【プレスリリース】「海のアマゾン」を守って!フィリピンのガス開発で海洋生態系の危機――フィリピンと世界の106市民団体が日本を含む各金融機関に撤退要請

ヴェルデ島海峡の海中写真(©︎Boogs Rosales)

地球上、最も生物多様性豊かな海洋生息環境の一つとして知られるフィリピンのヴェルデ島海峡(The Verde Island Passage: VIP)――いま、その海洋生態系が、一連のガス開発事業の計画によって甚大な被害を受けるとともに、その周辺で小規模漁業や観光業を生業としてきた住民の生活もより苦しくなるのではないかと、事業に対する強い反対の声が現地で上げられています。

そうした計画の中には、日本の国際協力銀行(JBIC。日本政府100%出資)と大阪ガスが共同出資している企業が推進する「イリハンLNG輸入ターミナル事業」も含まれています。ルソン島の電力安定供給のため、ターミナルに隣接する既存及び新規のガス発電所への液化天然ガス(LNG)供給が目的とされています。しかし、VIPの海洋環境への影響、住民の生計手段への影響、開発プロセスにおける適切な住民参加の欠如、化石燃料の利用による気候変動への影響など、多くの懸念の声を軽視したまま事業を進めてよいのでしょうか。

4月12日、「『海のアマゾン』の保護を:金融機関は、VIPでの化石燃料ガス・LNGプロジェクトから撤退してください!」(和訳英語原文)という国際声明が発表されました。フィリピン市民団体の呼びかけに応じ、20以上の国・地域から100以上の市民団体が賛同を寄せたものとなっています。声明では、JBIC等を含む投資家に対し、ガス事業からの撤退を求めています。

以下、フィリピン市民団体によるプレスリリース(和訳)です。


>プレスリリース原文(英語)はこちら

プレスリリース | 2022年4月12日

 各国の市民団体が「海のアマゾン」におけるフィリピンのガス施設拡大を非難し、ガス開発計画からの撤退を金融機関に要請

マニラ発 ー 20カ国以上の100以上の市民団体からなる連合は、火曜日に発表した声明(和訳英語原文)の中で、新規の化石燃料ガスや液化天然ガス(LNG)発電所および輸入ターミナルの大規模な計画により、フィリピンの生物多様性のホットスポットが破壊される危険性に警鐘を鳴らした。

フィリピンは、アジアにおける無謀なガス開発の最前線にいる国のひとつである。過去10年間に石炭への依存度を高めてきたフィリピンは、現在、新たな「好ましい燃料」として、別の化石燃料であるガスへの転換を視野に入れている。推進派の計画通り進めば、フィリピン国内のガス発電容量は現在の3.42 GWから29.64 GWに膨れ上がることになる。フィリピンの主要な国内ガス田であるマランパヤが枯渇するため、フィリピンは9ヶ所のLNGターミナル計画を通じた輸入による燃料供給にも門戸を開いている。

海のアマゾン ―ヴェルデ島海峡

「不幸にもガスの大規模拡張計画の震源地」となってしまったのは、ヴェルデ島海峡(VIP: Verde Island Passage)として知られる海洋生物多様性のホットスポットである。ルソン島南部、コーラルトライアングルの中心に位置するVIPには、世界で認知されている近海魚種の約60%、300種以上のサンゴ、その他数千種が生息し、世界で最も生物多様性の高い海洋生物の生息地となっており、まさに「海のアマゾン」と呼ばれる所以である。しかし、この多様性は深刻な危機にさらされている。というのも、その周辺の5つの州の一つであるバタンガス州には、全国にある既存の6案件のガス火力発電所のうち5案件があるだけでなく、新たに計画されている27案件の発電所(29.6 GW)のうち8案件(11.8 GW)と、計画中のターミナル9案件のうち7案件があるためである。

地元のステークホルダーや支援団体は、この巨大なガスパイプラインが海運活動の増加と海洋回廊の妨害をもたらすこと、海水の取水・排水に伴う温排水による影響を引き起こすこと、バタンガス全域の海岸(魚類やその他の海洋生物の産卵地として伝統的に知られている地域)を荒廃させることを懸念している。

「VIPは何百万人ものフィリピン人に栄養と生計手段を与え、海洋生物を生み出し、それがコーラルトライアングルの他の地域にも波及しているのです。ガスのような破壊的な産業を受け入れることで、私たちはこれを失う危険性があります」と、Protect VIP キャンペーン・ネットワークの主たる呼びかけ人であるEdwin Gariguez神父は述べる。

VIP:化石燃料ガスによる大規模破壊の氷山の一角

今日、バタンガス州内で最も進んだ開発段階にある複数のプロジェクトは、ガスとLNGの新たな波がVIPやその他の影響を受ける地域にもたらすであろう破壊的な影響を垣間見せてくれる。その一例となるイリハン村とデラパス村は、リンシード・フィールド・パワー社(Linseed Field Power Corporation)とアトランティック・ガルフ・アンド・パシフィック社(Atlantic Gulf and Pacific Co.:AG&P)が提案したLNGターミナルの建設地で、エネルギー大手サンミゲル・コーポレーション(San Miguel Corporation)の1,700MWの新しい発電所に隣接している。

関係団体は、事業地の海岸沿いで植生と海洋生物が喪失したことで悲嘆に暮れている。関係団体によるスコーピング調査により、整地作業とターミナルの桟橋のために海への土壌投棄が行われる数ヶ月前、これらの生物が依然として存在していたことが証明されていた。これは、事業者の整地作業の合法性、区分の転換、環境社会に係る許容要件への遵守が懸念される中、行われたものである。

「リンシード、 AG&PとSMCは、ガスとLNG産業が破壊的かつ暴力的であることの証拠です。これらの事業を支持すれば、誰であっても、海のアマゾンを破壊する共犯者です」と、シンクタンクのCenter for Energy, Ecology, and Development(CEED)事務局長であり、 Protect VIPの共同呼びかけ人でもあるGerry Arancesは述べている。

VIPは氷山の一角にすぎない。VIPが直面する脅威は、ガス開発計画の候補地を抱える沿岸地域にとっても同様であり、その多く(正確には13.9 GW)はタノン海峡に面した西ネグロス州サンカルロス市のLNG火力発電所(300 MW)、レイテ州タバンゴ町の沿岸及び農業地帯のLNG火力発電所(600 MW)、南サンボアンガ州サンボアンガ市のLNG火力発電所(300 MW)、国内の漁業中心地ナボタスの12基に及ぶ巨大なLNG施設(6,492 MW)など、SMCの事業である。

ガスの拡大、その代償は?

2018年、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、世界の気温を1.5度未満に抑えるために、2030年までに世界全体のガス使用量を2010年比で60%削減する必要があると報告した。推進派によって、ガスは炭素集約度が低いため石炭に代わるクリーンな代替案として宣伝されているが、ガスは20年間でCO2の80倍の熱を閉じ込める能力がある別の温室効果ガスであるメタンを大量に排出する。

FoE USのDoug Norlenは、「気候変動に脆弱な国にガスを供給するのは、無理やり毒を飲ませるのと同じことです。石炭からの脱却に際してやるべきことは、再生可能エネルギーからクリーンエネルギーへの真の移行であり、気候変動に配慮した未来から遠ざかってしまう次のエネルギー源に手を出すことではありません」と述べている。

ガスはそのライフサイクル全体を通じてメタンを放出する。IPCCの最新の報告書では、エネルギー供給による世界のメタン排出は主に化石燃料の生産時及び輸送時の漏えい排出物であり、それが世界のエネルギー供給によるGHG排出の約18%を占めている。

Oil Change International (OCI)のSusanne Wongは、「私たちの地球が危機に瀕しているのに、汚れたガス開発事業のために貴重な時間と資金を浪費するわけにはいきません。新しいガス火力発電所や輸入ターミナルの建設は、米国のようなガス生産国に、より過激ではるかに汚染度の高い採掘手段を使用する口実を与えることになります。私たちは金融機関に対し、化石燃料の拡張への投資を止め、私たちが必要とするクリーンエネルギーの未来への投資を始めるよう強く求めます」と述べている。

シンクタンクの Institute for Energy Economics and Financial Analysis(IEEFA)も今週月曜日、LNGの輸入に踏み切る国々に対して、ロシアによるウクライナへの侵攻が燃料価格に及ぼす長期的な影響について警告する新たな分析を発表した。 

CEEDのArancesは加えて、「ガスの大規模な拡張とLNGの輸入は、すでにアジアで最も高い電気料金を支払っているフィリピンの消費者に打撃を与えることになります。LNGは世界市場で記録的な高値に達しており、その価格変動性は今回のエネルギー危機によってさらに悪化しています。文字通り、LNGに転換する余裕はないのです。今開発すべき理にかなったエネルギー技術は再生可能エネルギーだけです」と述べた。

ガス開発の炎を煽る金融

 「どんなガス火力発電所もターミナルも、金融機関から資金が注入されなければ稼働させることはできない。VIPの場合、世界の銀行や金融機関全体がそれを破壊するために資金提供するつもりのようです」とBank on Our FutureのBecky Jarvisは言う。

AG&Pの出資者としては、日本の大阪ガス、国際協力銀行(JBIC)に加え、I Squared Capitalなどが知られている。EERI-SMCのガス火力発電所に対する積極的な投資者には、UBS AG、アリアンツ、ブラックロック、CAインドスエズ、シュローダーPLC、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーなどである。その他、スタンダードチャータード銀行、みずほ銀行、クレディ・スイス、ドイツ銀行、DBS、地場銀行のチャイナ・バンキングとフィリピン開発銀行(DBP)などが含まれており、懸念される開発計画の証券発行を促進し、VIPの破壊に加担していたことが判明した。

「日本の金融機関は、ガス開発事業の環境社会影響を精査する必要があります。このような事業は、現地のコミュニティーに大きな影響を残します。JBICは、公的資金を投じて破壊的な事業を支援したという実績が広く知られることになっても良いのでしょうか。また、JBICが資金供与する各事業に対し、重要な自然生息地の著しい劣化を伴わないという要件を課しているJBIC自身の環境社会ガイドラインにも明らかに違反しています」とFoE Japanの波多江秀枝は指摘する。

OCIのWongも加えて、「ヴェルデ島海峡を守り、フィリピンでのLNG開発を阻止するための運動は力強く拡大し、日本政府、民間銀行、その他の金融機関への重大な警告となるはずです。汚れたガス開発事業は、汚れた石炭開発事業と同様の激しい反対と同様の運命に行き当たることになるでしょう。私たちは、汚れた化石燃料で私たちの未来を破壊することを止めるよう、金融機関に強く求めます」と述べた。

各市民団体は、リンシード/AG&Pのターミナルやバタンガス州での他のガス及びLNG開発事業を支援する金融機関が投資決定を再考し、代わりに他の真に持続可能で有益な取り組みに目を向けるべきだと述べた。

Urgewaldの金融・エネルギー担当キャンペーナーのKatrin Ganswindtは、「今日、より多くの金融機関が石炭関連の活動を制限する世界的な流れに加わっている一方、それはガスには当てはまりません。フィリピンやアジアで無謀なガス開発に資金を提供している銀行や投資家は、気候危機に拍車をかけ、再生可能エネルギーへの迅速な移行を妨げていることを非難されるべきです」と述べた。

「政府や民間企業、特に金融機関がガス開発の炎を煽っていなければ、」VIPで計画されているガスの拡張は不可能だっただろうという点で、各国市民団体の意見は一致している。「VIPやその他の地域の多くの海岸が不毛の地になり、海に住む多くの生命が奪われ、新しいガス火力発電所やターミナルが海洋生物にとって致命的となる操業を開始するまで、まだ時間があります。私たちは、金融機関が「海のアマゾン」の破壊に加担しないよう、強く求めます。」

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問い合わせ先:

info@ceedphilippines.com

+63 929 594 0057 (WA, Signal)

www.protectvip.org

 

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