ボン会合(2010年8月)
「信頼性のギャップを閉じよ」
FOE欧州 ブリーフィングペーパー
2010年8月5日
先進国が提案した削減率は不公平で、危険な気候変動のリスクにさらすもの。野心レベルを上げ、京都議定書の抜け穴を閉じなければならない。
●問題は?
前回までの2回行われたボン会議において、先進国は地球規模の気候枠組みを壊し再構築しようと多大な努力を払っていることが明らかになった。今週ボンで行われている京都議定書のもとでの議論は継続して危機的な状況にあることを示し、そこには-現在の付属書Ⅰ国の制約についてまでも-妥当性についての新しい情報をプレゼンするワークショップも含まれている。
多くの付属書Ⅰ国は京都議定書のもとでの第二約束期間にはコミットしないと明言している。つまり法的拘束力を破ろうとしていることを意味する。加えて、多くの先進国は京都議定書のもとで合計された目標値に基づく科学にも-そして公平性にも-反対している。バリでの交渉を尊重するよりも、議定書の中の好みの要素(例えば市場メカニズム)をAWG-LCAのもとでの新しい合意にも入れること、そしてコペンハーゲン合意で構想された自主誓約システムを構築することを探しているのだ。このような自主的なシステムには集約的な地球規模の努力が気候変動のリスクを減らすのに十分であるだろうとか、個々の国々の貢献が適切で公平であるだろうとかといったことに対し、何の保証ももたらさないものである。
●なぜボンが重要なのか?
UNFCCC事務局は最近締約国が提出した現在の削減目標量について分析し、2020年までに1990年比でたった17~25%の削減にしかならないだろうと公表した。これにはアメリカの排出量は計上されていないため、地球規模での排出削減効果はさらに減り、12~18%の幅の削減にしかならないだろう。こうした削減目標値は危険なほどに野心的でないばかりでなく、いくつかの研究所による個々の研究が確認しているとおり、多くの抜け穴があることでこうした不適切な削減目標値でさえも先進国の責任を逃れることを認めてしまうだろう。
ストックホルム環境研究所による新しい分析は、こうした抜け穴を総合した影響は保守的に見積もってさえでも付属書Ⅰ国の排出量を1990年比で増やしてしまうだろうと指摘している(図参照)。京都議定書のルールにおいては、先進国は次期約束期間で戦略的にこうした抜け穴を使うことが自由にでき、排出量を宣言した削減目標値より21%以上も増やすことを許してしまう。(図参照)言い換えれば、削減目標値よりも抜け穴のほうが大きいのである。
多くの先進国によって高度化されたシステムは、両方の世界において最悪な結果をもたらす:拘束力-そして公平性も-ない科学に基づき、トップ-ダウンで示される先進国の総合された目標、不適切な削減目標値、膨張する抜け穴、途上国に気候変動の重荷をさらに転嫁させることを認めてしまうカーボンマーケット。もし弱い削減目標値に基づいたアプローチが採用されれば、地球の平均気温は4℃かそれ以上上昇するリスクがあり、それはアフリカや南アジアのような地域では地域の気温がそれ以上に上昇することになるだろう。このボン会議は交渉の道筋を修正し、次のような問題に取り組む必要がある。
・排出削減目標の達成余剰分(surplus allowances)
京都議定書の第一約束期間中、温室効果ガスの排出予測を過大に評価し過ぎたことが原因で、多くの国が「ホットエアー」と呼ばれる達成余剰分を受け取った。最近の「Nature」誌の記事が取り上げたように、いくつかの国々の京都議定書の目標値はとても弱いため、「特に環境政策の努力を行わなくても、達成余剰分のうち多くが2008~2012年の期間に作り出されるだろう」。この記事によれば、達成余剰分を合計すると11ギガトン-CO2になり、これはすべての先進国の排出量を足し合わせた量の半年分を超える量に相当する。これは先進国が2020年までに宣言した排出目標値を14%超えて排出を増やすことができるという抜け穴になっている。
・土地利用の抜け穴
付属書Ⅰ国は、排出量を増加させることができるような、土地利用と森林に関する弱い会計ルールを採用するよう推進している。この一部は排出量の参照レベル(あるいは「ベースライン」)を自分たち自身で決めることを認めることで達成することができる。いくつかの国々はまた、森林管理の会計ルールを自主的なものとするように提案している。これによって付属書Ⅰ国はどんな排出増加も単純に計上しないことが可能になってしまう。「Nature」の記事は土地利用の抜け穴は排出量を年0.5ギガトン増やすことにつながり、これは削減目標値を3%さらに超過することになると推定している。
・カーボンマーケットの余剰と追加的でないクレジット
追加的に、排出量を「オフセット」するために途上国でカーボンマーケットを使用することは、付属書Ⅰ国のように豊かな国が自国内でより高いレベルでの汚染を許してもらうためのクレジットを獲得することにつながる。オフセットは仮定に基づいたベースラインに反して計算されるものであり、大抵の場合追加的な削減になるという現実的な証拠はない。これはまた途上国に排出削減の重荷を転嫁していることになる。加えて、第一約束期間からの余剰クレジットについては、第二約束期間における追加的でないクレジットが2020年までに付属書Ⅰ国の1990年時点での排出レベルの2%以上の抜け穴に相当するくらい十分な量になると推定される。
・国際航空・船舶
国際航空・船舶からの排出量は大量だが現在京都議定書のもとでは算定されていない。このため、この分野における付属書Ⅰ国の排出量は排出削減の約束に対する順守(コンプライアンス)に影響することなく増やし続けることができる。国際航空・船舶の専門家による予測に基づけば、排出量の増加は2%以上の抜け穴に相当すると推定される。
・公平な負担
科学的な分析や途上国からの要求に反対して測定され、付属書Ⅰ国によって提案された削減目標値と弱いルールは支持できない。付属書Ⅰ国は、排出を削減するよりも増やそうとしているのだろう。37の途上国は、付属書Ⅰ国は2020年までに1990年比で少なくとも40%の削減を提案している。コペンハーゲンにおいて、AOSIS、LDCs、アフリカングループは2020年までに45%削減を提案した。ボリビアや他の多くの国々は2017年までに国内で49%の削減をすると公に提案した。最近の分析に基づけば、ボリビアは現在50%を提案している。明らかに付属書Ⅰ国はこうした現実に向き合わなければならない。
●ボンでは何をする必要があるのか?
京都議定書のもとでの交渉は先進国の削減目標値と、科学と公平性が求めていることとの「緩和ギャップ」を埋めなければならない。コペンハーゲン合意に反映されたパラダイムは、EUが伝統的に-アメリカや他の先進国が好む「ボトムアップ」あるいは「目標値に基づいた」アプローチ-を含め、科学-そして多くの国々が好むルールに基づくアプローチ-からかい離する危険にさらされている。先進国は、しっかりした科学的分析に基づいた京都議定書の第二約束期間に対して再度コミットし、適切で公平なトップーダウン排出目標値を受け入れなければならない。
交渉文書のアンバランスは、単なる何百万もの人々の開発展望にとってだけでなく、集合体としての地球規模の気候変動への努力にとっても、意味がある。もし先進国が-歴史的責任と能力に基づいて-公平な割合の負担を負うことが不本意であるとしたら、効果的な成果の可能性は低くなり、日々先細りする。適切で公平な成果に賛成するために文書を再びバランス良くするためには、すべきことが多く残っている。今回の交渉セッションの議論はこうした問題を修正し、カンクンでのすばらしい成果に向けて道筋を整えなくてはならない。
※図表などは原文(英語)をご覧ください
原文(英語):抜け穴の要約を含む、より詳しいボン会議の分析はこちら(FoE欧州によるブリーフィング):
> https://www.foeeurope.org/climate/download/bonn_loopholes_08_10.pdf