声明:原発推進方針は非現実的ー国民にリスクとコストを押し付け、必要な対策を遅らせる
政府は8月24日、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、原発の「7基追加再稼働」(注1)や原発の運転期間の延長、次世代革新炉の建設の検討も含めた原発推進方針を表明した。ウクライナ危機や電力需給逼迫などを受けたものという。
しかし、政府が挙げた原発推進の内容はそれぞれ、福島第一原発事故後にまがりなりにも決められた原発の安全性をめぐる最低限のルールを蔑ろにするものである。未解決の核のごみの問題や原発の高いリスクとコストを度外視している上、「次世代型革新炉」の内容も実現可能性もあいまいである。そもそも、原発は、電力の需給逼迫や気候変動の解決策としては役に立たない。原発はトラブルが多く不安定であり、リスクが高い。経済合理性にもかける。市場の原理で淘汰されていくはずの原発を無理に継続することは、国民にリスクとコストを押し付ける上、本当に必要な対策や投資を遅らせる。
1.運転期間「原則40年」を骨抜きに
福島第一原発事故の際、同原発1号炉は運転開始40年の特別な検査に合格したばかりであった。事故後の議論の中で、原発の運転期間を原則40年とすることが決められ、原子炉等規制法(※)に盛り込まれた。初代の原子力規制委員会委員長の田中俊一氏も、安全性の観点から、稼働から40年を超える原発の運転延長は難しいという見解を示し(注2)、原発の運転期間「原則40年」を厳格に運用する考えを示していた。
老朽原発を動かすことは極めて大きな危険を伴う。運転により原子炉が中性子にさらされることによる劣化もあるが、運転休止中も時間の経過に伴い、配管やケーブル、ポンプ、弁など原発の各設備・部品が劣化する。このため、原発の運転期間を休止期間も含めて「原則40年」としたはずである。休止期間を運転期間から除外するということは、これらの議論を度外視したものだ。
2.本来のプロセスに圧力
電力需給逼迫の解決に、あたかも7基の原発(注1)の再稼働が必要であるかのような政府の方針表明は、本来、注意深く議論すべき原発の再稼働や原発の安全性をめぐる議論に対して圧力を与えることになる。
たとえば、日本原電・東海第二原発は、老朽原発でもあり、安全対策に関しても、避難計画の実効性に関しても、多くの疑問がある(注3)。安全対策工事は終わっておらず、茨城県、東海村と周辺自治体からの同意も得られていない。自治体ごとの温度差や進捗の差はあるものの、「実効性のある広域避難計画」を策定の上、住民の意見も聴きつつ丁寧に検討を進める考えを示している。茨城県も関連自治体も表向き「スケジュールありきではない」という立場ではあるが、今回の国の方針に対して少なからぬ圧力を受ける可能性は高い。「実効性のある避難計画」を策定したことにして、住民との協議をなおざりにして、地元同意が進められるおそれもある。
また、原子力規制委員会も、従来から原子力事業者や自民党などから、再稼働に関する審査を「合理化」するという圧力を受けているが、これが一層強まる可能性がある。原発の審査は、地震・津波、火山、火災、重大事故対策など多岐にわたる。原子力規制委員会外の専門家等からの聴き取りも含め、時間をかけた丁寧な審査が必要だ。急がせるべきではない。
3.原発は電力需給逼迫解決の役に立たない
今年6月末の東京電力管区内における需給逼迫は、真夏の電力需給が高まる季節に備えて、火力発電所がまだ準備中のものが多いときに、季節外れの猛暑が襲ったため、予想以上の電力需要が発生したために生じた。つまり、このときの電力需給逼迫は供給能力が不足していたわけではない。一般に電力需給逼迫は、電力需給のバランスをとることができなくなったときに発生する。これは真夏や真冬の電力需要が高まる時期でも同様であり、この時期でも一日のうち、需要がピークに達する数時間の需給調整が重要となる。
原発は一基あたりの出力が大きい電源ではあるが、柔軟に止めたり動かしたりしすることはできず、出力調整も難しい。また、トラブルが多く(注4)、計画外に停止すれば広範囲に大きな影響をもたらす。隠蔽や改ざんなどの不祥事や訴訟リスクも高い(注5)。つまり原発は不安定な電源である。今回はじめて「次世代革新炉」の新設の検討が打ち出されたが、従来型でも、計画から稼働まで長期間を要し、現在の需給逼迫の解決や緊急を要する気候変動対策としては役には立たない。ましてや、内容や実現可能性が不明な「次世代革新炉」をあてにすることはできない。需給調整のための仕組みづくり、省エネの導入、デマンド・レスポンスの強化、持続可能性に配慮した再エネ電源の整備などが、経済合理性があり、効果的で現実的な解決方法である。
原発がもつ様々な問題を無視して原発を推進することは、国民に不必要な経済的負担とリスクを押し付けるものである。
原発の新増設については、原発に慎重な世論に「配慮」したためか、エネルギー基本計画にも盛り込まれず、「原発依存度の低減」という方針が堅持されてきた。このような重大な方針転換を、国民的議論も経ずに政府が一方的に発信すること自体、問題が大きい。
今、必要なのは、電力需給調整の仕組みづくりと、省エネやデマンド・レスポンスなどの強化である。福島原発事故の教訓を蔑ろにして、リスクとコストが高い原発を推進することは許されない。
注1:追加再稼働する原発として名前があがっているのは以下の7基。
東北電力・女川原発2号機、日本原電・東海第二原発2号機、東京電力・柏崎刈羽原発6,7号機、関西電力・高浜原発1・2号機、島根原発2号機
注2:「原発、40年廃炉を明言 規制委委員長候補の田中氏」日本経済新聞電子版(2012年8月1日)、「40年超の原発の運転延長困難~田中委員長」日テレNews(2012年9月19日)など
注3:東海第二原発の格納容器はMARKII型で、万が一の事故で炉心溶融が発生した場合、水蒸気爆発の危険性が指摘されている。使用されている全長約1,400kmのケーブルのうち「難燃ケーブル」もしくは「今後難燃ケーブルに取り換える」ものは一部でしかない。赤城山噴火時における火山灰の量を50cmと評価しているが、原子炉建屋の強度不足や非常用発電ディーゼルの目詰まりなどが懸念される。緊急時対策所は、免震構造になっていない。近隣には、高レベル放射性廃液などを貯蔵する東海再処理施設(現在、廃炉作業中)があり、連鎖型の事故が懸念される、など
避難計画の実効性に関しては、地震、津波、豪雨、積雪などと同時に生じる複合災害への考慮、感染症をも考慮した避難先のスペース確保、要援護者の避難などが問題となっている。
注4:原発事故前の15年間(平成9年~22年)実用発電用原子炉の事故故障等の報告件数は、267件にのぼる。出典:「事故故障等の報告件数の推移等」(平成30年9月)原子力規制庁ウェブサイト
注5)原発の稼働状況とトラブルや裁判の例(2022年2月現在)出典:FoE Japan「福島の今とエネルギーの未来2022」p.50(2022年3月)
※本声明発出時、誤って「原子力規制委員会設置法」としてしまいましたが、正しくは「原子炉等規制法」でした。おわびして訂正いたします。(2022年8月29日修正)