メタンとは何か?──気候変動との深い関係と、その排出源

FoE Japanの「温暖化の盲点『メタン』を止めろ」シリーズでは、新報告書、解説記事、新発表動画等を通じて、メタン排出の問題と日本や各国での実態、そして日本の資金支援が大量のメタン排出につながっていること等について掘り下げていきます。今回の記事では、そもそもメタンとは何か?気候変動との関係、そしてメタンの排出源について解説します。
メタンとは?
メタン(CH₄)は、炭素と水素から構成される炭化水素の一種で、常温で無色・無臭の気体です。天然ガス(化石燃料ガス)の主成分であり、家庭用ガスや発電燃料としても利用されるほか、化学工業製品の原料としても用いられます。
しかし、メタンは「強力な温室効果ガス」としての側面を持ちます。地球温暖化への寄与を示す地球温暖化係数(GWP)という数値がありますが、メタンには、100年スパンで見ると二酸化炭素(CO₂)の30倍、20年スパンではCO₂の80倍以上の温室効果があります。メタンの大気中寿命は約12年と比較的短いため、排出削減の効果がすぐに現れる「即効性」のある対策対象として注目されています。
メタンと気候変動
産業革命以降、温室効果ガスの人為排出によって地球温暖化が進行しています。中でもCO₂が温暖化への最大の寄与者であることに変わりはありませんが、CH₄(メタン)はそれに次ぐ存在であり、全温室効果の約3割を占めています[1] 。
現在の大気中メタン濃度は約1934ppb(2023年時点)[2] とされており、これは産業革命以前に比べて約2.6倍の水準です[2]。この急増は主に人間活動による排出の増加が原因であり、特に化石燃料の採掘・利用や農業活動が主な源となっています。
IPCCは、パリ協定の1.5℃目標を達成するためには、2030年までに人為的なメタン排出量を約34%削減しなければならないと指摘しています[3]。この数字を参考に、EUと米国主導で2021年のCOP26で発足したメタン排出削減のための枠組みグローバル・メタン・プレッジは2030年までに30%のメタン排出削減を目指しており、日本を含めた159か国が加盟しています[4]。
後述するようにメタンは様々なセクターから排出されていますが、エネルギーセクター由来の排出は人為起源のメタン排出の1/3以上を占めており[4]、優先的な対策分野です。IEAによれば、2020年比で化石燃料由来メタン排出を2030年までに75%削減することで、人為的メタン排出全体の約25%をカットできると試算されています[5]。
メタンはどこから排出される?
メタンの排出源は、大きく「自然起源」と「人為起源」に分かれますが、気候変動対策の対象となるのは後者です。人為的メタン排出源は、大きく分けてエネルギー・農業・廃棄物の3部門です。
人為的メタン排出量は年間で推定3億7200万トン排出されており、農業部門から1億4700万トン、廃棄物部門から7300万トン、そしてエネルギー部門から1億3400万トン排出されています[8]。特にエネルギー部門と農業部門からの排出が多いことがわかります。
1. エネルギー部門
天然ガス(化石燃料ガス)の主成分であるメタンは、採掘、輸送、貯蔵、燃焼の各段階で漏洩します。石油やガスの採掘の際に、メタンが漏れ出ることをメタン漏れ(リーク)と言いますが、漏出の量が想定されている以上であることを指摘する研究もあります。
IEAによれば、化石燃料が起因するメタン排出は最も早く、安価にメタン排出削減ができる分野の一つであり、2024年の化石燃料由来のメタン排出の30%が実は追加コストなしで削減できるとしています[9]。
2. 廃棄物部門
メタンは生ごみなどの有機性廃棄物を埋め立てる際にも発生します。これは生ごみなどを嫌気環境(酸素の無い状態)で微生物が分解し、その結果メタンガスが発生するためです。廃棄物部門のメタン排出は都市化と人口増加により急速に拡大しています。しかし埋立地や廃棄物処理からのメタン排出削減対策は十分に取られておらず、年間2900〜3600万トンもの削減余地があるとされており、これは米国全体の住宅用電力や石炭火力190基による年間温室効果ガス排出量に匹敵します [7]。
3. 農業部門
農業分野もまた、メタンの主要排出源です。農業でのメタン排出源は主に2つ、反芻動物からの排出と水田からの排出です。
ウシなどの反芻(はんすう)動物は、その胃の中に多数の微生物が生息し、人間が食べられない草や農産副産物などを素材として嫌気性発酵を行い、体内で揮発性脂肪酸を作り出します。この揮発性脂肪酸が牛のエネルギー源となるのですが、この発酵の過程でメタンが生成されます。
この一部がゲップとして排出されます。繁殖用の雌牛は69.3kgのメタンを産生します。この数字を元に牛肉1kgあたりのメタン産生量を試算すると0.462kgになります[10]。
水田からもメタンが排出されます。水田では、田んぼが長期間水に浸されていることで酸素が遮断された土壌環境(嫌気環境)になります。水田の土の中には酸素が少ない条件でメタンを作る微生物(メタン生成菌)が住んでいるので、この環境下で有機物が分解されると、土壌中の微生物がメタンを生成します。これが地表から大気中に放出されることで、メタン排出につながります[11]。日本でも、水稲栽培が大きなメタン排出源となっています。
メタン削減は「今こそ」必要な気候変動対策
様々な産業から排出されるメタン。温暖化を1.5℃以下に抑えるためには、このメタンの排出削減を一刻も早く実行することが重要です。国連環境計画(UNEP)が発表した報告書では、これが実現可能であると示されています。同報告書によれば、既存の対策によって、主要セクターからのメタン排出を年間約1億8000万トン、または2030年までに最大45%削減することが可能です。これらの技術的な解決策の多くは、特に化石燃料部門および廃棄物部門において、低コストで導入できるとされています[8]。
化石燃料部門、特に化石燃料ガスの生産・利用に関するメタン排出削減については、FoE Japanの別の記事「メタン削減に向けた日韓共同枠組み「CLEAN」は、本当にクリーン?」で詳しく解説します(後日公表予定)。
メタンはこれまでCO2の影に隠れてあまり注目されてきませんでしたが、気候変動対策を実施して行く上で避けては通れない重要な問題です。「温暖化の盲点『メタン』を止めろ」シリーズでは日本国内における火力発電所からのメタン漏れの実態や、日本が資金支援するガス事業のメタン排出を含む問題点等についてさらに深掘りします。ぜひシリーズの他の報告書、記事も合わせてご覧ください。

参考文献
[1] AR6, WGI. 2022. IPCC
[2] GREENHOUSE GAS BULLETIN. 2024. WMO
[3] AR6, WGIII. 2022. IPCC.
[4] Global Methane Pledge, Global Methane Pledge
[5] Key findings – Global Methane Tracker 2024 – Analysis – IEA, Mar, 2024, IEA
[6] Curtailing Methane Emissions, 2021, IEA
[7] Zabeida, Dennis & Fernandes, Pedro de Aragão. (2025).“Waste not: Time to rapidly scale methane abatement finance in the waste sector” Climate Policy Initiative (CPI)
[8] GLOBAL METHANE ASSESSMENT: 2030 BASELINE REPORT. WHY ACT NOW: A NEW ERA FOR ACCELERATED IMPLEMENTATION. UNEP. 2022.
[9] Global Methane Tracker 2025. May 2025. IEA.
[10] 牛のゲップが地球温暖化の原因と聞きましたが本当ですか?全国肉用牛振興基金協会.(最終閲覧日 2025年6月6日)
[11] 「メタン:水田から出る温室効果ガス」情報:農業と環境No.114 (2009年10月1日)独立行政法人農業環境技術研究所