世界海洋デー:ガス開発から「海のアマゾン」を守ろう!ーフィリピン市民団体がガス開発による海洋生態系への悪影響に警鐘
6月5日の世界環境デー、また6月8日の世界海洋デーに合わせ、フィリピンの市民団体がヴェルデ島海峡(The Verde Island Passage: VIP)におけるガス開発の影響について、新しい調査報告書を発表しました。「海のアマゾン」とも称されているVIPは、世界で最も生物多様性豊かな海洋生息環境の一つとして知られています。報告書では、VIPに面したバタンガス州周辺の水域で、ガス火力発電所など産業活動による水質汚染が警戒レベルに達していることが指摘されています。
同調査の結果、フィリピンの水質ガイドラインの基準値を超える汚染物質や重金属が確認されたことから、地元の漁民団体などは6月6日、フィリピン環境天然資源省(DENR)に対し、同水域を「(環境基準)未達成地域」として宣言するよう求める要請書も提出しました。また、新規のガス火力発電所やLNGターミナルなど、一連のガス開発計画が水質汚染の状況をより悪化させ、ひいてはVIPの海洋生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されることから、ガス開発計画を徹底的に見直すよう求めました。
20年間稼働を続けてきたバタンガス州イリハン村にある既存のガス火力発電所(1,200メガワット)は、TeaM Energy(丸紅とJERAが出資)、三菱商事、九州電力などが出資者として関わってきましたが、周辺住民は長年、同発電所による大気汚染や温排水の影響に悩まされてきました。また、同発電所の隣接地で現在、建設工事が始まっている「イリハンLNG輸入ターミナル事業」は、国際協力銀行(JBIC。日本政府100%出資)と大阪ガスが共同出資している企業が推進しています。
5月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合で採択されたコミュニケでは、排出削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援について2022年末までに終了することが条件付きでコミットされました。こうした動きを受け、フィリピンの市民団体からはJBICに対し、イリハンLNG輸入ターミナル事業から撤退するよう求める声が早速上げられています。
日本の官民は、「ガス開発によって海洋生態系を壊さないで!」というフィリピン市民からの声に耳を傾け、ガス開発から早急に撤退すべきです。
以下、フィリピン市民団体によるプレスリリース(和訳)です。
>プレスリリース原文(英語)はこちら
プレスリリース | 2022年6月6日
新レポート:化石燃料ガスは環境破壊の原因
世界環境デーを迎えるにあたり、また世界海洋デーを目前に控え、教会、漁業従事者、環境団体は、フィリピンにおける化石燃料ガス火力発電の大規模な開発による、特に海洋生物多様性のホットスポットであるヴェルデ島海峡(VIP)の生態系への悪影響について懸念を示し、フィリピン全国でガスへの依存度を高める計画を徹底的に見直すよう要求しました。
この要求の正当性は、シンクタンクの Center for Energy, Ecology, and Development(CEED)とカリタス・フィリピン(Caritas Philippines:CBCP-NASSA)が、バタンガス湾のイリハン村にある既存の1,200メガワット(MW)のガス火力発電所と二つの新しいガス開発事業(リンシード・フィールド・パワー社とアトランティック・ガルフ・アンド・パシフィック社(AG&P)が進めるLNGターミナル、及びサンミゲル社(SMC)の子会社グローバルパワー社が進める1,750 MWの新規発電所)近辺の水質と海洋生態について発表した調査の結果でも裏付けられています。CEEDとカリタス・フィリピンは、地元の漁民団体であるバタンガス漁民団結(BMB:Bukluran ng Mangingisda ng Batangas)とともに、ヴェルデ島海峡を守ろう(VIPを守ろう)キャンペーンのネットワークに参加しています。
「私たちは、自然の恵みとそこから得られるすべての恩恵を祝うと同時に、気候や生態の危機がすでに激化しているにもかかわらず、環境破壊をもたらそうとする産業、すなわち化石燃料ガスに対する警鐘を鳴らしています。私たちは、ガス開発によってすでに影響を受けている、あるいは受けるであろうコミュニティと連帯して、汚いエネルギーであるガスと闘い、私たちが故郷と呼ぶこの地球を大切にするという約束を固く守ります」と、フィリピン・カトリック司教会議の社会活動部門であるカリタス・フィリピンの事務局長Tony Labiao神父は述べました。
同調査の水質分析では、産業活動に晒されることで、リン酸塩、クロム、銅、鉛などの主要な汚染物質や重金属が警戒すべきレベルに達していることが明らかになりました。一方、海洋生態の調査結果では、ストレス要因のために、事業地近辺の海域では、VIPの他の海域に比べて魚類の生物多様性や魚類の数が少ないものの、魚類のバイオマスは高いままであることが示されました。しかし、リンシード、AG&PとSMCの事業地における既存の生物多様性は、すでに建設作業による破壊の対象となっています。
「この産業は、私たちの海洋資源と多くのコミュニティ、特に漁獲量が減少してきている漁師に明らかな影響を与えています。こうしたことがヴェルデ島海峡の広範囲ではないにせよ、バタンガス以外でも起こるのではないかと私たちは恐れています。 クリーンな再生可能エネルギーから電力を得ることができるのに、なぜ破壊的な化石燃料ガスに頼るのでしょうか?」と、「VIPを守ろう」の呼びかけ人であり、カラパン使徒座代理区の社会活動ディレクターであるEdwin Gariguez神父は問いかけました。
ヴェルデ島海峡は、世界の近海魚種の生物多様性における最中心地として知られる海洋生物多様性のホットスポットで、世界で認知されている全近海魚種の60%、その他数千の種が生息しています。しかし同時にここは、石炭に代わるクリーンな燃料と誤って宣伝されているガス開発事業の、フィリピンにおける震源地でもあります。全国にある既存のガス火力発電所6基のうち5基がここにあるのに加え、新規のLNG・ガス火力発電所8案件とLNGターミナル7案件がここで建設される予定です。しかし、これは全国で計画中の29.9ギガワット(GW)のガス火力発電と9案件のLNGターミナルの一部に過ぎません。
「化石燃料ガスは環境破壊の原因です。私たちがVIPで目撃していること、そしてこれから目撃することは、ガス開発事業を抱えるフィリピン全国のコミュニティでも同じように目撃されるでしょう。ガス産業は、安価でクリーンで安定した電力を供給できるという嘘を売り込んできました。しかし、今日のガス価格の前代未聞の高騰は、それが嘘であることを証明しています。また、私たちが今日目撃しているガス開発事業による環境破壊は、ガス火力の拡張を進めることがどう見ても賢明でないことを証明しています。残念ながら、フィリピンの次期政権はガス火力の拡張を目指しているようであり、これは徹底的な再考が必要です」とCEEDのGerry Arances事務局長は述べました。
同日、地元の漁民団体BMBを中心とするグループは、環境天然資源省(DENR)本庁に要請書を提出し、SMC、リンシード、AG&Pおよび既存のガス火力発電所の事業地周辺のVIP水域を、「自然または人為のいずれかの特定の汚染物質が既に水質ガイドラインの値を超えている」ことを意味する「(環境基準)未達成地域」として宣言し、基準を超過している汚染物質の新たな排出源となるものの建設を許可すべきでないと要請しました。
同要請書の中で、BMB代表Tomas Buitizonを中心としたグループは、「私たちはこのDENRに対する要請書を生計手段や食料をVIPに依存しているBMBのメンバー、漁師、そしてすべてのコミュニティーのために書いています。私たちは、VIPとVIPのバタンガス湾東部などの周辺地域・水域をフィリピン水質浄化法に基づき汚染物質の(環境基準)未達成地域として宣言するよう、DENRの早急な対応を求めます。一つの重要な水源にそうした汚染物質がこれ以上増えることは、絶対に回避されなければなりません。」と書いています。
フィリピン市民団体の報告書2本(英語のみ)はこちらでご覧になれます。
>フィリピン・ヴェルデ島海峡のバタンガス湾東部にある重工業地域及びその周辺地域における水質傾向(The Trend of Water Quality in the Heavy Industrial Area of Batangas Bay East, Verde Island Passage, Philippines and its Surrounding Areas)
> フィリピン北部ヴェルデ島海峡内のガス火力発電所及びLNGターミナル周辺の海洋生態評価(Marine Ecology Assessment Along the Coast of a Fossil Gas-fired Power Plant and LNG Terminal within the Verde Island Passage, Northern Philippines)
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