日本・マレーシア両政府に対し、CCS推進をやめるよう求める公開書簡提出 - 日本からマレーシアへのCO2輸出は「炭素植民地主義」

気候変動2024.4.1

プレスリリース

2024年3月21日
国際環境NGO FoE Japan
Sahabat Alam Malaysia(FoEマレーシア)

公開書簡の本文はこちら(日本語/PDF)/(英語/PDF
プレスリリースの原文(英語)はこちら

クアラルンプール/東京 – 本日、最大規模の草の根国際環境ネットワーク「フレンズ・オブ・ジ・アース・インターナショナル」のメンバーである環境団体、Sahabat Alam Malaysia(FoEマレーシア)とFoE Japanは、日本政府とマレーシア政府に対し、炭素回収貯留(CCS)技術は、気候変動対策を遅らせるだけであるとして、CCSを促進しないよう求める公開書簡を提出しました。書簡は、先進国から途上国への二酸化炭素(CO₂)の輸出は重大な気候「不正義」であるとも述べています。

歴史的に多くのCO₂を排出してきた国の一つである日本は、マレーシアを含む他国へのCO₂輸出を積極的に検討しています。 3月1日にも、企業連合が東京湾の複数の産業から排出されるCO₂の分離・回収・集積、船舶輸送、マレーシアでのCO2貯留までの海外CCSバリューチェーン構築に向けた共同検討に関する覚書を締結。 回収される CO₂の量は、年間約300万トンから600万トンが想定されています。

このような行いは気候危機を悪化させるだけではありません。マレーシアのようなグローバル・サウスの国々にCO₂を投棄することは、歴史的に多くの温室効果ガスを排出してきた国々がより多くの気候変動対策への責任をとるという気候正義の原則に根本的に反しています。 さらに、CCSはリスクが大きく、コストも高い有効性の立証されていない技術であり、長期的な責任を伴います。 このような技術に依存することは、日本の気候変動対策を遅らせるだけです。

FoEマレーシア代表のMeenakshi Ramanは、「マレーシアにおいて気候危機が日に日に悪化しており、グローバル・サウスの人々は不当に大きな影響を受けている。 裕福な国は、自らが引き起こしたことの代償を払い、自国で排出量を削減しなければならない。 現在、日本のような国々は、気候危機への責任だけでなくCO₂そのものを他国に移転することを検討している。これはグローバル・サウスに廃棄物を捨てる行為であり、ばかげている。 日本をはじめとした他国から輸出されたCO₂を受け入れることは、マレーシア自身の排出削減努力を台無しにすることになる。 将来世代の安全を保証するものではない技術に対し、誰がその費用を支払うのか? 私たちはまた、マレーシア政府に対し、富裕国からの廃棄物をこれ以上受け入れないよう要求する。マレーシアは、世界のあらゆる廃棄物の投棄場所となるべきではない。」とコメントしました。

グリーンピースマレーシアの気候・エネルギーキャンペーナーであるHamizah Shamsudeenは「CO₂の輸出は、マレーシアを新たなゴミ捨て場にするということだ。グリーンピースマレーシアや、我々が所属するクライメートアクションネットワーク(CAN)は、CCSは気候変動の解決策にならないと考えている。CCSに過剰に依存することは、石炭、天然ガス、石油などの非再生可能エネルギーが、ネットゼロの目標年である2050年以降もエネルギーミックスに残るということだ。マレーシア政府は、(CO₂を受け入れるのではなく)責任ある民主的で持続可能なエネルギー転換に向け、太陽光の促進やエネルギー効率の改善を含んだ、よりクリーンな代替策や政策・インフラの改善に投資を向けるべきだ」とコメントしました。

これまでも多くのCCS事業が、高いコストと技術的困難により失敗してきました。日本の国会は現在、国内外でCCS事業を実施するための法的枠組みとなるCCS事業法を審議しています。

FoE Japan事務局次長で気候変動・エネルギーキャンペーナーの深草亜悠美は、「日本政府のCCS政策は単なる夢物語だ。 現在の政策では、2050年までに1億 2,000万~2億4,000万トンのCO2を貯留することを目標としており、これは、日本の現在の排出量の約10〜20%に相当する。日本にはまだ商業規模のCCS事業は存在せず、技術的および財政的な障壁がある。日本政府が公然と、他国にCO₂を輸出する方が安価な選択肢であると主張しているのは恥ずべきことだ。日本政府は気候変動への公平性の原則とその歴史的責任に基づいて、より高い排出削減目標を設定し、こうした誤った解決策の推進をやめるべきだ。」とコメントしました。

また、FoEインターナショナルの気候正義・エネルギー国際プログラム共同コーディネーターのLise Massonは「炭素回収貯留は、本来であれば地中にとどめ置かれるべきである化石燃料を化石燃料企業が採掘し続けるためのトリックだ。私たちに必要なのは早急に抜本的な排出削減を公平な形で行うことであるが、(CCSは)その事実から目をそらさせるための目眩しである。また人々や地球に許容し難いリスクをもたらす。CCSは、グリーンウォッシュのツールであるだけでなく、私たちをさらなる気候危機をもたらす検証不十分で、コストが高く、危険な産業界の夢と言える。」とコメントしました。

気候危機に取り組むために残された時間の全てを無駄にすることはできません。 日本およびマレーシアは、迅速、公正、かつ公平なエネルギー移行のために協力すべきです。

詳細は以下の公開書簡をご覧ください。

本件に関する問い合わせ先
マレーシア:Sahabat Alam Malaysia | foemalaysia@gmail.com
日本:FoE Japan | info@foejapan.org

公開書簡 必要なのは根本からの温室効果ガスの削減 – 日本はマレーシアに二酸化炭素を廃棄すべきでない

2024年3月21日

日本国経済産業大臣 齋藤健様
マレーシア天然資源・環境・気候変動大臣 ニック・ナズミ様
マレーシア経済大臣 ラフィジ・ラムリ様

私たちは、日本で排出された二酸化炭素(CO₂)を回収し、マレーシアへ輸出し同国に貯蔵するという二国間の炭素回収貯留(CCS)事業に関して深い懸念を抱いています。

日本政府は、削減困難な炭素を回収するためにCCSを推進しており、2050年までに1億2,000万~2億4,000万トンのCO₂(現在の日本の温室効果ガス排出量の約10~20%に相当)を貯留すること、そして、2030年までにCCSを本格始動させるという目標を設定していると理解しています。 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が選定したプロジェクトのうち2つは、日本がCO₂を海外に輸出することを前提としています。 マレーシアは、CO₂の潜在的な排出先として政策で何度も言及されている国の1つです。

この3月1日にも、企業連合が、東京湾の複数の産業からのCO₂排出量の回収に関する調査を実施し、回収した排出量をマレーシアに輸送する事業の覚書をかわしています。 回収される CO₂の量は年間約300 万トンから600 万トンと予想され、2030 年までの運転開始を目標としています。

CCSは、気候危機を悪化させるだけではありません。マレーシアのようなグローバル・サウスの国々にCO₂を投棄することは、気候正義の原則に根本的に反しています。さらにCCSは高リスク、高コストな十分に実証されていない技術であり、長期的な責任も伴います。このような技術に依存することは、日本における実効性ある気候変動対策を遅らせてしまいます。

CO₂を回収して他国に輸送することは、コストの上昇や安全性への懸念などの重大な問題を生みだします。 日本は足元での根本的な排出削減をおこない、他国にCO₂を輸出したり投棄したりすべきではありません。

まず、CCS には技術的および財務的に大きな課題があります。

CCSの技術は1970年代から研究されてきましたが、この技術が実際に社会実装された例は多くありません。実際に実施されているのは石油増進回収(EOR)というタイプのもので、回収したCO₂を油田に圧入して原油採掘量を増やすもので、化石燃料の生産増加を促しており、さらなるCO₂排出につながっています。

日本政府は「より安価な」選択肢としてCO₂の海外輸出を検討していますが、これは世界中の多くのCCS事業で、想定量の貯留ができていないことやコストの上昇が生じているなど技術的課題を多く抱えていることを考慮していません。実際、現在マレーシアで提案されているカサワリCCS事業とほぼ同じ規模であるオーストラリアのゴーゴンCCS事業では、技術的な問題が生じました。オーストラリアのゴーゴンCCS事業は石油大手シェブロンによるもので、LNG(液化天然ガス)の生産から排出されるCO₂の少なくとも80%を回収すると期待されていましたが、その目標は達成されていません。ガーディアン紙は2023年4月、世界最大の産業用炭素回収システムを備えたシェブロンのガス事業からの排出量が50%以上増加したと報じました。ゴーゴン社は、CO₂回収量の目標不足分である523万トンを補うためのペナルティの支払いに同意し、その費用は1億〜1億8,400万米ドルと推定されています。

日本からマレーシアに輸出されたCO₂にこのようなことが起こった場合、誰が責任を負うのでしょうか。ペナルティを支払ったところで将来世代の安全が保証されるわけでもありませんが、この費用は誰が支払うのでしょうか。これはマレーシアの排出削減努力を確実に台無しにします。

過去に多くのCCS事業が失敗してきました。1995年から2018年の間に計画されたCCS事業の43%が、資金不足などのさまざまな理由で中止または延期されました。 さらに、大規模事業(年3万トン以上のCO₂を回収する事業)の78%が中止または延期されました。 

第二に、CCSが地震を誘発する可能性、CO₂漏洩のリスク、水ストレスの増大、海洋酸性化などの環境的および社会的リスクはさらに大きな懸念事項となっています。2021年7月、米国とカナダの500以上の団体が、政策立案者にCCSを行わないよう求める公開書簡を提出しました。枯渇したガス田に2004年からCO₂を圧入していたアルジェリアにおけるCCS事業では、CO₂の漏出を防ぐはずの地層で動きが確認され、漏洩の懸念が生じたため、2011年に圧入が中止されました。ノルウェーのスレイプナーCCS事業でも同様のことが起こりました。 圧縮されたCO₂は放出されると非常に危険であり、人間や動物の窒息を引き起こす可能性があります。 2020年、米国ミシシッピ州のEORプロジェクトの一部だったCO₂輸送パイプラインが損傷した時には、300人が避難する事態となり、 二酸化炭素中毒で45人が搬送されました。

排ガスからCO₂を回収する技術には、CO₂をアミンなどの溶媒に化学的に吸収させて分離する化学吸収法と、CO₂を高圧下で物理溶媒に吸収させて分離する物理吸収法があります。 アミン吸収法は、CO₂を吸収・分離・回収する過程でアミン化合物などの有害化学物質が発生し、生態系や環境への影響が懸念されています。

第三に、CO₂の輸出はエネルギー非効率そのものであり、特に回収されたCO₂の液化および輸送で多くのエネルギーを消費します。 一方、CCSは、現在世界の排出量の1%未満しか回収しておらず、2022年において、世界のエネルギー関連CO₂排出量の0.1%しか回収していません。

いかなるCCS事業においても多くのエネルギーが必要となり、CCSに関連する施設は人々と環境にリスクをもたらします。炭素回収装置の稼働も多くのエネルギーを必要とし、発電所などにCCSを設置した場合、施設全体の排出量が増加します。もっともエネルギーを消費するのはCO₂を回収し圧縮する過程で、さらにその後輸送と貯留にさらにエネルギーが必要となります。回収と圧縮だけでも、1トンのCO₂を回収するために330~420kWhを必要とします。CCSを設置することで、施設のエネルギー需要を平均15~25%増加させます。

第四の課題は、長期貯蔵の問題です。 CCSが脱炭素化の確実な選択肢となるためには、炭素を安定した状態で永久に貯蔵できるようにすることが重要です。 IPCC は、地質、陸地、海洋の貯留層、または 二酸化炭素除去(CDR)におけるCO₂の貯蔵を説明するために「永続的」という言葉を使用しています。「永続的」に必要な期間について明確な定義はありませんが、少なくとも200~300年であると提案する声もあります。そのように長期間、炭素を隔離しそれを維持することを保証できる制度を構築することは、実際には不可能です。事業者によるモニタリング期間が終了し、政府が責任を引き継ぎ、予想される大量のCO₂の管理を公費で賄うとすれば、この問題を将来世代に先送りするだけです。マレーシア市民に、富裕国が排出したCO₂の保存という長期的な責任を負わせるのでしょうか。

海底下の永久地中貯留のためのCO₂の国境を越えた輸送は、実際、廃棄物の投棄に相当します。 国内に十分な適切な地層貯蔵容量がないために、海外にCO₂を輸出しようという考えは、認められるものではありません。富裕国は、自国内で根本から徹底的かつ迅速かつ持続的な排出削減に取り組む必要があります。

CO₂の投棄は無責任な行為です。気候変動対策の負担をグローバル・サウスに移転するだけであり、これは炭素植民地主義に他なりません。グローバル・サウスは日本の廃棄物投棄場ではありません。

私たちは日本政府に対し、CO₂排出量の輸出による重大な結果を認識し、輸出を中止するよう強く求めます。

また、両国政府は、CCS事業に補助金を出すべきではありません。 それは、事実上汚染者の責任を納税者に転嫁する行為です。地球規模生物多様性枠組の目標18では、政府に対し、生物多様性に有害な補助金を含むインセンティブを2025年までに特定し、廃止、段階的廃止、または改革することが求められています。 私たちはマレーシア政府に対し、CO₂を受け入れないよう強く求めます。

両国政府は、地域と地球の両方に利益をもたらす再生可能エネルギー、エネルギー効率の向上、持続可能な開発への投資を優先し、公正かつ公正な移行に向けて協力すべきです。

重要な問題にご留意いただきありがとうございます。

この問題についてご対応いただくようお願いいたします。

Sahabat Alam Malaysia / Friends of the Earth Malaysia

国際環境NGO FoE Japan

CC:

内閣総理大臣 岸田文雄様
マレーシア首相 アンワル・イブラヒム様
外務大臣 上川陽子様
財務大臣 鈴木俊一様
株式会社国際協力銀行 代表取締役総裁 林信光様
独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC) 理事長 髙原 一郎様
株式会社日本貿易保険 代表取締役社長 黒田篤郎様
三菱商事株式会社 代表取締役社長 中西勝也様
ペトロナス YM Tan Sri Tengku Muhammad Taufik Tengku Kamadjaja Aziz様
ENEOS株式会社 代表取締役副社長執行役員 宮田知秀様
JX石油開発株式会社 代表取締役社長 中原俊也様

 

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