米国のガス開発現場で目撃した「見えないメタン排出」

2025年秋、米国で石油ガス産業による汚染を長年調査、記録するシャロン・ウィルソンさんと、ウィルソンさんが事務局長を務めるオイルフィールド・ウィットネスのメンバーと共に、米国テキサスおよびルイジアナ州の液化天然ガス(LNG)施設や、ガス採掘現場を視察しました。日本は世界トップクラスのLNG輸入国ですが、そのLNGの開発現場で何が起きているのかを見るのが目的でした。現場視察の様子を報告します。

全米最大級の汚染源パーミアン盆地へ

写真:OGIカメラで撮影をするシャロン・ウィルソンさん(撮影:黒部睦)

テキサス州とニューメキシコ州にまたがるパーミアン盆地は、米国最大の石油・ガスの産地で、世界最大の石油・ガス汚染源と言われています。2022年には、パーミアン盆地からだけで、2億トンのCO2が排出されました。

図:赤色がパーミアン盆地(CC BY-SA 4.0)
空から見たパーミアン盆地
写真:空から見たミッドランドの様子。至る所に採掘作業の跡が。
写真:パーミアン盆地の様子。左に掘削リグやタンクが見える。フレアリングも行われている。
フレアリングの様子(写真:オイルフィールド・ウィットネス)

動画:ポンプジャックで原油やガスを採掘する。併設する設備で、石油、ガス、水を分離する。

パーミアン盆地で石油・ガスの採掘が始まったのは1920年代です。ガス・石油の生産量は、長期的な減少期間を経て、新たな掘削技術が開発されたおかげで2010年頃から爆発的な増加に転じます。その新たな手法が水平掘と、水圧破砕法(フラッキング)とよばれる技術です。

図:パーミアン盆地における石油(青線)とガス(オレンジ)の生産量の推移。1970年台に一度ピークを迎え2010年ごろまで生産が継続して減少。その後生産量が急拡大した。

ガス採掘から発生するメタン排出

ガスの採掘や運搬、燃焼に至るまでの各過程で、ガスの主成分であるメタンが大気中に放出されます。漏れ出すものもあれば、フレアリングやベンティングによって大気に放出されることもあります。フレアリングとは発生した余剰ガスを安全上の理由や経済的な理由から「フレアスタック」と呼ばれる焼却塔で燃焼・処分する行為です。メタンの燃焼が完全であれば、二酸化炭素が煙突から排出されます。ベンティングは、タンク内部で圧力が高まった際に、不要なガスを大気中または処理装置へ排出(ベント)することを指します。

メタンは強力な温室効果ガスですが、肉眼では見えません。オイルフィールド・ウィットネスはこの目に見えないメタン排出を可視化するため、光学ガスカメラ(OGIカメラ)を用いて長年汚染を記録しています。

2日間の視察の間に、採掘現場やコンプレッサーなど、様々なガス施設をまわりましたが、OGIカメラを通して施設を見たときに、炭化水素(炭素原子Cと水素原子Hのみから構成される有機化合物の総称。LNGの主成分であるメタンCH4も炭化水素)の影がOGIカメラに映らない施設は一つもありませんでした。

以下の動画は、私たちが実際に視察した施設の一つです。最初の画像には青空が映り、タンクなどから漏れ出るものは何も見えません。しかしOGIカメラを通してみると、大量の排出物があることが見て取れます。

フラッキングによる環境汚染

米国では、掘削が困難とされる地下深くのシェール層からのガス・石油の採掘技術が研究されてきました。シェール層からの採掘を可能にしたのが、水平掘技術(垂直ではなく水平に井戸を掘削する)と水圧破砕技術(フラッキング)です。「水圧破砕」とは、石油やガスが存在する地層に圧縮した液体を流し込んで圧力をかけ、人工的に割れ目を作って、石油やガスを採掘しやすくする技術です。フラッキングによりシェールガスの生産が本格化し、米国のガス生産量が跳ね上がりました。

フラッキングは、甚大な環境汚染をもたらします。フラッキングには大量の水が使われる他、ガス・石油の採掘時には地下水が同時に汲み上げられます。フラッキングに使われる水には化学物質が含まれ、地表に汲み上げられた水には放射性物質や重金属など様々な汚染物質が含まれます。オイルフィールド・ウィットネスのスタッフによると、石油1バレルにつき少なくとも3−4バレルのフラッキング廃水(これらの水は業界では”Produced water=生成された水”と呼ばれるそうです)が生じているとのこと。産業界はこの水を回収し、処理して再利用すると主張しているそうですが、コストがかかるため、産業界が主張するような再利用は行われていないとオイルフィールド・ウィットネスは指摘します。

写真:廃水が貯められたタンク。上部に覆いはなく開放されている。

集められた廃水は、パーミアン盆地各地に設置されているタンクに回収されます(写真)。タンクは野晒しで、外から見る限り特に厳重な安全管理がされているようには見えませんでした。これは一次置き場で、この後最終処理場にトラックで運ばれるそうです。テキサスでは、フラッキング廃水の廃棄場所がなくなってきているため、「再処理」して農業用水に再利用する話もあるそうです。汚染された水が生成されるだけでなく、水源の汚染も懸念されます。さらにパーミアン盆地では、放置された井戸が爆発し、農場が汚染される事例も相次いでいるそうです。

その他の環境影響として、フラッキングによって地震が誘発されるという問題もあります。

硫化水素汚染

パーミアン盆地の石油・ガス生産では、高濃度の硫化水素の発生も深刻な問題です。労働者が高濃度の硫化水素に晒され死亡する事故も発生しています。2010年から2022年にかけて、10人以上の労働者が硫化水素への曝露により死亡したという報告もあります。

写真:硫化水素のメーター。ミッドランド空港ですれ違った労働者らしき人々もこのメーターをカバンにつけていた。

AI・データセンターとガス需要

ガスの採掘を正当化する産業界の主張の一つに、AIやデータセンターの拡大で生じる電力需要の拡大に対応するためにはガスの開発が必要だ、というものがあります。

それと関連して、パーミアン盆地各地で「小さな発電装置」を目にしました。ポータブル発電所と呼ばれている発電施設です。天然ガスを燃料とするこの発電装置は、イーロン・マスクがAIによる電力需要を満たすために使っていたことでも、大きな話題となりました。

写真の通り、一つ一つの発電機はトレーラーくらいの大きさがあります。ウィルソンさんらによると、このような小型の発電装置が増えているそうですが、それぞれの発電装置が何に使われているかまではわからないとのことです。周辺施設の電力を支えているのか、個人か企業が設置して暗号資産を得るため(マイニング)に必要な電力を発電しているのではないか、と話していました。

写真:「ポータブル発電所」と呼ばれているガスを使った発電装置。

動画:メンフィスにあるイーロン・マスクのデータセンター(xAI)。ガスタービンから大量の汚染物質が噴き出す様子が映っている。35のポータブル発電所が設置された。

これらが新たなメタン汚染の原因になっているのは明らかです。

データセンター・AIによる電力需要の増大が世界的に予測されています。日本でも、データセンター・AIによる電力需要拡大に対応するため、原子力の再稼働などが必要だと声高に叫ばれていますが、本当にそのような需要拡大が生じるのか疑問の声も出ています。そもそも、なんのためにAIやデータセンターが必要なのか、どれくらい必要なのかといった議論が十分に行われているとは思えません。

米国では、2025年12月、230以上の環境団体が、規制なきデータセンターの拡大が膨大な電力と水需要拡大につながること、電力価格の高騰につながること、AI拡大が雇用喪失につながることなどから、新規のデータセンター建設を一時中断(モラトリウム)するよう求める書簡を米議員らに提出しています。

メタン排出は削減できる?

産業界や国際エネルギー機関(IEA)は、ガス・石油産業からのメタンの漏洩は、コストをかけずに削減することができると主張してきました。「2030年までに石油・ガス事業からのメタン排出を75%削減するために新たな技術は必要なく2023年に化石燃料事業から排出されたメタンの約40%は、正味コストなしで回避可能であった」(が、回避されなかった)としています。長年採掘の現場を監視してきたウィルソンさんは、「もしコストが安くて今ある技術でできるならば、すでに排出は減っているはずだ」といいます。ウィルソンさんによると、2000年代から産業界は同じことを主張しており、メタン排出対策の問題を単純化しすぎているといいます。排出を食い止めるためには、常にモニタリングやメンテナンスが必要です。砂嵐が発生するので、施設のクリーンアップも重要です。そのような対策を行うにはたくさんの人員が必要になりますが、パーミアン盆地の現場では無人化が進んでいます。メンテナンスを自動化できるとも言われていますが、ウィルソンさんによると、それでも人がセンサーをチェックする必要があります。センサーが反応していても、それをチェックして実際に施設に向かい、問題を解決するには人手が必要なのです。

メタン排出規制

ウィルソンさんらは、石油・ガスの利用に関して、土地を掘り起こすところから、運搬や処理のプロセス、そして消費されるまでのすべての過程で汚染が生じているといいます。東京湾周辺にあるLNGターミナルやガス火力発電所について、2025年2月に行ったOGIカメラを用いたOGIカメラを用いた汚染調査の結果、炭化水素の排出が確認されており、日本の施設も例外ではない、と言えます

産業界は繰り返し、メタンの排出は抑制できると言ってきましたが、メタンの排出は年々増加しています。フレアリングやベンティングは規制されていないのでしょうか?オイルフィールド・ウィットネスのスタッフ、ジャック・マクドナルドさんによると、規制は存在するが、気候変動対策のための規制ではなく、無駄に放出されるメタンを減らすためにあると言います。実は、テキサス州では井戸でのフレアリングおよびガス放出が禁止されているのですが、特定の条件が揃えばフレアリングを行うことが可能です。マクドナルドさんの調査によれば、2021年5月から2024年9月までの40ヵ月間、1万2,000件以上のフレアリングおよびベンティングの許可申請が行われましたが、その承認率は99.6%。つまりほぼ全部のケースでフレアリング・ベンティングが認められていました。しかし、申請書の中には、フレアリングの必要性について理由を問う欄が空欄のままのものもありました。さらに、承認された許可申請の約90%が既に行った後のフレアリングに対してのものでした。これでは規制はないも同然です。

ウィルソンさんはメタンの排出は「物理の問題」だといいます。機器を守るため圧力が高まったらガスを放出せざるを得ません。産業界はメタンの「漏洩」が問題だと言いますが、石油ガス業界にとって、メタンを排出するのは必要な作業なのです。繰り返しになりますが、フレアリングやベンティングも、既存の技術を用いて減らすことができるとIEAや産業界は主張しています。しかし、長年現場をウォッチしているウィルソンさんは、過去何度もその主張を聞いたが排出が削減されたことはなかった、と断言します。「石油ガスの採掘を止めていかない限り、排出は止まらない」のです。

今、トランプ政権は化石燃料開発を後押しし、規制を緩和しようとしています。2024年に米環境保護庁(EPA)が石油・ガス部門からのメタン排出に課徴金を科すルール(メタンサーチャージ)を発表しましたが、これもトランプ大統領によってすでに撤回されています。大規模排出企業に求められていた温室効果ガスの報告プログラムも廃止されました。

画像:ウィルソンさんの発表資料より抜粋。ガス産業の排出において漏洩による排出は全体の6%。

日本の責任

日本は世界最大級のLNG輸入国です。米国からのLNG輸入量も多く、ガス資源の上流開発に直接日本の企業が出資も行っています。最近は三菱商事がテキサス州・ルイジアナ州にまたがるヘインズビルシェールガスへの参画を発表。JERAも次々とガスの購入契約を結んでいます。

ウィルソンさんは、日本の企業や政治家、消費者は、輸入されるガスがどのように開発され、いかにそれが汚染をもたらしているかを知るべきだといいます。日本の金融機関、企業には現地での被害に対する大きな責任があります。汚染を防ぎ、気候危機を食い止めていくためには化石燃料に依存した社会からの脱却が不可欠です。ガス開発を継続する日本の企業や支援を行う金融機関は、これ以上の資金提供を停止し、新規事業や拡張事業への投融資を停止していく必要があります。

写真:たくさんの風力発電と、ガス関連施設からでる黒煙。テキサスは全米一の風力発電量を誇る。

(2023年の訪問記録はこちら 1 2 3 4

参考

 

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