応をとるべきです。
(※20%は住友金属鉱山の新居浜工場、80%はヴァーレジャパンの松阪工場に輸入。新居浜工場では現在、一部が電池材料にも利用される硫酸ニッケルの生産に使われている。電池材料はトヨタ自動車の電池子会社・プライムアース EV エナジー社やパナソニック社を通じて電気自動車大手のテスラ社にも納入されている。)
以下、WALHI南スラウェシのプレスリリース(2023年2月6日)の和訳です。(インドネシア語原文はこちら)
WALHI 南スラウェシが、ヴァーレインドネシア社の
ニッケル鉱山が東ルウ州アスリ村で引き起こしている
3つの社会環境影響を明らかに
2023年2月6日
マカッサル発 - 環境団体インドネシア環境フォーラム(WALHI)南スラウェシは、ヴァーレインドネシア社に対し、トウティ郡アスリ村クアリ集落でのニッケル採掘活動の中止を引き続き強く求めている。この要求は、ヴァーレインドネシア社のフェラリ・ヒルス地区におけるニッケル採掘活動が引き起こした社会環境影響の大きさが背景にあり、特に東ルウ県アスリ村の女性たちの抗議が強まっているためである。
WALHI南スラウェシ事務局長のムハンマド・アル・アミンによれば、ヴァーレインドネシア社は、土地やコショウ畑からの立退きの犠牲となったアスリ村の住民や他の村の農民の経済回復という義務をまだ果たしていない。ヴァーレインドネシア社に抗議しているアスリ村の住民から直接得た情報である。
「アスリ村の住民やコショウ農家が現在経験している困難は、長年にわたって訴えられてきたことです。住民によれば、ヴァーレインドネシア社がニッケル採掘活動をアスリ村フェラリ・ヒルスに拡大して以来、農民の生活の糧はなくなり、収入もなくなってしまったとのことです。一方、この多国籍ニッケル採掘会社は、かつて地域社会の経済と生活を回復させる一方で、一時的な経済活動を提供すると約束しました。しかし、現在まで何も実現されていません」と説明した。
アミンは続けて、ヴァーレインドネシア社がアスリ村、特にフェラリ・ヒルス地区でのニッケル採掘活動の結果、3つの深刻な環境社会的影響を引き起こしたことを当団体が指摘したと説明した。第一に、アスリ村と他の村の農民の生計手段と収入源の喪失である。
「WALHI南スラウェシは、鉱山周辺住民コミュニケーション・ネットワーク(JKMLT)と共に、ヴァーレインドネシア社によって権利の回復がなされていない農家が依然として何百とあることを確認しています。一方、ニッケル採掘活動は、農民のコショウ畑を破壊し、さらには消滅させました。」とアミンは説明した。
2つ目は、土砂崩れの影響であると続けた。アミンによると、2022年に行われたヴァーレインドネシア社のニッケル採掘活動により、土砂崩れが発生したとのことだ。その結果、住民の活動に支障が生じた。現在、土砂崩れ後の土砂は移動されたが、PTヴァーレはフェラリ・ヒルス地域における彼らのニッケル採掘活動が土砂崩れを引き起こしたことを否定できない。
“WALHI南スラウェシは、2022年に発生した土砂崩れの記録を持っています。その土砂崩れの写真を見ると、ヴァーレインドネシア社は劣悪な採掘方法で、土砂崩れを起こしているようです。それから、ヴァーレインドネシア社は災害が起こりやすい地域でニッケル採掘活動を実施していることは明らかです。」と付け加えた。
3つ目は、環境汚染による影響です。WALHI南スラウェシは、ヴァーレインドネシア社のニッケル採掘活動による泥で住民の水源が汚染されていることを目の当たりにしたと説明した。同様に、ニッケル採掘の粉塵による大気汚染も起きている。
「ヴァーレインドネシア社のニッケル採掘活動あるいは事業活動が、社会と環境に対する責任感の欠如のため、会社の内部方針と国際的な保護政策に明らかに違反しているという事実を明らかにしなければなりません。カナダと日本の企業が所有する同社は、地域住民の水源を汚染しており、住民は毎日汚染された水を使用し、消費しなければならないのです。」
また、アミンは、ヴァーレインドネシア社のニッケル鉱山が引き起こす3つの社会環境影響から、アスリ村の地域住民、特に女性や子供たちの生活を守るために、フェラリ・ヒルスでのニッケル採掘活動を停止・閉鎖しなければならないと強調した。
「ヴァーレインドネシア社の関係者全員が、これらの影響に対して責任を負わなければなりません。ヴァーレカナダ社、住友金属鉱山、国内外の金融機関、そしてヴァーレインドネシア社のCEOに至るまでです。しかし、より重要なことは、アスリ村の地域住民、特に女性や子どもたちを救うために、フェラリ・ヒルスでのニッケル採掘事業を停止しなければならないということです。」