エネルギー政策・温暖化対策への提言
2050年温室効果ガス80%削減を実現する具体的長期戦略に向けた提言
先進国としての責任を果たし、気候正義(Climate Justice)の視点に立った政策を!
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歴史的なパリ協定を受け、全世界が動こうとしています。現状の各国の提示している中期目標では、3℃以上の気温上昇が避けられず、気候変動の深刻な被害・影響を食い止めることができません。特に先進国の日本には、より野心的で具体的、抜本的な長期戦略の策定が求められています。現在、環境省と経済産業省それぞれのもとで、長期目標の具体化に関して議論が行われています。FoE Japanは、気候変動対策長期戦略の策定にあたり、以下提言します。
0.長期戦略具体化の必要性:パリ協定とクライメート・ジャスティス
1.産業界、電力業界にも数値目標と規制を
2.「非化石電源・低炭素電源」から原子力は外し、脱原発の明記を
3.省エネ・エネルギー効率化の深掘りを
4.化石燃料から脱却し、再生可能エネルギー100%へ
5.国内削減のみで目標達成すべき
0. 長期戦略具体化の必要性:パリ協定とクライメート・ジャスティス
IPCCの第5次評価報告やそれ以降の研究でも、気温上昇、海面上昇などが報告されています。現在すでに、地球の平均気温は産業革命以前より1℃以上上昇していると言われています。国連難民高等弁務官事務所によれば、気象災害などによる人口移動は年間2600万人にものぼることが報告されています 。実際に気候変動影響と考えられる気象災害では多数の犠牲者も出ています。農業や漁業など生計手段への影響も深刻です。気温上昇による熱帯地域での主要穀物の生産低下もすでに報告されており、途上国の食糧安全保障を脅かし始めています 。このような被害を何とか食い止めていくために、パリ協定で合意された、「今世紀末までに世界の気温上昇を2℃未満、さらに1.5℃未満に抑える」「今世紀後半に実質的な温室効果ガス排出をゼロにする」という目標に向け、全世界が努力していかねばなりません。
こういった気候変動の被害は、これまで温室効果ガスをあまり排出してこなかった途上国においてより顕著にあらわれており、気候の公平性(クライメート・ジャスティス:Climate Justice) を求める声が世界中で高まっています。先進国が化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした気候変動への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生態系の尊さを重視した取り組みを行うことで、化石燃料をこれまであまり使ってこなかった途上国が被害を被っている不公平さを正していこうという考え方です。
つまり日本にとっては、先進国としての歴史的排出責任があるため、より野心的な、責任に見合うビジョンと実行が求められることを意味します 。温室効果ガス大量排出国の一つである日本は、明確な長期ビジョンを持って、具体的施策を打ち出すとともに、福島原発事故の痛切な反省を踏まえて脱原発方針を明記し、大胆なエネルギーシステム改革の方向性を示すべきです。世界と日本の気候変動被害を食い止めることが第一であるという根本に立ち返り、行動すべきときです。
長期戦略には、国際的に共有されている概念「気候の公平性(クライメート・ジャスティス)」を明確に書き込み、すでに国際的に提示している長期目標を実現するための具体的数値目標を伴ったものとする必要があります。その際「2050年までに1990年比で少なくとも80%削減」とすべきです。
各国は5年ごとに目標を強化していく必要があります。日本が現在出している2030年目標は、2030年度に1990年比で18%削減(2005年比で26%削減)と、先進国としての歴史的責任に見合うものではありません 。現在の日本のエネルギー・気候変動政策は、経済成長ありき、産業政策優先で、既存の産業やライフスタイルを維持することを前提としているものです。パラダイムシフトを含むビジョンが不可欠です。
1. 産業界・電力業界にも数値目標と規制を
産業部門とエネルギー転換部門が、エネルギー消費・温室効果ガス排出に占める割合は大きく、家庭部門、業務部門の取り組みにも影響します。自主的目標に任せているだけでは、達成できない恐れもあり、また目標の上方修正は難しいでしょう。一方、業務部門・家庭部門の対策については「2030年までに4割削減」と目標数値が記載されています。実際にメディアでも、業務部門、家庭部門の削減目標や国民運動のほうが目立つ形で報道され、歪みがみられます。
新電力含め電力業界は、電力自由化による競争環境を見据えて、石炭火力発電の新増設を進めています。気候ネットワークによれば、2016年9月現在48基(1基はすでに稼働)、約2280万kW分の石炭火力発電の新増設計画があります。5~10年後に稼働開始予定のものが多く、そこから40年稼働するとすれば2050年にも稼働していることとなり、パリ協定の合意にはまったく逆行します。
石炭火力発電の二酸化炭素排出係数は高効率のものでも0.7~0.8kg-CO2/kWh以上と、天然ガス火力の2倍以上です。「電気事業低炭素社会協議会」(2016年2月発足)の取り組み目標では、排出原単位削減が定められていますが、総量削減については触れられていません。石炭火力発電ではさらに、大気汚染への影響も懸念されます。
産業界・電力業界に対する総量削減数値目標と規制が不可欠です。また気候変動対策のマイナス面ばかり強調するのではなく、ポジティブな影響や被害の回避についても目を向け、打ち出していくことが求められます。
2. 「非化石電源・低炭素電源」から原子力は外し、脱原発の明記を
気候変動対策としても重要な位置づけとされている「非化石電源・低炭素電源」は現状、原子力と再生可能エネルギーとされています。
原子力発電は、CO2を出さないのは「運転時のみ」であり、それ以上に燃料輸送や通常運転、使用済核燃料の処理過程での放射能汚染、核のごみなど解決策のない深刻な問題を抱えています。さらに、事故のリスクと万一事故が起こった場合の被害損失は計り知れません。福島第一原発事故の痛切な反省に基づき、また環境・持続可能性の観点から、原子力は「気候変動対策」として位置づけるべきではないことは明らかとなっています。
また、現状では石炭火力発電の新増設にともなって「非化石電源活用」として利用されようとしており、結局は化石燃料利用の推進と表裏一体、気候変動対策にはなっていません。すでに2014年度は、節電・省エネや再生可能エネルギーの普及により、原子力稼働がゼロであっても発電部門の温室効果ガス排出は減っており、2015年度も同様の見通しです。
気候変動対策は、石炭火力発電から省エネルギー、再生可能エネルギーへのシフトでこそ進めるべきです。現在、「安全性が確認された原子力発電は活用」とされていますが、「原子力依存の低減」の方向はすでに共有されています。2050年戦略では明確に「脱原発」を記載し、具体化する道筋を示すべきです。「非化石電源・低炭素電源」の定義を見直して原子力は外し、特に2050年の長期戦略においては、再生可能エネルギーのみとすべきです。
3. 省エネ・エネルギー効率化の深掘りを
長期ビジョンの議論の中ではしばしば「イノベーション」が不可欠と言われています。しかし、エネルギーの大量生産・大量消費を改めないまま新たな技術開発・イノベーションに頼っては、根本的な解決になりません。また「イノベーション」が順調に実現するかどうかは不透明であり、無責任と言わざるをえません。
一方、すでにある技術の深掘り、普及、古い機器の設備更新などでもまだまだ省エネルギーの余地があります 。例えば、建築物の省エネについても、新築について省エネ性能は向上し、特に2020年以降の建築物については省エネ基準への適合が求められています。しかし、多数の既設建築物のエネルギー効率改善・省エネ改修については、対策・計画は大きく遅れており、まだまだ余地のある分野です。
4. 化石燃料から脱却し、再生可能エネルギー100%へ
現在、再生可能エネルギーの促進政策において、「最大限の導入」とともに「国民負担の抑制」の両立が言われています。実際には、「国民負担の抑制」の大義名分でブレーキがかけられている状況です。再生可能エネルギーの導入目標は2030年に一次エネルギーの30%以上、電力の40~50%をめざして上方修正し、2050年には100%を視野に入れて「最大限導入」を形にすべきです。
すでに、ドイツやスペイン、アメリカ(特にカリフォルニア州)などでは、再生可能エネルギーを中心とした電力供給に向けて、着実に進んでいます。ドイツは、2050年に一次エネルギーの60%、電力の80%以上を掲げています。
当然、化石燃料、特に石炭火力からは早期に脱却すべきです。再生可能エネルギーを最大限に活用することで、化石燃料の必要性は低下し、出力調整のしにくい大規模発電所は、不良資産となっていきます。
加えて、再生可能エネルギーの熱利用の推進により、1次エネルギーにおける再生可能エネルギー割合を増やしていく道筋も示すべきです。2050年には、中心的な課題の一つとなると考えられます。
再生可能エネルギーが拡大すれば将来的には燃料費が削減されることや、大気汚染などの外部コストを抑えることができるなど、総合して考える必要があります。
さらに、数値目標だけでなく、どのような形で再生可能エネルギーを活かしていくかも重要です。より小規模分散型で、地域の自治体や企業、市民の参画を得る事業のあり方、地域でお金が回るしくみを支援していくことが必要です。また、自然環境や生態系を破壊せず、地域住民とのコミュニケーションや合意形成が図られる形で、普及が進むことが望まれます。バイオマス発電については、国産、できれば地域産の持続可能な燃料調達が必要です。
5. 国内削減のみで目標達成すべき
途上国の緩和・適応施策に日本が貢献することは、日本の貢献とカウントするしないを別としても重要なことです。しかし、JCMや他の国際市場メカニズムを国の計画達成量に組み込むことは国内削減のインセンティブを弱めてしまいます。
「質の高いインフラ輸出」などの名目で、石炭火力など化石燃料発電技術を輸出することは、パリ協定にも反し、行うべきではありません。福島第一原発事故の収束さえできていない中で、原子力発電の輸出も論外です。またJCM事業では、排出削減・吸収量以外の環境社会面のセーフガードが明確ではありません。人権侵害や土地収奪が増加している海外でのREDDプラスや大規模植林事業など根本的見直しが必要で、削減としてカウントするべきでない事業も多数あります。
「2050年に1990年比で少なくとも80%削減」は、国内のみで達成し、海外での削減は省エネルギー・再生可能エネルギーなどで追加的に、また現地の環境破壊や人権侵害が起こらないよう厳しいチェックのもと行うべきです。