【声明】処理汚染水、処分方法決定の前に必要な4つのこと~放射性物質の総量の開示、リスクや代替案の検討、開かれた議論

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東京電力福島第一原発の処理汚染水について、政府は今月中の海洋放出の方針決定を断念した。主要メディアが「今月27日に関係閣僚会議において決定」と報じる中、梶山経済大臣は、本日、「今までいつ決定するか対外的に明らかにしたことはない」とした上で、「国内外への科学的根拠に基づいた情報発信や風評対策について、できることから取り組んでいく」と述べた。

政府は従来通りの「海洋放出」方針決定に向けてタイミングを見極めているだけであり、重要な議論を行うことを避けているように思える。

私たちは、処理汚染水の処分方法を決定する前に、①必要な情報の開示、②代替案の検討、③リスクの検討、④開かれた十分な議論――が必要であると考える。

1. 放射性物質の総量を示すべき

タンクにためられている処理汚染水の放射性物質の総量は現在に至るまで示されていない。

2018年に開催された説明公聴会の際には、ALPS(多核種除去装置)で処理したため、タンク水にはトリチウムしか含まれていないという資料が経産省によって配布された。しかし、公聴会直前になって、メディアのスクープにより、ストロンチウム90、ヨウ素129、ルテニウム106など、トリチウム以外の放射性物質が基準を超えて残留していることが明らかになった。その後の東電の発表によれば、タンク水の7割において、放射性物質が全体として濃度基準を上回っており、最大、濃度基準の約2万倍となっている。東電は「二次処理する」と言っているが、実証試験は今年9月にはじまったばかりであり、二次処理した結果、どの核種がどの程度残留するかはまだ明らかではない。

どのような水が、海洋もしくは大気中に放出されるかは重要な情報である。経産省および東電は、処理汚染水に含まれている放射性物質ごとの総量を示すべきである。

2. 代替案の検討

海に流す以外の案として、技術者や研究者も多く参加する原子力市民委員会から「大型タンクによる長期安定保管」や「モルタル固化処分」といった代替案が提案されている。しかし、政府はこうした案について、公開の場できちんとした議論を行っていない。大型タンクによる長期保管については、ALPS小委員会の場で、東電が一方的に否定的な説明を行い、それがそのまま小委員会報告書に記載された。モルタル固化処分については議論の俎上にすら上がっていない。原子力市民委員会メンバーからの意見聴取はなされていない。

こうした案を却下する前に、提案している技術者・研究者と公開の場で議論を行うべきではないか。

敷地についても、ALPS小委員会の委員から、現在の敷地を拡大する案、敷地北側にある土を中間貯蔵施設に運びだす案が提案されたが、小委員会事務局(経産省)により、「地権者の理解を得ることが難しい」と片づけられてしまった。経産省は、実際には地権者の意向をきいているわけではない。

一方で、東電が現在示している敷地利用計画は、使用済みの核燃料を取り出すことが前提の計画になっている。しかし、燃料デブリの取り出しは、危険かつ困難を極め、仮に取り出すことに成功したとしても、その処分方法も決まっていない。このままのスケジュールで取り出すことは現実的とは思えない。

経産省と東電は、30~40年後には、処理汚染水の処分も含めて廃炉が終わるという幻想を地元に押し付け、それを議論の前提として危険で無理な工程をそのまま進めようとしている。廃炉計画全体についても見直しが必要だ。

3. リスクの検討

貯蔵されている汚染水に含まれるトリチウムの総量は推定860兆ベクレル。事故の前年の2010年に福島第一原発から海洋に放出されていたトリチウムは約2.2兆ベクレルだったので、その約400倍である。

東電は、海洋放出をする場合は、処理汚染水を海水で希釈し、トリチウム濃度にして1,500Bq/L程度に低減するとしている。トリチウムの規制濃度基準は6万Bq/Lであるが、これはトリチウム単体であった場合の基準であることに注意が必要である。地下水バイパスやサブドレンの排水の運用基準も1,500Bq/Lであるが、これは敷地内の他の放射性物質による線量や排水に含まれる他の放射性物質を考慮して、排水中のトリチウム濃度が決められた経緯がある。

経産省は、トリチウムが自然界にも存在すること、世界各地の原発で海洋放出されていることを強調し、トリチウムの健康への影響はほとんどない、という趣旨の説明をくりかえしている。確かにトリチウムは各地の原発や再処理施設から大量に放出されている。しかし、そのことをもって、トリチウムが安全だとすることはできない。多くの有害物質は、自然界にも存在する。問題は、人為的な活動によってそれが集積することである。

トリチウムの健康への影響は明らかではなく、専門家の間でも意見が分かれている。トリチウムが有機化合物を構成する水素と置き換わり、それが細胞に取り込まれた場合、食物連鎖の中で濃縮が生じうること、またトリチウムがDNAを構成する水素と置き換わったときには、近隣の細胞に影響を与えること、トリチウムがヘリウムに壊変したときにDNAが破損する影響などが起こりうることが指摘されている。

経産省は、こうしたトリチウムについてのリスクを指摘している専門家からの意見も聴取し、検討を行うべきではないのか。

4.開かれた議論

2018年夏に開催された説明公聴会では、意見を述べた44人中42人が、海洋放出に反対した。そのせいか、ALPS小委員会が報告書を公表して以来、政府は一般市民を対象とした説明会や公聴会を行っていない。

その代わりに、今年になってから、経産省は7回もの「御意見を伺う場」を開催した。この場で、福島県の漁業、林業、農業関係の団体、全漁連などの代表が、明確に海洋放出に反対した。一方で、「御意見を伺う場」には、経産省が「関係団体」とした産業団体・自治体などしか呼ばれていない。意見表明を行った43名中42名が男性であり、ジェンダーバランス、世代バランスの点でも問題がある。

反対の声は根強い。福島県漁連も近隣県の漁連も全漁連も、繰り返し、海洋放出反対の意思を示した。福島県では59市町村のうち41市町村議会が、海洋放出へ反対もしくは慎重な意見書や決議を可決。また、福島県内の団体が呼びかけて経産省に提出された海洋放出に対する反対署名は42万人を超えた。

パブコメには4,000件以上の意見が集まった。政府の発表では、そのおよそ2,700件で安全性への懸念が示され、合意プロセスへの懸念がおよそ1,400件あった。

この間、政府と、本件に関心をもつ団体や個人の間での開かれた議論はほとんど行われていない状況である。

FoE Japanは、放射性物質は原則、集中管理をすべきであり、環境中に拡散させてはならないという立場から、処理汚染水の海洋放出には反対する。政府は、原発事故以降、汚染水の意図的、非意図的な放出に苦しめられてきた漁業者など、重要なステークホルダーが繰り返し反対の声をあげていることを重く受け止めるべきである。

また、私たちは、処理汚染水に関して、政府が議論をせず、形式的な「意見聴取」しか行わない現在のやり方に関して深い懸念を抱いている。

さらに、「風評被害対策」に巨額の国費が投入されることにより、処理汚染水放出が安全だという政府の見解が一方的に流布され、結果的にあるべき議論を封じてしまうことについても懸念している。

私たちは、政府に対して、議論の前提として、残留する放射性物質の総量を示すこと、幅広い立場の市民が意見を言うことができる公聴会を開催すること、海洋放出以外の代替案についても提案者が公開の場で説明し、開かれた議論が行われること、こういった意見や議論を反映した上での意思決定を行うことを求める。以 上


原発処理汚染水に関する要請の賛同】
10月20日提出版(PDF)

賛同する

※賛同呼びかけは、10月26日朝7時まで継続します。

漁業者の断固たる反対の声にもかかわらず、政府は今月中にも「海洋放出に一本化」という決定をしてしまう方向であると報じられています。原子力市民委員会が提唱してきた大型タンクによる長期安定的な保管、モルタル固化処分など、代替案が十分検討されたとは到底いえません。合意形成プロセスにも大きな問題があります。このようななかで海洋放出を決めることは許されません。こうした状況を踏まえ、下記の要請書を経済産業省に提出することにしました。

※FoE Japanの呼びかけで10月17日朝から10月20日朝まで賛同を募集したところ、6,886人の方々の賛同を得ることができました。10月20日午後、頂いたご署名およびメッセージを添えて経産省に提出しました。>提出&記者会見の模様(YouTube映像)

【提出および記者会見の模様】


FoE Japanは、ALPS処理汚染水をめぐる福島の漁業者らの声を「見える化」するため、映像を作成し、公開しました。
漁業者たちは、試験操業を行いつつ、独自に放射能測定を行うなど、信頼を回復する努力を積み重ねてきました。漁業の復興に向けて一歩ずつ積み上げ、ようやく漁獲制限がすべて解除になった矢先に…。漁業者たちの言葉に苦悩がにじみます。


▼処理汚染水について6都県の漁協にアンケート
9割が海洋放出に「反対」、85%が「福島県外での意見聴取を行うべき」
https://www.foejapan.org/energy/fukushima/200519.html


【参考情報】
東電福島第一原発で増え続ける、放射能を含んだ「処理水」Q&A

 

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