ニッケル鉱山拡張にNO!インドネシアの農家・女性が抗議アクション

 「この地域では50年以上もの間、鉱山活動がつづけられていますが、それによって農家が貧困から脱することができたわけではありません。この15~20年の間、一生懸命、胡椒畑を耕した結果、私たちは苦しい生活から抜け出すことができたのです。ヴァーレインドネシア社(PTVI)がタナマリア鉱区に採掘活動を拡張すれば、私たちの胡椒畑は奪われ、私たちの生活は貧困に逆戻りしてしまいます。」――南スラウェシ州ソロワコ・ニッケル鉱山タナマリア鉱区の周辺で生活を営むトウティ郡の農民

 2023年7月24日、胡椒栽培に携わる1,000人近くの農民・女性らが、ヴァーレインドネシア社の探査活動の拠点となっている駐屯地前で、ニッケル鉱山の拡張計画に抗議の声をあげました。ヴァーレインドネシア社は、南スラウェシ州東ルウ県に70,566ヘクタール(ha)の広大な鉱業コンセッションを有していますが、コンセッション内には多くの先住民族や住民が生活しており、鉱山の拡張の度に農地が奪われてきました。新たに拡張が計画されているタナマリア鉱区では、1年ほど前から探査活動が開始されていますが、ほとんどの農家が事前の協議は無かったと話しています。

 胡椒の栽培には、多くの女性も携わっています。「学歴や面接もなしに、私は働けています。毎日朝7:30~11:30、昼休みを挟んで、午後は13:30~16:30まで働き、日当は80,000ルピア(約750円)で、お米など必要なものは農家の人が分けてくれます。そうやって、二人の子どもを育てているんです。このタナマリアで穏やかに暮らしたいし、鉱山の拡張には反対です。」農民・女性たちの切なる願いは、自分たちが営んできた胡椒畑がコンセッションから除外され、これまでと同様の暮らしが続けられることです。

 現在、ニッケル埋蔵量が世界一のインドネシアでは、新たな製錬所の建設計画が複数進んでいます。電気自動車(EV)等に利用されるバッテリー材料の供給を主な目的としていますが、その製錬所での原料となるニッケル鉱石の採掘の拡張も同時に進んでおり、熱帯雨林の消失や現地の農家・漁師の生活への影響が危惧されています。今回、抗議アクションが行われた南スラウェシ州のソロワコ・ニッケル鉱山もその一例です。

 「脱炭素」社会に向けた取り組みが進められる中、甚大な環境・社会影響に不当に苦しむ人びとが出ないよう、現地の影響を受ける住民の「拒否する権利」が認められなくてはなりません。事業者であるヴァーレインドネシア社には、住友金属鉱山も出資(15.03%)していますが、日本の事業関係者もしかるべき対応をとるべきです。

 以下、現地の農民団体の声明文(2023年7月24日付)の和訳です。(インドネシア語原文はこちら

声明文
ロエハ・ラヤ地域のコミュニティ(農民および女性)は東ルウ県トウティ郡タナマリア鉱区におけるPT ヴァーレインドネシアの探査・拡張活動を拒否する

2023年7月24日(月)ロエハ・ラヤ地域の住民のアクション。
「ニッケル鉱山拡張から森林を守ろう」と書かれたプラカードも。(写真:WALHI南スラウェシ)

2023年7月24日(月)、私たちロエハ・ラヤ地域のコミュニティである農民、女性、取引業者、若者は、東ルウ県トウティ郡ロエハ村およびランテアギン村に位置するタナマリア鉱区におけるPTヴァーレインドネシア(PTVI)のニッケル探査・拡張活動を拒否することを表明する。ロエハ村、ランテアギン村、マシク村、マハロナ村、バンティラン村、トカリンボ村のコミュニティが、PTVIのニッケル鉱山の拡張によって貧困に苦しみながら生活することを望んでいないということを、ジョコウィ大統領、南スラウェシ州知事、東ルウ県知事、トウティ郡長に伝えるため、私たちはこの声明を発している。さらに、この声明を通じて、私たちはジョコ・ウィドド大統領に対し、タナマリア鉱区におけるPTVIのコンセッションを廃止するよう要求する。

この拒否は、誰からの影響も受けていない、純粋なコミュニティの意思である。農民、農場労働者、取引業者、若者、女性の拒否は、タナマリア鉱区におけるPTVIの鉱山拡張、特にタナマリア鉱区の農民の胡椒畑への影響に対する深い懸念に基づいている。20 年前から、ロエハとマハロナ・ラヤ地域のコミュニティは、生活と収入を胡椒畑に依存してきた。

また、これまでロエハ・ラヤ地域の農民たちは平穏かつ豊かに暮らしてきた。胡椒作りは今日、このコミュニティの主な生業である。タナマリアの胡椒畑はまた、今日のような非常に良い生活をもたらしてきた。したがって、タナマリア鉱区におけるPTVIのニッケル鉱山の拡張は、コミュニティの生活を再び貧困と苦しみに陥れることになると私たちは確信している。

インドネシアのさまざまな地域からやってくる農場労働者の生活も同様である。現在、農家の胡椒畑で農業労働者として働いているのは300人ほどだ。彼らは家族の経済状況を改善するために、例えばアンボン、クパンなど、インドネシアのさまざまな地域から来ている。したがって、タナマリア鉱区におけるPTVIの鉱山拡張は、これらの人々の仕事を奪い、彼らの生活を再び困難にするだろう。

さらに、PTVIのニッケル探査活動と拡張計画は、熱帯雨林やトウティ湖の生態系の持続可能性を脅かすと私たちは考えている。現在、PTVIのニッケル鉱山探査活動は、タナマリア鉱区の熱帯雨林の生態系にすでに損害を与えている。したがって、PTVIが実施するタナマリア鉱区でのニッケル採掘は、タナマリアの環境破壊、特に熱帯雨林の生態系と、保護地域でありロエハ・ラヤ地域の漁師やスラウェシ固有の動植物たちの生活を支えているトウティ湖に被害をもたらすと、私たちは強く確信している。

東ルウ県タナマリア鉱区のPTVI駐屯地前でのロエハ・ラヤ地域の住民のアクション
バナーには「胡椒農家は反対/鉱山を拒否する」と書かれている(写真:WALHI南スラウェシ)

ロエハ・ラヤ地域のコミュニティがPTVIの採掘活動を拒否する法的根拠は、以下のとおりである。

1. 市民的及び政治的権利に関する国際規約第19条は、すべての者に、口頭、手書き、印刷物によって、公衆の面前で、またはメディアを通じて、自由に意見を述べ、情報や考えを伝える権利を認めている。

2. 2009 年法律第32号環境保護管理法第70条は、すべての者が、良好で健康的な環境の下で生活する権利を有し、良好で健康的な環境のために闘う権利を有すると定めている。

3. FPIC(Free, Prior, and Informed Consent:自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意)に関する国連のガイドラインは、先住民族や影響を受ける地域社会が、彼らに影響を与える可能性のある事業決定が下される前に、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意を行う権利を重んじる原則である。

4. 先住民族の権利に関するILO第169号条約および情報へのアクセスに関するオーフス条約は、コミュニティに環境決定への参加と司法へのアクセスの権利を認めている。

5. 2009年法律第32号環境保護管理法第14条では、環境に影響を及ぼす可能性のある活動計画に関する意思決定プロセスの一環として、住民協議が義務付けられている。

6. インドネシア共和国1945年憲法第33条第3項には、土地および水、ならびにそこに含まれる天然の富は国家がこれを管理し、人民の最大の繁栄のためにこれを利用する、と規定している。このことは、インドネシア人としてのロエハ・ラヤ地域のコミュニティの土地に対する権利が国家によって認められ、保護されていることを示している。

7. 農地の基本規則に関する1960年法律第5号は、土地に対する民衆の権利を規定している。第5条第1項では、土地の権利は所有権、事業利用権、使用権、賃借権から構成されると定めている。これらの権利は、民衆が個人または集団で有することができる。

8. 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第1条第2項には、すべての者は、個人として、または他人と共同して、私有財産に対する権利を有すると記されている。このことは、土地に対する民衆の権利が国際法によって認められ、保護されていることを示している。

9. 女性差別撤廃条約の批准に関する 1984 年法律第 7 号は、農村部における男女平等のアクセスと便益を提供する義務を政府に課している:第I4条 (1) 締約国は、農村地域の女性が直面する特別の問題および農村地域の女性が家庭生活の維持に果たす重要な役割に配慮する。経済の金銭関係以外の労働を含め、この条約の規定が農村地域の女性に適用されることを確保するために、しかるべき努力を払う。(2) 締約国は、男女平等の原則に基づき、農村地域の女性が農村開発に参加し、そこから利益を受けることを確保するため、農村地域の女性に対する差別を撤廃するためのしかるべき努力を払うものとし、特に、そのような女性に対して、次の権利を確保する:a. あらゆるレベルにおける開発計画の立案と実施に参加する。

したがって、女性の願望は、採掘開始前の協議(社会化)プロセス、すなわち事業の計画、実施、評価段階において、女性特有のニーズに注意を払い、それに対応することによって、等しく配慮されなければならない。なぜなら、女性は鉱山の影響を最も受けやすいグループだからである。環境的、社会的、経済的、そして心理的な面においてもだ。

以上のことから、私たち東ルウ県ロエハとマハロナ・ラヤ地域のコミュニティは、タナマリア鉱区におけるPTVIの鉱山拡張を強く拒否する。この声明を通じて、私たちはジョコ・ウィドド大統領、ブラジル政府、日本政府、そしてPTVI(PTVIのCEOおよびPTVIの株主: ヴァーレカナダ社、住友金属鉱山、ノルウェー政府)に要請する:

1. ロエハ村およびランテアギン村に位置するタナマリアにおけるPTVI(SSU社およびPJU社)の探査活動を停止すること。

2. ロエハ村およびランテアギン村に位置するタナマリア鉱区におけるPTVIのコンセッションを廃止すること。

3. トウティ郡、特にバンティラン村およびマシク村のすべてのニッケル採掘に係る鉱業事業許可(IUP)を廃止すること。

4. タナマリア(ロエハ村、ランテアギン村、マハロナ村)周辺の農民と女性たちの要求を尊重し、実現するよう、PTVIの株主(ヴァーレカナダ社、住友金属鉱山)に対し、インドネシアにおけるブラジル政府と日本政府の治外法権的義務の一形態として要請すること。

この声明は、国際社会、インドネシア政府、PTVIとその株主を含むすべての関係者に発信される。

ロエハ/マハロナ・ラヤ地域胡椒農民団体

(8名の農民及び女性による署名)

 

関連する記事

インドネシア・ソロワコ・ニッケル開発の影響を受けるコミュニティの基本的人権の保護を!住友金属鉱山に出資者・調達者としての適切な対応を求める要請書を提出

開発と人権

インドネシアで住民協議もないまま進むニッケル鉱山拡張計画:現地NGOと農家らが「探査の中止」を求める共同声明

開発と人権

C7気候・環境正義分科会の有志パネルによる重要鉱物調達にかかわるG7及びG7環境大臣会合への提言

開発と人権

インドネシア:ソロワコ・ニッケル鉱山開発・精錬事業とは?

開発と人権

【オンライン/インドネシア現地報告】拡大し続けるニッケル鉱山で住民の生活は今?脱炭素技術の裏側で

開発と人権

インドネシアで住民の生活の糧や水源を奪ったまま続くニッケル採掘――日本の事業関係者も責任ある対応を!

開発と人権

関連するトピック

関連するプロジェクト