CCSの問題点について国連に意見を提出しました
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が、気候変動対策に使われる技術が人権にどのような影響を与えるかについての意見募集を行い、FoE Japanは、FoEマレーシア、九十九里の海を守る会、気候ネットワークとともに炭素回収貯留(CCS)技術が環境・社会・人権にもたらす危険性について、意見を提出しました。
意見書
1. はじめに
FoE JapanはSahabat Alam Malaysia (FoE Malaysia)、九十九里の海をまもる会、気候ネットワークとともに、気候変動関連技術と人権への影響に関する国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の意見募集に対し、本意見を提出する機会を歓迎します。本提出では、日本政府が気候変動対策として推進している炭素回収・貯留(Carbon Capture and Storage: CCS)に焦点を当てます。
CCSは気候対策として提示されている一方で、その導入は、環境リスク、沿岸地域への環境・社会影響、透明性および住民参加の欠如、越境的な環境正義の問題、そして実証済みで効果的な省エネや再エネなどの排出削減対策から資源を奪ってしまうといった重大な人権上の懸念を伴います。これらの懸念は、千葉県で計画されている「首都圏CCSプロジェクト」および日本政府によるマレーシア等へのCO₂の海外輸出政策において特に顕著です。
国連総会は、クリーンで健康的かつ持続可能な環境に対する権利を認めています(A/RES/76/300)。また、国連人権理事会は気候変動が世界中の人々とコミュニティに対する重大かつ広範な脅威であることを強調しています(人権理事会決議48/13)。したがって、気候関連技術は健康や環境に対する権利や、意思決定への参加の権利など様々な人権の観点から評価される必要があります。
2. 社会的・環境的影響:千葉県・首都圏CCSプロジェクトの事例
日本では現在、9つのCCS事業が先進事業として推進されており、首都圏における大規模CCSプロジェクトが含まれます。同計画では、東京湾岸の産業施設から排出されるCO₂を回収し、千葉県内を通る全長80キロにおよぶパイプラインで輸送し、九十九里沖の海底下に圧入・貯留することが想定されています。すでに沿岸5キロメートル地点に、掘削のためのリグ(海上高さ120m)の海上掘削設備の設置も計画されていますが、これは試掘のための施設で、今後本格的に地下貯留を始めることになれば、長期間にわたり海上に巨大な圧入施設が建設されることになります[1]。
この事業には重大な人権・環境上の懸念があります。
沿岸コミュニティと生計への影響
九十九里沿岸地域は、漁業、観光、地域社会の生活基盤として重要な海洋環境に依存しています。海上掘削および海底下へのCO₂圧入は漁業や、海洋生態系への影響、観光業や景観への影響、またCO₂漏洩リスクによる安全性が懸念されます。
環境リスクと長期的不確実性
CCSは大量のCO₂を地下に圧入するため、漏洩のリスクや地震誘発のリスクが指摘されています。さらに、海洋生態系への影響、海洋酸性化、長期監視の必要性、責任の所在の不明確さもリスクです。それにも関わらず、日本ではCCS事業に対する環境影響評価が求められていません。
これらのリスクは数十年から数世紀に及ぶ可能性があり、世代間の人権問題も生じさせます。
情報公開と住民参加の不足
国連の「人権と環境に関する特別報告者」は、環境意思決定における情報へのアクセス、参加、司法へのアクセスの重要性を強調しています。しかしながら、首都圏CCSプロジェクトは十分な住民説明や参加の機会が確保されないまま進められています[2]。これほどの大規模な事業であるにもかかわらず、パイプラインの通るごく狭い地域への説明のみしか行われていません。7月には試掘が開始されようとしていますが、この海域が試掘エリアに選定された理由や、試掘による環境影響なども一切公開されていません。
3. CO₂の海外輸出と越境的人権問題
日本政府は、回収したCO₂をマレーシアやインドネシア、オーストラリアなど海外に輸送し貯留する政策も推進しています。
環境リスクの国外移転
CO₂の越境輸送は様々なリスクをCO2受け入れ国に転嫁します。例えば、CO2漏洩リスクや、長期監視の負担、環境被害、海上輸送事故リスクなどがあり得ます。さらに責任の所在の不確実性がさらなるリスクや負担を受け入れ国側に強いる可能性があります。これは排出削減ではなく、削減責任の移転でしかなく、本来必要な日本の足元での排出削減に繋がりません。
2024年4月時点で、インドネシア、マレーシア、オーストラリア等にCO₂を輸出し貯留する事業の実現可能性を検討するために、日本の政府機関や企業によって署名された協定等が少なくとも15件ありました[3]。海底下の永久地中貯留のための CO2 の国境を越えた輸送は、廃棄物の投棄に相当ほかなりません。
日本政府は、適切な地中貯留容量が国内で十分でなく高価であり、海外でCCS事業を実施する方が安価であるとしています。しかし、このような議論は正当化できるものでありません。第一に、CCS事業はどこで行ったとしても非常に高価です。さらに、日本のような先進国は、CO₂を「より安価な」投棄場所に輸出し、その負担と関連リスクをグローバル・サウスに転嫁するのではなく、国内で、かつ発生源において、大幅かつ迅速かつ持続的な排出削減を実施しなければなりません。
IPCCは、CO₂を地質学的、陸上、または海洋の貯留層、あるいはCDR(二酸化炭素除去)製品に貯蔵することを「永続的に」と表現しています。「永続的に」がどのくらいの期間を指すのか明確な定義はありませんが、少なくとも200~300年と示唆する意見もあります。隔離された炭素をこれほど長期間維持することを保証できる法制度は、実際には実現不可能です。米国では、その責任期間は最長50年ですが、オーストラリアではわずか15年です。二酸化炭素の国境を越えた「投棄」は、国際輸送中であろうと目的地国であろうと、重大な責任問題を引き起こします。このような責任追及が欠如している場合、長期的な責任は最終的に国民が負うことになります。
気候正義の問題
歴史的排出責任の大きい先進国がCO₂を海外に輸出することは、気候正義、とくに公平性や共通だが差異ある責任原則の観点から問題があります。これは「炭素投棄」または「炭素植民地主義」とも指摘されています。
法的責任の不確実性
国境を越えるCCSは、長期的な責任、監視責任、影響を受ける地域社会への補償などに関して、明確になっていません。これらの不確実性は、人権保護にとって重大なリスクとなります。
4. CCSの構造的リスク
化石燃料依存の固定化
CCSは化石燃料の採掘・燃焼後に排出されるガスを回収する技術であり、そのため化石燃料への依存を長期化させる可能性があります。CCSへの依存は、化石燃料の段階的廃止を遅らせ、高排出インフラを固定化し、再生可能エネルギーやエネルギー効率化への資源配分を阻害するリスクがあります。
高コストと公的資金の問題
日本のCCS政策は、実証プロジェクトが限られ、コストも高いにもかかわらず、大規模展開を目指しています。CCSには、回収施設、圧縮インフラ、パイプライン、輸送、注入井、そして長期モニタリングが必要となりますがこれらのコストは莫大であり、多くの場合、公的資金によって支えられています。
CCSへの多額の投資は、再生可能エネルギー、エネルギー効率化、電化といった実績のある緩和策から資源を奪う可能性が高く、人権保護に必要な、かつ効果的な気候変動対策の機会を損なうリスクがあります。
世代間責任
長期貯留は、モニタリングが数世紀にわたって必要となる場合があるため、世代を超えた負担を生み出します。漏洩や環境被害に対する責任は、最終的に将来世代や納税者が負うことになる可能性があります。
まとめ
気候変動対策に残された時間とリソースは限られており、リスクとコストの大きいCCSを対策にすえるべきではありません。環境への影響や社会への影響、CO2が投棄される国における影響や、将来世代に押し付けられる負荷を考えると、CCSは人権上大きな問題がある技術といえます。
国連はCCSの人権リスクを明確に認識し、その他の効果的で人権に配慮した気候変動技術を推進すべきです。
[1] CCS事業社ウェブサイト, https://mccs.inpex.co.jp/, FoEJapanによる解説ページ
[2] 「九十九里沖でのCCS事業のための掘削許可に抗議ー国と事業者はさらなる説明を」2026年4月21日
[3] 日本・マレーシア両政府に対し、CCS推進をやめるよう求める公開書簡提出 – 日本からマレーシアへのCO2輸出は「炭素植民地主義」2024年3月21日、「世界90団体が日本のCO2輸出に抗議ー日本政府はCCS方針の見直しを」2024年5月8日